研究課題名:糖尿病治療効果を有する金属錯体の開発

1.研究課題名:

糖尿病治療効果を有する金属錯体の開発

2.研究期間:

平成16年度~平成18年度

3.研究代表者:

桜井 弘(京都薬科大学薬学部・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 食生活や生活習慣の急激な変化により、糖尿病の患者数は世界的に増大し、21世紀最大の疾患の一つと考えられている。糖尿病は、インスリン分泌の出来ない若年性1型糖尿病と、インスリンは分泌されるが細胞の感受性が低下している2型糖尿病に分類される。前者の治療にはインスリンの皮下注射が唯一の方法であり、後者の治療には食事、運動療法に加えて合成薬剤が用いられている。
 本研究は、苦痛や副作用の多いインスリン注射や合成薬剤に代わる新しい概念にもとづく糖尿病治療薬の開発を目的として、バナジウムや亜鉛イオンと天然化合物やそれらからヒントを得た有機化合物(配位子)との錯体を合成し、インスリンに類似した作用を持つ錯体を提案すると共に、錯体の作用機構や生体内代謝などを基礎的に研究することとした。本研究は、錯体の構造解析、細胞を用いるインスリン作用の評価、実験動物による血糖降下作用の評価、作用機構、血中・体内動態解析、剤型決定などを含む一連のプロセス研究系により推進する。
 本研究の結果は、1)苦痛の多いインスリン注射や副作用のある合成薬剤に代わる金属錯体を創製し、21世紀の疾患である糖尿病の患者に新しい医薬品を提供する、2)構造と作用機構にもとづいた抗糖尿病薬の研究開発に理論的基盤を与える、3)糖尿病発症機構の解明に貢献する、そして、4)医薬品のみならずサプリメント開発に貢献するなどの学術的・社会的意義を生み出すと期待している。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 1990年に初めて、一日一回の経口投与により1型糖尿病動物の血糖値を正常化させ得るバナジル-システインメチルエスエル錯体を発見して以来、多数のバナジウムを含む錯体を合成し、新たな錯体を提案しつつ、錯体のデザインから剤型決定に至るまでの世界に類例をみないプロセス研究系を構築した。
 本プロセス研究系を用いて、現在、ピコリン酸、ヒドロキシピロンやサリチル酸など天然化合物やそれらをヒントにした配位子のバナジル(4)や亜鉛(2)錯体の構造とインスリン様作用との相関性を研究し、新錯体の発見に努力を注いでいる。その結果、ピコリン酸に脂溶性基もしくはハロゲン原子を導入した配位子や、ニンニクから得られるアリキシンやそのイオウ置換体のバナジル(4)や亜鉛(2)錯体が経口投与により低用量で優れたインスリン作用や血糖降下作用を示すのみならず、脂質代謝改善や高血圧症改善などにより糖尿病の合併症を改善できることを明らかにしつつある。さらに、かつてわが国で発見されたヒノキチオールのバナジル(4)や亜鉛(2)錯体、スルホン基を導入したバナジル(4)-ポルフィリン錯体や2核バナジル(4)-酒石酸錯体にも優れた血糖降下作用を見出している。一方、作用機構の解明には、脂肪細胞や培養細胞系を用いて、バナジウムイオンやその錯体がインスリン受容体の下流に存在するシグナル伝達系に関連するいくつかのタンパク質のリン酸化・脱リン酸化に関与していることを見出し、新たな進展を得つつある。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 糖尿病治療効果を有する高活性で安全な金属錯体の開発を目的とし、バナジウム錯体を中心とした様々な化合物の合成研究を活発に進めている。さらに、独自の薬理効果評価法の開発や、作用機構の解析においても順調に成果を上げている。本研究費で購入した機器類も有効に活用されており、現行のまま推進すべきと判断した。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --