次世代量子シミュレータ・量子デザイン手法の開発(赤井 久純)

研究領域名

次世代量子シミュレータ・量子デザイン手法の開発

研究期間

平成17年度~平成20年度

領域代表者

赤井 久純(大阪大学・大学院理学研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 物性予測のための現実的な方法として広く用いられている局所密度近似(LDA)に基づく第一原理電子状態計算は量子シミュレータとして多くの実績をあげてきた。しかし、この手法は計算機マテリアルデザインにおける物性予測手段として必ずしも十分ではなく、特に、強相関系、大規模系、励起状態や反応過程の記述において、様々な問題を生じる事が知られている。本研究領域の目的は、第一原理電子状態計算が抱えるこれらの問題点を可能な限り解決することによって、凝縮系における標準理論としての量子シミュレーションを飛躍的に発展させ、そのようにして得られた「次世代量子シミュレータ」を計算機マテリアルデザインにおけるシミュレーション過程に採用した信頼性のある量子デザインを基盤技術として育てることである。また、これらを用いた計算機マテリアルデザインを実施・実証するとともに、開発された次世代量子デザイン手法を公開・普及することも重要な目的である。その意義は、次世代量子シミュレータに象徴される「第一原理計算に基礎をおく理論」が、今後、凝縮系に対する標準的で強力なアプローチを提供すること、及び、次世代量子デザイン手法が新しい物質科学のパラダイムを切り拓くとともに、それが新しい産業「計算機マテリアルデザイン」創成にもつながる可能性が高いことである。

(2)研究成果の概要

 現在、国内外で盛んに試みられている低エネルギー有効模型の多くにおいて本特定領域の研究が推進力となっている。ここで提案・開発されたアプローチはナイーブな「第一原理計算と模型計算の合体」とは一線を画する物理的内容と論理性を備えたものである。また、量子モンテカルロ法の第一原理計算への適用も、高精度標準として大きな成果を出せた。実用的な高精度、大規模量子シミュレータの開発については、研究期間中に開発が進んだ。例えば全電子・フルポテンシャル・オーダーNコードが開発されたが、これは世界的にみてもほとんど例のない実用的な全電子・フルポテンシャル・オーダーNコードである。また、密度行列オーダーNコード、ハイブリッド・コード等が開発され、それぞれ、得意とする対象に適用され成果をあげた。量子シミュレーション、デザイン応用研究はデバイス・デザインへむけた理論研究の進展に弾みをつけた。対象は物質科学、材料科学からナノ・バイオ、半導体デバイス、分子エレクトロニクス、表面・界面物性、触媒反応等に及ぶ。例えば、溶媒を含むRNA・タンパク質複合体酵素反応のまるごとシミュレーションや、半導体中のナノコラムラー磁性体の機能解析、実空間密度汎関数法を用いたバイオ物質の機能デザイン、磁性制御量子反応デザインや高圧物質合成法のデザイン等があげられる。

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 本研究領域では、計算機による革新的な材料設計・開発手法の確立を目指しており、当該研究分野における主要な研究者が参画する強力な組織により活発な研究が展開された。半導体における電子構造や金属との界面電子状態を、従来に比べ格段に高い精度で予測できる手法の開発や、半導体中でのナノコラムラー磁性体の結晶成長とその機能解析、GMR素子全体の機能予測等、質量ともに十分な研究成果をあげた。一方で、各研究課題間の連携、特に、実験研究における共同研究を行い、現実の物質・材料を通して手法の検証を進めるという点では詰め切れていない感がある。研究領域設定時に掲げた「従来型の材料開発を計算機マテリアルデザインで置き換える」という大きな目標には息の長い取り組みが必要であり、今後の展開に期待したい。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成22年01月 --