研究課題名:光フーリエ変換を用いた新しい超高速無歪み光伝送技術の確立

1.研究課題名:

光フーリエ変換を用いた新しい超高速無歪み光伝送技術の確立

2.研究期間:

平成16年度~平成20年度

3.研究代表者:

中沢 正隆(東北大学電気通信研究所・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 本研究の目的は、超高速光伝送におけるパルスの波形歪みを一括して除去する新たな光伝送技術を構築することにある。まず無歪み伝送の原理およびその基本性能を実証するために、本技術に関する伝送実験システムを立ち上げ、伝送方式全体の基本検討を行なう。次に主要技術としてフーリエ変換限界パルス光源技術ならびに光フーリエ変換回路技術を確立し、伝送実験を通じて超高速伝送への有用性を実証する。さらに、160Gbit/s以上の超高速化を実現するために光フーリエ変換を全光学的に実現する方法を確立し、波長多重(WDM)と組み合わせた160Gbit/sベースの大容量無歪み伝送技術の実現を目指す。
 本研究の特色は、伝送パルスの時間波形よりむしろその周波数スペクトル形状に着目して超高速無歪み伝送を実現することである。すなわち光の超短パルス性(時間)とスペクトルの高純度性(周波数)という、フーリエ変換の関係で結ばれる二つの領域を入れ換えることにより、新たな光技術を開拓しようとしている。本伝送方式は従来大きな問題となっていた各種分散、ジッタ、波形歪みなどを1つの装置で一挙に解決できる手法であり、次世代の光通信網の高性能化に大きく貢献できる。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 時間領域光フーリエ変換の基本性能を実証するために、伝送ファイバの二次分散および三次分散の大きさを時間的に変化させた状態において、符号誤り率の変化を測定した。その結果、二次分散や三次分散が同時に存在し、かつそれらが時間的に変動している場合でもパワーペナルティが抑制され、超短パルスの波形歪みが一括除去できることを明らかにした。また超高速フーリエ限界パルス光源として40GHzモード同期ファイバレーザを作製し、パルス幅1.5psのフーリエ限界パルスを安定に発生させることに成功した。現在、本レーザを信号光源として40Gbit/sの4チャネル時間多重による160Gbit/sOTDM伝送系の構築に取り組んでいる。今後光フーリエ変換技術を本OTDM伝送系に適用し、波形歪み除去に関して詳細な性能評価を行ない、超高速光伝送への有効性を実証する。
 波形歪みの補償時間領域をさらに拡大するためには、光フーリエ変換回路において理想的なパラボラ型の位相変調をパルスに印加する必要がある。我々はパラボラの形状を有する光パルスを発生させ、信号光との相互位相変調を用いる新たな全光フーリエ変換法を提案している。これによりタイムスロット全体にわたる広い時間領域において、波形歪み除去が可能であることを解析により明らかにした。本手法は光フーリエ変換を全光学的に実現できるという特徴を持つため、本伝送技術のさらなる高性能化に極めて有効であると考えられる。現在、パラボラパルス発生用の多層膜光フィルタならびにアレイ導波路回折格子を用いたPLC回路の設計・試作を行なっている。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 本研究は、光ファイバ中のパルス伝搬特性に依存することなく、情報を正確に伝送させる無歪み光伝送技術を、時間領域光フーリエ変換という新しい方法を駆使して実現しようとするものである。これまでの研究の内容は、1.無歪み光伝送技術の基本性能の実証、2.超高速フーリエ限界パルスの発生・制御技術の開発、3.160Gbit/s光フーリエ変換伝送実験系の構築、4.パラボラ光パルスを用いた超高速全光フーリエ変換法の提案の4項目にまとめられる。当初の研究計画調書に基づき、研究は順調に進展しており、IEEE、OSA(アメリカ光学会)、電子情報通信学会などの論文誌に論文が掲載済み、あるいは掲載予定になるなど、着実に研究成果を上げている。本研究で実現を目指している無歪み光伝送技術は、従来大きな問題となっていた各種の分散、ジッタ、波形歪みなどを一つの装置で解決できる可能性があり、次世代光ネットワークの高信頼化に貢献できる成果を上げられることを期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --