ユネスコ/OECD『国境を越えて提供される高等教育の質保証に関するガイドライン』(仮訳)

1.はじめに

ガイドラインの目的

 本ガイドラインは、国境を越えて提供される高等教育(注2)における、国際協力を支援・奨励し、その質を保証することの重要性について理解を高めることを目的としている。また本ガイドラインは、学生やその他関係者を、質の低い教育や不当な提供者から(注3)保護し、人材、社会、経済及び文化面の要請に応えた、質の高い高等教育が国境を越えて展開されることを促すことを目的としている。

ガイドラインの根拠

 1980年代以降、学生、教員、教育プログラムや教育機関、専門職業人材の移動により、国境を越えて提供される高等教育が大きく進展してきた。それに伴い、海外分校や情報通信技術を利用した高等教育の配信、営利目的の教育提供者など、新しい提供形態や提供者も登場してきている。このような、新しい形の国境を越えた高等教育の提供は、受入国における人材、社会、経済及び文化の発展に寄与することが目的とされている場合には、個々の学生の技能や能力を伸ばす機会を拡大するとともに、国全体の高等教育制度の質の向上に資するものである。
 国境を越えて提供される高等教育も視野に入れて、質保証や適格認定、学位等や職業資格の認証に関する国内的枠組みが整備されている国もあるが、多くの国は未だに、国境を越えて提供される高等教育に積極的に向き合う準備ができているとはいえない状況にある。また、質保証や適格認定に関する制度が国により異なる上、国際レベルで取組の調和をはかる総合的な枠組みがないことから、国境を越えて提供される高等教育の質保証制度に空白が生じており、中には質保証や適格認定に関するいかなる枠組みの対象にもならないまま国境を越えた高等教育が提供される場合さえある。これでは学生やその他関係者が、国境を越えて提供された質の低い教育や不当な提供者(注4)による被害を受ける可能性が高い。このことから、高等教育の国際化の恩恵を最大限に高めつつ、被りうる不利益を最小限に留めるために、(国内の教育提供者やプログラムに加えて)国外の教育提供者やプログラムを対象とした適切な手続きや制度をいかに構築するかが、現行の質保証や適格認定に関する制度が直面する課題となっている。同時に、学生や教員、研究者、専門職業人材の各国間での流動性の高まりに伴い学位等や職業資格をいかに認証するかが国際協力の上で重要な問題となっている。
 そのためには、国としてのさらなる取組の実施や、国際的な協力・ネットワークの強化とともに、質保証・適格認定、学位等や職業資格の認証の手続きや制度に係る情報の透明性を高めることが必要である。そうした取組は地球規模で行われるとともに、確固たる自国の高等教育制度を確立するという発展途上国のニーズに対する支援を強化するものでなければならない。国によっては質保証・適格認定、学位等や職業資格の認証に関する包括的な枠組みが整備されていないところもあることを考慮して、国家的・国際的イニシアチブの強化や調整に当たっては、各国の制度開発を重視すべきである。このような観点から、ユネスコとOECDは緊密に協力して、『国境を越えて提供される高等教育の質保証に関するガイドライン(以下「ガイドライン」という。)』を策定した。本ガイドラインの実施は、その制度開発過程の第一歩となるものである。
 一国の高等教育部門の質とその評価・モニタリング制度は、その国の社会的、経済的好況の鍵を握るだけでなく、その国の高等教育制度の国際的な評価を左右する決定的な要因ともなる。このため、質保証のための制度を確立することは、国内で提供される高等教育の質のチェックに必要なだけではなく、高等教育を国際的に提供しようとする際にも必要となってきている。そのため、この20年間、高等教育の質保証や適格認定を行う機関の数が大幅に増加してきている。しかしながら、現行の各国における質保証の制度は、その対象を、国内機関によって国内で提供される教育に限定している場合が多い。
 学生、教員、専門職業人材、教育プログラム及び教育提供者の国境を越えた流動性の向上に伴い、現行の各国における質保証や適格認定に関する枠組みや機関だけでなく、海外の学位等の認証に関する制度についても、新たな課題が生まれてきている。具体的には、

  • (1)質保証や適格認定に関する国内制度が、国境を越えて提供される高等教育まで含めて置かれていることが少ない。そのため、学生が、誤ったガイダンスや情報、不当な提供者や質保証・適格認定機関、質の低い教育の被害を受ける危険性は高く、取得した学位等の有効性も限られたものとなることもある。
  • (2)学位等や職業資格の認証に関する国内制度や機関において、国境を越えて提供される高等教育に関する知識や経験が不足している場合がある。国境を越えて高等教育を提供する機関が、自国内で提供している学位等と同等でない学位等を提供した場合、問題はより複雑なものになる。
  • (3)海外の学位等を国内で認証する必要性が増していることも、学位等や職業資格の認証を行う国内機関に対する課題を提起している。その結果、時には、関係する各個人が行政・法律上の問題に直面することもある。
  • (4)専門職業では、信頼のおける質の高い職業資格が基盤となる。雇用者も含めて、そうした職業サービスを利用する者にとって、職業資格を取得した専門職業人の能力は全面的に信頼できるものでなければならない。質の低い職業資格を取得してしまう可能性が高くなれば、その職業自体に悪影響を与えるだけでなく、長期的には職業資格に対する信頼も低下させることになるだろう。

ガイドラインの範囲

 本ガイドラインは、上に述べた課題に対応した、国境を越えて提供される高等教育の質保証に関する国際的な枠組みの提供を目的としている。
 本ガイドラインは、国家間の相互信頼及び相互尊重の原則に基づくとともに、高等教育における国際協力の重要性という認識に基づいている。さらに本ガイドラインは、国家の権限と高等教育制度の多様性の重要性という認識にも基づいている。各国にとって高等教育に関する国家の主権は非常に重要なものである。それは高等教育が、その国の言語や文化の多様性を表現するのに不可欠な手段であり、経済成長と社会統合を促進するためにも欠かせないものであるからだ。従って、高等教育に関する政策決定が国家の優先事項を反映したものであることは当然である。また、国によっては高等教育の所轄当局が複数存在することも当然である。
 本ガイドラインの有効性は、各国における高等教育の質保証に関する制度を強化できるかどうかにかかっている。ユネスコ地域条約の締結・実施、現在行われているユネスコや多国間・二国間援助機関主導の各国の制度開発に対するさらなる支援などが、ガイドラインを支え、補完するものとなるだろう。このような取組は、地域レベル、国レベルの強力なパートナーシップによって支えられるべきものである。
 また本ガイドラインは、国境を越えて提供される高等教育の質保証のための国際協力の強化において、高等教育団体、学生団体、教員団体、質保証・適格認定機関、学位・学修認証機関、その他職能団体のネットワークなどの非政府組織が重要な役割を果たすことにも配慮している。ガイドラインを通じて様々な組織の間の対話や協力を拡大することで、現行取組の強化・連携が促進されることを期待している。
 国境を越えた高等教育は、(学生の海外留学、海外分校など様々な形の)対面教育から、(eラーニングなど様々なテクノロジーを利用した)遠隔教育まで、多様な方法で行われている。本ガイドラインを実施するに当たっては、このような教育の提供方法の多様性を考慮し、それぞれに適した質保証のあり方を考えるべきである。

  • (注1)本ガイドラインに法的拘束力はないが、加盟国においては、それぞれの国内状況に即して適切に適当と思われる場合形で、本指針を実施することが望まれる。
  • (注2)本ガイドラインでいう国境を越えて提供される高等教育には、教員、学生、プログラム、教育機関・提供者、又は教材が国境を超えた状況で行われる高等教育が含まれる。公的機関運営か民間運営か、営利目的か非営利目的かは問わない。方法としては、(学生の海外留学や海外分校など様々な形で行われる)対面教育から、(eラーニングなど様々なテクノロジーを利用した)遠隔教育まで、多様な形態が採用されている。
  • (注3)本文脈でいう「不当な提供者」とは、いわゆるディグリー・ミルやアクレディテーション・ミルを指す。
  • (注4)脚注3を参照。

2.高等教育関係者のためのガイドライン

 各国における固有の責任体制のあり方を十分に尊重しつつ、本ガイドラインは、政府、高等教育機関及び教員を含む教育提供者、学生団体、質保証・適格認定機関、学位・学修認証機関(注5)、職能団体の6者(注6)に対する指針を示している。

政府のためのガイドライン

 政府は、適切な質保証や適格認定、学位等や職業資格の認証の促進に関し、責任を負う立場になくとも、影響力を行使できる立場にある。高等教育制度の中で、中央政府が政策調整の役割を担っている国は多い。一方で本ガイドラインは、国によっては、質保証の監督権限が下位政府組織や非政府組織に与えられている場合があることも認識している。
 そうした状況を考慮した上で、政府に対しては次の提言を行う。

  • (1)国内での活動を希望する、国境を越えて高等教育を提供する者に対して、包括的で公正な透明性の高い登録・認可制度を確立、又は確立を奨励すること。
  • (2)国境を越えて提供される高等教育の質保証・適格認定においては提供国と受入国の双方が関わっていることを前提として、国境を越えて提供される高等教育の信頼できる質保証・適格認定のための、包括的な制度を確立、又は確立を奨励すること。
  • (3)国内外の多種多様な正当な質保証・適格認定機関と協議・調整すること。
  • (4)国境を越えて提供される高等教育に関する登録・認可、質保証・適格認定の基準、また登録の有無等が学生や機関、プログラムへの資金配分に応用される場合の影響、さらに登録等が義務的なものであるか否かについて、正確で信頼できる情報を容易に入手できる形で提供すること。
  • (5)学位等の認証に関するユネスコ地域条約の締結を検討し、その立案ないし更新に貢献するとともに、同条約に基づいて全国情報センターを設立する。
  • (6)必要に応じて、認証に関する二国間又は多国間合意を締結・促進し、各国がその合意の基準や手順に基づいて、学位等の相互認証や互換を促進する。
  • (7)正当な高等教育機関・提供者に関する最新かつ的確で、総合的な情報を、国際レベルで容易に入手できるようにすべく協力する。

高等教育機関・提供者のためのガイドライン

 高等教育機関・提供者のすべてが、質に責任を持つことが大変重要(注7)である。そのためには、教員による積極的かつ建設的な関与が不可欠である。高等教育機関は、どこで、どのような方法で教育を提供するにせよ、教育の質だけでなく、教育の社会的、文化的及び言語的妥当性や、その機関の名において付与される学位等の水準に対しても責任を負うものである。
 そうした状況を考慮した上で、国境を越えて高等教育を提供する機関・提供者に対して次の提言を行う。

  • (1)海外で提供する教育プログラムと国内で提供するそれとが、同等の質を持つものであることを保証するとともに、受入国における文化意識、言語意識にも配慮すること。この点に関する機関・提供者の決意について公表することが望ましい。
  • (2)質の高い教育、研究は、質の高い教員と、自由に重要な真理の追究を行える教育研究環境によって初めて可能となることを認識すること。すべての高等教育機関や提供者は、ユネスコ「高等教育教員の地位に関する勧告(注8)」や、その他関連の文書を参考にして、優れた教育研究環境と雇用条件、協調的ガバナンス、学問の自由を支援すること。
  • (3)教員、職員、大学生、大学院生など関係者の能力を最大限活用し、自国でも海外でも同水準の学位等を提供することに最大限の責任を負うために内部の質管理制度を構築、維持又は再検証すること。さらに、留学斡旋業者を通じて将来の学生に対するプログラムの宣伝を行う場合は、留学斡旋業者が提供する情報やガイダンスが正確で信頼できるものであり、容易に入手できる形であることを保証する義務も負わなければならない。
  • (4)遠隔教育も含めて、国境を越えて高等教育を提供する場合には、受入国の適切な質保証・適格認定機関と協議するとともに、受入国の質保証・適格認定制度を尊重すること。
  • (5)国内外の関係団体や機関間のネットワークに参加し、グッド・プラクティスを共有すること。
  • (6)ネットワークやパートナーシップを設立・維持し、お互いの学位等を同等又は互換可能と承認することで、認証するプロセスを促進すること。
  • (7)ユネスコ・欧州評議会の「国境を越えた教育提供におけるグッド・プラクティス規約(注9)」等のグッド・プラクティス規約や、欧州評議会・ユネスコの「海外の学位等の評価の基準及び手続きに関する提言(注10)」などの関連規約を適宜利用すること。
  • (8)質に関する内部、外部の評価や提供する学位等の認証に関する基準、手続きについて、正確で信頼できる情報を入手しやすい形で提供するとともに、可能であれば、学生が習得すべき知識、知性、スキルの説明も付記して、提供するプログラムや学位等に関する詳細な説明も提供すること。高等教育機関・提供者は、特に質保証・適格認定機関や学生団体と協力して、これらの情報の普及を図ること。
  • (9)教育機関や、提供される教育プログラムの財務状況の透明性を確立すること。

学生団体のためのガイドライン

 国境を越えて提供される高等教育を直接享受する人々の代表として、また、高等教育に関わるコミュニティの一員として、学生団体は、学生や将来の学生が、入手可能な情報を慎重に精査するのを助け、意志決定に際して十分に考慮できるようにする責任を負う。
 そうした状況を考慮した上で、地域的、全国的及び国際的な学生団体が自主的に組織されることを望むとともに、学生団体に対して次の提言を行う。

  • (1)国境を越えて提供される高等教育の質のチェック、維持、向上において、国際的、全国的及び組織レベルのパートナーとして積極的に関与し、この目的達成のために必要な手順を踏むこと。
  • (2)誤ったガイダンスや情報、有効性の限られた学位等しか取得できない質の低い教育、不当な提供者などのリスクに関する学生の意識を高めることで、質の高い教育の提供に積極的に参加すること。また、国境を越えて提供される高等教育に関する、正確で信頼できる情報源を学生に知らせることも必要である。これらは本ガイドラインの実施に積極的に関わるだけでなく、その周知を図ることでも達成される。
  • (3)学生や将来の学生に対し、国境を越えて提供される高等教育プログラムを受けようとする際に、適切な質問をするよう促す。可能ならば留学生を含んだ学生団体が高等教育機関、質保証・適格認定機関、学位・学修認証機関等とも協力して、チェックリストを作るのも選択肢の一つである。そのようなリストに載せるべき質問として、「海外の教育機関・提供者が信頼できる機関によって認められているかどうか」、「海外の教育機関・提供者が出す学位等が学生の母国で進学要件又は就業要件として認められているかどうか」などが考えられる。

質保証・適格認定機関のためのガイドライン

 教育機関・提供者の内部の質管理に加え、外部の質保証・適格認定制度を採用している国は60カ国以上ある。質保証・適格認定機関には、提供される高等教育の質について評価する責任がある。現行の質保証・適格認定制度は国ごとに異なることが多く、時に、国内でも異なる場合がある。質保証・適格認定を政府機関が行う国もあれば、非政府組織が行う国もある。また、使用される用語や、「質」という語の定義、学生、教育機関又はプログラムへの資金配分との関連も含めた質保証・適格認定制度の目的や機能、質保証・適格認定の実施方法、実施機関の役割や機能、参加が義務付けられているかどうかなどの点で相違が見受けられる。こうした多様性は尊重した上で、地域・世界規模で、提供国と受入国双方における質保証・適格認定機関が協力し、国境を越えて提供される高等教育、特に新しい形で提供される高等教育の進展に伴う課題に対処する必要がある。(注11)
 そうした状況を考慮した上で、質保証・適格認定機関に対して次の提言を行う。

  • (1)質保証・適格認定が様々な形で国境を越えて提供される教育も含めて行われるよう整備を図ること。これは、例えば評価のガイドラインの中で国境を越えて提供される高等教育へ配慮すること、国内の高等教育制度の枠組みや範囲、国境を越えて提供される教育の変化や進展への適応性を考慮した上で透明で一貫性のある評価の基準や手続きを適切に定めることを保証することを意味するものである。
  • (2)関係機関による、既存の地域ネットワークや国際ネットワークを維持・強化する、あるいは、まだそのようなネットワークが整備されていない地域では、地域ネットワークを創設すること。こうしたネットワークは機関職員や評価者の専門性の向上だけでなく、情報やグッド・プラクティスの共有、知識の伝播、国際的な展開と課題に関する理解の増進のための基盤となる。また、このようなネットワークは、不当な提供者や質保証・適格認定機関についての注意喚起や、そうした機関の割り出しにつながる監視・報告制度の開発にも有効である。
  • (3)教育の提供国と受入国における機関間の協力を強化し、質保証・適格認定制度の相違についての相互理解を増進すべく、関係を構築すること。これにより、受入国における質保証・適格認定制度を尊重しつつ、国境を越えて提供されるプログラムや国境を越えて教育を提供する機関の質保証を促進することができるだろう。
  • (4)評価の結果だけでなく、評価の基準や方法、さらに、質保証の制度が学生、機関又はプログラムに対する資金配分に応用される場合の影響について正確な情報を入手しやすい形で提供すること。質保証・適格認定機関は、その他の関係者、特に高等教育機関・提供者、教員、学生団体、学位・学修認証機関等と協力し、こうした情報の伝播を促進すること。
  • (5)ユネスコ・欧州評議会の「国境を越えた教育提供におけるグッド・プラクティス規約(注12)」など、国境を越えて提供される高等教育に関する現行の国際的文書に示されている原則を適用すること。
  • (6)他機関との間で、お互いの取組に対する相互理解と信頼に基づく協定を締結し、高等教育関係者の知識を最大限活用しながら内部の質管理制度を確立し、定期的に外部評価を受ける。可能であれば、国際的な評価やピア・レビュー評価の試行についても検討すること。
  • (7)ピア・レビュー評価者の人員構成を決めるための国際的手法、評価基準や評価手続きの国際的なベンチマークの導入を検討し、異なる質保証・適格認定機関の評価活動の互換性を高めるため、共同評価プロジェクトに取り掛かること。

学位・学修認証機関のためのガイドライン

 学位等の認証に関するユネスコ地域条約は、学生や専門職業人材の国境を越えた移動や国境を越えて高等教育が提供されたことにより生じる海外の学位等の審査も含めた、高等教育における学位等の公正な認証を促進する重要な文書である。
 制度の透明化を図り、互換性を高めることを通じて、学位等の公正な認証プロセスを促進するため、現行の取組みに加えて、新たな国際的取組みを講じることが必要である。
  そうした状況を考慮した上で、学位・学修認証機関に対して次の提言を行う。

  • (1)情報及びグッド・プラクティスの交換、知識の伝播、国際的な展開と課題に関する理解の増進、機関職員の専門性の向上のための基盤となるような地域ネットワークや国際ネットワークを創設・維持すること。
  • (2)質保証・適格認定機関との協力の強化を通じ、学位等が基本的な水準の質を有しているかを判断するプロセスを円滑化するとともに、質保証・適格認定機関との国境を越えた協力、ネットワーク形成に取り組む。この協力は、地域内レベルと地域間レベルの双方で行うべきである。
  • (3)あらゆる関係者と連携して情報を共有し、学位等の認証方法と職業資格の認証方法との関連性を向上させること。
  • (4)必要に応じて、労働市場における学位等の職業資格としての認証についても目を向け、海外の学位等の保有者と雇用者の双方に対して、職業資格としての認証に関する必要な情報を提供すること。国際労働市場の規模の拡大や専門職業人材の流動性の向上を考慮すると、この面における職能団体との協力・調整が望まれる。
  • (5)欧州評議会・ユネスコにおける「海外の学位等の評価の基準及び手続きに関する提言(注13)」や、その他の関連する規程を利用し、認証手続きについての一般的信頼性を高め、関係者に対しては、認証までのプロセスが公正かつ一貫した方法で進められていることを再確認する。
  • (6)国境を越えて提供された教育に伴い授与された学位等も含めた、学位等の認証の基準について、明確で正確な情報を入手しやすい形で提供する。

職能団体(注14)のためのガイドライン

 職業資格の認証制度は、国によっても職業によっても異なる。例えば、専門職業に従事するのに、特定の学位等のみで足りる場合もあれば、学位等に加えてさらなる条件がその保有者に課せられる場合もある。国際労働市場の規模の拡大や専門職業人材の流動性の向上を考えると、雇用者や職能団体だけでなく、学位等の保有者も多くの課題に直面していると言える。例えば情報の入手しやすさや質の向上など、透明性の向上が公正な認証プロセスにとって不可欠である。
 そうした状況を考慮した上で、職能団体に対して次の提言を行う。

  • (1)学位等が職業資格としての認証を受けるのを支援するため、学位等の国内外の保有者に対し、また、海外の学位等の職業資格としての認証に関する助言を求めている雇用者に対して、入手しやすい形で情報を提供する方法を確立する。情報は、学生と将来の学生の双方に対しても、簡単に入手できる方法で提供するべきである。
  • (2)教育の提供国と受入国双方について、学位・学修認証機関だけでなく、職能団体、高等教育機関・提供者、質保証・適格認定機関間の関係を構築・維持し、職業資格の認証方法を向上させること。
  • (3)教育プログラムや学位等の比較のための評価の基準や手続きを確立し、実施する。その際は、職業資格の認証の円滑化に配慮するとともに、投入財とプロセスに関する条件に加えて、文化面から見て適切な学習成果と能力にも配慮した基準・手続きとすること。
  • (4)国際レベルにおける職業資格としての相互認証合意に関する最新の、正確かつ総合的な情報の入手を容易にし、新たな合意に向けての動きを奨励すること。

海外の学位等の評価の基準及び手続きに関する提言

 学位等の認証に関するリスボン協定(「欧州地域における高等教育の学業、卒業証書及び学位の認証に関する地域条約」の改訂版)の枠組みの中で採択された法的拘束力を有しない文書。外国の学位等の認証に関する過程の一貫性、公正性、透明性を確保することを目的とするもの。

学位・学修認証機関

 学位・学修認証機関とは、学位等の認証を行う機関のほか、学位等の認証を円滑化するための情報提供を行う機関等を指す。

学位等の認証

 ある機関が授与した学位その他の高等教育に関する称号が別の機関への進学要件を充たすかどうかについての判断。

学位等の認証に関するユネスコ地域条約(仮称)

 世界の6つの地域(南米及びカリブ、アラブ諸国、欧州、アフリカ、アジア太平洋、地中海)ごとに策定されている学位等の認証に関する条約(批准した国については法的拘束力を有する)。これらの条約は、高等教育における国際協力を推進し、締約国間の学位の相互認証により教員や学生の流動性確保の障害を取り除くことを目的としている。アジアについては「アジア太平洋地域における高等教育の学業、卒業証書及び学位の認証に関する地域条約」(1983年採択、1985年発効)があるが、日本は未批准。現在20カ国(注1)が批准している。

国境を越えた教育提供におけるグッド・プラクティス規約

 関係者が国境を越えた高等教育の提供を行う場合や外国の学位等の認証を行う場合等に参照することができるような原則を掲げている法的拘束力を有しない文書である。例えば国境を越えて高等教育を提供する機関・提供者の質について各国が責任を負い、正確な情報を提供する必要性が述べられている。

国境を越えて提供される高等教育

 「国境を越えて提供される高等教育」には多種多様な形態での高等教育の提供が含まれる。例えば人が国境を越える場合として留学や教員の交流、カリキュラムが国境を越える場合としてeラーニングやフランチャイズ、機関(設備)が国境を越える場合として大学の海外分校等が挙げられる。国立、公立、私立、営利、非営利等の提供主体の区別はなく、また提供手段も対面教育から遠隔教育まで全て含まれる。

国境を越えて提供される高等教育の質保証に関するガイドライン

 ガイドラインとは、法的拘束力を有しない指針。実施するかどうかについては各国の自主性に委ねられており、ガイドラインを遵守しなかったことに対する制裁措置はない。ただし、国際的な場での合意に基づいて策定されていることから、その実施について一定の期待が持たれている。なお、その実施の方法については、各国がそれぞれの国内状況に即して判断することとされている。
 また、本ガイドラインは、国際的な質保証のための統一的基準や共通のルールを定めるものではなく、各国がそれぞれの高等教育制度に照らして、自国の責任において高等教育の質を確保することを前提としつつ、各国間の信頼と高等教育制度の多様性の尊重に基づく質保証に関する国際的な協力を促進していくものである。

質保証・適格認定

 質保証とは、高等教育機関・提供者が提供する教育の質を維持・向上させることを指すが、具体的なシステムは各国の歴史や実情によって異なっており、質保証の際の評価にも自己点検・評価と第三者評価の両方がある。また、適格認定とは高等教育機関・提供者の評価において、一定の基準を満たすかどうかをチェックし、それを満たす場合には認定を与える行為を指す。実施主体は国によって様々で、政府機関が行う場合もあれば、非政府機関が行う場合もある。日本は、事前評価としての行政による設置認可と事後評価としての第三者評価である認証評価を両輪とした大学の質保証を行っている。

職業資格の認証

 職業資格の認証とは国家資格等について、特定の専門職業の就業要件を充たす職業資格であると認証すること。職業資格の内容は国あるいは職業により多種多様であり、例えば学位等がそのまま認められる場合もあれば、学位等に加えて試験等が課される場合もある。

職能団体

 専門職業の就業要件の決定や職業資格の認証に関し、法的権限を有する機関。政府機関がこの機能を有している場合もある。日本においては、例えば弁護士については法務省がこれに該当する。

全国情報センター

 ユネスコ地域条約において設置が義務づけられている「国内団体」を指す。「国内団体」は、条約の目的を達成するため、諸措置を実施するものであり、政府機関、大学、学位・学修認証機関等の関係者間の協力・協調を促進し、条約の実施に係る諸問題の研究を行い、また、学位等の認証に関する情報の収集・提供を行うこととされている。

登録・認可制度

 国内で活動をしている高等教育機関・提供者の存在について把握するための制度。具体的な制度については各国の状況により異なると考えられるが、日本においては、大学等の設置認可制度及び外国大学日本分校に関する文部科学大臣の指定制度がこれに該当する。

不当な提供者

 不当な提供者とは、インターネット等を通じて、教育の実態を伴わずに「学位」を販売するいわゆるディグリー・ミルや、正当な評価を行わずに、高等教育機関・提供者に対して適格認定を行うアクレディテーション・ミルを指す。

(注1)アゼルバイジャン、アルメニア、インド、オーストラリア、カザフスタン、韓国、北朝鮮、キルギス、スリランカ、タジキスタン、中華人民共和国、トルクメニスタン、トルコ、ネパール、フィリピン、法王聖座、モルディブ、モンゴル、ラオス、ロシア

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