ブレイクスルーを生み出す次世代アクチュエータ研究(樋口 俊郎)

研究領域名

ブレイクスルーを生み出す次世代アクチュエータ研究

研究期間

平成16年度~平成20年度

領域代表者

樋口 俊郎(東京大学・大学院工学系研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 「ものを動かし、操る」アクチュエータ技術は、現代のあらゆる科学・産業の基盤となる技術である。例えば、高度な自律型ロボットを実現するためには生物の筋肉に匹敵する優れたアクチュエータが必要となっている。情報機器、生命科学、材料科学といった科学技術分野においては、ナノ・マイクロアクチュエータ技術の必要性は高度化かつ多様化している。高効率のアクチュエータの実現は地球上のエネルギー消費量を大きく低減すると期待される。
 このように、優れた次世代アクチュエータを実現することは、基礎科学、産業、医療福祉など幅広い分野から望まれており、優れた次世代アクチュエータの誕生は、経済産業の発展をはじめ地球環境保護や生活文化水準向上に大きく寄与する。
 本研究領域はこのような背景を踏まえて設定されたもので、これまで個々に研究を進めてきたアクチュエータ関連分野の研究者が集結し、機動的かつ効率的に研究を推進することで、当該研究領域の研究を格段に発展させることを目指した。特に、その研究成果が多岐の分野において多くのブレイクスルー技術をもたらす可能性を踏まえ、学術的な価値を追及すると同時に、将来の研究成果の実用化を念頭におきながら研究を推進した。
 具体的には、A01 超精密ナノアクチュエータ、A02マイクロアクチュエータ、A03スマートアクチュエータ、A04パワーアクチュエータ、A05特殊環境アクチュエータの5つの研究項目を設け、研究を進めた。

(2)研究成果の概要

 5年間の研究を通して数々の新アクチュエータが生まれ、従来不可能であった「ものを動かし、操る」技術が誕生した。これらは、学術雑誌論文462件、学会発表1098件、産業財産権出願36件、国内外の専門学会からの多数の受賞、といったデータに表れている。研究成果のいくつかは、既に、産業/社会ならびに他の学術分野において大きく展開しつつある。主な例を以下に示す。
 産業/社会への展開:<1>入力外乱にロバストなオブザーバを組込んだロボット制御法がN社により実用化。<2>弾性表面波アクチュエータがP社にて実用化研究に展開。<3>インテリジェントシリンダがK社より商品化。<4>能動スコープカメラが海外の災害現場で活用実績、ならびにO社より製品化。
 他の学術分野への展開:<5>新規生体用超弾性合金が医用・歯用に向けた実用化展開。<6>MEMSアクチュエータ研究がベースとなり新しいMEMSセンサの開発が進展。<7>静電モータやマイクロ超音波モータによるMRIやNMRなどの強磁場環境下のアクチュエーション技術が、バイオメカニクス、分子構造解析などの分野における新たな実験ツールを実現。
 一方、本研究領域により、従来個別に活動していた関連研究者の交流や連携が進み、教科書、便覧、などの執筆を精力的に行い、アクチュエータ技術の体系化を進めた。このように、本研究活動は、ブレイクスルーを生むに十分な研究成果をあげただけではなく、従来の個別のアクチュエータ研究領域を総合化し、新しい工学領域を体系化する基盤を構築することができた。

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 本研究領域は、さまざまな次世代アクチュエータ技術に関して、研究領域の設定目的に照らして十分な成果を得ており、目的を達成している。各研究課題の成果のみならず、研究課題間の連携が有効に機能しており、材料分野の研究者とメカトロニクス分野の研究者の交流による新しいアクチュエータの可能性を示すなどの具体的な研究成果をあげた。アクチュエータを実際に試作・動作させてのデモンストレーションを重視した研究成果の活発な公表・普及及び、実用化・産業応用への取り組みもなされている。また若手研究者の育成について顕著な努力がみられ、成果をあげている。当該研究領域の研究者らを主体とする、教科書・便覧等の執筆が精力的になされている点も評価できる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成22年01月 --