免疫系自己-形成・識別とその異常(湊 長博)

研究領域名

免疫系自己-形成・識別とその異常

研究期間

平成19年度~平成23年度

領域代表者

湊 長博(京都大学・大学院医学研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 本特定領域の設定目的は、獲得免疫系の恒常性の維持(免疫自己の形成と識別)に関わる免疫基盤研究の重点的推進と、新技術に基づくヒトの免疫系制御のための新しい技術戦略の開発研究を組織的に融合することにより、多くのヒト免疫難病の克服、がん・難治感染症の制御という強い社会的国民的要請に応えることにある。今日、獲得免疫系における自己識別機構の解明がとりわけ重要な意義を有する理由は、この失調や破綻がそれ自体でヒトの深刻な病態の発症に至りうるからに他ならない。これはヒトの多くの原因不明の難病の病態解析が進むに従いますます確実になってきている。今や国民病ともいうべき関節リウマチや膠原病に代表される全身性の免疫難病、その他全身諸臓器を侵す多くの難病(I型糖尿病、甲状腺炎、クローン病・潰瘍性大腸炎などの炎症性腸炎、慢性肝炎・心筋炎、多発性硬化症に代表される脱随性神経疾患など)で異常な自己免疫応答の関与が明らかにされているし、自己変異細胞(がん細胞)に対する応答も広義の自己識別と考えられる。上記の目的に係るもう一つの問題点は、ヒトの現実的な免疫系制御における技術的な困難さにある。新しい免疫学的知見の具体的なヒトの免疫系制御への応用を妨げてきた大きな壁はこの点にある。免疫基盤研究と免疫制御技術戦略開発は不可分であり一体として推進されるべきものである。本特定領域研究においては、関連領域の他のプロジェクトとの緊密な連携支援体制を作りつつ、この両側面からの研究を組織的重点的に推進することによって、ヒト免疫関連難病の克服という強い社会的国民的要請に応えることを目的とする。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 上記目的のため、(A01)自己形成の分子基盤、(A02)自己応答性の制御とその異常、(A03)免疫制御をめざす新戦略、の3つの研究項目を設定し、これに関わる国内の主要な計画(分担)研究者(21名)と若手を主体とする公募研究者(40名)を組織し、その緻密な連携によって効率的重点的な研究を推進してきた。(A01)では、胸腺における自己識別機構、腸管共生細菌群による自己免疫応答性の制御機構、免疫老化機構と自己がん細胞に対する免疫応答への効果などについて、多くの新しい知見が得られた。(A02)では、自己免疫制御にかかわる制御性T細胞の作用機構、関節リウマチや膠原病、炎症性腸炎、小児免疫不全症などの疾患関連遺伝子と病態発症機構の解明が進み、その治療に向けて新しい分子細胞標的が提供された。さらに(A03)では、人工リンパ節の構築、ヒト化マウスの開発、ES、iPS細胞からの機能的樹状細胞の確立など画期的な新技術の開発が進んだ。これらの成果はNature誌を含む国際学術誌に領域発足以来約3年間にのべ925編の原著論文として公表されている。この間、定期研究進捗会議に加え3回の公開国際シンポジウムを開催し内外に広く成果の公表と議論を進めた。うち1つは支援グループ(免疫ゲノム疫学、小児遺伝免疫難病ネットワーク、腸内ゲノムプロジェクト)との共同によるもので、関連領域との連携の基礎を作った。また、日本科学未来館で開催された「免疫ふしぎ未来」展にも特定領域研究としては初めて参加し、中高生を含む国民に広く本研究領域の目的と成果についてわかりやすく説明した。

審査部会における所見

A (現行のまま推進すればよい)

 免疫学は、我が国において最も国際競争力の高い先進的研究領域の一つであり、その研究成果が生物学、医学に及ぼす効果は非常に大きい。免疫系における自己の形成と識別の分子機構は、長年にわたって未解明のまま残された免疫学の根源に関わる課題である。また、その破綻は、自己免疫疾患を引き起こし得ることから、その解明を目指す本研究領域は、社会的要請も高い。本研究領域は、繰り返し問いかけられた自己に対する免疫系の反応機構の理解と多様な自己免疫疾患の解決という目標に向かって、正面から取り組む意欲的な領域として採択された。幅広い免疫学分野の中で「自己識別」に焦点が絞られており、研究組織も日本を代表する免疫学研究者により構成されている。研究領域発足後は、その高い期待度を裏切らない研究成果を着実にあげてきており、Tリンパ球による胸腺上皮の分化、新しい粘膜リンパ装置、人工リンパ節等の新しい展開も見られる。これらの研究成果を更に発展させて「自己ー非自己」認識のドグマの解明を目指して努力を進め、マウスからヒトの免疫システム及びその破綻病態の理解を推進するための研究体制及び方向性が示されることを期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成22年01月 --