細胞核ダイナミクス(米田 悦啓)

研究領域名

細胞核ダイナミクス

研究期間

平成16年度~平成20年度

領域代表者

米田 悦啓(大阪大学・大学院生命機能研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 細胞核を持たない原核生物が単細胞生物としてしか存在しないのに対して、細胞核を持つ真核生物は、単細胞から高次の生命機能を持つ高等多細胞生物まで、多様な生物として存在している。それは、細胞核が、長大なゲノムを安定に収納・保持・伝達する仕組みと、同じゲノム情報から機能の異なる細胞を作り出す仕組みを兼ね備えているからである。真核生物のゲノム機能は、細胞核の高次構造(アーキテクチャー)によって支えられている。細胞増殖、生殖、発生・分化、老化など、真核生物の多彩な高次生命活動の理解のためには、ゲノムが納められている細胞核の階層構造とその動態原理を知ることが必要不可欠である。
 このような観点から、本特定領域研究は、「細胞核」を研究対象とし、細胞核の機能的アーキテクチャーを構造構築のダイナミクスの視点から統合的に理解することを目的とした。特に「分子細胞生物学的・生化学的・分子遺伝学的手法」と最新の「イメージング技術」を組み合わせることによって、これまでに類のない「ダイナミック細胞生物学」と呼ぶべき新しい研究領域の創生を目指した。細胞核の構築と機能に関する研究は、細胞の増殖・分化・死、個体の発生・再生や環境応答研究にまで影響を及ぼす学際的領域となることが期待され、当研究領域の成果は、核膜病を始めとする様々な遺伝病の原因解明や、細胞核リプログラミング機構の理解、人工染色体の開発などに道を拓く重要な研究成果も期待できる。したがって、細胞核ダイナミクスの研究は、生命科学の基盤となる極めて重要な領域を開拓することになり意義深い。

(2)研究成果の概要

 細胞核は、真核生物のあらゆる生命現象と深く関わることから、各研究者が対象とする研究テーマは、染色体動態、ゲノム複製、修復、転写、細胞周期、細胞分裂、核輸送、細胞分化など多岐にわたり、また、研究対象とする核内構造体も多様であるが、それぞれの生命現象を細胞核の高次構造構築とその動態という視点から捉え、解析を進めた結果、幅広く高いレベルの研究成果が得られた。その成果は、研究期間中に503編の英文原著論文として発表された。具体的な成果として、RNAi関連因子の1つDicerのヘテロクロマチン形成への関与の証明、importin 単独の核輸送経路の発見、テロメァ構造変換過程の分子機構の解明、減数分裂期特異的テロメァ末端動態制御に関わる因子bqt1、 bqt2の発見、X染色体不活化機構の解明、核輸送因子の発現スイッチングと神経細胞分化の関連の発見、核のリプログラミング解析方法の開発、人工染色体セントロメアの機能解析、ヒト染色体の3次元電子密度マップの作成などがあげられる。また、コヒーレントX線を用いた新しいX線顕微鏡の開発、初期胚発生過程の分子イメージング技術の開発、胚発生におけるDNAメチル化状態のイメージング、細胞分裂期における核動態のシミュレーションなど、本研究領域内外での異分野共同研究が積極的に推進され、生命科学と工学を融合した「細胞核工学」と呼ぶべき新しい学問体系が構築された。さらに、本特定領域研究の構成員が得た膨大な遺伝子、タンパク質の情報、イメージング情報などをデータベース化し、研究領域内外の研究者への情報発信に努めた。

審査部会における所見

A+ (研究領域の設定目的に照らして、期待以上の成果があった)

 本研究領域の目的は、分子細胞生物学、生化学、分子遺伝学の手法に最新のイメージング技術を組み合わせることにより細胞核のダイナミクスを解析し、それらの動態をもって核の階層構造の構築と核を機能場とした種々の核内反応の原理を理解しようとするところにある。細胞核が関わる生命現象は非常に多様であることから、研究対象は多岐にわたるが、それぞれの研究課題で優れた研究成果をあげて、細胞核ダイナミクスという新しい学術分野を打ち立て、国際的にもリーダーシップを発揮したことを高く評価する。さらに、細胞核のダイナミクスを解析するための新しいイメージング技術の開発にも力を注いで独自の手法を発展させ、また、核タンパク質に関するデータベースの作成も行うなど、研究成果の有効利用を図った。これらの技術・情報は、他の研究分野への波及効果も十分に期待できる。研究領域内の研究課題の連携も有効に行われ、若手研究者の育成という点においても十分な成果が得られた。細胞核動態の統合的な理解に向けてこの分野と関連分野の研究が更に発展することを期待する。また、データベースについては、早期に一般への公開を行うことが望まれる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成22年01月 --