持続可能な発展の重層的環境ガバナンス(植田 和弘)

研究領域名

持続可能な発展の重層的環境ガバナンス

研究期間

平成18年度~平成23年度

領域代表者

植田 和弘(京都大学・大学院地球環境学堂・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 本研究領域を設定した目的は、持続可能な発展のための重層的環境ガバナンスのあり方を解明することにある。持続可能な発展に関する研究及び環境ガバナンスに関する研究はそれぞれすでに一定の研究蓄積があるが、近年における持続可能な発展概念の経済・社会領域への広がり、環境ガバナンスに関する理論的実践的取り組みの進展を踏まえて、両者を統合し再構成する必要があるとの認識に基づいて本研究領域を設定した。諸科学の研究成果を統合的に発展させることで、当該研究領域の量的・質的両面での飛躍的発展が期待される。研究領域を設定することで研究成果の総合性や操作性が意識されることになり、現実に生起する諸問題の解決に資する成果が得られやすくなるという意義が認められる。もう1つの目的は、重層的環境ガバナンスのあるべき構造と機能を解明し、現状からそこへの移行過程を明らかにするための研究体制を構築することである。現実の環境ガバナンスはグローバル、リージョナル、ナショナル、ローカルの各レベルでそれぞれの背景や要因を持ちながら進展している。一方で各レベルでの環境ガバナンスのための制度や政策の構築過程を深く究明する研究を進めつつ、他方で各レベルでの環境ガバナンス間の相互作用関係を抽出する研究をあわせて同時並行的に行う。本研究領域は、個別に取り組まれてきた持続可能な発展に関する議論と環境ガバナンスに関する議論を統合的に再構成するものであるが、持続可能な社会を実現するという極めて実践的な問題意識を持ちつつ重層性に着目して統合を進めるところに特徴がある。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 研究は持続可能な発展や環境ガバナンスに関する基礎概念を見直し、事例研究から理論的・実践的課題を抽出することから進めた。理論的には、持続可能な発展論の発展動向を概括し、一面では持続可能な発展が各論的に展開・細分化する傾向にあることを明らかにし、個別具体性を持つと同時に全体のアウトカムが不明確になることを指摘した。そのため新たな発展概念に基づいた再統合が不可欠になり、統合化の理念や手法が課題となる。持続可能な発展は動態的側面を持ち、プロセスの問題である。現状からの移行過程を環境ガバナンスと関連づけて論ずることができ、多層的サステイナビリティの相互関係と重層性に両理論の再構成と統合の手がかりがあることを指摘した。実証的には、<1>東アジアは、域内の直接投資額、国際貿易額が増加した反面、輸出市場としての米国や欧州への依存度が高まり、環境負荷が増大する窮乏化成長である、<2>グローバリゼーションに対するローカルからの抵抗戦略の有効性と前提条件に関する理論化が課題である、<3>グローバルな視点を組み入れた多主体による居住文化育成の視点からまちづくりのプロセスを記述した、<4>自然資本の臨界性に関する理論的検討により識別条件を探る方法を開発し適用を図った、<5>国際的枠組み合意の要になる温暖化防止・適応費用の国際的負担分担に関する論点を抽出した、<6>環境政策における複数のポリシー・ミックスを相互比較する共通要件を一定程度形成した、<7>地球環境問題への対処を可能にする民主主義と、ローカルな環境ガバナンスが前提とする民主主義との相違点は理論的に未解明である、ことなどの知見を得た。

審査部会における所見

 B (一層の努力が必要である)

 本研究領域は、これまで、経済学、政治学・行政学、社会学、環境・都市学等において個別に分析されてきた持続可能な発展論あるいは環境ガバナンス論に対して、諸科学を統合したアプローチを確立することを目的の一つとしており、特定領域研究として非常に意欲的な試みである。それぞれの研究課題の内容をみれば興味深い研究成果もある一方で、現段階においては、個別の研究を羅列している感が否めず、当初設定している目的に対する成果が見えない。その理由として、「持続可能な発展」や「環境ガバナンス」の概念自体があいまいなまま個別に研究が遂行され、核となるコンセプトに対して、プロジェクト全体で合意と共通認識が形成されていないことがあげられる。分析の対象が幅広く、困難なテーマにチャレンジしていることもあるが、残りの研究期間で一定の研究成果を得るには、総括班と基礎理論の研究課題を中心にした集中的な研究が不可欠である。その際には、プロジェクト全体での問題意識の共有・理論統一を図り、各研究課題の研究成果を研究目的に沿って収束、統合させていくための組織上の再編・工夫が必要である。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成22年01月 --