早稲田大学イスラーム地域研究機構 事後評価結果

大学名

早稲田大学

研究分野

地域研究

拠点名

イスラーム地域研究機構

学長の氏名

鎌田 薫

拠点代表者

桜井 啓子(国際教養学術院教授)

1.共同研究拠点の概要

[共同研究拠点の目的]
「イスラーム地域研究」は、現代問題への歴史的なアプローチと地域間比較の手法を活用することにより、イスラームとイスラーム文明に関する実証的な知の体系を築くことを目的とする。これは、世界に先駆けて開拓された新しい研究分野である。
 21世紀に入ると、ニューヨークとワシントンでの同時多発テロ(平成13年9月)をかわきりに、米英軍の空爆によるターリバーン政権の崩壊(同年12月)や同じ米英軍の侵攻によるフセイン政権の崩壊(平成15年4月)等、世界を揺るがす重大事件が相次いで発生した。これらの事件や戦争の背後には、「イスラームのグローバル化と先鋭化」という事実が存在する。21世紀における世界の動向、石油資源の問題、地域紛争の性格等を正しく理解するためには、この新しい現実をふまえたうえで、イスラームと各地域社会との関係を多様なディシプリン研究を活用して具体的に明らかにすることが不可欠である。
以上のような目的を達成するため、早稲田大学が中核となって、イスラームの思想と政治を担当する東京大学、イスラーム世界の国際組織を担当する京都大学、イスラームの社会と文化を担当する上智大学、資料収集・利用促進・イスラーム史資料学を担当する東洋文庫という、それぞれの特長を持った有力研究拠点が従来にも増して確固たるネットワーク型の共同利用研究組織を構成することにより、今までにないイスラーム地域研究の世界的拠点をめざすものである。

[共同研究拠点における成果及び目的の達成状況]
当該事業では、現代問題への歴史的なアプローチと地域間比較の手法を活用することにより、イスラームとイスラーム文明に関する実証的な知の体系を築くことを目的とし全拠点で取り組んできた。そのために、各拠点がそれぞれの研究テーマに沿って、学際的かつ文理融合型の研究を実施してきた。例えば早稲田大学拠点では、平成20年に採択した公募研究において、科学史、ギリシア思想、中世キリスト教思想等、イスラーム思想と異なる分野の専門家との間で議論を展開させた。そして平成23年度から開始された公募研究では歴史研究にGIS(地理情報システム)を用いた新しい研究手法を採用し成果を上げている。また上智大学拠点が取り組んだ世俗主義研究および宗教マイノリティ研究は、どちらも未開拓な分野であり、多様なディシプリンを用いて新たに開拓することが求められている研究分野であるが、本事業によって、これまで個別に活動していた歴史学、政治学、宗教学、人類学等の研究者を集め、活発な議論を行うことができた。また京都大学拠点が取り組んだDiMSIS-EX(地理情報システムに時間軸を加えた研究)を用いた研究は、これまでのイスラーム地域における研究にはない画期的な取り組みである。
さらに、当事業ではこれまでの「イスラーム地域研究」には含まれなかった分野の研究者からの参加も得た。例えば早稲田大学拠点が実施する『「モノ」から見た知の技術と生活文化の変容と交流』では理化学系の専門家やヨーロッパ建築の専門家が参加しており、京都大学拠点が実施する
「中東現代文学研究」にはアルジェリア文学研究者やボスニア文学研究者、「現代イラン政治・文化研究」では看護・医療関係の研究者、「イスラーム世界における伝統継承に関する総合的研究」では、ヨーロッパ、インド、日本等の神話・伝統研究者が参加した。以上のように、イスラーム世界の国際性に対応して多角的に研究課題を設定することで新規の研究分野を開拓し、「イスラーム地域研究」の視野を拡大することに貢献した。

2.評価結果

(評価区分)
S:設定された目的は十分達成された。

(評価コメント)
早稲田大学を中心に、東京大学、京都大学、上智大学及び財団法人東洋文庫による5つの拠点の特色を生かして、効果的なネットワーク型研究の実施体制が整備されるとともに、地理情報システム等の新しい研究手法を用いた独自の異分野融合研究が推進されたことから、当初の目的は十分達成されたと評価できる。
具体的には、学術資料のデータベース化等によって共同研究の環境が着実に整備され、現代問題にアプローチするための体系的な研究体制が構築されている。また、研究成果の発信のための講演会やシンポジウムの共催等を通じて拠点間ネットワークが補強された結果、研究テーマの幅の広がりが認められる。加えて、私立大学、国立大学といった枠を超えたネットワーク型の共同研究は、新しいタイプの研究スタイルであることから、他の分野や機関の指針となることを期待したい。
今後は、運営委員会の機能強化を図り、5つの拠点の研究分野・課題における差別化や体系的な連携を進めることで、総合力を高めることが求められる。また、イスラーム地域研究に対する関心が今日の国際的課題と強く結びついていることから、当該地域研究の一層の発展に対応できる拠点としての機能強化が望まれる。

お問合せ先

研究振興局学術機関課

機構調整・共同利用係
電話番号:03-5253-4111(内線4085)

-- 登録:平成25年03月 --