研究課題名:融合型並列計算機による宇宙第一世代天体の起源の解明

1.研究課題名:

融合型並列計算機による宇宙第一世代天体の起源の解明

2.研究期間:

平成16年度~平成19年度

3.研究代表者:

梅村 雅之(筑波大学大学院数理物質科学研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 本計画は、宇宙物理数値シミュレーションの専門家、並列計算機のハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク技術の専門家が、緊密な協力体制の下に、汎用型プロセッサを用いた大規模並列計算機に宇宙専用計算機を融合させた新たな融合型並列計算機システムを開発し、これを用いてこれまでにない高度な輻射流体力学シミュレーションを実現することで、宇宙第一世代天体の起源を解き明かすことを目的とする。
 140億年の宇宙の歴史の中で、宇宙第一世代天体は、宇宙で最初に起った"自己組織化"であり、宇宙の全ての天体と元素の起源となるものである。大型望遠鏡による最近の観測で、宇宙誕生から数億年の宇宙に、多くの若い銀河が見つかっている。一方、宇宙背景放射から知ることのできる宇宙年齢50万年の頃の宇宙には、天体は存在しない。従って、宇宙年齢50万年から数億年の時代に宇宙で最初の天体(第一世代天体)が形成されたということになる。この時代の宇宙進化は謎に包まれており、宇宙暗黒時代と呼ばれている。また、地球や生命を作っている重たい元素(酸素、珪素、炭素、窒素、鉄等)は、星内部で作られ超新星爆発によって、宇宙に蓄えられたものである。従って、宇宙第一世代天体は、地球や生命の物質的起源となる天体でもある。我々は、これまでにない大規模なシミュレーションによって、宇宙暗黒時代の歴史と宇宙第一世代天体の起源の解明を目指している。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 宇宙第一世代天体の形成過程について大規模な輻射流体力学シミュレーションを行うためには、物質と光の作用および重力相互作用を極めて高速に計算する必要がある。目的とするシミュレーションのためには、物質・光の計算性能が数GFlops、重力計算性能が数10GFlopsの計算機を必要とする。我々は、これを実現するために、汎用型並列計算機に専用計算機を埋め込んだ異機種融合型複合計算機(HMCS-E:HeterogeneousMultiComputerSystem-Embedded)のコンセプトの下、宇宙シミュレータFIRSTの開発を行った。宇宙シミュレータFIRSTは、汎用型並列計算機として、大規模・高密度化の実現が容易であるPCクラスタを採用し、この各ノードに新たに開発した重力計算専用ボードBlade-GRAPEを組み込んだものである。Blade-GRAPEは、クラスタ・サーバ(2Uサイズ)のPCI-Xバスのフルサイズカード2スロット分に完全に収まり、クラスタノード(2CPU)の演算性能のおよそ10倍の重力計算性能をもつ。また、一度に26万粒子を扱えるメモリを有し、これによりPCI-Xバスによるデータ通信時間を隠蔽できる高い演算性能を実現する。現在まで、FIRST1号機が完成しており、16ノード(32CPU)のPCクラスタの各ノードにBlade-GRAPEを組み込むことで、重力計算性能と汎用計算性能比で10対1を実現している。さらに、FIRST1号機について性能評価を行い、実効性能、動作安定性、計算精度共に十分な性能をもつことを確認した。また、この計算機を使った輻射流体力学シミュレーションのための高精度計算スキームの開発を行った。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 当該研究は、高性能の専用並列計算機を開発し、重力と輻射を結合した宇宙輻射流体力学シミュレーションを通して第一世代天体を解明することをその目的としている。専用並列計算機については、Grape-6を搭載した専用ボードを開発し、これを使った16ノードのPCクラスタを完成させ、本専用並列計算機システムの有効性を確認した。すなわち、重力計算についてはエネルギー保存則等を高度に満足する高精度の計算能力を、輻射流体力学についても大質量星による紫外線電離の影響評価が所期の速度で実行できることを確認した。以上のように、当初の研究計画調書に沿った形で、研究計画が順調に進んでいると判断した。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --