フレーバー物理の新展開(山中 卓)

研究領域名

フレーバー物理の新展開

研究期間

平成18年度~平成23年度

領域代表者

山中 卓(大阪大学・大学院理学研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 物質を構成する素粒子は、クォークと、電子やニュートリノなどのレプトンである。クォークやレプトンのフレーバー(種類)は、弱い相互作用によって他のフレーバーに変わることができ、これをフレーバー混合と言う。ノーベル賞でも話題になった粒子・反粒子の対称性の破れも、フレーバー混合の現象の中で見つかっている。しかし、フレーバー混合は複雑な構造を持ち、素粒子の標準理論によっても未だに理解されていない。一方、標準理論を超える超対称性などの理論は、フレーバー混合に新しい要素を加えることが知られている。
 本研究領域では、日本のJ-PARC大強度陽子加速器、KEK電子・陽電子衝突型加速器、米国Fermilabの陽子・反陽子衝突型加速器、ヨーロッパCERNの大強度陽子加速器など、世界最大級の強度の加速器を用いて、s, b, tクォークの崩壊の精密測定を行い、ミューオンニュートリノが電子ニュートリノやタウニュートリノに変化する現象の発見を目指す。さらに、これらの実験結果を理論の面からも解析し、フレーバーが変化する現象について実験と理論の両面から総合的・有機的に研究することによって、フレーバー構造の解明と標準理論を超える物理を追求する。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 クォークとレプトンの両方のフレーバー物理について、実験と理論の両面から研究を進めた。
 その結果、bクォークからタウレプトンへの2体崩壊の発見、bクォークからsクォークへの遷移におけるCP非保存の発見、bとsクォークからなるB中間子の振動の初めての観測、bクォークを含む新たなバリオンの発見、小林益川行列のパラメータの測定、レプトン数保存を破るタウレプトンの崩壊の探索などを行った。また、K中間子を用いた新たな実験の準備も進んでいる。また、ニュートリノ振動についても、ミューオンニュートリノがタウニュートリノに変わる事象を探す実験がヨーロッパで始まり、ミューオンニュートリノが電子ニュートリノに変わる事象を探す実験の準備も日本で進んでいる。
 さらに、標準理論を超える新しい物理が引き起こすさまざまなフレーバー物理の現象について、理論的研究を進めた。超対称模型に関して、フレーバーを変える中性カレントによるトップクォークの崩壊およびLHCでの生成の計算、超対称標準理論におけるb→sνν崩壊過程、超対称大統一理論のフレーバーの破れによるフェルミオン質量混合に対する制限、Bsのフレーバー混合及びレプトンフレーバーの破れを調べた。さらに5次元以上の世界における理論計算や宇宙論では原初元素合成や宇宙初期における制限などを導いた。

審査部会における所見

 A- (努力の余地がある)

 素粒子のフレーバー構造をテーマとした本研究領域は、着実に進展しており、今後の研究成果が期待される。しかしながら、研究を遂行する上でいくつかの点で改善が必要である。個々の研究課題の組織としては目的・研究計画・成果ははっきりしているが、領域全体としての最終到達目標を改めて見直し、明確化するべきである。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成22年01月 --