研究課題名:ルイス酸・遷移金属触媒を用いる環境調和型分子変換プロセスの開拓

1.研究課題名:

ルイス酸・遷移金属触媒を用いる環境調和型分子変換プロセスの開拓

2.研究期間:

平成14年度~平成18年度

3.研究代表者:

山本 嘉則(東北大学大学院理学研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 環境調和型分子変換プロセスの開拓は21世紀の大きな問題点の一つである。我々は次の3つのkeywordsをこの問題点解決へのアプローチとした。(1)個々の変換プロセスが触媒化されていること、(2)変換プロセスが全体としてコンバージェントであること、そして(3)置換反応ではなく付加反応を用いること。(1)についてはいうまでもなく触媒化新プロセスの開拓または既存のプロセスを触媒化することを目的とする。(2)については、各プロセスを組み合わせて目的のターゲット分子に至る全体の系がコンバージェントである手法を組み立てること、すなわちダイバージェントな系では、副生成物を出しつつターゲットに至ることになるので、前者を採用する方向にもっていくことを目的とする。(3)については、従来の教科書ではSN1,SN2等々多くの置換反応を勉強し、それを実用に供する場面が出てくるが、環境調和の観点からすれば10~20年後には、置換反応は付加反応に置き換えられるのではないかと考えられる。そのような観点に立ち、付加反応を主体とした分子変換プロセスを開拓する。
 付加反応を基盤とした触媒的分子変換反応を開発し、環境調和という問題点解決に合致した方向に化学反応研究の流れを向かせたい。これまでの具体的研究内容と成果は次を参照されたい。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

π電子配位性ルイス酸触媒反応の開発:
金触媒によるオルトアルキニルベンズアルデヒド誘導体アルキン類の[4+2]環化付加反応を見い出し、縮環芳香族化合物の新規合成法を開拓した。また、分子内反応に応用し、種々のインデン化合物を合成することに成功した。アシルアニリン誘導体の反応ではインドール骨格を合成することができた。

ビス-π-アリルパラジウム触媒反応の開発:
ビス-π-アリルパラジウム触媒を用いたイミンの不斉アリル化反応に成功した。また、π-アリルアジドパラジウム中間体を経るシアノインドールおよびアリルトリアゾールの触媒的合成法を開発した。この研究中、ホスフィン触媒によるピロール類の位置選択的合成法を見いだした。

炭素-炭素多重結合に対するプロ求核体の触媒的付加反応:
パラジウム触媒の存在下にアルコールやアミンが直接アルキンに分子内付加反応することを見いだし、種々のヘテロ環化合物の触媒的不斉合成に成功した。また、本反応を用いてインドリジチンアルカロイド209Dの立体選択的合成を達成した。

炭素-水素結合の活性化:
メチレンシクロプロパンとジアジンの形式的な[3+2]環化付加反応によってアザインドリジン誘導体を得ることができた。本反応をメチレンアジリジンに応用し、ピロール誘導体およびα-アミドケトンの新規合成法を開発した。

ポリ環状エーテル海産天然物全合成・コンバージェントプロセスの開拓:
ルイス酸による分子内アリル化反応とルテニウム触媒による閉環メタセシスを組み合わせたコンバージェントプロセスにより、巨大天然物である海産毒ガンビエロールおよびブレベトキシンBの収束的全合成に成功した。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 付加反応が副生成物を与えないとの独特の視点より、本研究では数々の有効なルイス酸や遷移金属触媒を用いた環境調和型有機反応が開発され、それを有効に用いて天然有機化合物の効率のよい合成にも成功している。さらには、これまでほとんど用いられることのなかった金を触媒に用いた新しい合成反応も見い出している。いずれの研究も国際的に水準が高く、大いに評価できる。研究は順調に展開されており、現行のまま進行すればよいと判断した。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --