研究課題名:相対論工学による超高強度場科学への接近

1.研究課題名:

相対論工学による超高強度場科学への接近

2.研究期間:

平成15年度~平成19年度

3.研究代表者:

田島 俊樹(独立行政法人日本原子力研究開発機構関西光科学研究所・所長)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 本特別推進研究では、新たに「相対論工学(relativisticenginnering)」の手法を導入することにより、コンパクトで高繰返しというCPAレーザーの特徴を失うことなく、極高強度場を生成することの出来る方法を含む一連のレーザー制御科学技術体系を提起している。例えば、この手法により、レーザーの波長を制御・短波長化し、その空間的占拠体積を著しく圧縮することが出来る(γpH6分の一までに圧縮できる。ここでγpHはレーザーにより生成されたプラズマ構造の位相速度に関するローレンツ因子)。従って、現在到達出来る集光強度を1022W/cm2としγpHを10とすれば、こうした技術が開発され成熟した暁には、1028W/cm2の極高強度場が生成可能となり、Schwinger場に近づく。その場に近づく前にも、1023W/cm2付近では、放射減衰の本質的に効くような荷電粒子系、1024W/cm2では量子効果の本質的な領域、その少し上では、真空が強電場で歪み始める領域、と様々な新しい物理領域が出現する。これらは、60年のレーザー発明直後にギガワットレーザーが物質を誘電作用で歪め、Raman散乱を初めとする様々の非線形光学効果を引き起こしたのと軌を一にしており、今回は真空の「非線形性」と構造を観察することになる。また、この方法の援用でコヒーレント制御によるコヒーレントビームや輻射も期待できる。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 本特別推進研究において、我々はEinsteinの発見した特殊相対論の示す重要な帰結の一つ"物質は光源を越えて進むことがない"、即ち"物質流はエネルギーが高まると光速に向けて収斂する"という科学的原理を有効に使い制御性を高めることで、「相対論工学」とでも呼ぶ意識的なエンジニアリングを展開し得ること、それにより従来の方法で到達出来ないとされていた物理条件やパラメータを実現し得る可能性のあることを指摘した。我々は高強度レーザーをガス、ビーム、クラスター、薄膜、固体表面といった様々な物質に照射することにより、様々の新奇な相対論物質流を作り出せることを示した。高強度レーザーの歴史が浅いため一般に制御性に欠けるが、その制御性を色々の方向(横の広がり、縦のパルス形成、チャープ等)で改善することで全く新しい相対論物質流を次々と発見して来た。特に、予備実験ではレーザーの縦方向のコントラストを格段に高めることで、薄膜の表面での電子流の制御性が高まり、極短時間で極めて効率よくレーザーから電子、電子から単色X線へと変換し得ることも示された。この種の実験としては世界最高の輝度と我々は考える単色のフェムト秒での超高輝度の硬X線放射をコンパクトな形で実現した。こうした理念は、当初の理論仮説から始まり、精緻な3次元シミュレーション、次には荒削りな予備的実証へと進捗して来ている。更に、現在、より踏み込んだ実証実験とそのために必要な観測機器の準備が着実に進みつつある。

5.審査部会における所見

A‐(努力の余地がある)
 理論的研究とともに、レーザー光の波面制御による集光性向上等、個々の技術要素の開発については順調な進展が認められる。成果の公表も順調になされ、研究成果は国際的にも評価されている。しかし、個々の成果が整合性のあるものとして出されているかが分かりにくく、研究目的に沿った達成度が明確でない。究極目標であるフライングミラーの形成についてどこまで達成されたかが明らかになるよう、シミュレーションとその検証実験との対応関係を明確にすることを望む。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --