研究課題名:生理活性発現分子機構に基づく生物活性物質の創製

1.研究課題名:

生理活性発現分子機構に基づく生物活性物質の創製

2.研究期間:

平成16年度~平成20年度

3.研究代表者:

磯部 稔(名古屋大学大学院生命農学研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 生理活性天然有機化合物に関して、超微量物質の化学構造決定・複雑な構造を持つ物質の全合成・生理活性の改善を目指した類縁活性体の化学合成という2大研究領域に次いで、生理作用発現の分子機構解明という第3分野が形成された。これは急務としてきた生理活性天然有機化合物と生体高分子の構造を相互に識別し合う分子間相互作用の基本原理を理解することが、第1・2大領域の発展をもとに実現も夢ではなく研究目的とすることが可能となったことを意味する。第3分野での分子情報伝達は、生理活性物質とその標的となるタンパク質分子との複合体形成を鍵段階として引き起こされる。活性発現の分子が遭遇する場面では、構造認識機構によって分子情報が伝達され、活性発現のカスケード機構が働いている生物現象はよく理解されている。申請者は、これまで分子情報伝達のもとになる生理活性天然有機化合物が、巨大分子であるタンパク質の中で果たす分子構造相互認識機構の役割と原理を解明する手法を確立してきた。本研究では、この手法と有機合成を駆使して、著しい生理活性をもつ天然有機化合物とタンパク質を模範として、これらの両分子間相互作用を解明し、そこで明らかになった分子情報伝達の原理を基に、合成的に活性物質を分子設計・創製することを目的としている。これらの研究展開は、究極的には創薬化学へと利用する道を開拓することにつながり意義深い。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 生体内において、生理活性低分子化学物質とタンパク質分子間の複合体形成を鍵段階として引き起こされる軌跡を追求するために、具体的に次の研究課題を中心に研究を進めている。タンパク質脱リン酸酵素阻害機構については、光親和性標識をもつトートマイシンアナログ4種を分子設計し、フォスファターゼの被修飾効率を分子量変化により検討した。昆虫休眠卵中に発現し、休眠から覚醒し付加するまでの時間を読むタンパク質TIMEは、金属(2個のCu(銅)イオンと1個のZn(亜鉛)イオンをもつ)・糖タンパク質である。その構造変化を金属リガンドの選択的修飾度を指標に追跡し分子の動きを確認した。大腸菌発現タンパク質は測時機能をもたず、糖鎖は必須で、発現TIMEも時間調節ペプチドも共に銅イオン親和性をもつ。一方、発光タンパク質に取り込まれる発光素子セレンテラジンの新規合成法は、旧来法では困難な位置の光プローブ合成を可能とした。フッ素原子導入により安定なニトレンやカルベン発生法を考案した。タンパク質修飾についても、3種の発光タンパク質においてプローブ素子とのかかわりを、LC-IT-MSおよびQ-TOF-MSで追跡した。この結果に基づいてさらに次の素子を分子設計し新発光物質を創製した。この手法は創薬化学にも共通するものである。また、チャネルタンパク質に相互作用するテトロドトキシンの第2の全合成を終了し、改良合成を行った。さらに、同タンパク質に作用するシガトキシンの部分合成についても、コバルト錯体のリガンド交換法を開発することによって反応の選択性を大きく改良するなど、全合成に適用できる進展をみた。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 有機合成を基盤とし、分子情報伝達のもとになる生理活性天然有機化合物とタンパク質との相互作用を解明し、そこで明らかになった生理活性天然有機化合物の役割を基に、新たな活性物質を分子設計し合成化学的に創製する課題は、非常にチャレンジングな研究である。チャネルタンパクに作用する化合物、タンパク質脱リン酸酵素阻害剤、時計タンパク質、生物発光物質と発光タンパク質、それぞれについて研究計画に沿った形で順調に進捗しており、現行のまま推進すればよいと判断した。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --