新世代光通信へのイノベーション-革新的な光デバイスを基点として-(小林 功郎)

研究領域名

新世代光通信へのイノベーション-革新的な光デバイスを基点として-

研究期間

平成17年度~平成20年度

領域代表者

小林 功郎(東京工業大学・精密工学研究所・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 本研究領域では、新世代の情報インフラを担う光通信として、大容量で、柔軟かつ安全性の高い光通信ネットワークの実現を目指し、革新的な光機能デバイスの創出を基点として、新世代光通信を切り拓く学術基盤を確立することを目的としている。光通信の既存技術の延長から脱却し、新世代の光通信システムへの課題へ総合的に挑戦する研究領域を設定した。
 A01(機能イノベーション)では、従来追求されてきた時間軸・空間軸・波長軸をさらに進めるとともに、光の位相、偏光、速度、量子状態の制御による新たな機能の開拓と活用を目指した。A02(構造イノベーション)では、たとえば各チャンネル160Gb/s以上の超高速光伝送/制御の高度化へ向け、光・光スイッチングや、中空光導波路及びMEMS技術との融合・集積による広帯域スペクトル制御の実現を目指した。A03(統合イノベーション)では、これまでの電気信号処理の速度・消費電力などの限界打破を狙い、超並列光信号処理や光パケットルーティング用の光機能デバイスの創成を目指した。
 本特定領域研究において取り組んできた新たな光機能デバイスの革新をもたらす学術基盤が構築されれば、超高速・全光パケット処理のIPネットワーク化の可能性提示など、光通信の更なる発展の基礎を築くことが期待される。これが新たな国際的競争力の源を生み出し、欧米と競争・協調して新世代のグローバルな情報社会構築への貢献が期待できる。

(2)研究成果の概要

 本特定領域研究の目的は、光が持つ多様な未活用パラメータの制御により革新的な光デバイスを開拓し、新世代光ネットワークの実現に繋げることである。光の位相、偏光、速度、量子状態の制御を推進する光高次機能軸、超高速、大容量、高効率光伝送を追求する光伝送制御軸、ネットワークノードの信号処理機能を向上させる光信号処理軸の3軸の覆う空間を拡大し、将来の大容量かつ柔軟性の高い新世代光ネットワークの実現に大きく貢献した。特筆すべき研究成果の例として、偏波エンタングル状態生成、単一光子検出器性能向上、フォトニック結晶分散補償スローライト発生と光バッファ応用、マイクロリング波長選択スイッチ回路、微小鏡スイッチ低電圧化、中空光導波路デバイスの巨大可変特性実現、光パケットルーティング用の光機能デバイス・システムの開拓、時空変換光シンセサイザ装置化などがある。特に、光複素振幅の持つ自由度を駆使した新しい光通信方式の実現のために、デジタルコヒーレント光受信器という新概念を提示し、現在の長距離WDM伝送の潮流(コヒーレント変復調とデジタル信号処理の組合せが中心)を創出し、大きなインパクトを与えた。また、本特定領域研究は、革新的光デバイスを基点とし材料研究からシステム実現を意識した研究まで広く包含しているが、本特定領域研究の推進により、26研究チーム間の相互理解・疎通が深まり研究交流も活発化し、相乗効果も得られた。

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 本研究領域は、次世代の光通信技術の基盤となる材料・デバイス・システムにわたる幅広い範囲にわたり革新的な成果をあげており、新世代光通信の学術基盤を確立するという研究領域の設定目的を達成したと判断する。研究成果は、質・量ともに十分であり、効果的な取りまとめと、公開シンポジウム等による公表・普及への取り組みがなされている。また、研究期間後半においてミニ研究会等の取り組みによる研究課題間の有機的な連携がなされた点が評価できる。重要な技術開発分野に属する当該研究領域において、我が国の技術基盤を築き、国際競争力の維持に成功している。今後の本研究領域における更なる研究の進展を期待したい。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成22年01月 --