異常量子物質の創製-新しい物理を生む新物質-(秋光 純)

研究領域名

異常量子物質の創製-新しい物理を生む新物質-

研究期間

平成16年度~平成20年度

領域代表者

秋光 純(青山学院大学・理工学部・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 最近の固体物理学は「新物質の発見時代」といっても過言ではない。これらの新物質の出現により、今までの概念を覆す興味ある現象が多く見つかっている。そこでは、本来低温極限でしか発現しなかった量子効果が室温近くの高温においても発現するという、新しい物理が見られる。これらの系を総称して我々は「異常量子物質」と命名した。特に強調したいことは、これらの新奇な物質や興味深い現象の多くが日本から発信されていることである。この“新しい波”を持続させるために本特定領域研究を設定した。本特定領域研究では、新物質合成、新現象探索において多大な成果をあげてきた物性実験、物性理論、物理化学の一級の研究者を結集し、個々の研究では到達できなかった新しい物理学の創製を目指す。
 我々は、このような異常量子物質の持つ種々の側面のうち、(1) 超伝導 (2) 磁気伝導現象 (3) 光物性の3分野を取りあげ、研究項目を構築した。その上で、当研究領域内の3つの研究項目の相互連携を促進させ、時には同一の物質群を異なる側面から研究することにより、新物質合成・新現象探索における日本の先導的活動状況を維持発展させていくと同時に、固体物理学・物質科学における共同研究形態のモデルを確立させる。また、アジアにおける凝縮系科学の発展のために、本特定領域研究は定期的に国際会議を開催し、国際的な連携の保持にあたる。

(2)研究成果の概要

 この5年間で多数の物質が様々な物性測定手段で調べられ、多くの発見があった。ごく一部の例を以下に紹介する。 ●銅酸化物におけるTc向上への指針、TiNCl-アルカリ金属新規超伝導体の発見、バナジウム化合物における超伝導・電荷秩序相図、Co酸化物超伝導体の相図、パイロクロア型超伝導体のラットリングと超伝導の関係、ドープしたダイヤモンドやSiCの超伝導の解明、第一原理計算や物質設計による超伝導への理論的指針。 ●酸化物超格子薄膜界面における高移動度伝導層の形成と量子ホール効果・新規非線形伝導の観測、幾何学フラストレーションを持つバナジウム酸化物の7量体スピン構造、電場によって巨大な非線形伝導を示す有機サイリスタ、などの発見。 ●絶縁体と金属の間の双方向かつ永続的な光誘起相転移の発見および結晶構造解析と電子状態の測定を通じた全容の解明。格子歪が解消する以前に電荷整列絶縁体が金属化する超高速現象の発見。
 とりわけ、磁気・電気・熱の交差相関効果としてのマルチフェロイックスやスピン流制御などを、物性物理の最も注目される研究分野に完成させ、次世代工学への応用を視野に入れることを可能とした。
 これらの研究を通じて、本特定領域研究の特徴である、(1)物質合成を柱の一つにした、多彩な、あるいは新奇な物質の探索および物性測定、(2)理論家と実験家、物質合成グループと大型施設測定グループの連携、(3)超伝導、磁気伝導、光物性の各班の分野横断的交流を促進、などが達せられた。

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 本研究領域は、高温における量子コヒーレンス、外場に対する巨大応答など、異常量子物質と総称される新物質群を対象として、新物質合成、新現象探索において成果をあげてきた物性実験、物性理論、物理化学の研究者を結集し、個々の研究では到達できなかった新しい物理学の創生を目指すものである。国内における優れた研究者を集め、設定目的に対して数多くの新物質、新現象を発見したことは、この研究領域の発展に大きく貢献した。研究成果の積極的な公表、普及がなされ、また、若手の会のスタートなどの人材育成、Asia Pacificのworkshopをはじめ、研究領域横断研究会の開催など高く評価できる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成22年01月 --