生体分子群デジタル精密計測に基づいた細胞機能解析:ライフサーベイヤをめざして(神原 秀記)

研究領域名

生体分子群デジタル精密計測に基づいた細胞機能解析:ライフサーベイヤをめざして

研究期間

平成17年度~平成20年度

領域代表者

神原 秀記(東京農工大学・講師)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 ヒトゲノム配列解析の完了に伴い、分子レベルでの生命の理解や細胞を基本とした生命活動の解析、そして細胞間情報伝達機構の解明など、それぞれの階層における理解が進みつつある。これら分子科学データは医療を始めとするマクロな生体データとも統合され、生きた生命を理解して活用する方向で発展すると考えられる。しかし、基本となる分子データは多くの細胞の時間的・空間的な平均値であり、生命活動に関する基本的で重要な情報が覆い隠されている可能性があった。そこで、本研究では多くの細胞の平均値ではなく、“1細胞”に含まれる生体分子群の精密定量計測に基づき生体組織を理解し、生命活動を統合的に、かつ動的に解析できるライフサーベイヤとも言うべきシステムの構築に向けて、必要な基盤技術及び新たなツールの開発を目指した。
 本研究成果は要素技術及びツールの開発で、まだライフサーベイヤ構築の第一歩であるが、将来、細胞機能の解明にとどまらず、疾患のリアルタイム診断と治療などに代表される医療や生態環境分析、環境修復などの工学、食の安全性掌握や農学などの幅広い分野で社会に貢献すると期待される。上記システムは生命現象を精密計測データでシミュレーションすることを可能とし、システムバイオロジーに必須の情報を提供することができるため、新しい生命統合制御解析分野の発展や生命関連産業分野の発展にも非常に重要な先端的研究領域である。

(2)研究成果の概要

 物理、化学、生物など幅広い分野の研究者からなる4つの研究班を編成し、1細胞中の生体分子を一網打尽に定量分析する基盤技術の開発を推進した。研究項目A01「生体シグナル解析用分子材料群の創製」では、細胞内の神経情報伝達分子あるいはがんなどを非破壊的にイメージングする種々の化学プローブやタンパク質プローブを開発した。研究項目A02「細胞内生体分子群の動態シグナルの解析」では、細胞内のタンパク質、代謝産物等の機能解析と動態の網羅的定量分析法及びデータマイニングシステムを開発した。研究項目A03「細胞間ネットワークシグナルの解析」では、免疫細胞応答や神経細胞ネットワークを1細胞単位で網羅的かつ定量的に評価できる細胞アレイやデバイスを開発した。研究項目A04「ライフサーベイヤをめざしたデジタル精密計測技術の開発」では、組織や血液を構成する細胞群から標的細胞を1つ選出し、そこに含まれている全てのmRNAを抽出し、精密に定量分析するための要素技術を開発した。さらに、総括班では、成果発表、情報交換、研究者間の交流を目的として国内外におけるシンポジウムを開催し、HPや各種出版物の発刊による研究成果発信を積極的に行った。これら活動を通じて、1細胞解析の重要性を強くアピールし、新たな分野の創生に寄与するとともに領域内の共同研究の促進・活性化、国内外の関連研究グループ及び企業をも含めた国際的研究グループの構築に成功した。さらに、本領域の最前線で研究を担う若手の研究者の研究のレベルアップ、ネットワーク形成及び活性化を達成した。

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 本研究領域は、1細胞に含まれる分子を詳細に定量分析するとともに、細胞間の情報交換をも含めた統合的な生命理解システムの構築を目指しているが、その目的に向けて設定された多様な研究課題は十分に達成され、本研究領域の意義を大いに高めた。単一細胞計測という野心的な試みに対して、領域代表者が研究領域を適切に組織化し、研究領域全体として十分な研究業績をあげていることや、国内外へ積極的に研究成果等の情報を発信する等の運営がなされたことについても高く評価する。また、本研究領域は、生化学、生物、化学、生物物理学など諸分野への波及効果が大きく、世界を先導する境界領域分野を開拓したことも高く評価する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成22年01月 --