広視野深宇宙探査によるダークエネルギーの研究(唐牛 宏)

研究領域名

広視野深宇宙探査によるダークエネルギーの研究

研究期間

平成18年度~平成23年度

領域代表者

唐牛 宏(自然科学研究機構国立天文台・光赤外研究部・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

・ダークエネルギーとは何か
 宇宙の加速膨張を説明するための、「万有斥力」をもたらす正体不明の存在で、真空のエネルギーとも考 えられる。現在の素粒子物理が想定するスカラー場との関係、あるいは相対性理論そのものの破綻も視野に入る、未知の物理学と新しい宇宙像を切り拓く鍵となる存在である。
・ダークエネルギーはどう「見える」か
 <1>宇宙膨張を加速させる。通常の宇宙では、膨張は減速する一方のはずだった。ダークエネルギーの存在下では過去の宇宙の膨張速度は現在よりも遅い時代があり、遠い(=過去の)銀河の膨張速度の調査でダークエネルギーの存在が分かる。
 <2>宇宙の幾何学を変え、宇宙構造の進化を変える。重力レンズ効果を利用して、宇宙の全物質の質量分布とその時間変化を測定することで、宇宙の膨張速度と宇宙大構造の時間変化の特徴を支配しているダークエネルギーの性質が分かる。
・我々のチャレンジ
 <1>すばる望遠鏡の主焦点カメラを一桁以上性能アップさせ、世界で唯一の広視野深宇宙探査カメラを製作する。
 <2>すばるのシャープな撮像性能で、1-2億個の銀河を観測して120億年前までの宇宙の姿を解析する。銀河の空間的分布やその形状を解析し、ダークエネルギーの存在がこれらに与える影響を、理論計算やコンピューターシミュレーションと比較をすることで解明する。ダークエネルギーの存在及びその時間変化をつきとめる。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 平成18年度の本領域の設置から多くの進展と成果が得られた。すばる望遠鏡の主焦点カメラHSCの設計は完了し補正光学系のガラス材製造、レンズ筒のセラミック素材製造が進んでいる。望遠鏡取付のための設計検討も、本計画が望遠鏡の基本性能や他の装置への悪影響がないことが証明され、ほぼ完了した。
 理論グループの大規模サーベイ準備作業も進展し、重力レンズ効果によるダークエネルギーの推定に対する観測の評価、銀河のクラスタリング統計を精密に測定することでニュートリノの質量を推定する、などの可能性の検討がなされている。
 一方、設置時点で本領域の審査に係って問題提起された、(1) 超広視野カメラの設計、製作、設置に関する技術上の問題を解決する、(2)CCD素子の必要数量と価格を明確化する、(3)すばる望遠鏡の運用に大きな影響を与えることから、当該分野のコンセンサスが必要、(4)装置製作に十分な人員とエフォート、役割分担を行う、という諸点に対し、平成20年3月に国立天文台長が主宰した『設計評価会議(Design Review)』で検討が行われ、それらも含めた技術的実現性等のプロジェクトの進捗状況全般について、国際的有識者を集めた評価委員から極めて高い評価が出されたことで基本的に答えを出すことが出来たと考えている。

審査部会における所見

 A- (努力の余地がある)

 本研究領域が対象とする「ダークエネルギー」は、宇宙創成の謎に迫る世界的に注目を集めている重要な研究課題であり、すばる望遠鏡に「戦略枠」が策定されたこの時機を逃さず実施すべき研究である。超広視野カメラの開発は着実に進展しているものの、応募時の計画の見込みが甘かったため、研究は予定よりも遅れている。しかしながら、本計画の実施に必要な技術がほぼ確立し、今後の研究計画がクリアになっていることから、今後は、より確実な研究成果が期待できる。また、研究組織としては優れた研究者がそろっており、研究遂行に十分と言える。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成22年01月 --