細胞周期フロンティア──増殖と分化相関(岸本 健雄)

研究領域名

細胞周期フロンティア──増殖と分化相関

研究期間

平成19年度~平成23年度

領域代表者

岸本 健雄(東京工業大学・大学院生命理工学研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 多細胞体制の形成と維持において、細胞の増殖と分化は、最終的には相容れない。細胞の増殖は、典型的には培養系で見られるような繰り返し続く体細胞増殖と、発生過程で見られるような最終的には細胞分化に至る様々な増殖とに大別される。これらの種々のタイプの細胞増殖は、それぞれが特異的な制御下にあるため、従来、個別に研究されてきた。しかし、これらは本来、増殖と分化の相関のもとに一括して解析される必要があり、近年の細胞周期制御の研究の目覚ましい進展は今やそれを可能にしている。
 本研究領域では、細胞周期制御を鍵として、増殖相と分化相のバランスの分子基盤について統合的な理解に達することを目的とする。特に、種々の動物細胞を対象として細胞周期制御を発生の時空間軸の中におくことによって増殖と分化の相関の分子背景を解明するとともに(研究項目A01)、哺乳類培養体細胞と酵母という基本増殖系において体細胞増殖における細胞周期制御の詳細を究め(研究項目A02)、両研究の間での相互フィードバックを図る。このために、計画研究により重点的に研究を推進するとともに、公募研究によって新規の参画を促しかつ若手を支援する。こうした企ては、細胞周期制御因子について新規局面を切り開くとともに、細胞増殖と細胞分化の両分野を横断する細胞周期研究のフロンティアを創成することが期待される。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 計画研究の代表者10名と分担者6名で、研究領域を発足させた。公募研究には200件を越える応募があり、いわゆる細胞周期研究者とともに、発生生物学分野からの応募がきわめて積極的であった。その中から42件を採択し、総勢58名の体制で領域の研究を進めている。研究領域の発足後満2年を経過した時点で、班員間の研究連携は60件を越え、本研究領域の設定は研究者間の新規交流の促進に大きく貢献している。
 この間、英文原著論文の発表数は330報に達しており、その中にはいわゆるトップジャーナルへの掲載も相当数含まれている。特に顕著な研究成果としては、30数年来の懸案に決着をもたらす(受精を待つための卵の細胞周期停止機構の解明)一方で、全く新たな研究分野の創出(細胞周期制御キナーゼによるエピジェネティック制御)があげられる。それらとともに、細胞周期制御の解析が着実に深化する一方で、細胞周期制御関連因子の細胞周期制御以外(特に細胞分化の制御関連)での新規機能の発見、あるいは逆に、従来は細胞周期制御とは無関係と思われていた因子の細胞周期制御への関与の発見が続出している。これらの成果は、細胞周期制御が、細胞分化をはじめとした高次生命現象に当初の予想をはるかに超えて多彩に関わっていることを示すものであり、本領域は、細胞周期研究のフロンティアを確実に創成しつつあると言える。

審査部会における所見

A (現行のまま推進すればよい)

 本研究領域は、細胞の増殖相と分化相の二律背反的事象を、これまでに集積された細胞周期研究の知識を基盤にして、横断的・統合的に理解することを目的としており、「発生の細胞周期制御」と「細胞周期の基本制御と解析システム」の二つの研究項目で研究を進めている。研究成果としては、細胞周期制御因子の多機能性・新規の細胞周期関連因子の同定等、各研究課題では着実に成果があがりつつある。また、研究者間の有機的連携も効果的に行われ、新技術開発も進んでいる。一方で、領域全体としての当初の目標である「増殖と分化」の間の統合的な理解を得るためには、より統一的な取り組みが必要であり、そのため、領域全体の方向性を明確にする必要がある。「増殖と分化」の間の統合的な理解に向けて、今後の研究代表者の強いリーダーシップによる発展を期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成22年01月 --