機能元素のナノ材料科学(幾原 雄一)

研究領域名

機能元素のナノ材料科学

研究期間

平成19年度~平成23年度

領域代表者

幾原 雄一(東京大学・大学院工学系研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 結晶の表面、界面、転位、原子空孔などの格子不整合領域は、その周期性の乱れに起因する特異な電子構造を有しており、完全結晶には見られない機能発現の起源となっている。このような不整合部近傍1ナノメートルオーダーの局所領域には添加元素(ドーパント)や不純物が偏在し、これが材料機能特性に決定的な役割を持つ。これが本研究領域で対象とする“機能元素”である。本研究では、球面収差補正技術を導入した走査透過型電子顕微鏡法、ナノプローブ電子分光法、超高精度非接触型原子間力顕微鏡法など最先端のナノ計測手法と第一原理熱力学計算手法及びマルチスケール計算手法を併用して駆使し、機能元素の原子・電子構造を解明するとともにその機能発現機構を明らかにする。また、これより得られた結果を材料プロセス技術にフィードバックすることにより、機能元素を制御した新たな材料設計指針を確立し、これを具体的な材料開発という形で実証する。本研究を推進することにより、機能元素の状態-機能特性―プロセスの相関性を明らかにし、“機能元素のナノ材料科学”と呼ぶべき新たな学理を構築する。さらに、得られた成果を広く社会に還元することで、材料開発研究分野にブレークスルーをもたらし、新機能を有した材料の開発など機能元素制御イノベーションともいえる産業界への大きな波及効果が期待できる。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 本特定領域研究は、材料機能に直結する“機能元素”に着目し、最先端ナノ計測手法と理論計算手法を高度に駆使することによって、機能元素の原子構造・電子状態の計測、機能発現メカニズムの解明を進めている。ナノ計測を中心にした連携では、走査透過電子顕微鏡法による界面及び表面原子構造の完全決定や三次元原子配列決定手法の確立、異相界面の原子・電子構造の解明、電子エネルギー損失スペクトル分光の定量的解析法の確立、材料表面における原子埋め込み手法の成功など、また理論計算を中心とした連携では、第一原理熱力学計算を駆使した機能元素の作る未知構造の解明や温度依存性の予測、X線吸収スペクトルや電子エネルギー損失分光スペクトルの理論計算手法の開発、ハイブリッド密度汎関数法/古典分子動力学計算手法の高度化と機能元素への適用などの成果が得られている。一方、材料プロセスを中心とした連携では、結晶への転位の導入と機能元素の付与による機能特性制御法の確立、最表面原子のストイキオメトリー構造制御法の確立、酸化物半導体中へのドーパント導入手法による新材料合成、超高温耐環境性被膜の開発、高配向ナノ細孔材料の合成およびナノ材料加工技術の開発などの成果が得られている。また、研究領域内の共同研究を活発に進めるため、Al2O3およびTiO2を共通モデル試料として用い、各研究課題の横断的な連携研究を積極的に進めている。

審査部会における所見

A (現行のまま推進すればよい)

 本研究領域は、機能元素による材料科学の学理の構築に向けて、個別の現象例の解明を蓄積し体系化する等、着実に研究を進めている。機能元素の効果が理論計算とあいまって理解できる段階に到達する等、設定目標に則して着実な進展が見られる。世界的にトップレベルの研究成果があがっており、研究成果の公表、普及にも十分努めている。また、共同研究が組織間の有機的な連携によって行われており、有益な研究領域を形成している。今後は、機能元素の持つ普遍的原理を明らかにし、機能元素の材料科学を体系化することが重要であることから、学理の全体像と残存研究期間で遂行可能な事柄をよく見極めて、学理の構築に向けて努力されることを期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成22年01月 --