研究課題名:硬X線撮像観測による非熱的宇宙の研究

1.研究課題名:

硬X線撮像観測による非熱的宇宙の研究

2.研究期間:

平成15年度~平成18年度

3.研究代表者:

國枝 秀世(名古屋大学大学院理学研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 非熱的現象は天体の様々な領域で広く知られる様になって来た。中でも、超新星残骸、銀河団、活動的銀河核でその重要性が指摘されている。非熱的エネルギーの総量は宇宙全体のエネルギーのかなりの部分を占めており、その探索は硬X線の撮像観測がもっとも有力である。硬X線で見える世界は、大きく分けて、二つの対象がある。本来熱的成分が優勢と思われた、超新星、銀河団で実は、非熱的成分が大きな割合を持っていることが示される可能性がある。ここでは、超新星爆発や、銀河団の併合合体のバルクなエネルギーが、高温ガスなどの熱的成分だけでなく、磁場などを通して一部粒子の加速に使われ、非熱的成分に流れて行く様子が、硬X線の撮像観測で明らかにされると思われる。また活動的銀河核では、強い吸収に隠されていた天体が透過力の高い硬X線の観測でより多く見つかると思われる。その結果、40keVの熱的放射スペクトルで説明されたX線背景放射の硬X線領域の放射が、これら隠されていた活動銀河からの非熱的なべき型成分で説明される可能性がかなり高い。この様に、硬X線撮像観測ではこれまで見えなかった、非熱的成分を探索することで、宇宙全体のエネルギー分布の解明に大きなインパクトを与える。この数十keVの硬X線の波長域ではこれまでコリメータで1度弱までしか空間情報が得られなかったが、本研究では新たな硬X線撮像システムにより、1分角程度の分解能で撮像することを実現し、非熱的成分の物理を明らかにしたい。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 硬X線撮像観測を実現するために次の三つの柱で研究を進めている。

(1)硬X線撮像システムの開発

多層膜の成膜に関しては、DCマグネトロンスパッタリングを最適化し、気球搭載用反射鏡として多層膜レプリカ鏡の量産を行った。高エネルギー側の反射率向上と、結像性能の向上ができた。また、新型イオンビームスパッタリングの最適化も進めた。X線望遠鏡全系の結像性能向上のため、レプリカ基板強度、母型の形状改良、基板保持方法の改良を行った。また形状精度の良い超精密母型の加工装置を16年度導入した。

(2)硬X線望遠鏡気球観測実験

米国との共同実験であるInFOCμS実験では2004年5月と9月に飛翔を行った。9月には世界で初めて多数の硬X線天体の観測に成功した。一方、名大を中心に独自に開発を進めるNUSMIT計画では、2005年5月に検出器、姿勢系の試験飛翔に成功し、現在、11月のブラジルでの本実験を準備中である。

(3)その他の研究

2001年来準備をして来たAstro-E2衛星は2005年7月、ついに打ち上げに成功した。我々は搭載用望遠鏡の製作、X線特性測定試験、衛星組み込みを担当した。観測の開始と共に、望遠鏡の機上較正試験、最も注目している銀河団と活動的銀河核の観測的研究を展開する。本課題で開発する硬X線望遠鏡を主体とする次期X線衛星NeXTを2011年目ざして提案している。更には2017年以降を目ざす、国際X線天文台XEUS計画の提案に参加し、これらのための基礎開発も進めている。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 測定装置の開発は順調であり、気球観測、「すざく」による観測ともに前進が認められる。気球観測時の装置故障という不測の事態にも対応がとられ、研究は着実に進展している。幅広い研究が行われているが、分散しないよう心がけ、出来るだけ早期に天文学上の成果を積極的にアピールしてほしい。また、10年スケールの研究であり、現在進められている装置開発と実際の観測への投入に時間差があることは理解できるが、開発したシステムによる研究成果が十分見られるよう、今後の進展に期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --