炭素資源の高度分子変換(丸岡 啓二)

研究領域名

炭素資源の高度分子変換

研究期間

平成17年度~平成20年度

領域代表者

丸岡 啓二(京都大学・大学院理学研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 有機合成化学の産業基盤化を主目的とする「プロセス有機合成化学」は新しい学問領域である。この学問領域が学界で最初に取り上げられたのは、未来開拓学術研究推進事業「高度プロセス」であろう。これにより、プロセス化学における学術面の重要性が認知され、それぞれ「野依フォーラム」や「日本プロセス化学会」の誕生へと結びついていった。しかしながら、現状では産学ともに「プロセス有機合成化学」のニーズに応えうる高度分子変換に基づく有機合成反応を産み出せる体制になっていない。天然資源の乏しい我が国が、科学技術創造立国として「もの作り」の面において、世界の製薬、化学工業界を牽引し国際優位性を保つには、一連の有機合成プロセスの開発に必要な基本的合成反応群の開拓が急務であり、その成否は今後の産業界の命運を左右するといっても過言ではないであろう。そこでは従来型有機合成反応の単なる改良ではとても対応できず、今ここで抜本的な知的対策、すなわち、炭素資源を有効に活用し、従来、あまり考慮に入れてこなかった「合成力量」、「安全・環境調和」「原子効率」「連続化」等のキーワードを基に、プロセス有機合成化学を指向した有機合成反応群を創出するための基礎研究を、グループ研究として短期間で強力に推進させる必要がある。この時機を逸すれば欧米の研究に先を越され、これまでの優位を保てないばかりか、後塵を拝することになり、我が国の知的財産の損失にもつながりかねない。本特定領域研究の目的は、有機合成プロセス開発に必要、かつ数十年後に残りうる真に有用な有機合成反応を新規開拓し、そこから得られた基礎研究成果を「プロセス有機合成化学」に供給する学術支援体制を早急に確立することである。

(2)研究成果の概要

 本特定領域研究では、計画・公募班員が各研究項目に対応して研究を行い、当初の研究通り順調に進捗した。すなわち、研究項目A01では、実用性はもとよりグリーンケミストリーやアトムエコノミー(原子効率)の条件を満たし、アニオン種、カチオン種(あるいはルイス酸)あるいはラジカル種を用いる官能基炭素分子化合物を出発として、「プロセス有機合成化学」に耐えうる真に有用な高度分子変換反応の開拓を行った。A02では、いわば「炭素資源の切れ端」とも呼べる小炭素分子(一酸化炭素、二酸化炭素、青酸、ホルムアルデヒド等)を積極的に利用する種々の炭素‐炭素結合形成反応の開発を行い、ファインケミカルの分野にも応用可能な高度分子変換反応を開拓した。A03では、不活性な炭素‐水素結合と炭素‐炭素結合の活性化法に新規な方法論を確立した。すなわち、飽和炭素分子の炭素‐水素結合の温和な条件での均一切断を含む酸素官能基化、シクロヘキサンからの酸素によるアジピン酸合成、シクロアルカンからの硫安フリーのラクタム合成、不活性な芳香族炭化水素の炭素‐水素結合の活性化による革新的な炭素‐炭素結合形成反応に基づく精密有機化学品の合成法を開拓した。A04では、π電子系炭素化合物の効率的かつ選択的な分子変換の開拓に取り組み、プロセス有機合成化学を指向した実用的な反応開拓に焦点を絞った。主なものとして炭素‐炭素三重結合の効率的構築法の開拓と電子材料への応用、炭素‐炭素二重結合の不斉変換、ラジカル重合反応制御、アルケンの環境調和型酸化反応について研究した。本特定領域研究の研究期間中に数多くの有用な有機合成反応を開発することができた。すなわち、平成17~20年度の期間中に計画・公募研究あわせて1,935報の論文および210報の特許を発表することができた。

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 本研究領域は、応用を目指した基礎研究という新しい切り口から「プロセス有機合成化学」の発展を目指したものである。領域代表者の下に、多くの有機化学者が集結して研究が進められ、数多くの優れた研究業績をあげている。その中には、産学連携の推進によって産業プロセスに展開されているものもあり、関連分野への貢献と波及効果も十分であると評価する。また、10回の国際会議の開催など、研究成果の公開に努めている点、若手研究者の育成に配慮した運営がなされた点も高く評価する。以上のことから本研究領域は、「プロセス有機合成化学」の発展に多大な貢献を果たし、十分な成果をあげたと判断する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成22年01月 --