研究課題名:レーザーガイド補償光学系による遠宇宙の近赤外高解像観測

1.研究課題名:

レーザーガイド補償光学系による遠宇宙の近赤外高解像観測

2.研究期間:

平成14年度~平成18年度

3.研究代表者:

家 正則(国立天文台光赤外研究部・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 地上望遠鏡による観測は、ゆらぐ地球大気のため、通常の空間解像力は0.5秒角程度に制限され、望遠鏡の理論的な空間解像力の限界(すばる望遠鏡で波長2.2ミクロンの観測では0.07秒角)を達成することはできない。だが、大気のゆらぎによる光波面の擾乱を高速測定し、その擾乱を打ち消すように小型の形状可変鏡を実時間高速駆動することにより、回折限界に迫るシャープな画像を回復することが可能であり、この技術を「補償光学」と呼ぶ。
 口径8.2mのすばる望遠鏡に制御素子数36の補償光学装置を製作し運用している実績を基に、本研究では、(1)制御素子数188の補償光学系を新たに開発し、大気揺らぎによる星像劣化の実時間補正性能をさらに高度なものとすること、並びに(2)大気ゆらぎを測定するために必要な明るいガイド星が無い天域でも補償光学系が使えるようにするため、高度約90kmにあるナトリウム原子層を波長589nmのレーザービームで照射してナトリウム原子を励起発光させ、「人工星」光源として利用できるようにするレーザーガイド星生成システムを開発すること、(3)これら新規開発の「レーザーガイド補償光学系」および運用中の補償光学系を用いて、近赤外線での回折限界に迫る高解像な撮像観測および分光観測を行うこと。具体的には、遠方の初期宇宙の銀河やクェーサーの観測的研究を行い、宇宙進化史の解明、活動銀河中心核の構造、原始惑星系円盤の構造などの研究で新しい成果を挙げることを目的とする。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 本研究は5カ年計画であり、本年度はその第4年度にあたる。これまでに、

(1)新補償光学系の開発:波面曲率センサー光学系の開発、高速高感度アバランシュ光ダイオード群(188素子)の調達を終え、波面センサー系の総合組み立て試験を進めている。また188素子のバイモルフピエゾ駆動素子を最適配置した高速応答形状可変鏡を新規開発し、駆動範囲を広げるための2軸高速傾斜機構との組み合わせ試験などに着手するところである。これらを実時間高速制御するための制御計算機と制御ソフトウェアについても開発を進めている。

(2)レーザーガイド星生成システムの開発:理化学研究所の協力を得て、周波数の異なる2つのNd:YAGレーザービームを混合し、非線形結晶によりその和周波としてナトリウムD線で発振する出力4Wの全固体レーザーを開発した。レーザー光は望遠鏡先端に装備する送信望遠鏡まで専用の光ファイバーケーブルで導き、ビームを直径50cmの平行光に広げて送出する。このための送信望遠鏡の製作が完了し、今年度後半からは総合試験に入る予定である。

(3)観測的成果:既に運用中の補償光学系を駆使して、すばる深探査領域の遠方宇宙の最も暗い銀河の撮影に成功したのを初めとして、重力レンズ効果によるクェーサーの2重像の分光観測から銀河間空間に存在する吸収雲の物理状態とそのサイズを初めて解明した研究、赤色巨星の高分散分光から恒星直径の詳細測定を行い大気の立体構造を初めて測定した成果などを査読論文や国際研究会、新聞等に発表した。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 すばる望遠鏡に実装するレーザーガイド補償光学系の開発研究が着実に進行している。188素子の新補償光学システムについては、ナスミス焦点に設置する主光学系、高速高感度アバランシュフォトダイオードを用いた波面センサー、バイモルフ可変形鏡などの調達が順調に進行している。レーザーガイドシステムについても、全固体レーザーの開発、フォトニック結晶を用いた伝送ファイバー、送信望遠鏡の製作が着実に進んでいる。また、現補償光学を用いた遠宇宙観測についても興味深い成果が得られている。研究費も概ね有効に活用されていると判断した。今後は、研究最終年度となる来年度に向けて、開発研究を早期に完了して、すばる望遠鏡に装置を実装し、観測成果に結びつけることを大いに期待する。現行のまま推進すればよいと判断した。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --