高温ナノイオニクスを基盤とするヘテロ界面制御フロンティア(山口 周)

研究領域名

高温ナノイオニクスを基盤とするヘテロ界面制御フロンティア

研究期間

平成16年度~平成20年度

領域代表者

山口 周(東京大学・大学院工学系研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 イオンと電子が同時に移動する混合伝導体やイオン伝導体が金属や気相などの異質な物質とヘテロ接触すると、それぞれの物質の仕事関数の相違や化学結合の形成によって電荷移動が起こり、その界面近傍に空間電荷層や表面電荷が生じる。その結果、界面近傍における欠陥濃度や電子欠陥(電子またはホール)濃度が変調を受け、動的化学機能特性の変化が生じる。これが広義の「ナノイオニクス」現象である。本特定領域研究は、ナノ構造制御したヘテロ界面を積極的に利用する新しい界面化学機能の開拓を目的とし、ナノイオニクス現象の基礎特性解明、これを利用した新たな界面化学機能の開拓とその設計指針の確立を目指すとともに、飛躍的な性能や革新的な機能を有するナノ機能設計した新規なナノイオニクス素子デバイスへの応用を目指す。一般には「ナノイオニクス効果」は界面による特性劣化を引き起こす例が多いが、その機構について空間電荷層モデルや界面張力説などの様々なヘテロ界面モデルにより検証してその原因を探るとともに、ナノイオニクス現象を支配する基礎要因を明らかにして、バルク特性を凌ぐイオンと電子が織りなす新しい界面化学機能を開拓する。本特定領域研究は、界面の高速イオン移動現象や固体酸化物表面の高反応活性と高選択性の起源を理解する新しいアプローチと位置付けることができる。

(2)研究成果の概要

 本特定領域研究において、ヘテロ界面における特性向上と劣化の「正」と「負」のナノイオニクス効果に関する数多くの発見があり、そのメカニズムの検討が新しい実験手法により行われた。これまで空間電荷モデルに基づく解釈が主流であったが、高温ナノイオニクスではこれに加えて局所的な「界面張力」による応力効果の影響がナノイオニクス効果に大きく関与していることが明らかになった。一方、低温のLi正極酸化物界面などではイオン欠陥の欠乏層の形成が正極中に確認され、空間電荷モデルによる機能設計による機能向上が実証された。一方、電子線ホログラフィや電子分光法を利用したナノスペースの電子構造変化の観察やin-situ測定によるナノイオニクス解析のための新測定手法が開発され、固体電解質や混合伝導性固体中のヘテロ接触界面近傍の電気化学的分極の様子が明らかになった。また、PLDやスパッタ法等の物理的方法や化学的方法によってナノ粒子などの特異なヘテロ界面を多く有する材料が開発され、その界面特性の解析と新機能開拓が進められた。第一原理計算などの計算科学手法による描像をもとに、材料合成・開発と電気化学特性評価、新解析法等の様々なリソースを有する研究者が協力し、新現象、新素材、新解析法に関する革新が展開し、ナノイニクス現象に関する数多くの新現象の発見と新しい概念に関する発展があった。

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 本研究領域は、ヘテロ界面付近のナノイオニクス現象に着目して、界面の化学機能の開拓と制御を目標として始められたが、中間評価以降、ナノイオニクス現象の解明と学理的基礎の確立に重点的に取り組んでからの進捗には、十分評価すべきものがあり、応用面での展開がやや不透明ではあるが、ほぼ目的を達成している。成果の取りまとめが効率的に行われ、十分な業績をあげている点や、若手研究者の育成に積極的に取り組んだ点に関しても評価できる。また、問題の難しさを学術的に明らかにしながら、関連分野に波及するような成果をあげることができていることから、界面のイオン伝導の研究の進展に一定の貢献をしたと評価する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成22年01月 --