研究課題名:法創造教育方法の開発研究-法創造科学に向けて

1.研究課題名:

法創造教育方法の開発研究-法創造科学に向けて

2.研究期間:

平成14年度~平成18年度

3.研究代表者:

吉野 一(明治学院大学大学院法務職研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 法創造とは適切な問題解決のために法を新たに創り出すことである。急激に変化する現代の社会的状況に対応して法的創造能力を備えた法律家の育成が急務である。本研究は、法適用における法創造の原理と方法を科学的に解明し、わが国における新しい法創造教育方法を開発する。それを通じて「法創造の科学」への道を切り開く。本研究は、4つの研究課題により実現される。1.法哲学、法論理学、法社会学、法と経済学、認知科学、法律と人工知能等の基礎法学の学際的共同研究により、法創造の基礎理論の構築を行う。2.実務と教育における法創造の実際を解明する。3.1.および2.に基づいて創造的な法的思考を育成するための新たな法学教育方法―法創造教育方法―を開発する。4.法創造教育を支援するためにITを活用した法創造教育支援システムを開発する。本研究は、従来の法的推論の理論の中ではほとんど研究されてこなかった「法創造」に対して科学的接近を行う。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 本研究は、1.法適用における法創造を、事例問題を適切に解決するために、個々の資料を法ルールに照らして整理し事実文を創設し、それに対する法的決定文を創設し、そしてそれを正当化するための法ルール文を具体化と体系化の方向で創設していく過程として、さらに抽出したこれらの法的知識の妥当性を反証推論によって検証する過程として、その構造を解明する基礎理論を構築した。2.契約実務と大陸法的な制定法解釈教育とコモンロー教育の実地調査に基づき契約実務と契約法教育における法創造的契機を明らかにした。そして1.と2.の成果に基づき、3.創造的な法的思考を育成するための教育の基本的方法を開発した。具体的には、プロブレムメソッドを問題事実の中から知識を抽出するための場として用い、更にソクラティックメソッドやディスカッションメソッドを通じて、知識の洗練化を行うという方法を開発し、法科大学院における授業で実践し評価した。これは、従来の知識をトップダウン的に教授する方法から脱却し、学生自らに現実の問題解決の中から知識を抽出させるという、いわばボトムアップな知識獲得を促すことで創造的な法的思考の育成を図る方法である。この方法を効果的に実現するために、評価基準の策定を試みるとともに、4.ITを活用した法創造教育支援システム(ソクラティックメソッド支援システムと法的論争支援システム)のプロトタイプを開発し、法科大学院における授業のなかで使用した。

5.審査部会における所見

A‐(努力の余地がある)
 研究の進展は着実であると評価できる。法適用過程を新たな理論で構築しようとするよりは教育法としての完成を目指した方が有効だろう。教育メソッドとしては、過去のデータベースを十分に取り込んで多様な紛争類型を準備し、問題解決の思考を訓練する手続きを用意することが望ましい。これらが実現すれば、民法学者が主となって法解釈過程を構築しているだけに、汎用性と信頼性のある法教育メソッドが完成すると期待できる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --