植物の環境適応戦略としてのオルガネラ分化(西村 幹夫)

研究領域名

植物の環境適応戦略としてのオルガネラ分化

研究期間

平成16年度~平成20年度

領域代表者

西村 幹夫(自然科学研究機構・基礎生物学研究所・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 植物は、地面に根を張った場所から動かないという点で、同じ地球上で生きている動物とはまったく異なった生存戦略をとっている。つまり、植物は環境と一体化してその営みを続けていると言ってもよい。そのため植物は動物に比べてより精緻な環境適応戦略を発達させてきている。
 本特定領域研究は、植物の環境適応能がオルガネラ分化に伴う植物細胞の柔軟性の上に成り立っているという事実から、1)オルガネラ分化、2)オルガネラの誘導・分裂、3)オルガネラの新規機能、4)オルガネラと植物高次機能、5)オルガネラ間の相互作用に関する研究を推進することで、植物の環境適応戦略を包括的に理解することを目的とした。
 こうした基礎研究から得られた知識は、今後分子育種などに応用されることで植物(作物)の環境適応力の増進をはじめ、生産性向上、有用物質生産能や環境汚染物質除去能の付加など人類による植物の利用高度化に資する可能性を秘めている。また、植物オルガネラの分化を動的に捉えた研究を行っている国内研究者を結集し、研究プラットフォームやデータの共有化などを通じて有機的なグループ研究体制を確立することで、国際競争力のある世界をリードする研究を推進することが可能になった。

(2)研究成果の概要

 本特定領域研究は、オルガネラの柔軟かつ動的な分化動態を理解することにより植物の環境適応戦略とその特性の解明を目指した。推進した研究成果から、ペルオキシソーム形成機構や病虫害によるERボディの誘導機構、オイルボディと種子の耐凍性の関係、誘導機構や葉緑体やペルオキシソームの分裂機構など数多くのオルガネラ分化の機構が分子レベルで理解できるようになった。オルガネラ動態の基盤となる因子として葉緑体RNA編集に関与するCRR21、ペプチドグリカン合成系遺伝子、新たなATP輸送体、リンゴ酸輸送体など数多くの新規機能分子が同定されたことも特筆される。また、オルガネラ動態が個体レベルでの高次機能発現に関与する知見として、植物免疫における液胞の役割、日周期におけるミトコンドリアの役割などが分子レベルで明らかにされ、オルガネラ→細胞→個体へとつなぐ道筋が明確に理解されるようになった。また、こうした研究成果により、植物の環境適応における動的な生命像が明らかとなってきている。
 研究推進の過程で得られたさまざまな情報を集めたデータベースをインターネットを通して一般に公開している。その中でも、特に植物オルガネラの動画を含む画像データ集は他に類を見ないデータベースとして世界中の研究者から頻繁にアクセスされている。

審査部会における所見

A+ (研究領域の設定目的に照らして、期待以上の成果があった)

 植物は、大地に根を張り動かないという生活史を選択する過程で、動物とは異なる環境適応戦略を獲得してきた。植物細胞は、動物細胞と共通して存在する核やミトコンドリアといったオルガネラ以外に、植物に固有なオルガネラを保有しており、このようなオルガネラが環境応答によって機能的に分化することは、植物の生命活動にとっても極めて重要である。本研究領域は、液胞、葉緑体、小胞体等のオルガネラが環境に応答した分化と植物体全体の環境適応との関係を解明しようとするものである。研究領域発足後よりめざましい研究業績をあげており、解析手法ごとに拠点を形成し、研究課題間の有機的な共同研究を推進した点はユニークで評価に値する。また、各研究課題の研究成果を中心に植物オルガネラの画像を収集したホームページを構築し公開するなど、国際的にも当該研究分野の発展に大きな貢献をした点は高く評価する。本研究領域によって、環境変化に応答したオルガネラの分化についての理解は十分進んだが、環境変化の検知機構など未解明の部分も残されている。今後、それらの解明に向けた更なる研究の発展を期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成22年01月 --