巨大ひずみが開拓する高密度格子欠陥新材料(堀田 善治)

研究領域名

巨大ひずみが開拓する高密度格子欠陥新材料

研究期間

平成18年度~平成20年度

領域代表者

堀田 善治(九州大学・大学院工学研究院・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 金属は変形加工することでひずみが生じ、原子配列の乱れた格子欠陥が生じる。金属特性はこのような格子欠陥によって左右される。ひずみ量が巨大であれば、導入される格子欠陥も大量になり、これまでバルク材では達成できなかったサブミクロンからナノスケールの超微細粒組織が形成され、従来難しいとされてきた強度と延性が同時向上するなど特異現象が生じることがある。巨大ひずみの付与は、新たな形状不変加工プロセスを用いることで実現可能となっている。本特定領域研究では、まず、巨大ひずみの導入量を厳密に制御して高密度格子欠陥を有する信頼性の高い微細組織材料を作製する。結晶性物質内の格子欠陥は点状(0次元)、線状(1次元)、面状(2次元)の異なる次元を有するものからなっていることから、巨大ひずみで導入される高密度格子欠陥の分類と定量化を図り、高強度・高延性のメカニクス特異現象に対する各次元の格子欠陥の役割を明らかにする。研究は実験計測と計算科学の両面から進め、シミュレーションによる現象の把握と理論的検証を行う。実験計測では、高エネルギー放射光、 強力中性子線、 高分解能電子顕微鏡技術を使い、計算科学ではマクロからミクロ、メゾ、ナノ、原子・電子レベルまで網羅したマルチスケールで計算を行う。
 高密度格子欠陥状態の中で生じる特異な構造や現象は、これまで取り扱われてこなかった未踏領域である。本研究領域では敢えてこの分野に挑戦することで、高密度格子欠陥に基づいた新たな材料科学の構築を図り、新規物質の創製に繋げ、高度な科学技術社会の実現に寄与する。

(2)研究成果の概要

 巨大ひずみをいろいろな条件 (ひずみ量、 ひずみ勾配、 圧力等)のもとで加え、高密度格子欠陥組織形成に及ぼす影響を調べるとともに、他研究項目へ試料を供与した。巨大ひずみ加工因子と解析評価結果をもとに、超微細組織の形成メカニズムを解明した。結晶粒の超微細化は転位の集積とこれによる結晶粒界の形成によって理解できた。微細組織の形成は金属種により異なり、付与ひずみとともに付与圧力、加工温度に依存して決まることを明らかにした。
 巨大ひずみ加工した超微細粒金属材料の塑性変形、疲労、破壊などの力学特性を実験的、理論的に研究し、そのメカニクスを解明した。結晶粒の微細化に伴う強度の上昇と高いひずみ速度依存性の発現は、結晶粒界からの転位の発生とその熱活性化運動過程によって合理的に説明できた。さらに、疲労軟化挙動や脆性—延性遷移温度の低下についても、結晶粒微細化効果を通じて合理的に説明することができた。組織微細化によって材料の巨視的力学特性が大きく変化する現象は、転位と結晶粒界との相互作用に起因する様々な効果を取り入れた「ひずみ勾配結晶塑性理論」を構築することで説明できた。
 巨大ひずみ加工によって導入される高密度格子欠陥構造・組織を原子レベルで可視化することにより、特異な粒界構造を発見した。また、局所および平均転位密度を測定することにより高いひずみエネルギーが巨大ひずみ加工材で蓄積されることを確認した。実際に、金属アモルファスや過飽和固溶体の形成を確認し、ナノ複合材、高強度合金の作製にも成功した。また、第一原理計算により、粒界エネルギーと粒界過剰体積に相関があること、金属種に応じて粒界の結合性が異なり、粒界での原子配列やエネルギーに違いが生じるとともに、不純物が力学特性や微細化過程に大きな影響を及ぼすことを明らかにした。

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 本研究領域は、巨大ひずみの付与による微細組織形成メカニズムの解明と新材料の開発という設定目的に対し、比較的短い研究期間であるにも関わらず、十分な研究成果をあげている。新材料という視点からはやや不足が感じられるものの、実験と理論及び計算機シミュレーションの連携によって基礎的な理解が進み、研究業績も十分にあげられている。また、研究成果の公表、普及にも努めており、海外評価者からも高い評価が得られている。これらのことから、当初の研究目的が十分に達成されたと評価する。金属学及び関連学問分野や産業分野への貢献度についても大きく、応用開発への広がりが期待できることから、今後は、新材料の更なる開発につなげられることを期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成22年01月 --