神奈川大学国際常民文化研究機構 事後評価結果

大学名

神奈川大学

研究分野

文化人類学・民族学

拠点名

国際常民文化研究機構

学長の氏名

石積 勝

拠点代表者

前田 禎彦

1.共同研究拠点の概要

[共同研究拠点の目的]
国際常民文化研究機構の目的は、国家や民族の枠組みを超え、いずれの社会においても大多数を占める庶民層を「常民」として概念化し、等身大の生活文化を総合的に調査・研究・分析する方法論を確立し、多文化共生社会といわれる現代社会にあって、真の国際理解・異文化理解に資することにある。それらの目的を達成するため、以下の3つの課題を設定した。1.【所蔵資料の情報共有化】日本常民文化研究所の所蔵する史資料とデータベースを、研究者コミュニティに公開・共有化する。2.【プロジェクト型共同研究の推進】所蔵資料の情報共有化に関連した研究分野を拡大、深化させるために、次の5つのプロジェクト、(1)海域・海民史の総合的研究、(2)民具資料の文化資源化、(3)非文字資料(図像・身体技法・景観)の体系化、(4)映像資料の文化資源化、(5)常民文化資料共有化システムの開発、を立て、研究課題を公募し共同で研究を進める。3.【事業運営の総合的推進】学内外の委員で構成された運営委員会を中心に、国際シンポジウムや共同研究会の開催及び海外研究機関とのネットワーク構築を推進する。

[共同研究拠点における成果及び目的の達成状況]
本拠点の基本となる資料データは、日本常民文化研究所の漁業制度資料とアチックフィルムであり、これらの膨大な資料のデータベース化を5年間継続し、漁業制度資料に関しては全体の約25%、アチック写真については約90%をデジタル化した。
設定した5つのプロジェクトについては、平成21年度に公募を行い、国内の共同研究者と海外の共同研究者による8つの共同研究グループを組織した。研究グループ毎に調査・研究を行い、公開の成果発表会の開催と成果報告書(「国際常民文化研究叢書」)の刊行を行った。平成24年度には、非文字資料(図像・身体技法・景観)の体系化に係る公開研究会を開催し、多くの一般参加者を得ることができた。共同研究については、グループ間の横の連携を強化した結果、新しい視点が獲得でき、文献・写真・絵画・民具・景観等を含む、総合的な資料の解析にもとづく研究方法を開発することができた。
また、広く外部の研究者との交流を深めたことにより、新たな研究視点を確保することができた。例えば、アチック写真については、民具・民俗研究だけではなく、自然景観等を対象とした地理学的な研究にも寄与することが分かった。個別の研究成果では、伝統的造船技術の研究についてアジア・太平洋地域の事例の蓄積ができたことや、民具名称の研究において、従来の言語学的な解析では解明できない、新たな方言についての考察等を引き出すことができたこと。さらには、東アジア諸国の海洋・民具研究についての情報と研究者とのネットワークを獲得したことなどが挙げられる。
以上のように本事業を通して学術的な貢献を果たした。また今後は、これまでの経験とノウハウを生かして常民文化研究を更に発展させていく。

2.評価結果

(評価区分)
A:設定された目的は概ね達成された。

(評価コメント)
国家や民族の枠組みを超え、いずれの社会においても大多数を占める庶民層を「常民」と概念化し、等身大の生活文化を総合的に調査・研究・分析する方法論を確立するという点において研究実績もあがってきており、東アジアを中心とする海外諸機関や異分野の研究者コミュニティとの連携も積極的に行われていることから、設定された目的は概ね達成されたものと評価できる。
具体的には、「常民文化」という独自の概念から、漁業制度や造船技術の発達史、海洋民具の研究に光をあて、国際的に比較研究しようとする学術的意義は大きく、大変ユニークな研究が展開されている。資料収集及びデータベース化、シンポジウムの開催などの諸事業も手堅く進められており、国際的な研究者ネットワークの構築にも貢献したと認められる。その一方で「常民文化」という概念が十分に浸透したとは言えず、今後は拠点としての常民文化の特長や展望を一層明らかにするとともに、国際化という観点から比較研究の対象国をさらに拡大し、異なる文化圏の多様な国々を対象とした連携研究を推し進めることが必要である。
さらには、競争的資金等に申請し、研究内容のピアレビューを積極的に受け入れ、研究概念の一般化、研究体制の学際化に努めるとともに、広く国民の方々にも理解できるよう広報活動をより一層強化することが必要である。
運営面においては、適切な経理処理をはじめ、健全な拠点運営に努められることを期待したい。

お問合せ先

研究振興局学術機関課

機構調整・共同利用係
電話番号:03-5253-4111(内線4085)

-- 登録:平成26年07月 --