タンパク質の社会:機能発現と秩序維持(遠藤 斗志也)

研究領域名

タンパク質の社会:機能発現と秩序維持

研究期間

平成19年度~平成23年度

領域代表者

遠藤 斗志也(名古屋大学・大学院理学研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 細胞内のタンパク質は、時間的にも空間的にも秩序をもった「タンパク質の社会」の一員として存在する。そして細胞は、タンパク質社会の機能を実現し、秩序を維持するシステムを備えている。すなわち膨大な種類のタンパク質の交通を管制し、それらの正しいフォールディングとアセンブリーを実現する「機能発現システム」と、細胞内で生ずるタンパク質の構造や局在の異常を検知し、細胞全体規模でこれに応答する「秩序維持システム」である。これらのシステムを構成する分子シャペロン、トランスロケータ、品質管理(UPR,ERAD等)関連因子等はたがいに連携して働く。
 本研究領域では、機能発現システムと秩序維持システム、及び基質との関係を空間的・時間的視点で捉え、全体像を明らかにする。細胞内で個々のタンパク質の機能状態や動態を監視するサーベイランス機能と、正しい機能状態にないタンパク質を適切に取り扱うハンドリング機能の作動機構を明らかにする。これらのシステムの破綻としてのプリオンやアミロイド等の凝集形成や機能異常の実体を明らかにする。また、可溶性タンパク質に比べて理解が遅れている膜タンパク質の機能発現と秩序維持に関する理解を進める。さらに、細胞内でのタンパク質動態や各システムの作動機構を理解するための、新しい方法論の開発を目指す。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 19年度後半から計画研究(12研究課題)が、20年度から公募研究(38研究課題)がスタートした。そして、(1)これまでほとんど不明であった機能発現システム、秩序維持システムに関わる因子の構造決定(原核生物トランスロケータSecYE複合体など)が次々になされ、構造に基づいてメカニズムを議論できる段階に入った、(2)機能発現システム(ミトコンドリア膜間部でのジスルフィド結合形成)、秩序維持システム(小胞体からの異常タンパク質逆輸送におけるジスルフィド結合還元)における、酸化還元システムの重要性が大きく浮上した、(3)機能発現システムの作動原理に関わる長年の論争への決着(ミトコンドリアにおけるタンパク質アンフォールディング)、長年信じられてきたモデルの書き換え(シャペロニンの作動機構)が行われた、(4)機能発現システム、秩序維持システムの各因子の連携の全体像が見えてきた(異常タンパク質センサーIre1pが基質mRNAをアンカー、ミトコンドリアや葉緑体の外膜と内膜トランスロケータの連携、大腸菌リポタンパク質輸送システムの連携作業、大腸菌全タンパク質の解析からシャペロン系への振り分けを解析等)、(5)秩序維持の中心的問題である、異常とは何かについて理解が進んだ(ハンチンチンの凝集構造の差異など)、(6)タンパク質社会から膜へ、という新しい方向性の中で、示唆的な研究成果が見えてきた(ミトコンドリア分裂を支配する因子Drp1の機能、オートファジーに関わる新因子など)、(7)領域内共同研究により、細胞内タンパク質動態測定技術の開発と応用が進んだ(蛍光相互相関分光法の改良など)、などの成果が次々に出ている。

審査部会における所見

A (現行のまま推進すればよい)

 本研究領域は、特定領域研究「タンパク質の一生」から発展した研究領域として、時間的空間的に秩序を持って存在する数千から十数万種類に及ぶ細胞内タンパク質が、どのように機能を実現し、秩序を維持しているかを明らかにすることを目的としている。現在までに個々の研究テーマについては、順調に研究が進んでおり、特に小胞体におけるタンパク質の品質管理機構については優れた研究成果があがっている。また、細胞内でのタンパク一分子の動態を可視化するシステム等の新手法も確立されている。公募研究からも興味深い研究成果が得られている。今後は、これまでの研究を統合的に発展させることにより、タンパク質の社会システム全体像の理解につながる研究成果を期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成22年01月 --