法化社会における紛争処理と民事司法(村山 眞維)

研究領域名

法化社会における紛争処理と民事司法

研究期間

平成15年度~平成20年度

領域代表者

村山 眞維(明治大学・法学部・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 本特定領域研究は、現代日本社会における国民の間の問題・紛争経験の広がり、助言探索行動、訴訟遂行行動を主な対象とし、さらに法意識や相談機関・弁護士・裁判官への評価、判決と和解についての訴訟当事者の見方等をも含め、民事の問題処理の全過程について信頼できる全国的な量的データを収集するものである。こうした研究を行う主な目的は次の3つである。(1)司法制度改革の議論のなかで、民事司法と紛争処理に関わるサービスの利用者の声が直接聞かれることはほとんどなかった。本研究は、民事の問題経験者から直接データを得ることによって、広い意味での民事司法諸制度の利用者の立場から問題処理過程の全体を見直し、経験的な証拠に基づき制度の改善につながる政策的提言を行う。(2)民事紛争処理に関する大規模調査を実施することによって、我が国における経験的社会科学としての法社会学を飛躍的に発展させる。我が国の法と社会に関する仮説を自前のデータに基づき構築し、研究の成果を積極的に外国に向け発信することによって、我が国の法社会学が国際的な研究の発展に寄与していくことができるようになる。(3)我が国における法と法制度についての研究を、法学だけでなく、社会科学諸分野に開かれたものにする。調査実施の過程において社会諸科学の研究者の参加を求めるとともに、データ分析および成果公表の段階でも他分野の研究者と議論する場を持ち、また研究終了後、データをアーカイブに寄託することによってより多くの社会諸科学の研究者に参加の機会を提供する。これによって法学と社会諸科学との壁が低くなっていくであろう。

(2)研究成果の概要

 (1)我々の全国調査の結果によれば、人々の法制度に対する態度には確かに伝統的な性質が色濃くみられる。しかし、そうした態度は、法律問題の経験およびその後の行動に大きく影響しているとは考えられない。日本では英国と同じ位の人々が問題を経験し、その多くが相手方と接触し、紛争を経験している。それにもかかわらず、英国と比べ、相談機関利用は少なく、弁護士や裁判所の利用も著しく少ない(以上は1990年代末に行われた英国のデータとの比較による)。それは、法に対する国民の態度に原因があるのではなく、むしろ専門的な助言機関や弁護士が広くかつ身近に存在していないためである。また、好ましい紛争処理方法として裁判内外の和解が重視されてきたが、当事者の目から見て和解が判決よりも優れた紛争処理方法とは必ずしも言えない。以上の知見は、法曹人口を増やし、国民のための法律相談や訴訟制度のキャパシティを拡充することが、問題処理のための国民のニーズを充足するために必要であることを示している。(2)本研究の成果は、多数の研究論文として国内外の主な学会で報告され、国内外の研究者によって高く評価され注目を集めている。本研究をきっかけに、我が国と諸外国のデータを比較研究する2つの国際研究グループも組織され、我が国の研究成果の多くがこれまで以上に海外に発信されるようになった。(3)全国調査には社会学者も参加したが、データの分析においても内外の社会科学者と議論しつつ検討を進めており、今後データをアーカイブに寄託することによって、この研究領域を内外の社会諸科学者に更に広く開かれたものにすることができるであろう。

審査部会における所見

A(研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 日本社会の民事紛争処理に関する国民の意識と行動を、アンケート調査等による実証データの収集、分析を通じて明らかにしようとする本研究領域は、従来、文献研究を中心としていた日本の法社会学研究の水準を大きく向上させたものとして高く評価できる。データ収集、分析については、当初の計画を達成しており、また、論文、著書等の研究業績についても、特に研究期間の後半において、大きな成果があげられ、国際的な発信も一定程度行われていること、さらに、アーカイブを通じた収集データの公開が着実に準備されていることから、高い評価を与えることができる。他の関連する社会科学諸分野への貢献については、今後、データ内容や分析の再検証が可能な形で、素データの公開が進められる中で、更に進展していくものと期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成22年01月 --