平成11年度 | 61,000千円 |
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平成12年度 | 61,000千円 |
平成13年度 | 19,000千円 |
平成14年度 | 18,000千円 |
特別推進研究の後の発展は以下のように要約される。
さらに実用的な蛍光基をもつ非天然アミノ酸が作製され、蛋白質の挙動を蛍光法で追跡する手法として確立された。蛍光性アミノ酸導入キットも市販され、誰でも使える手法となった。さらに20種類程度の異なる蛍光性アミノ酸が合成され、それらを用いた高効率ペプチド薬剤スクリーニング手法が発展しつつある。
蛋白質生合成に関与するtRNA(運搬リボ核酸)やEF-Tu(蛋白質伸張因子)が非天然アミノ酸導入に最適化され、それらを用いて今まで導入できなかった種類の非天然アミノ酸も蛋白質に導入できるようになった。また3種類の異なる非天然アミノ酸を1本の蛋白質に導入することにも成功した。
非天然アミノ酸の蛋白質導入の第1段階である、アミノ酸のtRNA(運搬リボ核酸)への担持(tRNA(運搬リボ核酸)のアミノアシル化)は、従来酵素を用いないとできなかった。この段階を人工物であるペプチド核酸をつかって特定のtRNA(運搬リボ核酸)を認識し、それに非天然アミノ酸を結合させる手法が見出された。この方法を用いて、生きた細胞中での非天然アミノ酸導入蛋白質の作製が検討されている。
非天然アミノ酸をリボソームを用いないで蛋白質やペプチドのN末端に迅速簡便に導入する手法が見出された。この方法を用いた医療診断のためのプローブ分子作製への展開が行われている。
以上のように非天然アミノ酸の蛋白質導入手法の実用化、とくに蛍光性アミノ酸導入への応用が進み、また導入できる非天然アミノ酸の種類の増加と導入効率の向上が達成された。これらは本手法を広い範囲の生化学研究に利用できる道を開くものである。一方、当研究室自身でも非天然アミノ酸導入ペプチドや蛋白質を薬剤探索や医療診断へ応用する研究がすすんでいる。
科学研究費補助金 基盤研究(S)「蛋白質生合成系の有機化学的拡張と合成生命体の創成」
(平成15~19年度)直接経費総額79,000千円
蛍光基を側鎖にもつ非天然アミノ酸は種々の生化学研究に有用であり、その一部は市販されるに至っている。また蛍光性アミノ酸をtRNA(運搬リボ核酸)に結合したものも市販されるようになり、非天然アミノ酸を蛋白質に導入する手法が汎用生化学研究ツールとして使用できるようになった。これらを背景として、多種類の蛍光性非天然アミノ酸導入ペプチドや蛋白質を薬剤探索や医療診断へ応用する研究がすすんでいる。とくに、20種類程度の多種類の蛍光性非天然アミノ酸を蛋白質やペプチドに導入し、多成分蛍光標識蛋白質ライブラリーやペプチドライブラリーを作製する手法は、新規薬剤探索法として期待される。従来のペプチド系薬剤探索は、ペプチドをファージ、ビーズ、あるいはRNA(リボ核酸)に結合したままでスクリーニングしていた。そのため選択されてきたペプチドをそれらから切り離すと活性を失う場合が多かった。多成分蛍光標識法では、蛍光標識ペプチドをそのままの形で溶液中で競争的にスクリーニングするため、見出されたペプチド類は生体中でも機能する確率が高く、有効な薬剤発見につながることが大いに期待される。この手法には蛍光性非天然アミノ酸のペプチドや蛋白質への導入が不可欠であり、特別推進研究で発展させた手法の応用として、もっとも期待されるものである。
tRNA(運搬リボ核酸)に結合したアミノ酸を、リボソームを用いずにペプチドや蛋白質のN末端に導入する酵素的手法が見いだされた。この方法は微量のアミノ酸を簡単、迅速にペプチドや蛋白質に導入することができることから、生体イメージングに広く応用できるものである。とくに18Fをもつ非天然アミノ酸を導入することが可能であり、現在実際のPET(ポジトロン断層法)研究に進む準備をしている。
以上のように、特別推進研究で開かれた非天然アミノ酸導入手法は、現在がんの診断や治療を主な目的とした医療応用へ向けて大きく育っている。また一般的な生化学研究のツールとして、非天然アミノ酸や蛍光性非天然アミノ酸を担持したtRNA(運搬リボ核酸)が市販され、広く利用されている。
非天然アミノ酸の蛋白質導入技術は、特別推進研究発足当時は世界で数人の研究者が行っている特殊な手法であった。現在この方法はかなり一般化され、世界で数十人の研究者が利用するようになってきたが、なお一般的方法とは言い難い。その大きな理由はこの方法に有機化学的なステップが含まれており、それらを生化学者が嫌うことにあるとおもわれる。この方法を生化学の一般的なツールにするために、蛍光性アミノ酸を担持したtRNA(運搬リボ核酸)が数年前から市販されるようになった。これによって本手法が広く利用されるようになることを期待している。
また他の問題として、この方法を使わなければどうしてもできない重要研究分野がいままであまりなかったことがある。たとえば蛋白質の蛍光標識については、現在ではGFP(緑色蛍光タンパク質)に代表される蛍光性蛋白質と標的蛋白質とのキメラ蛋白質作製が主な手法となっている。この方法にはGFP(緑色蛍光タンパク質)が大きすぎるという大きな欠点があるにも関わらず、生化学者はほとんどがこの方法を採用している。蛍光性非天然アミノ酸導入法でなければどうしてもできない重要な手法として、前記の多成分蛍光標識ライブラリーによる薬剤探索、および18F含有非天然アミノ酸導入ペプチドによるイメージングがある。現在これらの応用に向けた研究を進めている。
本手法を広く普及させるためには、非天然アミノ酸やそれらをtRNA(運搬リボ核酸)に結合したものなどの市販が望まれる。蛍光性非天然アミノ酸については、すでに薬品業者から数点が発売されている。また上述のように蛍光性非天然アミノ酸をtRNA(運搬リボ核酸)に結合させたものも市販されるようになった。
特別推進研究期間終了後に、いくつかの研究者から共同研究の打診があった。たとえばデンマーク薬科大学からは大学院学生が派遣されて6ヶ月当研究室に滞在し、この方法を習得させた。現在はデンマークで研究が続けられ、2007年中に博士論文が提出される予定である。このほかにも試料提供などで協力したものが数件ある。
より広い意味の学界への貢献として、有機化学手法を生化学系に持ち込めることを証明した例になったことが挙げられる。このような分野は本特別推進研究期間の前後から欧米ではChemical Biologyという名前で呼ばれており、欧米の主要大学の化学系の学科名がDepartment of Chemistry and Chemical Biologyと改称されるなどの例が増えている。ただし残念ながらわが国ではこの分野への取り組みが大きく遅れている。たとえばHarvard大学の化学生物学科のヘッドであるSchreiber教授らが本年編纂した単行本"Chemical Biology"の著者の内、日本の大学の著者はまだ宍戸だけである。
調査日 2007年12月1日
特別推進研究期間、あるいはその後当研究室が開発したいくつかの蛍光性非天然アミノ酸の内2種類が市販され、生化学、ペプチド化学の研究者に利用されている。
本特別推進研究の分担者であった、芳坂助手(現在北陸先端科学技術大学院大学 准教授)は蛍光性アミノ酸を担持したtRNA(運搬リボ核酸)を含む、蛍光性アミノ酸蛋白質導入キットを市販した。これにより生化学者が有機化学的手法にわずらわされることなしに、蛍光基を導入できるようになった。
蛍光性アミノ酸導入技術をペプチドライブラリーさらには蛋白質ライブラリーに応用する研究が始められている。従来の化学的蛍光修飾法では蛍光基が蛋白質の不特定の位置に導入されたり、蛍光基自体が細胞との結合に関与したりすることが多かった。本特定研究で開発された方法を用い、蛍光基を特定の位置に導入することにより、このような欠点を最小限に抑えた蛍光標識が可能である。
種類程度の多様性をもつペプチドライブラリーを作製し、それを20種類程度のサブライブラリーに分割する。サブライブラリーごとに異なる種類の蛍光性アミノ酸を導入しておく。このサブライブラリー混合物を標的細胞や標的蛋白質と混合し、それらと結合するサブライブラリーを選択する。後者の蛍光スペクトルの解析から、どのサブライブラリーがもっとも強く細胞や蛋白質に結合していたかを知ることができる。この操作を繰りかえすことにより、細胞や蛋白質に強く結合する薬剤候補化合物を見出すことができる。
この方法での新規薬剤探索研究が、現在岡山大学に採択されている科学技術振興調整費「ナノバイオ標的医療の融合的創出拠点の形成」(代表者 岡山大学医歯薬学研究科教授 公文裕巳)の下で進められている。
ペプチドのN末端に非天然アミノ酸1個を簡単迅速に導入できる手法が開発された。これを用いて、生体イメージング用のプローブ分子の開発が、上と同じプロジェクトの一環として進められている。
本特別推進研究に関係した研究者全員が、研究を遂行できるポジションを得て各地で活躍している。
-- 登録:平成21年以前 --