研究課題名:遠赤外線干渉計を用いた高解像撮像による星形成現象の詳細研究

1.研究課題名:

遠赤外線干渉計を用いた高解像撮像による星形成現象の詳細研究

2.研究期間:

平成15年度~平成19年度

3.研究代表者:

芝井 広(名古屋大学大学院理学研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 本研究の目的は、天文学・天体物理学において最も未開拓の波長帯である遠赤外線(テラヘルツ波)において、1秒角に迫る高解像撮像観測を行うことである。宇宙における誕生途上の天体である星生成領域、原始惑星系円盤、銀河核スターバーストなどでは、発生エネルギーの大半が星間塵(固体微粒子)により赤外線に変換されていることがわかってきた。しかしながらその現場を詳細に調べるためには、熱放射がピークをなす遠赤外線を飛躍的な高解像度で観測する必要がある。このため世界に類の無い遠赤外線干渉計を開発する。遠赤外線での最高解像度は現在約30秒角であるが、これに対して1秒角の解像度を達成するには20mの基線長が必要である。遠赤外線に対しては地球大気がまったく不透明なので、科学観測用大気球を用いて干渉計を高空に浮遊させ観測を行う。この干渉計の技術が確立すれば、星生成領域、原始惑星系円盤、銀河核スターバーストなど、星間塵熱放射がきわめて重要な役割を果たしている天体について、エネルギー収支を支配する星間塵の温度分布を明らかにすることができ、恒星誕生直前の原始星の温度構造、原始惑星系円盤の温度構造、および銀河核スターバーストなど、現在の天文学研究における最重要天体現象の解明に大きく資することができる。さらには、NASA(ナサ)やESA(イサ)が概念検討を行っている、将来の大規模宇宙赤外線干渉計プロジェクトへの応用・発展が期待される。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 気球搭載型の遠赤外線干渉計の開発は若干の遅れがあるものの、光学設計の最適化、構造設計、干渉計のアラインメント計測・調整機構の設計・製作、軽量の超流動ヘリウムクライオスタット製作など、一つ一つの課題を解決しつつ、大学院生など若手研究者の貢献を得て進んできている。例えば、姿勢制御システムの中心装置である姿勢センサーとしてリングレーザージャイロを採用したが、技術的検討と実際の試験の結果、精度0.1秒角が応答速度100ミリ秒角で達成できた。当初の計画においては、いわゆる「マイケルソン星干渉計」の遠赤外線版を採用することとしていたが、遅延線なしでも対象天体の輝度分布を導出できるという新しいアイデアを発案し、定式化することができた。この新方式が実現すれば、天文観測に限らず大変、応用範囲が広いと期待できる。当初の計画では気球のフライトをインドで行うことにしていたが、精密機械の回収が容易なブラジルに変更した。ブラジルも国立の常設気球基地を持ち、天文学的に重要な南半球の観測が、十分に可能だからである。これらの計画変更により約半年の遅れが生じており、初フライトを平成17年度12月から平成18年度11月に延期した。このように、全く新しいものを1から作り上げようとしているので、試行錯誤が伴う遅れが若干生じているが、新しい原理の干渉計方式のアイデアを定式化するなど、研究としての魅力と深みを増すことができたと考えている。

5.審査部会における所見

A‐(努力の余地がある)
 星間塵温度分布の精密評価が可能な遠赤外線に対する飛躍的な高解像度撮影システムを開発し、天文学上の重要課題を探求しようという研究である。気球フライト実験などの計画に若干の遅れが見られるが、これは干渉計に対する綿密な方式検討に時間を要したことや、フライトの実施地域がインドからブラジルに変更されたことによるもので、研究としては着実な進展を遂げている。特に、天体の輝度分布を測定するための新しい干渉観測方式の開発、3軸制御方式に基づく干渉計の姿勢制御技術の構築などは高く評価される。遠赤外線センサーの準備も順調であり、若手研究者や大学院生を含む組織内の連携も良く、研究経費も有効に利用されている。上空での観察に対するアラインメント技術の確立など、2006年のフライト実験に向けたさらなる進展がなされ、天文学上の成果が得られることを期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --