関西大学ソシオネットワーク戦略研究機構 事後評価結果

大学名

関西大学

研究分野

経済政策

拠点名

ソシオネットワーク戦略研究機構

学長の氏名

楠見 晴重

拠点代表者

鵜飼 康東(ソシオネットワーク戦略研究機構長)

1.共同研究拠点の概要

[共同研究拠点の目的]
ソシオネットワーク戦略研究機構(英文名称Research Institute for Socionetwork Strategies: 略称RISS)の目的は、高度な情報通信技術を活用したネットワーク戦略の総合的政策研究を行い、日本を含む世界が直面している社会的課題の解決のための学術的基盤を形成することである。

[共同研究拠点における成果及び目的の達成状況]
当初目的のうち、「高度な情報通信技術を活用」する点については、ウェブアンケートの駆使、データマイニングツールの活用、人工知能を用いたシミュレーションの実施で高い成果が達成された。経済心理学データアーカイブは事業開始後5年間で個票数が2万から10万に増加し、属性も500にのぼる。世界最大のコンピューター科学の学会であるIEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers)が開催する国際会議において、毎年専用ブースを設置している。
当初目的のうち、「社会的課題の解決」についての成果は、以下3点である。第1に、国民年金保険料未納者の行動をウェブ上で実験した結果、年金制度に対する正確な知識があれば年金制度に対する不信感が低下することが判明した。従って、国民年金保険料未納者の増加を防ぐためには年金制度に対する正確な知識を社会的に普及させる必要がある。第2に、Web調査で絶対的危険回避度は長期的には安定しているが、短期的に大きく変動することが判明した。マクロ経済学の代表的モデルである動学的確率的一般均衡モデルでは人々の絶対的危険回避度は安定的であると考えられていた。従って、RISSの発見に基づけば、景気変動には人々の危険に対する感覚が大きく寄与していると考えられる。第3に、東日本大震災直後の買い占め行動の原因についてWeb調査を行い、他人に対する信頼度の強い人々は買い占め行動を行わないことが分かった。現代心理学では社会全体に対する信頼度と他人に対する信頼度は統計学的に独立である。従って、買い占め行動を防止するためには法律や制度よりもむしろ地域コミュニティにおける信頼感の上昇を高める必要がある。
これに加えて、「研究者コミュニティに与えた成果」は、日本経済政策学会にWebによるミクロ・データ収集への強い関心を引き起こしたことである。この結果、学会常務理事会はRISS機構長を国際会議プログラム委員のひとりに指名した。さらに、日本政治学会にミクロ・データによる融合研究の機運が生まれたことである。この結果、政治学者(東京大学・慶應義塾大学)と経済学者(関西大学・青山学院大学)を中心にした分野別研究会「ミクロ政治経済行動研究会」が設置されることとなった。
なお、本事業による5年間(平成20年4月~平成24年12月)の活動成果としては、本事業開始前の5年間(平成14年4月~平成20年3月)と比較して、(1)5年間のデータベース個票増加数が、15,476増から85,141増になり、その結果、100,617に達したこと、(2)年間のデータベース種類増加数が7種類増から78種類増になり、その結果、85種類に達したこと(この内、42種類を英文化した)、(3)共同利用参加者の実数が、205名(内大学院生48名)から421名(内大学院生70名)に増加したこと、(4)参加国の実数が8カ国(内東アジア2カ国)から16カ国(内東アジア3カ国)に増加したこと、(5)学会賞受賞者が0名から5名に増加したことが挙げられる。

2.評価結果

(評価区分)
A:設定された目的は概ね達成された。

(評価コメント)
高度情報通信技術を活用して迅速に社会データを収集分析して政策提言を行うという活動プロセスは、実験的な性格を有した革新的な取組であり、経済学の分野において、極めて重要性の高いミクロ・データの集積による研究基盤が着実に整備されていることから、設定された目的は概ね達成されたと評価できる。
具体的には、金融や年金等に関する研究実績が国内外で注目されているほか、大学としての全学的な支援のもと、国際会議や電子ジャーナル等を通じて国際展開を図るなど、拠点の情報発信力を向上させてきた。加えて、政策分析に用いるマイクロシミュレーションモデルの構築やウェブを介した経済心理実験ツールの開発等を通じて、当該研究分野全体の研究水準向上に寄与したと認められる。
今後は、研究の方法論について一層の整理を行い、ウェブアンケートに適したテーマに焦点化を図ることが望まれる。また、研究テーマの体系化をはじめ、共同利用・共同研究の在り方を再検討し、拠点としての機能を一層強化することが求められる。併せて、参加者の一層の拡大を図り、優れた研究成果を多数創出することを期待したい。

お問合せ先

研究振興局学術機関課

機構調整・共同利用係
電話番号:03-5253-4111(内線4085)

-- 登録:平成25年03月 --