カーボンナノチューブナノエレクトロニクス(水谷 孝)

研究領域名

カーボンナノチューブナノエレクトロニクス

研究期間

平成19年度~平成23年度

領域代表者

水谷 孝(名古屋大学・大学院工学研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 カーボンナノチューブ(CNT)は、1nmという分子レベルの直径を“ビルト・イン”で有する円筒状ナノカーボン物質である。その一次元性から、無散乱電子輸送、高い電子放出特性、大きな比表面積、大きな電子―正孔結合エネルギー等さまざまな特長を有し、これらに基づいたCNTデバイスの基本特性も示されつつある。しかしながら、CNTの成長機構の理解とそれに基づく特性のそろった高品質CNTの成長は十分とは言えない。また、その一次元性がゆえに影響が大きくなる外部環境の効果、あるいは欠陥がCNTの電気特性・光学特性に及ぼす影響等に関して不明な点も多く、CNTのポテンシャルを十分に発揮させるには至っていない。
 そこで本研究領域では、「CNTのデバイス、成長、評価、理論の研究を進めている研究者を結集し、各分野の専門家が連携してこれらの課題を解決し、CNTナノエレクトロニクスにおいて世界をリードする先進的研究を推進すること」を設定目的とした。その成果は、日本発の材料であるCNTに関する材料科学、物性物理、及びデバイス物理に関して理解を深めると同時に、科学技術分野のみならず、情報処理、バイオ・生命医療などの分野に展開するための基盤となるものである。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 本領域は、A01:デバイス、A02:成長、A03:評価、A04:理論を担当する4つの研究項目(16の計画研究および8の公募研究)で構成されている。本研究領域発足後の学術論文の発表数は430件を数えており、多数の顕著な成果が得られている。また301件の招待講演・依頼公演を行うなど、本研究領域の成果は外部にも高く評価されている。このような成果・活動状況は1-5号のニュースレターにより関連分野研究者に周知するとともに、ホームページに掲載して、外部に発信している。このような学術分野における情報発信のみでなく、41件の新聞報道に見られるように一般社会への広報活動にも努めている。
 代表的な研究成果としては、個々のCNTの電気特性、光学特性、電子放出特性を明らかにすると共に、一部デバイスにおいて、従来素子を上回る性能を実現した(A01)。さらに、金属ナノワイヤ内包新奇CNTの合成に成功するとともに、分子認識による光学活性単層CNTの分離を実現した(A02)。また、CNTの構造観察・物性評価を実施し、欠陥構造の直接観察の実現、静的・動的な光応答特性と環境効果の解明を行った(A03)。さらに、ナノチューブの電子物性、励起子効果・光物性、熱物性解明、さらには、ナノチューブ複合構造体の物性予言と設計に高い成果をあげた(A04)。これらを含む学術成果は、学術論文はもとより、3つの国際シンポジウムの開催などを通じて世界に向けて発信しているほか、学術誌特集号も企画している。また単なる成果発表会ではない項目ごとのミーティングや研究会、項目間の討論会を開催するなどして、本特定領域研究内の連携研究を推進し、21件の共著論文につなげている。

審査部会における所見

A- (努力の余地がある)

 本研究領域は、研究領域の設定目的に照らし着実な研究の進展が得られており、個々の研究課題で研究成果があがっている。研究費使用の観点でも、設備の積極的な共同利用を進める等、有効活用がなされている。しかしながら、研究領域の組織における有機的な連携については、努力の余地が認められるため、研究課題間の連携強化を期待する。カーボンナノチューブの発見からある程度の期間が経過していることから、実用デバイスの開発や、新規物性の発見などの進展が待たれる。当該研究領域による今後のブレークスルーに期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成22年01月 --