分子高次系機能解明のための分子科学-先端計測法の開拓による素過程的理解(藤井 正明)

研究領域名

分子高次系機能解明のための分子科学-先端計測法の開拓による素過程的理解

研究期間

平成19年度~平成23年度

領域代表者

藤井 正明(東京工業大学・資源化学研究所・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 20世紀の分子科学は単純化、理想化、精密化の研究の時代であり、分子線中のクラスター構造とダイナミクスの研究、フェムト秒を切る勢いで発展している超高速レーザーとそれを用いた分光、さらに生体分子に対する共鳴ラマン分光など、様々な方法が開発され、分子科学の基本分野において、個々の分子やクラスターに対する素過程的理解は極めて深まってきた。一方、生体機能に代表されるような実在分子高次系における分子の働きは複数の過程により実現され、協調的に連動することで極めて効率よく精緻に機能している。この精緻な協調的連動を素過程に分解して理解することは、21世紀の分子科学に課せられた大きな命題であり、生命科学、材料科学、ナノサイエンス、など様々な実在分子高次系に対する科学の知的基盤を提供する。
 そこで、本研究領域「高次系分子科学(略称)」では分子科学とその関連分野で発達した計測技術と素過程的理解を融合し、新たな先端的計測方法論を創出しつつ実在分子高次系の分子論的理解を目指す。気相クラスター、凝縮相、生体分子研究など、従来は個別に発展してきた研究分野の研究者が分野の垣根を超えて緊密に連携することにより分子科学に新しい潮流をつくり、高次複合性に対する分子論的理解を目指す。本特定領域研究で創出される新たな研究手法は、これら高次な分子相互作用で成り立つ現象を理解するツールとして、化学のみならず生命からナノ・材料まで広い領域の学術研究に対して貢献することが期待される。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 気相分光、凝縮相超高速ダイナミクス、生体分子科学分野で平均年齢41歳の若手研究者を結集し、分子システムの連動性を階層的に研究した。例えば気相から生体分子へのアプローチに成功し、凝縮相、生体分子研究と連携できる基礎手法を作り上げた。生体関連分子を気相生成させる新規な蒸発源の開発と神経伝達物質への応用、分子の協調的連動である多重プロトン移動の発見、水200量体という凝縮相へブリッジする巨大クラスターの構造研究などに成功した。凝縮相の基本分子内の高次的な連動性に関しては、光異性化反応における分子の連続的構造変化を実測し、その多次元的反応座標を解明した。不均一系においては酸化物表面の局所的仕事関数をケルビンプローブ顕微鏡により計測するとともに、電極近傍の疎水性水和殻の変化を初めて明らかにした。光合成のタンパク質複合体モデルを人工的に構築し、基板上での組織化に世界に先駆けて成功した。さらに、生体系で重要なタンパク質に関して新規計測手法を開発し連動性機構の解明を進めた。分子センサー及び光センサータンパク質の機能発現機構、タンパク質内低障壁水素結合、ドメイン運動と水和構造の連動的運動の発見、プロトンポンプに関する新たなモデルなど、生体水素結合ネットワークに関する研究が著しく進展し、新規一分子分光法、非染色分光イメージング、in-cell NMR法など、独創的新規計測手法も開発した。分野を超えた共同研究が多数始まり、領域構成員の受賞も40件を数えた。国内評価委員、外国人評価委員からも「国際的にも最高水準」、「若手の高い研究能力と情報発信力」、「化学の潮流を変えるポテンシャルがある」と高い評価を頂いた。以上の様に本研究領域は高次機能分子に対して気相、凝縮相、生体分子研究者の共同研究を可能とし、若手研究者による分野を超えた新たな分子科学の創成として大きなインパクトを与えている。

審査部会における所見

A (現行のまま推進すればよい)

 本研究領域では、気相クラスター・界面・生体分子の研究者が現実系の分子システムの理解に向けて新たな実験手法を開発することで、水素結合ネットワークを核として既に優れた幾つかの研究成果をあげており、その実績は高い評価に値する。また、若手研究者を積極的に研究グループに加えている点や、研究課題間の有機的な連携・共同研究が活発に行われている点も高く評価する。多くの学術論文の発表、国内及び国際研究集会の開催、研究成果の公開・情報発信等も積極的に行われており、その点も申し分ない。今後の推進方策も適切であり、分子システムの理解に最終目標を設定した上で、理論系も含めて厳選された公募研究を補強しながら引き続き戦略的に共同研究を展開し、更にインテグレートして全体像の確立に向けて研究を推進することを期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成22年01月 --