研究課題名:蛋白質動的高次構造検出法の開発及びそれを用いた蛋白質構造・機能相関の解明

1.研究課題名:

蛋白質動的高次構造検出法の開発及びそれを用いた蛋白質構造・機能相関の解明

2.研究期間:

平成14年度~平成18年度

3.研究代表者:

北川 禎三(自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 ヒトゲノムの解析がほぼ終了し、次のステップとして遺伝子にコードされた蛋白質がどういう働きをするかに問題が移りつつある。そのために我が国では、3000個の蛋白質の構造を明らかにするという構造生物学のプロジェクトが進行している。これは主としてX線結晶構造解析とNMRを用いた研究であり、そのデータは蛋白質の構造と機能との相関を考える基礎となるものであるが、それだけでは何故蛋白質が機能を果たすのかわからない。本研究はその次のステップの科学、即ち蛋白質の機能発現メカニズムを分子科学のレベルで解明することを目指すものである。例えば、ヘモグロビンは四量体で、その各サブユニットはミオグロビンとほぼ同じ構造であることが、X線結晶構造解析の結果、原子レベルの分解能で明らかにされている。しかし、両者の構造をいくら眺めても四量体であるヘモグロビンは酸素運搬機能を果たせるが、単量体であるミオグロビンは果たせない理由はわからない。それは四量体では酸素の結合により四次構造変化が起こり、非線形効果を演出しているためである。本研究では、蛋白質高次構造変化の中間体の振動スペクトルを観測する方法を開発し、動的高次構造の解明により構造・機能相関の理解を深めることを目的とする。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 本研究で用いる主たる方法論は時間分解共鳴ラマン分光法と顕微赤外分光法である。本研究計画の特色として申請時に揚げたサブテーマは、
1)ピコ秒時間分解可視共鳴ラマン分光法による発色団の速い構造変化の検出
2)サブナノ秒時間分解紫外共鳴ラマン分光法による蛋白質高次構造変化の検出
3)レーザー温度ジャンプ法による蛋白質フォールディング/アンフォールディング
4)機能を軸とした新規分光法の開発
5)DNAフォトリアーゼによるDNA光修復過程の解明
6)蛋白質会合による高次構造変化とそのトリガーの顕微赤外分光法による検出
である。
 2)、3)、5)、6)は岡崎で、1)、4)は神戸大学で実験をしているが、広い時間範囲で1つの蛋白分子の動的構造を調べる場合には、ピコ秒領域の速い構造変化とナノ秒からミリ秒領域にかけて起こる遅い構造変化を合わせて考える必要があるので、1)と2)については同じ蛋白試料を岡崎と神戸の両方で測定する協同研究体制をとっている。岡崎ではサブナノ秒の紫外レーザーパルスを1KHzの繰り返しで作り出すことに4つの波長で成功して、共鳴ラマン測定に使う段階に達したが、神戸ではピコ秒の紫外レーザーパルスを1KHzの繰り返しで発振することに成功した。これらを用いたラマン分光の実験は構造生物学に新機軸を出す可能性をもつ。顕微赤外分光装置など他の装置は順調に稼働し、アミロイド線維内のペプチド構造について詳細を議論できるまでに進展した。

5.審査部会における所見

A-(努力の余地がある)

 時間分解分光技術の進歩によってラマン分光装置の高度化に成功し、ヘム蛋白を中心に蛋白質の構造のダイナミクスに関する知見が得られ、成果は上がっている。蛋白質としての特異性を考察しつつ、その機能を解明するという目的に向かって着実に進展している。時間領域を分担測定することが、研究組織としての一体感の醸成に奏効しており、測定法の高度化という観点からは十分な成果が上がっている。今後は、特別推進研究としての特筆する研究成果を上げるべく、蛋白質の機能解明に主眼を置き、シミュレーションとの連携を強化するなど、研究成果のまとめに大いに期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --