研究課題名:宇宙高温プラズマの観測的研究と偏光分光型超高精度X線CCD素子の開発研究

1.研究課題名:

宇宙高温プラズマの観測的研究と偏光分光型超高精度X線CCD素子の開発研究

2.研究期間:

平成16年度~平成20年度

3.研究代表者:

常深 博(大阪大学大学院理学研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 高温プラズマは宇宙における物質の基本的存在形態の一つであり、その観測的研究から期待される物理量は、宇宙物理の基本とも言うべき量である。宇宙には高温プラズマ以外に、高エネルギー宇宙線に代表される熱分布から外れる、いわゆる非熱分布をした成分も広く知られている。熱分布は、その温度で決まる範囲にあるが、一般的に非熱成分はエネルギースペクトルにおいて高エネルギー側に延びている。熱分布と非熱分布とを分離する有力な手段は、10keVを越える高エネルギー領域での観測にある。
 超新星爆発やそれに伴って生じる磁場を含んだ衝撃波面における加速により、非熱粒子が発生すると考えられている。これらの非熱成分は、スペクトルではべき関数型であるため、高エネルギー側まで延びているが、光子密度としては低エネルギー側が強い。従って、熱成分と非熱成分とが分離し始めるエネルギー領域(数十keV)を観測することが最も望ましいことになる。当然、熱成分とその延長上にある非熱成分とを同時に観測することが必要である。実際に我々が観測できるX線は、種々の物理現象が複雑にからみあった結果として放出、伝搬されたものである。つまり、これら複雑に絡み合った物理現象を解き明かし、熱い宇宙と非熱的な宇宙の高エネルギープラズマの実体解明、それに含まれる基礎物理量の導出方法の確立とその実証が本研究の目的である。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 我々の技術で開発したX線CCDは、小惑星サンプルリターンを目指す「はやぶさ」や国際宇宙ステーションの「MAXI」に搭載されるまでになった。平成16年度には、それをさらに大きくした素子をつくり、最初のロットで将来の衛星に使える見通しを得た。次に、従来の素子とは異なった基板を使って試作し、220μmの空乏層を達成していることを確かめ、現在は雑音レベルを低下させる努力をしている。これらを基に、X線偏光を狙う微小画素の開発も進んでいる。
 CCDの空乏層を厚くしても、その有効エネルギー範囲はなかなか広がらない。そこで、シンチレータを直接蒸着したCCD(SD-CCD)を開発した。低エネルギーX線はCCDの空乏層で、高エネルギーX線はシンチレータで検出する。こうして、0.1~100keVのX線を効率よく、かつ高い位置分解能で検出できる。平成17年5月の気球実験により、上空で検出器の性能を実証した。
 我々の開発しているX線用CCDは、感度や波長分解能において、これまでの測定技術を圧倒的に凌駕している。この技術を地上で応用するための研究開発を進めた。X線発光領域の極めて小さいX線源と、我々の高い位置分解能とを達成する技術を組み合わせて、新しいX線撮像装置を開発研究している。さらに広い応用を狙うには、CCDの読出し速度の高速化が必要となる。最近のASIC開発は、CCDのための高速低雑音のアナログLSIを製作できるまでになっている。低雑音高速化を狙ったアナログ回路の開発も順調に進んでいる。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 当該研究は、超高精度X線CCD素子の開発を通して宇宙高温プラズマを高分解能で観測・解明することを目的としている。超高精度X線CCD素子開発については、画素サイズの微細化による空間分解能の向上、及び、シンチレータ材料とCCD素子の組み合わせによる検出効率の向上について順調な進展が認められる。CCDイメージのリアルタイム高速処理システムの開発については、既に画像処理用アナログICの設計と試作に着手しており、設計指針が確立されつつあるので今後の目標達成が十分に期待できる。また、観測面では、気球実験による検出器の性能評価を名古屋大学グループと共同で実施しており、硬エックス線領域でのユニークな性能が実証されている。さらに、エックス線観測衛星ASTR0-E2(SUZAKU)の打ち上げが本年7月に成功し、これからの気球観測とも合わせて宇宙観測における大きな研究成果が期待できる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --