科技-3 諮問第11号「科学技術に関する基本政策について」に対する答申(平成22年12月24日)(総合科学技術会議)

諮問第11号「科学技術に関する基本政策について」に対する答申

平成22年12月24日
総合科学技術会議

目次

【基本認識】
1.激動する世界と日本の危機
2.科学技術基本計画の位置付け
3.第3期科学技術基本計画の実績及び課題
4.第4期科学技術基本計画の理念
(1)目指すべき国の姿
(2)今後の科学技術政策の基本方針

【成長の柱としての2大イノベーションの推進】
1.基本方針
2.グリーンイノベーションの推進
(1)目指すべき成長の姿
(2)重要課題達成のための施策の推進
(3)グリーンイノベーション推進のためのシステム改革
3.ライフイノベーションの推進
(1)目指すべき成長の姿
(2)重要課題達成のための施策の推進
(3)ライフイノベーション推進のためのシステム改革
4.科学技術イノベーションの推進に向けたシステム改革
(1)科学技術イノベーションの戦略的な推進体制の強化
(2)科学技術イノベーションに関する新たなシステムの構築

【我が国が直面する重要課題への対応】
1.基本方針
2.重要課題達成のための施策の推進
(1)豊かで質の高い国民生活の実現
(2)我が国の産業競争力の強化
(3)地球規模の問題解決への貢献
(4)国家存立の基盤の保持
(5)科学技術の共通基盤の充実、強化
3.重要課題の達成に向けたシステム改革
(1)課題達成型の研究開発推進のためのシステム改革
(2)国主導で取り組むべき研究開発の推進体制の構築
4.世界と一体化した国際活動の戦略的展開
(1)アジア共通の問題解決に向けた研究開発の推進
(2)科学 技術外交の新たな展開

【基礎研究及び人材育成の強化】
1.基本方針
2.基礎研究の抜本的強化
(1)独創的で多様な基礎研究の強化
(2)世界トップレベルの基礎研究の強化
3.科学技術を担う人材の育成
(1)多様な場で活躍できる人材の育成
(2)独創的で優れた研究者の養成
(3)次代を担う人材の育成
4.国際水準の研究環境及び基盤の形成
(1)大学及び公的研究機関における研究開発環境の整備
(2)知的基盤の整備
(3)研究情報基盤の整備

【社会とともに創り進める政策の展開】
1.基本方針
2.社会と科学技術イノベーションとの関係深化
(1)国民の視点に基づく科学技術イノベーション政策の推進
(2)科学技術コミュニケーション活動の推進
3.実効性のある科学技術イノベーション政策の推進
(1)政策の企画立案及び推進機能の強化
(2)研究資金制度における審査及び配分機能の強化
(3)研究開発の実施体制の強化
(4) 科学技術イノベーション政策におけるPDCAサイクルの確立
4.研究開発投資の拡充

基本認識

1.激動する世界と日本の危機

 世界は今、我が国も含め、政治、社会、経済的に激動の只中にある。多くの国々は、こうした激動に迅速に対処すべく、あらゆる政策手段を総動員しており、その中にあって、科学技術(「科学及び技術」をいう。以下、同じ。)に関する政策に期待される役割もまた大きく変化しつつある。以下、近年の科学技術に関連する情勢の変化のうち、主なものを挙げる。

<世界の変化>
 環境問題をはじめ、世界の国々が協調、協力して取り組むべき地球規模の問題はますますその深刻さを増している。一方、資源、エネルギー、食料などの国際的な獲得競争が激化し、これが中長期的に世界の経済成長にひずみをもたらすとともに、世界経済と政治の不安定化をもたらすことも懸念される。また、中国、インドをはじめ、潜在的に大きな市場を擁する新興国の経済的台頭とともに、世界的にも地域的にも富と力の分布が急速に変容しつつある。
 さらに、経済におけるグローバル化の一層の進展、新興国市場における競争の激化、消費者ニーズの多様化等に伴い、イノベーションの迅速な実現が一層重要となり、イノベーションシステムがオープン、グローバル、フラットなものに大きく構造変化するとともに、科学技術に関する研究開発の市場化も進展している。また、世界的に頭脳循環(ブレインサーキュレーション)が進み、科学技術及びイノベーションの鍵となる優れた人材の国際的な獲得競争がますます熾烈となっている。

<日本の危機>
 我が国は、世界の変化に加え、少子高齢化や人口減少等の社会的、経済的活力の減退につながる問題にも直面している。我が国の国内総生産(GDP)は、近年、ほぼ横ばいで推移しており、国民一人当たりGDPの国際的な順位も低下している。少子高齢化と人口減少の趨勢を考えれば、長期的に労働力の減少と国内市場の縮小も避けられない。
 その一方で、天然資源に乏しい我が国にとって、科学技術と人材こそが資源であるが、若い人達の間では理工系離れが進んでおり、我が国の優秀な研究者や技術者が退職年齢を迎えつつある中、科学技術においても、将来的に我が国の存在感の低下が懸念される。また、日本企業のイノベーションシステムの変化への対応は未だ道半ばであり、それも一因となって、我が国の産業競争力は長期低落傾向から抜け出していない。

2.科学技術基本計画の位置付け

 我が国は、平成7年に制定された科学技術基本法に基づき、3期15年間にわたって科学技術基本計画(以下、「基本計画」という。)を策定し、科学技術の着実な振興を図ってきた。しかしながら、科学技術政策はこれまで、産業、経済、外交等の重要政策との有機的連携が希薄なまま、主として科学技術の振興政策として推進されてきた面が否めない。一方、諸外国では、科学技術政策を国家戦略の根幹に位置付け、産業、経済、外交政策等との有機的、統合的連携の下、積極的な展開を図っている。こうした中、我が国においても、平成20年に制定された「研究開発力強化法」(注1)で「イノベーションの創出」がはじめて法的に位置付けられるなど、科学技術政策とイノベーション政策とを一体的に捉え、産業政策や経済政策、教育政策、外交政策等の重要政策と密接に連携させつつ、国の総力をあげて強力かつ戦略的に推進していく必要性が高まっている。
 このため、第4期基本計画は、これからの10年を見通した今後5年間の科学技術に関する国家戦略として、平成22年6月に策定された「新成長戦略~『元気な日本』復活のシナリオ~」を科学技術、さらにはイノベーションの観点から幅広く捉え、この新成長戦略に示された方針をより深化し、具体化するとともに、他の重要政策との一層の連携を図りつつ、我が国の科学技術政策を総合的かつ体系的に推進するための基本的な方針を提示するものとする。

-----
(注1) 研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律(平成20年法律第63号)
-----

3.第3期科学技術基本計画の実績及び課題

 我が国では、第1期基本計画以降、政府研究開発投資の増加、研究開発基盤の整備、科学技術システムの改革等によって、数多くの研究成果や実績があがっている。その一方、様々な課題への対応に向けた科学技術の貢献、人材育成、研究環境整備等において、課題もある。ここでは第3期基本計画期間における主な実績と課題を挙げる。

<研究開発投資及び戦略的重点化>

 第3期基本計画では、重点推進4分野、推進4分野と指定された8分野(注2)において、重点的な研究開発が推進され、多くの革新的技術が創出されている。しかし、個々の成果が社会的な課題の達成に必ずしも結びついていないとの指摘もあり、国として取り組むべき重要課題を明確に設定した上で、その対応に向けた戦略を策定し、実効性のある研究開発の推進が必要である。
 また、我が国の基礎研究は、論文被引用数で世界トップの研究者を輩出するなど着実に成果をあげているが、国全体で見ると論文の占有率は漸減傾向にあり、論文被引用度の国際的な順位も先進諸国と比較して低い水準にある。我が国の科学技術の発展の基盤を構築するため、新しい概念を創出し人類の知の資産を生み出す独創性、多様性に富んだ基礎研究の抜本的強化が必要である。
 さらに、第3期基本計画の期間中、財政状況が厳しいこともあり、政府の研究開発投資はほぼ横ばい、もしくは微増にとどまり、目標に掲げた約25兆円の達成は難しい状況にある。このままでは将来的に我が国の科学技術の弱体化が懸念されるため、研究開発投資の一層の拡充が必要である。

-----
 (注2) 「重点推進4分野」:ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料、「推進4分野」:エネルギー、ものづくり技術、社会基盤、フロンティア
-----

<科学技術システム改革>

 第3期基本計画においては、基本理念の一つとして「モノから人へ」を掲げ、人への投資、人材の流動性向上、競争促進に向けた改革を重視している。しかし、大学院重点化で大学院学生が急激に増加する一方、研究者のキャリアパスの確立が遅れていることもあり、若手研究者は将来展望を描きにくく、また近年では若手研究者が海外での研鑽に消極的となっていると指摘されている。科学技術イノベーションの担い手は人であり、女性、外国人を含めた人材の積極的な育成と確保、活躍の促進、派遣、招へい、さらには環境整備の一層の推進が必要である。
 我が国ではこれまで、基礎的、基盤的な研究に根ざしたブレークスルーから多くの優れた技術が生み出された。その一方、産業の仕組みが急速に変化し、オープンイノベーションが大きな潮流となる中、基礎的な研究段階においても研究者のコミュニティーと外部との連携による「知」のネットワークがイノベーションを生み出す鍵となるなど、新しい開かれた科学技術イノベーションシステムの構築が急務となっている。
 また、大学(大学共同利用機関を含む。以下、同じ。)と研究開発法人は、我が国の科学技術の推進において、民間部門とともに極めて重要な役割を担っている。しかし、これらの機関に対する運営費交付金等は減少しており、研究活動、教育活動、保有する施設及び設備の維持管理、運用等で支障が生じている。

<国民に支持される科学技術>

 国民は、科学技術が我が国の国際競争力の向上や社会的な課題の達成に重要な役割を果たすことに大きな期待を持っている。その一方、科学技術への投資は「未来への投資」であるとの考え方は、必ずしも国民の理解を得られていないとの指摘もある。科学技術が国民の期待により一層応えていくため、研究開発で着実に実績をあげることは当然であるが、それとあわせて社会の要請を的確に把握する取組を進めるとともに、国民の科学技術に対する理解と支持と信頼を得ることができるよう、科学技術コミュニケーション活動等の取組を促進していく必要がある。

4.第4期科学技術基本計画の理念

(1)目指すべき国の姿
 科学技術は、知のフロンティアを切り拓き、我々人類の直面する課題の克服に貢献するための手段であるとともに、我が国の豊かさや国力の基盤となるものでもある。その意味で、科学技術政策は、科学技術の振興のみを目的とするものではなく、社会及び公共のための主要な政策の一つとして、経済、教育、外交、安全保障等の重要政策と有機的に連携しつつ、我が国が世界とどのように共生し、また、どのような国として存立していくかという我が国の姿、あるいはアイデンティティの実現につながるものである。
 こうした観点から、国として、国民の科学技術に対する期待、要望に応えていくためにも、これからの科学技術政策で中長期的に目指すべき国の姿を明確に提示していく必要がある。このため、第4期基本計画では、以下の5つの国の姿を我が国が中長期的に目指すべき大きな目標として掲げ、政策を推進することとする。

 1. 将来にわたり持続的な成長を遂げる国
  資源・エネルギーの制約、高齢化等の問題は、中長期的には世界的に深刻かつ重大な課題となることが 予想される。このため、これらの課題を世界に先駆けて克服して、新たな産業の創成や雇用の創出につなげ、将来にわたり持続的な成長を遂げる国となる。

 2. 豊かで質の高い国民生活を実現する国
  社会の構造変化が急速に進む中、将来にわたり、安全で豊かで質の高い国民生活を実現し、これを誇りとする国となる。

 3. 国家存立の基盤となる科学技術を保持する国
  我が国の存立の基盤となる基幹的な科学技術を保持し、これらを用いて国の安全を確保するとともに、未知・未踏の新たな知のフロンティアを開拓する国となる。

 4. 地球規模の問題解決に先導的に取り組む国
  地球温暖化をはじめとする地球規模の深刻かつ重大な問題に対し、国際協調と協力の下、我が国独自の知的資産と創造性をもって、その解決を先導する国となる。

 5. 「知」の資産を創出し続け、科学技術を文化として育む国
  多様で独創的な最先端の「知」の資産を創出し続けるとともに、そうした研究活動、それに携わる人々、研究機関、さらには研究基盤や研究環境など、我が国の科学技術それ自体を文化として育む国となる。

(2)今後の科学技術政策の基本方針
 (1)に掲げた5つの国の姿を実現するためには、世界最高水準の優れた知的資産を継続的に生み出すとともに、我が国が取り組むべき課題を明確に設定し、イノベーションの促進に向けて、 科学技術政策を総合的かつ体系的に推進していく必要がある。また、これらの政策を着実に推進していく上で、優れた人材の役割が極めて重要であることは言うまでもない。さらに、「社会及び公共のための政策」の実現には、政策に対する国民の関わりを一層深めていく必要がある。
 第4期基本計画では、このような観点から、第3期基本計画の実績と課題も踏まえ、以下の3つを今後の科学技術政策の基本方針とする。

 1. 「科学技術イノベーション政策」の一体的展開
  イノベーションの重要性は第3期基本計画でも掲げられた。しかし、科学技術の成果を、イノベーションを通じ、新たな価値創造に結びつける取組は、なお途上にある。我が国としては、新たな価値の創造に向けて、  我が国や世界が直面する課題を特定した上で、課題達成のために科学技術を戦略的に活用し、その成果  の社会への還元を一層促進するとともに、イノベーションの源泉となる科学技術を着実に振興していく必要が ある。そのためには、自然科学のみならず人文科学や社会科学の視点も取り入れ、科学技術政策に加えて 、関連するイノベーション政策も幅広く対象に含めて、その一体的な推進を図っていくことが不可欠である。こ のため、第4期基本計画では、これを「科学技術イノベーション政策」(注3)と位置付け、強力に展開する。
  科学技術イノベーション政策の推進においては、我が国が取り組むべき課題を予め設定し、その達成に向けて、関連する科学技術を総合的に推進する方法と、独創的な研究成果を生み出し、それを発展させて新  たな価値創造に繋げるという方法の2つがある。
  したがって、第4期基本計画では、前者に該当するものとして、我が国が喫緊の課題として取り組むべき環境・エネルギー、医療・介護・健康への対応を2(ローマ数字).に、我が国が直面する多様な重要課題への対応を3(ローマ数字).に 、また、後者に該当するものとして、基礎研究の強化を4(ローマ数字).に整理し、それぞれ具体的取組を掲げる。 

-----
(注3) 「科学技術イノベーション」とは、「科学的な発見や発明等による新たな知識を基にした知的・文化的価値の創造と、それらの知識を発展させて経済的、社会的・公共的価値の創造に結びつける革新」と定義する。
-----

 2. 「人材とそれを支える組織の役割」の一層の重視
  天然資源に乏しく、また今後も人口減少が見込まれる我が国において、科学技術イノベーション政策を強 力に推進していくためには、これを担う優れた人材を絶え間なく育成、確保していくことが不可欠であり、この ような人材に係る取組こそ、国として特に重点的かつ横断的に取り組むべきものである。このため、「人材と それを支える組織の役割」を一層重視し、国内外のあらゆる場で活躍できる人材、世界をリードする人材、  次代を担う人材の育成と確保、キャリアパスの充実を積極的に進め、我が国の将来を担う人々が、夢と希望 を抱いて科学技術イノベーションの世界に積極的に飛び込むことができるよう、取組を強化する。また、この ような人材が能力を十分に発揮して活躍できるよう、大学や公的研究機関等において人材を支える組織的  な支援機能の充実、研究者間や組織間のネットワーク形成等を強化する。

 3. 「社会とともに創り進める政策」の実現
  1999年7月にハンガリーのブダペストで開催された世界科学会議で「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言」が採択され、「社会における科学と社会のための科学」という考え方が示されて既に10年余、科学技 術と社会の関係はますます緊密なものとなり、科学技術イノベーションに対する国民の期待と要請も高まって いる。こうした中、国として、国民の期待や社会的要請を的確に把握して、政策の企画立案及び推進に適切 に活かすとともに、政策の成果や効果を広く国民に明らかにし、社会に還元していくことが一層重要となって いる。このため、「社会とともに創り進める政策」の実現に向けて、国として、社会と科学技術イノベーションと の関わりをより深めるための取組を進めるとともに、政策の実施主体、達成目標、成果などを明確にし、国  民との対話や情報提供をさらに進めることにより、国民の理解と支持と信頼を得るよう努める。

成長の柱としての2大イノベーションの推進

1.基本方針

 我が国が、今後とも成長、発展を続けることで、世界において枢要な地位を確保するとともに、豊かな国民生活を実現していくためには、1(ローマ数字).で掲げた5つの国の姿のうち、「マル1.将来にわたり持続的な成長を遂げる国」を実現することが最重要となる。これは、この目標が他の4つの目標を実現する上での必要条件であり、そのための課題を克服することが、我が国の新たな成長の礎を築き、ひいては国民生活の質の向上につながるためである。
 この目標の達成に向け、我が国が取り組むべき喫緊の重要課題は、気候変動への対応と低炭素社会の実現、そして高齢化の問題への対応である。特に低炭素社会の実現は、温室効果ガスの排出削減に寄与するのみならず、再生可能エネルギー等の普及、拡大、社会インフラの整備等が進むことで、世界規模の新市場の出現につながり、我が国の資源・エネルギー制約の克服と、新たな産業の創成、雇用の創出が可能となる。また、高齢者の増加と人口減少は社会保障費の急激な増大をもたらすとともに、労働力人口の減少につながり、我が国の将来の成長にとって大きな制約要因となる。しかし一方で、高齢社会の進展は、医療・介護・健康サービスの需要拡大をもたらし、こうした社会的制約を克服する取組は、中長期的に新たな成長を生み出す原動力ともなりうる。
 このような観点から、第4期基本計画では、環境・エネルギーを対象とする「グリーンイノベーション」と、医療・介護・健康を対象とする「ライフイノベーション」を2つの大きな成長の柱として位置付け、科学技術イノベーション政策を戦略的に展開する。また、この2(ローマ数字).で掲げる課題以外にも、我が国が直面する深刻かつ多様な課題は山積しており、これらの課題への対応に向けた取組については、3(ローマ数字).において明確な方針を示すこととする。
 さらに、科学技術の高度化、複雑化、市場の急速なグローバル化に伴い、国として、産学官の連鎖や社会との連携を飛躍的に高めたイノベーションシステムを構築していく必要がある。このため、産学官の各主体の多様性や独自性等を十分に尊重しつつ、科学技術によるイノベーションを促進するため、新たな体制の構築をはじめとするシステム改革を推進する。

2.グリーンイノベーションの推進

(1)目指すべき成長の姿
 我が国と世界が直面する喫緊の課題である気候変動問題を解決し、かつ、世界各国が将来の成長の鍵として熾烈な競争を展開している脱化石燃料の潮流を捉え、世界最先端の低炭素社会を実現するため、グリーンイノベーションを強力に推進する。これにより、我が国が強みをもつ環境・エネルギー技術の一層の革新を促すとともに、社会システムや制度改革を推進し、これを国内外に普及、展開することで、我が国の持続的な成長を実現する。また、これらの取組により、世界に先駆けた環境・エネルギー先進国の実現を目指すとともに、持続可能な自然共生社会や循環型社会の実現、さらには豊かな国民生活の実現を目指す。

(2)重要課題達成のための施策の推進
 (1)で述べたグリーンイノベーションの目標実現に向けて、具体的には以下に掲げる重要課題を設定する。国として、大学、公的研究機関、産業界との連携、協力の下、これに対応した研究開発等の関連施策を重点的に推進する。

 1.エネルギー供給の低炭素化
  太陽光発電、バイオマス利用、風力発電、小水力発電、地熱発電、潮力・波力発電等の再生可能エネルギー技術の研究開発を戦略的に推進するとともに、その活用を促進する。その際、これらの技術の温室効果  ガス排出削減ポテンシャルを最大限に活かし、それぞれの特徴や地域の特性に応じて、国内外に普及、展  開を図る。太陽光発電とバイオマス利用については、これまでの技術を飛躍的に向上させるとともに、新たな ブレークスルーとなる革新的技術の獲得を目指した取組を進める。
  また、分散型エネルギー供給システムの革新を目指し、蓄電池、燃料電池、充電インフラ、超電導送電、製造・輸送・貯蔵にわたる水素供給システムの研究開発、さらに基幹エネルギーと分散型エネルギーの両供給 システム及びエネルギー需要システムを総合的に最適制御するスマートグリッド等のエネルギーマネジメント に関する研究開発を推進し、これらの海外展開を促進する。
  さらに、基幹エネルギー供給源の効率化と低炭素化に向けて、火力発電の高効率化、高効率石油精製に加え、石炭ガス化複合発電等と二酸化炭素の回収及び貯留を組み合わせたゼロエミッション火力発電の実 現、次世代軽水炉の実用化に向けた研究開発も含め、安全確保を前提とした原子力発電の利用拡大に向 けた取組を推進する。

 2.エネルギー利用の高効率化及びスマート化
  製造部門における化石資源の一層の効率的利用を図るため、製鉄等における革新的な製造プロセスや、ここで用いられる材料の高機能化、さらにはグリーンサステイナブルケミストリー、バイオリファイナリーに関 する研究開発を推進する。
  我が国の最終エネルギー消費の約半分を占める民生(家庭、業務)、運輸部門の低炭素化に向けて、住 宅及び建築物の高断熱化、次世代型ヒートポンプシステム、定置用燃料電池、高効率照明、パワー半導体 など省エネルギー技術の開発、普及や、次世代自動車に用いられる蓄電池、燃料電池、パワーエレクトロニクスによる電力制御等の開発、普及に関する取組を推進する。さらに、高効率輸送機器(鉄道、船舶、航空機)に関する研究開発を推進する。
  また、情報通信技術は、エネルギーの供給、利用や社会インフラの低炭素化を進める上で不可欠な基盤 的技術であり、次世代の情報通信ネットワークに関する研究開発、情報通信機器やシステム構成機器の一層の省エネルギー化、ネットワークシステム全体の最適制御に関する技術開発を進める。

 3.社会インフラのグリーン化
  環境先進都市の構築に向けて、高効率な交通及び輸送システムの構築に向けた研究開発を推進する。また、これまで人が通信主体であったネットワークに生活の中のすべての電力で作動する人工物が通信主体 として接続し、電力、ガス、水道、交通等の社会インフラと一体となった巨大ネットワークシステムに関する研究開発を推進する。
  さらに、高度水処理技術を含む総合水資源管理システムの構築に向けた研究開発等を、実証実験も含めて推進する。同時に、これらの普及、拡大に向けて、統合システムとしての海外展開を推進する。
  また、資源再生技術の革新、レアメタル、レアアース等の代替材料の創出に向けた取組を推進する。
  さらに、地球観測、予測、統合解析により得られる情報は、グリーンイノベーションを推進する上で重要な社会的・公共的インフラであり、これらに関する技術を飛躍的に強化するとともに、地球観測等から得られる情報の多様な領域における活用を促進する。これらも含め、気候変動に対応した、都市や地域の形成、自然 環境や生物多様性の保全、森林等における自然循環の維持、自然災害の軽減、持続可能な循環型食料生産の実現等に向けた取組を進める。

(3)グリーンイノベーション推進のためのシステム改革
 グリーンイノベーションの推進においては、(2)で掲げた重要課題達成のための施策の推進とあわせて、イノベーションを促進し、産業や雇用の創出等による我が国の持続的な成長や地球規模の問題解決に迅速かつ効果的につなげていくための取組を進める必要がある。こうした観点から、イノベーションを加速するための規制・制度改革、技術をはじめとする成果の海外への展開促進など、システム改革を積極的に推進する。

<推進方策>
・ 国は、例えば、バイオ燃料に関する温室効果ガス排出削減基準等の持続可能性基準の設定や自動車燃費基準の改定など、企業におけるイノベーションに向けた研究開発等の取組を促進するため、国際競争力も勘案しつつ、技術的、経済的合理性に立脚した新たな規制や制度の在り方について検討する。
・ 国は、次世代自動車、水素ステーション等の供給インフラ設備、再生可能エネルギー設備等の実用化、普 及を促進するため、これを妨げるおそれのある関連法の点検、改革を推進する。
・ 国は、地方公共団体や大学、公的研究機関、産業界と協働し、それぞれの地域の特色を活かしつつ、スマートグリッド等の新しい社会システムの構築に向けて、研究開発から技術実証、普及、展開までを一体的に行う取組を支援する。
・ 国は、エネルギー、水、交通、輸送システム等の社会インフラの整備に関連して、官民が有する先進技術、管理運営ノウハウ、人材育成等をパッケージ化した総合システムとしてその海外展開を促進する。
・ 国は、我が国のもつ優れた技術を活かした途上国等への支援促進のため、気候変動対応に関する技術移転とシステム改革を、貧困対策や農業、水資源の開発、防災等の政策と連動させて総合的に推進し、これらの国々の自立的な対応力を強化する。

3.ライフイノベーションの推進

(1)目指すべき成長の姿
 我が国では世界で最も急速に高齢化が進行しており、今後、ますます深刻となる医療、介護の問題について、個人の人生観や死生観を尊重しつつ、その解決の方策を見出すことが喫緊の課題となっている。このため、国として、国民が心身ともに健康で、豊かさや、生きていることの充実感を感じられる社会の実現に向けて、ライフイノベーションを強力に推進する。これにより、医療・介護・健康サービス等の産業を創成し、活性化することで、我が国の持続的な成長を実現する。さらに、先進諸国がこれから直面する高齢社会への対応や発展途上国に蔓延する疾病に対し、医薬品、医療機器の開発等を通じて、国際貢献を目指す。

(2)重要課題達成のための施策の推進
 (1)で述べたライフイノベーションの目標実現に向けて、具体的には以下に掲げる重要課題を設定する。国として、大学、公的研究機関、産業界との連携、協力の下、これらに対応した研究開発等の関連施策を重点的に推進する。

 1.革新的な予防法の開発
  国民の健康状態を長期間追跡し、食などの生活習慣や生活環境の影響を調査するとともに、臨床データ、メタボローム、ゲノム配列の解析等のコホート研究を推進し、生活習慣病等の発症と進行の仕組みを解明することで、客観的根拠(エビデンス)に基づいた予防法を開発する。
  また、大規模疫学研究の推進のために、医療情報の電子化、標準化、データベース化等の基盤整備を推進するとともに、個人情報保護に配慮しつつ、これらの情報の有効利用、活用を促進する。
  社会的影響の大きい感染症を対象として、予防効果の高いワクチンの研究開発を推進するとともに、国内外での普及、展開を促進する。
  さらに、認知症等による社会的、経済的な損失や負担の大きさを踏まえ、積極介入研究を推進することにより、認知症等の発症防止や、早期診断、進行の遅延技術等の研究開発を推進する。

 2.新しい早期診断法の開発
  国民の健康を守るためには、疾患の早期発見につながる診断手法の開発が重要であることから、早期診断に資する微量物質の同定技術等の新たな検出法と検出機器の開発、新たなマーカーの探索や同定など、精度の高い早期診断技術の開発を推進する。
  また、より小型で侵襲が少ない高性能の内視鏡等の肉眼視技術・機器の開発、3次元映像法などの早期診断に資する新たなイメージング技術を開発する。
  さらに、これらを有機的に統合し、早期診断の新技術開発を促進する。

 3.安全で有効性の高い治療の実現
  新薬の開発においては、動物疾患モデルやiPS細胞による疾患細胞等を駆使して疾患や治療のメカニズムを解明し、新規創薬ターゲットの探索を行う必要があり、そのために生命科学の基礎的な研究を充実、強化する。
  また、核酸医薬、ドラッグデリバリーシステム等の革新的な治療方法の確立を目指した研究開発を推進する。治療の質と安全性と有効性の向上に向けて、疾患の層別化、階層化等に基づく創薬を推進し、国民の遺伝背景に基づいた副作用の少ない医薬品の投与法の開発を進める。
  放射線治療機器、ロボット手術機器等の新しい治療機器の開発、内視鏡と治療薬の融合など診断と治療を融合させる薬剤や機器の開発、さらに遠隔診断、遠隔治療技術の開発、それを支援する画像情報処理技術の開発を進める。
  疾患の治療や失われた機能の補助、再生につながる再生医療に関しては、iPS細胞、ES細胞、体性幹細胞等の体内及び体外での細胞増殖・分化技術を開発するとともに、その標準化と利用技術の開発、安全性評価技術に関する研究開発を推進する。
  また、生命動態システム科学研究を推進する。

 4.高齢者、障害者、患者の生活の質(QOL)の向上
  高齢者や障害者のQOLの向上や介護者の負担軽減を図るため、生活支援ロボットやブレインマシンインターフェース(BMI)機器、高齢者用のパーソナルモビリティなど、高齢者や障害者の低下した機能を代償する技術、自立支援や生活支援を行う技術、高度なコミュニケーション支援に関する技術、さらには介護者を支援する技術に関して、安全性評価手法の確立も含めた研究開発を推進する。
  また、がん患者や高齢者の終末期における精神的、肉体的苦痛を取り除く緩和医療に関する研究を推進する。

(3)ライフイノベーション推進のためのシステム改革
 ライフイノベーションの推進においては、(2)で掲げた重要課題達成のための施策の推進とあわせて、これらの成果を医薬品や医療機器として迅速に実用化に結び付けるための仕組みを整備する必要がある。特に、我が国では、医薬品等に関する研究成果を臨床研究、治験、さらには製品化につなげていく際、国際比較で著しく開発時間を要するという問題が指摘されており、これらの問題を解決し、ライフイノベーションを促進する観点から、承認審査に係る規制・制度改革や研究開発環境の整備を推進する。

<推進方策>
・ 国は、医薬品、医療機器の安全性、有効性、品質評価をはじめ、科学的合理性と社会的正当性に関する根拠に基づいた審査指針や基準の策定など、レギュラトリーサイエンス(注4)を充実、強化し、臨床研究から治験までの一貫したガイドラインの整備につなげる。

-----
(注4)科学技術の成果を人と社会に役立てることを目的に、根拠に基づく的確な予測、評価、判断を行い、科学技術の成果を人と社会との調和の上で最も望ましい姿に調整するための科学
----- 

・ 国は、医薬品及び医療機器の承認審査を迅速かつ効率的に行うため、審査機関の体制を大幅に整備、強化するとともに、当該審査機関におけるレギュラトリーサイエンスの研究機能の充実、これらに精通した人材の養成及び確保を推進する。
・ 国は、大学、公的研究機関、産業界との連携の下、新たな創薬や医療機器開発につながるシーズを生み出し、その実用化を加速するため、官民をあげた創薬・医療技術支援基盤の整備を推進する。特に、「橋渡し」研究拠点を充実、強化するとともに、研究提案を公募し、全国の大学や企業等に開かれた医療機関ネットワークを構築する。
・ 国は、医薬品及び医療機器の臨床研究と治験を一体化した制度に関して、海外の類似した制度(例えば、米国におけるIND(Investigational New Drug)、IDE(Investigational Device Exemption)等)を調査研究し、その導入について検討するとともに、大学等に対して、国際標準に基づく臨床研究の実施を求める。
・ 国は、臨床研究の成果を円滑、効率的に創薬や医療機器開発に結びつけるため、研究開発の早期の段階から規制当局による相談や助言を受けられる体制を整備するとともに、臨床研究から治験、承認申請、さらには承認後の市販後安全対策までを一体的に進めることができるよう、相談や届出の窓口、承認審査及び安全対策の体制を充実、強化する。
・ 国は、革新的な医薬品及び医療機器の開発につながる新たなシーズの創出に向けて、バイオベンチャーを長期的視点から支援するための取組を進める。

4.科学技術イノベーションの推進に向けたシステム改革

(1)科学技術イノベーションの戦略的な推進体制の強化

 1. 「科学技術イノベーション戦略協議会(仮称)」の創設
  グリーンイノベーション、ライフイノベーションをはじめ、国として取り組むべき重要課題への対応に向けて、科学技術イノベーションを推進していくためには、産学官をはじめ、多様で幅広い関係者の主体的な参画を得て、将来ビジョンを共有し、総力を挙げて協働できる体制を構築する必要がある。これにより、各参加主体は全体を俯瞰した上で、それぞれの役割を理解し、密接に連携、協力しつつ、取組を推進していくことが可能となる。国は、こうした観点から、重要課題に関する戦略の検討から推進までを担うプラットフォームを構築する。

<推進方策>
・ 国は、総合科学技術会議(若しくは、これを改組した「科学技術イノベーション戦略本部(仮称)」。以下同じ。)の調整の下で、「科学技術イノベーション戦略協議会(仮称)」(以下、「戦略協議会」という。)を創設する。戦略協議会は、科学技術イノベーションの一体的な推進に向けて、重要課題ごとに設置することとし、関係府省や資金配分機関、大学、公的研究機関、産業界、NPO法人等の多様で幅広い関係者の参加により、緊密な連携、協力を行う場とする。
・ 国は、幅広い関係者や関係機関の主体的な参画を促進するとともに、関係機関間の連携や調整を担う者(「戦略マネージャー(仮称)」)を指名するなど、支援体制を整備する。
・ 戦略協議会は、重要課題の将来ビジョンを明確にするとともに、その実現に向けた戦略策定に資するため、基礎から応用、開発、さらに事業化、実用化の各段階に至るまで、各フェーズにおいて推進すべき具体的な研究開発、規制・制度改革、達成目標、推進体制、資金配分の在り方等について、幅広い観点から検討する。総合科学技術会議は、戦略協議会における検討を踏まえ、重要課題達成のための戦略を策定する。
・ 戦略協議会は、本戦略の実効性を確保するため、戦略の推進に係る全体マネジメントを担う。大学、公的研究機関、資金配分機関、産業界等の参画機関及び関係者は、「戦略マネージャー(仮称)」の全体調整の下、連携、協力しつつ、取組を推進する。

 2. 産学官の「知」のネットワーク強化
  科学技術の複雑化、研究開発活動の大規模化、経済社会のグローバル化の進展に伴い、これまでの垂直統合型の研究開発モデルの問題が顕在化し、これを反映する形でオープンイノベーションの取組が急速に進んでいる。こうした中、大学や公的研究機関の優れた研究成果を、迅速かつ効果的にイノベーションにつなげる仕組みの必要性が高まっているが、その一方、国内外の産学連携活動の現状を見ると、大学の外国企業との共同研究は低い割合にとどまり、技術移転機関(TLO)の関与した技術移転件数も減少傾向にある。このため、科学技術によるイノベーションを促進するための「知」のネットワークの強化に向けて、産学官の連携を一層拡大するための取組を進める。

<推進方策>
・ 国は、大学間連携の強化や金融機関をはじめとした関係機関との連携を視野に入れた産学官のネットワーク構築を推進する。
・ 国は、大学及び公的研究機関が、優れた研究成果の提供、そのための権利調整を迅速に行う体制の整備など、産業界との連携を円滑に行うための機能を強化することを求める。また、大学が、広域的な機能を持つTLOの編成、産学官連携本部とTLOの統合、連携強化など、産学官連携機能の最適化を図ることを期待する。
・ 国は、大学による国内外の特許取得の支援を強化するとともに、特定領域における重要な技術であって海外で特許侵害されるなど国益を損なうおそれがあるものについて支援を行う。また、国は、大学及び公的研究機関に対し、海外の大学や企業との共同研究や受託研究の拡大に向けて、知的財産保護等に関する連携ルールの整備、専門人材の育成、確保など、研究マネジメント体制の整備を求める。
・ 国は、大学及び公的研究機関が、取得特許の管理や活用、博士課程学生等が参画する場合の知的財産の取扱や秘密保持の原則に関する考え方の明確化を図るとともに、企業内研究室や企業の大学内研究室の設置など、柔軟な産学官連携体制を整備することを期待する。
・ 国は、大学や公的研究機関における有望なシーズの発掘から事業化に至るまで、切れ目無い支援を強化する。その際、関係投資機関とも連携しつつ、マッチングファンド等により、民間資金の活用も促進する。また、公的研究機関は、大学が持つシーズを社会に結びつける役割も期待されるため、産学官連携に係る機能を充実、強化する。
・ 国は、産学官連携の成果を総合的に検証するため、特許実施件数や関連収入などの量的評価を推進するとともに、市場への貢献、研究成果の普及状況、雇用の確保など質的評価を充実する。また、これらの評価に必要な体制を整備する。

 3.産学官協働のための「場」の構築
  科学技術によるイノベーションを効率的かつ迅速に進めていくためには、産学官の多様な知識や研究開発能力を結集し、組織的、戦略的な研究開発を行う連鎖の「場」を構築する必要がある。これまで我が国では、筑波研究学園都市をはじめ、国際的な研究開発拠点の整備を進めてきたが、これらすでに集積の進んだ拠点の一層の発展に向けて、その機能強化を図ることが重要である。諸外国では、このような産学官の総合力を発揮する体制や機関の役割がますます重視されるようになっており、これも参考に、イノベーションの促進に向けて、産学官の多様な研究開発能力を結集した中核的な研究開発拠点を形成する。

<推進方策>
・ 国は、基礎から応用、開発の段階に至るまで、産学官の多様な研究開発機関が結集し、非競争領域/前競争領域における共通基盤技術の研究開発を中核として、「競争」と「協調」によって研究開発を推進するオープンイノベーション拠点を形成する。特に、大学や公的研究機関が集積する拠点において、相乗効果を発揮し、イノベーションを促進するため、機関の垣根を越えた施設、設備の利用、研究成果の一体的な共有や発信を推進する。
・ 国は、産学の間で設定された研究領域で緊密な産学対話を行いつつ、従来の組織の枠を越えて、協働して研究開発と人材育成を行うバーチャル型の中核拠点(「共創の場」)の形成を推進する。
・ 国は、産学協働によるイノベーションの場として「先端融合領域イノベーション創出拠点」の形成を推進する。

(2)科学技術イノベーションに関する新たなシステムの構築

 1. 事業化支援の強化に向けた環境整備
  先端的な科学技術の成果を有効に活用した創業活動の活性化は、産業の創成や雇用の創出、経済の活性化において極めて重要である。しかし、近年、大学発ベンチャーの設立数が、人材確保や資金確保の問題を一因として急激に減少していることにもみられるように、創業を取り巻く環境は厳しさを増している。このため、研究開発の初期段階から事業化まで、切れ目無い支援の充実を図ることにより、先端的な科学技術を基にしたベンチャー創業等の支援を強化するための環境整備を行う。

<推進方策>
・ 国は、起業家精神の涵養、起業体験教育等の人材養成、専門家による法務、知的財産、資本戦略に関する支援を行うネットワークの構築など、総合活動の基盤を整備する。また、大学発ベンチャーに対して、マネジメントチームの組成とこれに携わる人材の育成、マーケティング、資本戦略、知的財産戦略を含む総合的ビジネス戦略の構築など、経営戦略面に十分留意した支援を行う。
・ 国は、先端的な科学技術の成果を事業化につなげるための仕組みとして、「中小企業技術革新制度」(SBIR(Small Business Innovation Research))における多段階選抜方式の導入を推進する。このため、各府省の研究開発予算のうち一定割合又は一定額について、多段階選抜方式の導入目標を設定することを検討する。
・ 国は、ベンチャー活動の活性化を図るため、リスクマネーがより効果的に提供される仕組みを強化するとともに、研究成果を創出した者が人的資本や知財等の無形資産によって出資することを可能とする仕組みを検討する。また、エンジェル投資の充実も含めて、新たなベンチャー支援策を検討する。
・ 国は、市場の限られた公共部門でのイノベーションを促進するため、技術を利用する側と、技術を持つ側の研究開発機関の連携システムを構築する。

 2.イノベーションの促進に向けた規制・制度の活用
  研究開発活動を取り巻く規制や制度は、本来、研究開発活動の円滑な推進や安全確保等を目的として設けられているものであるが、過度に厳格なために、イノベーションを阻害していることも少なくない。一方、規制・制度を上手く活用することで、イノベーションを加速する効果が期待されることもある。このため、規制の特例措置及び税制・財政・金融上の支援措置等を総合的に実施する総合特区制度等を含め、イノベーションの促進に向けた規制・制度の改善や活用等に関する取組を進める。

<推進方策>
・ 国は、科学技術によるイノベーションの隘路となる規制や制度を特定するとともに、その改善方策について関係府省間で議論し、解決を図る仕組みを整備する。
・ 国は、企業におけるイノベーションに向けた研究開発等の取組を加速するため、国際競争力も勘案しつつ、技術的、経済的合理性に立脚した新たな規制や制度の在り方について検討する。具体的には、バイオ燃料に関する温室効果ガス排出削減基準等の持続可能性基準の設定や自動車燃費基準の改定等が検討対象として挙げられる。
・ 国は、先端研究開発を強化するため、研究開発の円滑な推進を妨げるおそれのある規制を、補完的な措置を講じた上で限定的に解除する特区制度等を活用した先端研究拠点の形成を検討する。具体的には、大学や公的研究機関における既存の研究組織の中から、厳選してこれを指定し、その制度的な可能性について検証する。

 3.地域イノベーションシステムの構築
  地域レベルでの様々な問題解決に向けた取組を促し、これを国全体、さらにはグローバルに展開して、我が国の持続的な成長につなげていくためには、それぞれの地域が持つ多様性、独自性、独創性を積極的に活用していく必要がある。地方の財政状況が厳しい中、それぞれの地域で科学技術の振興が必ずしも定着していない状況にあることから、地域がその強みや特性を活かして、自立的に科学技術イノベーション活動を展開できる仕組みを構築する。

<推進方策>
・ 国は、地方公共団体や大学、公的研究機関、産業界が連携、協力して、地域が主体的に策定する構想のうち優れたものについて、研究段階から事業化に至るまで連続的な展開ができるよう、関係府省の施策を総動員して支援するシステムを構築する。
・ 国は、優れた成果をあげている地域クラスターが、当該地域における自律的な成長の核として、さらに重要な役割を果たすことができるよう、研究開発の推進に加えて、研究開発におけるネットワークの形成、人材養成及び確保、知的財産活動等に関する重点的な支援を行う。
・ 国は、地域における研究開発やマネジメント、産学官連携や知的財産活動の調整を担う人材の養成及び確保を支援する。また、国は、大学や公的研究機関が、人材養成や産学官連携、知的財産活動において、地域貢献機能を強化する取組を支援する。

 4.知的財産戦略及び国際標準化戦略の推進
  世界的にオープンイノベーションに関する取組が展開され、また、研究活動や経済活動がグローバル化する中、大学、公的研究機関、産業界が、これらの変化に適切に対応していくためには、国際標準化戦略を含めた知的財産戦略を、研究開発戦略等と一体的に推進していく必要がある。このため、国として、世界的なイノベーションの環境変化に対応し、国際標準化戦略を策定、実行するとともに、知的財産権制度の見直し、知的財産活動に関わる体制整備を進める。

<推進方策>
・ 国は、世界的に成長が期待され、我が国が優れた技術を持つ国際標準化特定戦略分野について、官民一体となった競争力強化戦略を策定する。また、国際標準獲得に寄与する国際的な共同研究開発プログラムを推進するとともに、国際標準化や、性能評価及び安全基準の策定に関わる研究開発機関の機能を強化する。さらに、特にアジアにおいて、製品試験や認証を行う機関への協力を進める。
・ 国は、産学官連携の下、国際標準化機構(ISO)、国際電気通信連合(ITU)、国際電気標準会議(IEC)等の標準化機関に対し、国際標準に関する提案を積極的に進めるとともに、産業競争力強化に資するフォーラム標準も含めた国際標準化活動を総合的に支援する。また、国際標準化活動に的確に対応できる人材の養成、確保に向け、研修プログラムの開発や国際標準化活動への参加支援を行う。
・ 国は、特許審査結果の実質的な国際相互承認を目指し、日米欧韓中の間で各特許庁の審査結果を共有するシステムの構築、特許審査ハイウェイの対象拡大、手続きの簡素化を行い、特許審査ワークシェアリングの質の向上、量の拡大を図る。また、特許法条約への加盟を視野に、出願人の利便性向上に資する制度整備を進める。
・ 国は、出願フォーマット(様式)の自由化、新規性喪失の例外の拡大、アカデミックディスカウントの改善など、制度が大学及び公的研究機関の利用を促進するものとなるよう、特許制度の見直しを行う。
・ 国は、大学等の参画機関の協力を得て、研究目的に限り、特許を無償開放する仕組みを構築する。また、特許と関連する科学技術情報を併せて収集、公開する仕組みや、知的財産を利用、活用するための枠組みを整備する。さらに、特許や各種文献を連結、分析するシステムなど、知的財産関連情報の基盤整備とネットワーク化を推進する。

我が国が直面する重要課題への対応

1.基本方針

 我が国が、科学技術で優れた成果を創出し、成果の社会への還元を進めていくためには、国として、より一層効果的、効率的な研究開発の推進を図る必要がある。このような観点から、第2期及び第3期基本計画では、特に重点を置き、優先的に資源配分を行う研究開発の分野として、重点推進4分野及び推進4分野を指定し、研究開発の重点化を図ってきた。しかし、これについては、基本計画で掲げた理念や政策目標との関連が不明確であること、分野の設定において、社会的な課題に対応するという視点とシーズを生み出し伸ばすという視点が混在していること、分野の縦割りにより必ずしも課題達成型の総合的な研究開発となっていないことなどの問題点が指摘されている。
 これを踏まえ、今後、国として重点的に推進する研究開発については、取り組むべき課題を明確に設定し、これに資する研究開発に資源配分を重点化していく必要がある。
 2(ローマ数字).で、成長の2つの柱と位置付けたグリーンイノベーションとライフイノベーションは、我が国が抱える制約を克服し、経済成長につなげる重要課題達成のための取組である。しかし、我が国は、環境・エネルギーと医療・介護・健康以外にも、深刻かつ多様な課題に直面しており、これらの課題の克服に向け、産学官の多様な機関の参画を得て、分野横断的に、かつ各機関で進められている基礎から応用、開発、さらに事業化、実用化の各段階に至るまでの活動を相互に連携させ、新たな価値創造に結びつくよう、研究開発等の取組を総合的かつ計画的に推進していく必要がある。
 このため、本章では、1(ローマ数字).で掲げた5つの国の姿の実現に対応する形で、2(ローマ数字).における環境・エネルギー及び医療・介護・健康と同等に、国として取り組むべき重要課題を設定し、その達成に向けて重点的に推進すべき研究開発をはじめとする関連施策の基本的方向性を提示する。したがって、第4期基本計画では、これまでの重点推進4分野及び推進4分野に基づく研究開発の重点化から、重要課題の達成に向けた施策の重点化へ、方針を大きく転換する。ただし、この方針に基づく具体的な研究開発課題の抽出に当たっては、これまでの分野別の重点化による研究開発の実績と成果を適切に活用することとする。さらに、重要課題達成のための施策の推進においては、社会システムの改革も含めて、科学技術イノベーション政策を総合的に展開していく必要があり、これらの取組も一体的に推進する。
 また、我が国が直面する重要課題は、地球規模課題をはじめ、それ以外の課題も中長期的には世界的な共通課題となることが想定される。また、世界的な成長センターとしてのアジアの台頭、我が国における少子高齢化の趨勢を考えれば、科学技術イノベーションにおける国際競争力の維持、強化を図るため、国として、世界の活力と一体となった科学技術活動の国際展開が一層重要となる。我が国の科学技術は世界でも有数の高い水準にあり、これを積極的に活用し、先進国から途上国まで重層的な連携、協力を促進することにより、我が国が直面する重要課題への対応、科学技術水準の向上、さらには、これらの外交活動への活用を積極的に推進する。

2.重要課題達成のための施策の推進

(1)豊かで質の高い国民生活の実現
 国民が、将来にわたり、安全で豊かで質の高い生活を送れるよう、国として、日々の暮らしに不可欠な食料や水、資源等を安定的に確保するとともに、災害などから人々の生命と財産を守っていく必要がある。また、人々の安全に加えて、生活の利便性や快適性の向上も含め、真の豊かさを実現するための取組を進めることも重要である。
 このため、具体的には以下に掲げる重要課題を設定し、国として、大学や公的研究機関、産業界との連携、協力の下、これらに対応した研究開発等の関連施策を重点的に推進する。

 1.食料、水、資源、エネルギーの安定的確保
  我が国の食料自給率の向上や食品の安全性向上、水の安定的確保に向けて、安全で高品質な食料や食品の生産、流通及び消費、さらに食料や水の安定確保に関する研究開発を、遺伝子組換え生物(GMO)等の先端技術の活用や産業的な観点も取り入れつつ、推進する。
  また、資源やエネルギーに関する安全保障の観点から、新たな資源やエネルギーの獲得に向けた探査や技術開発、その効率的、循環的な利用、さらに廃棄物の抑制や適正管理、再利用に関する研究開発を推進するとともに、成果の普及、展開を促進する。

 2.生活における安全の確保及び利便性の向上
  自然災害をはじめ、様々な災害等から人々の安全を確保するため、地震、火山、津波、高波・高潮、風水害、土砂災害等に関する調査観測や予測、防災、減災に関する研究開発、火災や重大事故、犯罪への対策に関する研究開発を推進し、国や自治体等における対策等の取組を促進する。
  また、人の健康保護や生態系の保全に向けて、大気、水、土壌における環境汚染物質の有害性やリスクの評価、その管理及び対策に関する研究を推進する。
  さらに、安全確保と、利便性及び快適性の両立に向けて、交通・輸送システムの高度化及び安全性評価に関する研究開発、老朽化対応のための住宅・社会資本ストックの高度化、長寿命化に関する研究開発を推進する。

 3.国民生活の豊かさの向上
  人々の生活における真の豊かさの実現に向けて、最新の情報通信技術等の科学技術を活用した教育、福祉、医療・介護、行政、観光など、公共、民間のサービスの改善・充実、人々のつながりの充実・深化など、科学技術による生活の質と豊かさの向上に資する取組を推進する。
  また、人々の感性や心の豊かさの増進に資するため、人文社会科学と自然科学の融合の観点も含め、新たな文化の創造や、我が国が誇るデザイン、コンテンツの潜在力向上につながる研究開発を行うとともに、その国民生活への還元と海外展開に関する取組を推進する。

(2)我が国の産業競争力の強化
 今後、我が国が持続的な成長を遂げていくためには、アジアをはじめとする新興国の存在感が高まる中、我が国の経済成長を支える産業の国際競争力を強化し、付加価値を獲得できる分野を創出、強化していく必要がある。このため、グリーンイノベーションとライフイノベーションによる新たな市場創出に加え、我が国におけるものづくりをさらに強化しつつ、新たな産業基盤の創出に向けて、多くの産業に共通する波及効果の高い基盤的な領域において、世界最高水準の研究開発を推進し、産業競争力の一層の強化を図っていく必要がある。
 このため、国として、具体的には以下に掲げる重要課題を設定し、大学や公的研究機関、産業界との連携、協力の下、これらに対応した研究開発等の関連施策を重点的に推進する。

 1.産業競争力の強化に向けた共通基盤の強化
  付加価値率や市場占有率が高く、今後の成長が見込まれ、我が国が国際競争力のある技術を数多く有している先端材料や部材の開発及び活用に必要な基盤技術、高機能電子デバイスや情報通信の利用、活用を支える基盤技術など、革新的な共通基盤技術に関する研究開発を推進するとともに、これらの技術の適切なオープン化戦略を促進する。
  また、多様な市場のニーズに対応できるよう、計測分析技術や精密加工技術、組込みシステム開発技術の高度化、要素技術の統合化、性能や安全性に関する評価手法の確立、さらには材料、部材、装置等のハードとソフトの連携に関する研究開発を促進し、新たなものづくり技術の共通基盤を構築する。

 2.我が国の強みを活かした新たな産業基盤の創出
  機械や自動車、電機等の最終製品の国際競争が激化する中、新たな付加価値の創出に向けて、次世代交通システム、スマートグリッド等の統合的システムの構築や、保守、運用までも含めた一体的なサービスの提供に向けた研究開発を、実証実験や国際標準化とあわせて推進するとともに、これらの海外展開を促進する。
  また、我が国のサービス産業の生産性の向上に向けて、科学技術を有効に活用するための研究開発等の取組を推進する。さらに、新産業の創出とともに、経済社会システム全体の効率化を目指し、次世代の情報通信ネットワークの構築、信頼性の高いクラウドコンピューティングの実現に向けた情報通信技術に関する研究開発を推進し、これらの幅広い領域での利用、活用を促進する。

(3)地球規模の問題解決への貢献
 我が国は、これまでの振興策により、世界的にも高い科学技術水準を有する国となった。今後は、成熟した国として、我が国自らの科学技術の更なる発展を目指すばかりでなく、諸外国との協調と協力の下、これらの科学技術を積極的に活用し、地球規模で発生する様々な問題の解決に積極的に貢献する必要がある。
 このため、国として、具体的には以下に掲げる重要課題を設定し、大学や公的研究機関、産業界、さらには諸外国や国際機関との連携、協力の下、これらに対応した研究開発等の関連施策を重点的に推進する。

 1.地球規模問題への対応促進
  大規模な気候変動等に関して、国際協調と協力の下、全球での観測や予測、影響評価を推進するとともに、これに伴い発生する大規模な自然災害等の対策に関する研究開発を推進する。生物多様性の保全に向けて、生態系に関する調査や観測、外的要因による影響評価、その保全、再生に関する研究開発を推進する。
  また、資源やエネルギーの安定供給に向けて、新たな資源、エネルギーの探査や循環的な利用、代替資源の創出に関する研究開発を推進する。
  さらに、新興・再興感染症に関する病原体の把握、予防、診断、治療に関する研究開発を推進する。
  これらの研究開発の推進とあわせて、得られた成果の国内外への普及と展開を促進するとともに、課題への対応に向けた国際社会の合意形成を先導する。

(4)国家存立の基盤の保持
 研究開発課題によっては、我が国が国際的な優位性を保持し、国民生活の安全を確保していくため、国自らが長期的視点に立って、継続的に、広範囲かつ長期間にわたって研究開発を推進し、成果を蓄積していくべき課題がある。このような研究開発課題については、国として、国家存立の基盤に関わる研究開発と位置づけて強力に推進する。なお、その際には、国家存立基盤を広く捉え、安全保障に加え、科学技術における新領域開拓に向けた独自の科学技術基盤構築のための研究開発の推進を含むものとする。
 このため、国として、具体的には以下に掲げる研究開発を重点的に推進する。その際、宇宙基本計画や海洋基本計画、エネルギー基本計画、原子力政策大綱など、他の計画等に基づく推進との整合性に配慮する。

 1.国家安全保障・基幹技術の強化
  有用資源の開発や確保に向けた海洋探査及び開発技術、情報収集をはじめ国の安全保障や国民生活の安全確保等にもつながる宇宙輸送や衛星開発及び利用に関する技術、独自のエネルギー源確保のための新エネルギーに関する技術、高速増殖炉サイクルや核融合等の原子力に関する技術、世界最高水準のハイパフォーマンスコンピューティング技術、地理空間情報に関する技術、さらに能動的で信頼性の高い(ディペンダブルな)情報セキュリティに関する技術の研究開発を推進する。

 2.新フロンティア開拓のための科学技術基盤の構築
  物質、生命、海洋、地球、宇宙それぞれに関する統合的な理解、解明など、新たな知のフロンティアの開拓に向けた科学技術基盤を構築するため、理論研究や実験研究、調査観測、解析等の研究開発を推進する。

(5)科学技術の共通基盤の充実、強化
 我が国及び世界が直面する様々な課題への対応に向けて、科学技術に関する研究開発を効果的、効率的に推進していくためには、複数の領域に横断的に用いられる科学技術の研究開発を推進する必要がある。また、広範かつ多様な研究開発に活用される共通的、基盤的な施設や設備について、より一層の充実、強化を図っていくことが重要である。
 このため、国として、具体的には以下に掲げる研究開発等の関連施策を重点的に推進する。

 1.領域横断的な科学技術の強化
  先端計測及び解析技術等の発展につながるナノテクノロジーや光・量子科学技術、シミュレーションやe-サイエンス等の高度情報通信技術、数理科学、システム科学技術など、複数領域に横断的に活用することが可能な科学技術や融合領域の科学技術に関する研究開発を推進する。

 2.共通的、基盤的な施設及び設備の高度化
  科学技術に関する広範な研究開発領域や、産学官の多様な研究機関に用いられる共通的、基盤的な施設及び設備に関して、その有効利用、活用を促進するとともに、これらに係る技術の高度化を促進するための研究開発を推進する。

3.重要課題の達成に向けたシステム改革

(1)課題達成型の研究開発推進のためのシステム改革
 課題達成型の研究開発を効果的、効率的に推進していくためには、産学官の幅広い参画を得て、相互に連携、協力しつつ、研究開発等の取り組みを計画的かつ総合的に推進する必要がある。このため、2で掲げた重要課題の達成に向けて、2(ローマ数字).4.の「科学技術イノベーションの推進に向けたシステム改革」で掲げた推進方策に基づく取組を積極的に進める。

<推進方策>
・ 国は、大学、公的研究機関、産業界等との連携、協力の下、2(ローマ数字).4.で掲げた推進方策に基づき、重要課題ごとの戦略協議会の創設や産学官の連携促進、事業化支援の強化、規制・制度改革、地域における科学技術の振興、さらに国際標準化戦略を含む知的財産戦略の推進等の取組を進める。

(2)国主導で取り組むべき研究開発の推進体制の構築
 国の安全保障にも関わる基幹的技術や、複数の領域や機関に共通して用いられる基盤的な施設及び設備に関する研究開発の推進に当たっては、これらが長期的かつ継続的に取り組むべきものであることから、国主導の下、関係する産学官の研究機関の総力を結集して研究開発を実施する体制を構築する必要がある。このため、これらの研究開発を効果的、効率的に進めるための新たなプロジェクトを創設する。

<推進方策>
・ 国は、国家安全保障・基幹技術を中心とする基盤技術に関する研究開発について、関係する計画等も踏まえ、それぞれの技術課題ごとに、国主導で研究開発を行うプロジェクト(例えば、国家安全保障・基幹技術プロジェクト(仮称))を創設する。その際、第3期基本計画で選定された「国家基幹技術」の成果を最大限活用する。
・ 国は、本プロジェクトの推進に当たり、個々の研究開発にとどまらず、プロジェクト全体を俯瞰し、実効的な統括を行うプロジェクトマネージャーを設置するとともに、関係機関の連携、協力を得て、実施計画の策定から知的財産の保護、さらには人材養成に至る中長期的な戦略を策定する。その際、第3期基本計画で「国家基幹技術」として選定された課題の評価結果を踏まえ、プロジェクトの在り方を検討する。

4.世界と一体化した国際活動の戦略的展開

(1)アジア共通の問題解決に向けた研究開発の推進
 我が国が地球規模の問題解決で先導的役割を担い、世界の中で確たる地位を維持するためには、国として、科学技術イノベーション政策を、国際協調及び協力の観点から、戦略的に進めていく必要がある。特にアジアには、環境・エネルギー、食料、水、防災、感染症など、問題解決にあたって我が国の科学技術を活かせる領域が多く、このようなアジア共通の問題の解決に積極的な役割を果たし、この地域における相互信頼、相互利益の関係を構築していく必要がある。このため、アジア諸国との科学技術協力の強化に向けた新たな取組を進める。

<推進方策>
・ 国は、東アジア共同体構想の一環として、「東アジア・サイエンス&イノベーション・エリア構想」を推進する。具体的には、参加各国が域外にも開かれた形で互恵関係を構築し、共通課題の克服に資する研究開発を共同で実施するとともに、人材養成や人材交流を促す。その際、日本が強みを持つ研究開発は我が国がリードするものの、アジア諸国の特性を活かして実施すべきものは、そうした国々で推進する。
・ 国は、同構想の一環として、域内の科学技術水準の向上やイノベーションの促進に向けて、国際的な研究ファンドの設置や大型の共同プロジェクトの実施を検討する。

(2)科学技術外交の新たな展開

 1.我が国の強みを活かした国際活動の展開
  我が国は、環境・エネルギーをはじめとする様々な課題について、世界に先駆けた取組を進めており、その科学技術も世界的に高い水準にある。我が国としては、今後、持続的な成長を実現していくためにも、特に成長の著しいアジアを中心として、これら科学技術を基本とした「課題達成型処方箋の輸出」(システム輸出)を促進し、新たな需要を創造していく必要がある。このため、国として、我が国の強みを活かし、社会変革につながるシステムのアジア地域への展開を促進する。

<推進方策>
・ 国は、我が国が技術的優位を有する領域において、アジア諸国と協力し、我が国の技術や規制、基準、規格の国際標準化を進めるための取組を支援する。
・ 国は、新興国を中心として、エネルギーや水、交通システム等の社会インフラの整備に関し、官民が有する先進技術と、管理及び運営ノウハウ、人材育成等をパッケージ化した総合システムの海外展開に向けた取組を推進する。
・ 国は、関係府省、産業界、学界等が科学技術について継続的に情報交換する場として、「科学技術外交連携推進協議会(仮称)」の設置を検討する。

 2.先端科学技術に関する国際活動の推進
  我が国の科学技術の一層の発展を図るとともに、科学技術と外交の相乗効果を高めるためには、先進国あるいは国際機関との連携、協力の下、先端的な科学技術に関する研究開発活動を推進し、これらを我が国の外交活動に積極的に活用していく必要がある。
  このため、先端科学技術に関する国際活動を強力に推進するとともに、国際研究ネットワークの充実に向けた取組を進める。

<推進方策>
・ 国は、世界的に高い科学技術水準を持つ諸国との間で、幅広い分野での国際研究ネットワークの充実を図り、海外の優れた研究資源を活用しつつ、先端科学技術に関する国際協力を推進する。
・ 国は、国際的な大規模プロジェクトや包括的なデータ整備が必要な研究開発について、研究者コミュニティーの意見を踏まえつつ、協力を推進する。その際、各研究領域における我が国の国際的な位置付けを勘案し、特に我が国が強みを持つ領域や関心の高い領域については、リーダーシップを発揮できるよう支援する。
・ 国は、世界最高水準の研究開発能力をもつ大学及び公的研究機関が、海外の研究拠点を活用し、世界の活力と一体となった研究活動を展開できるよう支援を行う。その際、国は、これらの大学及び公的研究機関が、現地の優れた研究者の雇用、海外諸地域の特性を活かした研究の実施、海外の研究資金制度の有効活用など、海外資源の取り込みを図ることを期待する。
・ 国は、科学技術の推進において、G8やAPEC、ASEAN+3、東アジア首脳会議(EAS)等の国際的な枠組み、国際連合、OECD等の国際機関、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)等の研究機関の活用を進める。また、各国の政策決定に大きな影響を与える会議において、我が国の科学技術を活かして新たな枠組みづくりを先導する。さらに、原子力の平和利用に関する国際的信頼を得つつ、核不拡散及び核セキュリティに関する技術開発や人材養成における国際協力を先導する。

 3.地球規模問題に関する開発途上国との協調及び協力の推進
  我が国は、アジア、アフリカ、中南米等の開発途上国との国際協力を積極的に推進し、これらの国々における科学技術の発展、人材養成等に貢献していくことを強く期待されており、これは国際社会における我が国の責務でもある。このような観点から、開発途上国との間で、科学技術について多面的な国際協調及び協力を推進する。

<推進方策>
・ 国は、国際機関や各領域で活躍するNPO法人等とも連携しつつ、開発途上国の問題解決に向けて、我が国の先進的な科学技術を活用した国際共同研究と政府開発援助(ODA)による技術協力を組み合わせた取組を推進する。
・ 国は、国際共同研究に関与した相手国の若手研究者等が、我が国で学位を取得することを支援するとともに、帰国後も継続的な支援を行うなど、人材養成において多面的な協力を進める。

 4.科学技術の国際活動を展開するための基盤の強化
  科学技術に関する二国間、多国間の国際協力活動を戦略的に進めていくためには、我が国と諸外国との政府間対話等を一層充実するとともに、海外の科学技術の動向に関する情報を継続的に収集、活用していく必要がある。このため、科学技術の国際活動を展開するための基盤強化を図る。

<推進方策>
・ 国は、閣僚会議の開催等を通じて、首脳や閣僚による諸外国との科学技術に関する政策対話を充実する。また、これまで二国間や多国間協力で培ってきた政府間、機関間の連携の下、政府対話や協定に基づく協力を一層効果的に推進する。
・ 国は、大学や公的研究機関と連携、協力しつつ、これらの機関の海外拠点と在外公館、在外研究者との情報交換や協力体制の構築を進める。また、国は、我が国の国際活動の幅を広げる観点から、民間による科学技術に関する政策対話を支援する。
・ 国は、科学技術に関する政策決定に活用するため、海外の情報を継続的、組織的、体系的に収集、蓄積、分析し、横断的に利用する体制を構築するとともに、これらに携わる人材の養成を進める。

基礎研究及び人材育成の強化

1.基本方針

 基礎研究の振興は、人類の新たな知の資産を創出するとともに、世界共通の課題を克服する鍵となる。また、基礎研究は、我が国の国力の源泉となる高い科学技術水準の維持、発展や、イノベーションによる新たな産業の創出や安全で豊かな国民生活を実現していくための基盤を成すものでもある。さらに、これらの基礎研究によって知のフロンティアを開拓するとともに、課題達成を進めていくのは、それに携わる人である。
 このような観点から、2(ローマ数字).及び3(ローマ数字).で掲げた国として取り組むべき重要課題への対応とともに、「車の両輪」として、長期的視野に立った基礎研究の推進と科学技術を担う人材の育成を一層強化していく必要がある。
 研究者の自由な発想に基づいて行われる基礎研究は、近年、イノベーションの源泉たるシーズを生み出すもの(多様性の苗床)として、また、広く新しい知的・文化的価値を創造し、直接的あるいは間接的に社会の発展に寄与するものとして、ますますその意義や重要性が高まっている。我が国の科学技術イノベーションの礎を確たるものとするためには、国として、独創的で多様な基礎研究を重視し、これを一層強力に推進していくことが不可欠であり、基礎研究の抜本的強化に向けた取組を進める。
 また、我が国としては、科学技術イノベーションの推進を担う多様な人材を、中長期的な視点から、戦略的に育成、支援していく必要がある。特に、近年、あらゆる活動がグローバルに展開される中、人材の国際的な獲得競争は一層激化しており、国をあげて科学技術イノベーションを強力に推進する観点から、優れた人材の育成及び確保に関する取組を強化する。
 さらに、我が国が世界トップクラスの人材を国内外から惹き付け、世界の活力と一体となった研究開発を推進していくためには、優れた研究施設や設備、研究開発環境の整備を進める必要がある。このため、国際水準の研究環境及び基盤の形成を一層促進する。

2.基礎研究の抜本的強化

(1)独創的で多様な基礎研究の強化
 基礎研究は、研究者の知的好奇心や探究心に根ざし、その自発性、独創性に基づいて行われるものである。その成果は、人類共通の知的資産の創造や重厚な知の蓄積の形成につながり、ひいては我が国の豊かさや国力の源泉ともなるものである。このような独創的で多様な研究を広範かつ継続的に推進するための取組を強化する。

<推進方策>
・ 国は、研究者の自由な発想に基づいて行われる基礎研究を支援するとともに、学問的な多様性と継続性を保持し、知的活動の苗床を確保するため、大学運営に必要な基盤的経費(国立大学法人運営費交付金及び施設整備費補助金、私学助成)を充実する。
・ 国は、科学研究費補助金について、新規採択率30%及び間接経費30%の確保に向けて、一層の拡充を図る。また、制度を簡略化し、PI(Principal Investigator)に対する研究費を十分に確保する仕組みを整備する。
・ 国は、これらの研究から生まれたシーズを発展させ、課題達成等につなげていくため、多様な研究資金制度の整備、充実を図るとともに、科学研究費補助金との連携を強化する。特に、基礎的、基盤的な研究を戦略的、重点的に支援するための研究資金を一層拡充する。
・ 国は、基礎研究の性格を踏まえ、研究者の独創性や研究の発展可能性を考慮し、研究課題の柔軟な選定、国際的基準などの多様な指標に基づく評価の実施など、ピアレビューを含めた審査や評価の在り方について改善を図る。
・ 国は、大学、公的研究機関に所属する研究者が、研究の意義や期待される成果について、国民の幅広い理解が得られるよう、情報発信を積極的に進めることを期待する。国は、このような活動を支援する。

(2)世界トップレベルの基礎研究の強化
 国内外の優れた研究者を惹きつけ、世界最先端の研究開発を推進するとともに、国際的に高く評価される研究をさらに伸ばすためには、国際研究ネットワークのハブとなり得る研究拠点を形成する必要がある。このため、世界トップレベルの研究活動、教育活動を行う拠点の形成に向け、大学運営の改革と強化を促進する取組等を進めるとともに、海外から優れた研究者や学生を獲得し、受入を促進するための環境整備を進める。

<推進方策>
・ 国は、国際的に高い水準の研究活動、教育活動を行う研究重点型の大学群の形成に向けて、関連する取組を重点的に支援する。
・ 国は、国際水準の研究の推進や人材の育成と確保、国際的な情報発信の機会の充実等の取組を多面的に支援する。その際、大学及び公的研究機関の機関別、研究領域別に評価を行い、その結果を資金配分に反映する仕組みを検討する。
・ 国は、世界第一線の研究者の集積、迅速な意思決定、独自の人事及び給与体系、全ての職務における英語使用、卓越した融合研究領域の開拓によって、優れた研究環境と高い研究水準を維持する世界トップレベルの拠点の形成を促進する。
・ 国は、国際的な頭脳循環(ブレインサーキュレーション)における中核的拠点として、最先端の大型研究開発基盤を有する研究拠点の形成を進める。
・ 国は、他国の事例も参考としつつ、研究領域別に国際比較が可能な仕組みを作り、各大学の研究領域毎の国際的、国内的位置付けを明らかにする。また、これを踏まえ、各研究領域で国際的なハブとなり得る大学に対し、重点的な資金支援、戦略的な人事や経営を奨励する取組を進める。
・ 国は、上記の取組も通じて、各研究領域の論文被引用数で世界上位50位以内に入る研究教育拠点を100以上構築することや、研究領域毎の論文被引用数で世界トップ1%の研究者を格段に増やすことを目指す。
・ 国は、大学や公的研究機関において、海外の優れた研究者や学生の受入を促進するため、フェローシップ(研究奨励金)や奨学金等の支援体制の充実、再任可能な3年以上の契約、出入国管理制度上の措置の検討、家族の生活環境を含む周辺自治体や地域の国際化に向けた環境整備の支援を行う。また、「留学生30万人計画」に基づき、優秀な留学生の戦略的な獲得に向けた総合的取組を進める。
・ 国は、我が国で研究経験のある研究者、留学生との関係の維持、強化を図るため、再招へいや研究費支援に関する取組を進める。また、海外で活躍する日本人研究者のデータベースを整備し、採用や国際ネットワーク構築における活用を促進する。
・ 国は、大学及び公的研究機関が、海外の優れた研究者の登用を促進するため、研究環境の整備や給与等の処遇面の改善、専門性の高い職員の配置等の体制の強化を進めるとともに、大学等の特性に応じ、海外からの研究者の比率を10%とするなど、多様な取組を進めることを奨励する。国は、これらの取組を支援する。

3.科学技術を担う人材の育成

(1)多様な場で活躍できる人材の育成

 1.大学院教育の抜本的強化
  国際的に通用する高い専門性と、社会の多様な場で活躍できる幅広い能力を身につけた人材を育成する上で、大学院教育が担うべき役割は極めて大きい。大学院をより魅力あるものにし、キャリアパスの充実を図っていくためには、第3期基本計画の成果と課題も踏まえ、社会の多様な要請に応え、大学の教育及び研究の質の向上に向けた取組を進める必要がある。このため、知識基盤社会で活躍できる優れた人材の育成に向けて、大学院教育の抜本的な改革と強化を推進する。

<推進方策>
・ 国は、新たな成長分野で世界を牽引するリーダーの育成を目指し、国際的なネットワークと産業界との連携の下、一貫性のある博士課程教育を実施する「リーディング大学院」の形成を促進する。
・ 国は、人材育成に関する共通理解を図るため、産学間の対話の場として「人材育成協議会(仮称)」を創設する。また、産業界は、この場を通じて、大学院修了者に求める人材像を明確化するとともに、大学院修了者の質の向上とキャリアパスの多様化に向けて、大学の要請に応じ、カリキュラム作成等に協力することが求められる。
・ 国は、大学院改革の方向性と、大学院教育の目的やその達成に向けた体系的、集中的な取組を明示した新たな「大学院教育振興施策要綱」を、中央教育審議会の意見を踏まえて策定し、これに基づく施策の展開を図る。
・ 国は、大学における評価の実質化を促進するとともに、大学の機能別、分野別評価を促進するため、国内的、国際的に比較可能な多面的な評価基準及び評価指標を整備する。また、これらの評価を教育研究支援プロジェクト等の資源配分に活用する方策を検討し、推進する。
・ 国は、大学における研究科や専攻単位での体系的な評価の実施を促進するため、人材育成の目的、そのための達成目標の設定、教育内容と方法の明確化、コースワークの充実、教材の開発と活用等を進めることを求める。国は、これらの取組を支援するとともに、大学院教育に関する情報を集約し一覧できる仕組みを構築する。
・ 国は、大学が、大学院教育の質を確保する観点から、人材育成の目的に応じて、博士課程の入学定員の見直しを検討するとともに、公正で国内外に開かれた入学者選抜を実施することを求める。
・ 国は、大学が、教員の教育面での業績を可視化して多面的に評価し、人事や処遇に反映する取組、教員に対するFD(ファカルティディベロップメント)の実質化、自己研鑽機会の充実等を通じ、教員の意識改革を進めることを期待する。
・ 国は、大学が、海外の大学や研究機関との連携の下、単位互換や我が国の大学と海外の大学との間のダブルディグリープログラムなど、国際的な教育連携を進めることを奨励する。また、国はこれらの取組を支援する。

 2.博士課程における進学支援及びキャリアパスの多様化
  優秀な学生が大学院博士課程に進学するよう促すためには、大学院における経済支援に加え、大学院修了後、大学のみならず産業界、地域社会において、専門能力を活かせる多様なキャリアパスを確保する必要がある。このため、国として、博士課程の学生に対する経済支援、学生や修了者等に対するキャリア開発支援等を大幅に強化する。

<推進方策>
・ 国は、優秀な学生が安心して大学院を目指すことができるよう、フェローシップ、TA(ティーチングアシスタント)、RA(リサーチアシスタント)など給付型の経済支援の充実を図る。これらの取組によって「博士課程(後期)在籍者の2割程度が生活費相当額程度を受給できることを目指す。」という第3期基本計画における目標の早期達成に努める。また、授業料の負担軽減、奨学金の貸与など家計に応じた負担軽減策を講じるとともに、民間からの寄付金等を活用した大学の自助努力を奨励する。
・ 国は、大学が、産業界と協働し、博士課程学生に対して産業界で必要とされるマネジメント能力や複数の専門分野にまたがる基礎的な能力を育成するよう求める。また、産業界は、博士課程修了者やポストドクターの能力を評価し、研究職以外でもその登用を進めていくことが期待される。
・ 国、地方自治体、大学、公的研究機関及び産業界は、互いに協力して、博士課程の学生や修了者、ポストドクターの適性や希望、専門分野に応じて、企業等における長期インターンシップの機会の充実を図るなど、キャリア開発の支援を一層推進する。

 3.技術者の養成及び能力開発
  科学技術イノベーションの推進において、産業界とそれを支える技術者は中核的な役割を果たしている。また、技術の高度化、統合化に伴い、技術者に求められる資質能力はますます高度化、多様化している。このため、国として、こうした変化に対応した技術者の養成と能力開発等の取組を強化する。

<推進方策>
・ 国、大学、高等専門学校及び産業界は、相互に連携、協力して、実践的な技術者養成に向けた分野別到達目標の策定、教材作成、インターンシップ、産学双方向の人材交流を推進する。また、国は、大学が、大学院において、実践的な技術者を目指す学生に対し、複線的で多様なカリキュラム設定を検討するとともに、組織的、体系的な教育体制を整備することを期待する。
・ 国は、技術士など、技術者資格制度の普及、拡大と活用促進を図るとともに、制度の在り方についても、時代の要請にあわせて見直しを行う。また、産業界は、技術士を積極的に評価し、その活躍を促進していくことが期待される。

(2)独創的で優れた研究者の養成

 1.公正で透明性の高い評価制度の構築
  独創的で優秀な研究者を養成するためには、若手研究者に自立と活躍の機会を与え、キャリアパスを見通すことができるよう、若手研究者のポストの拡充を図っていく必要がある。現在、大学では、若手教員の割合が減少する傾向にある一方、教員は大幅な世代交代を迎えつつあり、この機を捉え、若手研究者のポストを増やすとともに、その採用に際し、能力本位の公正で透明性の高い人事システム確立のための取組を推進する。

<推進方策>
・ 国は、大学及び公的研究機関が、研究者の業績評価に当たって質的な評価を重視し、例えば、研究開発成果を実用化につなげる取組や教育業績、論文の国際的な評価など、多様な観点から能力本位の公正かつ柔軟で透明性の高い評価を行うことを求める。また、このような研究者の評価を、その処遇において適切に反映することを期待する。
・ 国は、大学が、その目的や特性に即して、業績や業務に応じた処遇の見直しを検討し、例えば、一定年齢を超えた研究者の再審査や別の給与体系への移行によって、若手研究者のポストの拡充や優秀な研究者の登用を図ることを期待する。
・ 国は、大学及び公的研究機関が、その目的や特性に応じて、国際公募によって、国内外から優秀な人材を登用することを期待する。また、その目的や特性に応じて、年俸制による雇用を段階的に進めることを期待する。

 2.研究者のキャリアパスの整備
  優れた研究者を養成するためには、若手研究者のポストの確保とともに、そのキャリアパスの整備を進めていく必要がある。その際、研究者が多様な研究環境で経験を積み、人的ネットワークや研究者としての視野を広げるためにも、研究者の流動性向上を図ることが重要である。一方、流動性向上の取組が、若手研究者の意欲を失わせている面もあると指摘されており、研究者にとって、安定的でありながら、一定の流動性が確保されるようなキャリアパスの整備を進める。

<推進方策>
・ 国は、テニュアトラック制(注5)の普及、定着を進める大学への支援を充実する。これにより、各大学が、その目的や特性に応じて、テニュアトラック制の導入を進めることにより、テニュアトラック制の教員の割合を、全大学の自然科学系の若手新規採用教員総数の3割相当とすることを目指す。

-----
(注5) 公正で透明性の高い選抜により採用された若手研究者が、審査を経てより安定的な職を得る前に任期付の雇用形態で自立した研究者として経験を積むことができる仕組み
-----

・ 国は、競争的に選考された優れた若手研究者が、自ら希望する場で自立して研究に専念できる環境を構築するため、フェローシップや研究費等の支援を大幅に強化する。
・ 国は、大学や企業等が協働して、優れた研究者が大学や企業等の間でステップアップできるような人事交流を促進することにより、人材の流動化を図ることを期待する。また、大学が、その目的や特性に応じて、出身校以外の国内外の優れた大学や公的研究機関における経験や実績を高く評価する人事システムを構築することを期待する。
・ 国は、優れた資質を持つ若手研究者や学生が海外で積極的に研鑽を積むことができるよう、海外派遣や留学促進のための支援を充実する。また、大学及び公的研究機関が、若手研究者の採用の際に、海外での研究経験を適切に評価する人事システムを構築することを期待する。

 3.女性研究者の活躍の促進
  我が国は、第3期基本計画で女性研究者の採用に関する数値目標を掲げ、その登用及び活躍促進を進めており、女性研究者数は年々増加傾向にある。しかし、その数は、諸外国と比較してなお低い水準にある。女性研究者の登用は、男女共同参画の観点はもとより、多様な視点や発想を取り入れ、研究活動を活性化し、組織としての創造力を発揮する上でも、極めて重要である。このため、女性研究者の一層の登用及び活躍促進に向けた環境整備を行う。

<推進方策>
・ 国は、現在の博士課程(後期)の女性比率も考慮した上で、自然科学系全体で25%という第3期基本計画における女性研究者の採用割合に関する数値目標を早期に達成するとともに、さらに30%まで高めることを目指し、関連する取組を促進する。特に、理学系20%、工学系15%、農学系30%の早期達成及び医学・歯学・薬学系あわせて30%の達成を目指す。
・ 国は、女性研究者が出産、育児と研究を両立できるよう、研究サポート体制の整備等を行う大学や公的研究機関を支援する。また、大学や公的研究機関に対し、柔軟な雇用形態や人事及び評価制度の確立、在宅勤務や短時間勤務、研究サポート体制の整備等を進めることを期待する。
・ 国は、大学及び公的研究機関が、上記目標の達成に向けて、女性研究者の活躍促進に関する取り組み状況、女性研究者に関する数値目標について具体的な計画を策定し、積極的な登用を図るとともに、部局毎に女性研究者の職階別の在籍割合を公表することを期待する。また、指導的な立場にある女性研究者、自然科学系の女子学生、研究職を目指す優秀な女性を増やすための取組を進めることを期待する。

(3)次代を担う人材の育成
 我が国が、将来にわたり、科学技術で世界をリードしていくためには、次代を担う才能豊かな子ども達を継続的、体系的に育成していく必要がある。我が国では、諸外国と比較して、科学について学ぶことに興味を持ち、理数系の勉強が楽しいと答える中学生及び高校生の割合が低いとされており、初等中等教育段階から理数科目への関心を高め、理数好きの子ども達の裾野を拡大するとともに、優れた素質を持つ児童生徒を発掘し、その才能を伸ばすための一貫した取組を推進する。

<推進方策>
・ 国は、教育委員会と大学が連携し、専科制や特別非常勤講師制度も活用して、理工系学部や大学院出身者の教員としての活躍を促進することを期待する。
・ 国は、教育委員会と大学が連携し、現職教員研修や教員養成課程において、科学技術に触れる機会、観察や実験を行う実習の機会を充実するよう求める。
・ 国及び教育委員会は、大学や産業界とも連携し、研究所や工場の見学、出前型の実験や授業、デジタル教材の活用など、実践的で分かりやすい学習機会を充実する。また、国及び教育委員会は、学校における観察や実験設備等の整備、充実を図る。
・ 国及び教育委員会は、大学や産業界の研究者や技術者、教員を志望する理工系学部や大学院の学生等の外部人材が、観察や実験を支援するスタッフとしてより一層活躍できる機会を充実する。
・ 国は、次代を担う科学技術関係人材の育成を目指すスーパーサイエンスハイスクール(SSH)への支援を一層充実するとともに、その成果を広く他の学校に普及するための取組を進める。
・ 国は、国際科学技術コンテストに参加する児童生徒を増やす取組や、このような児童生徒の才能を伸ばす取組を進めるとともに、「科学の甲子園」や「サイエンス・インカレ」の実施など、科学技術に対する関心を高める取組を強化する。
・ 国は、国際科学技術コンテストの結果、スーパーサイエンスハイスクールの成果等を大学の入学試験で評価する取組を支援するとともに、高等学校在籍中における大学の自然科学系科目や専門科目の履修など、円滑な高大連携に向けた取組を促進する。
・ 国は、科学技術に関する才能を伸ばす観点から、高等学校の生徒がより発展的な内容を学べるようにするための方策や大学の入学試験の在り方に関する課題改善等について検討を行う。

4.国際水準の研究環境及び基盤の形成

(1)大学及び公的研究機関における研究開発環境の整備

 1.大学の施設及び設備の整備
  大学が、高度化、多様化する教育研究活動に対応し、優れた人材を惹き付けるとともに、国際競争力の強化、産学連携の推進、地域貢献、さらには国際化を推進するためには、十分な機能を持つ質の高い施設や設備を整備する必要がある。大学の施設及び設備の整備は着実に進捗しているが、財政事情の厳しい中、計画的整備や維持管理に支障が生じており、施設及び設備の整備や高度化、安定的な運用確保に向けた取組を促進する。

<推進方策>
・ 国は、国立大学法人(大学共同利用機関法人及び国立高等専門学校を含む。)において重点的に整備すべき施設等に関する国立大学法人全体の施設整備計画を策定し、安定的、継続的な整備が可能となるよう支援の充実を図る。
・ 国は、国立大学法人が、長期的視野に立ったキャンパス全体の整備計画を策定するとともに、施設マネジメントを一層推進するよう求める。また、寄付や自己収入、長期借入金、PFI(Private Finance Initiative)など、多様な財源を活用した施設整備を進めることを期待する。国は、税制上の優遇措置のあり方の検討を含め、これを支援するための取組を進める。また、私立大学における施設及び設備の整備に係る支援を充実する。
・ 国は、国立大学法人の研究設備の計画的な整備や更新、安定的な維持管理、共同利用・共同研究に供する大型及び最先端の研究設備の整備に関する支援の充実を図る。また、研究設備の保守、運用、整備を行う技術職員の確保を支援する。
・ 国は、大学が保有する研究施設及び設備について、限られた資源の有効活用を図るため、大学間連携による相互利用や再利用を効果的に行う体制の整備を進める。
・ 国は、大学が中心になって進める科学研究の大型プロジェクトについて、研究者コミュニティーの議論を踏まえて、運用段階も含めた推進計画を策定し、これを基本としつつ、客観的かつ透明性の高い評価の実施の上で、安定的、継続的な支援を行う。その際、国際協力で進めるプロジェクトについては、我が国の研究開発能力の国際的な位置付けや国内における利用度等を適切に勘案し、参加の要否や関与の程度等について慎重に検討する。また、プロジェクト開始後も不断の見直しを行い、より優先度の高いプロジェクトに重点化するなど、資源配分の最適化を図る。

 2.先端研究施設及び設備の整備、共用促進
  整備や運用に多額の経費を要し、科学技術の広範な分野で共用に供することが適切な先端研究施設及び設備については、これまで公的研究機関が中心となって整備や運用を進めてきた。このような最先端の研究施設及び設備は、優れた研究開発成果の創出や人材養成において極めて重要であるが、公的研究機関に対する財政支援が減少傾向にある中、その維持管理の在り方が問題となっている。このため、公的研究機関等が施設及び設備の整備や運用、幅広い共用促進を行うことができるよう取組を進める。

<推進方策>
・ 国は、公的研究機関を中心に、世界最先端の研究開発の推進に加えて、幅広い分野への活用が期待される先端研究施設及び設備の整備、更新等を着実に進めるとともに、その着実な運用や、「共用法」(注6)に基づく施設など世界最先端の研究施設及び設備について共用を促進するための支援を行う。

-----
(注6) 特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律(平成6年法律第78号)
-----

・ 公的研究機関等は、保有する施設及び設備の共用を促進するとともに、これを利用する研究者や機関の利便性を高めるため、安定的な運転時間の確保や利用者ニーズを把握した上での技術支援者の適切な配置など、利用者支援体制を充実、強化する。また、優れた研究成果が創出できるよう、共用に際して、研究課題の公募や選定の在り方を含め、より成果が期待される研究開発を戦略的に実施するための方策を講じる。
・ 国及び公的研究機関は、分野融合やイノベーションの促進に向けて、飛躍的な技術革新をもたらし、幅広い研究開発課題に共通して用いられる基盤技術の高度化につながる研究施設及び設備の整備を進めるとともに、相互のネットワークを強化する。

(2)知的基盤の整備
 研究開発活動を効果的、効率的に推進していくためには、研究成果や研究用材料等の知的資産を体系化し、幅広く研究者の利用に供することができるよう、知的基盤(注7)を整備していく必要がある。研究用材料、計量標準、計測・評価方法等の整備はこれまでも順調に進捗しており、今後は、多様な利用者ニーズに応えるため、質の充実の観点も踏まえつつ、知的基盤の整備を促進する。

-----
(注7) 研究用材料、計量標準、計測・分析・試験・評価方法及びそれらに係る先端的機器、関連データベース等
-----

<推進方策>
・ 国は、「知的基盤整備計画」の達成状況を踏まえ、新たな整備計画を策定し、大学や公的研究機関等を中核的機関として、関係する機関との連携、協力による知的基盤の整備及びその利用、活用を促進する。
・ 国は、利用者ニーズを踏まえた成果の蓄積、データベースの整備や統合、その利用、活用、既に整備された機器及び設備の有効活用を促進し、知的基盤の充実及び高度化を図る。また、知的基盤整備に関する国際的な取組への参画、他国との共同研究の実施、相互利用の促進、標準化の取組を進める。
・ 国は、先端的な計測分析技術及び機器について、事業化の主体や利用者を交えた連携体制による開発を進めるとともに、開発された技術や機器について、大学や企業等の研究開発機関や市場への普及、活用を促進する。
・ 国は、安定的かつ継続的な知的基盤整備の進展を図るため、整備に関わる人材の養成及び確保、整備機関に対するインセンティブ付与のための取組を進める。

(3)研究情報基盤の整備
 研究情報基盤は、我が国の研究開発活動を支える基盤的情報インフラであり、これまでも研究情報ネットワークの整備や運用、研究成果の保存、発信など着実な推進が図られてきた。一方、財政問題や事務体制、技術的問題により、個々の機関では研究情報基盤の整備が難しくなりつつある。これらを踏まえ、国として、研究成果の情報発信と流通体制の一層の充実に向けて、研究情報基盤の強化に向けた取組を推進する。

<推進方策>
・ 国は、大学や公的研究機関における機関リポジトリ(注8)の構築を推進し、論文、観測、実験データ等の教育研究成果の電子化による体系的収集、保存やオープンアクセスを促進する。また、学協会が刊行する論文誌の電子化、国立国会図書館や大学図書館が保有する人文社会科学も含めた文献、資料の電子化及びオープンアクセスを推進する。

-----
(注8) 論文等のデータを機関毎に保存・公開する電子アーカイブシステム
-----

・ 国は、デジタル情報資源のネットワーク化、データの標準化、コンテンツの所在を示す基本的な情報整備、さらには情報を関連付ける機能の強化を進め、領域横断的な統合検索、構造化、知識抽出の自動化を推進する。また、研究情報全体を統合して検索、抽出することが可能な「知識インフラ」としてのシステムを構築し、展開する。
・ 国は、大学や公的研究機関が、電子ジャーナルの効率的、安定的な購読が可能となるよう、有効な方策を検討することを期待する。また、国はこれらの取組を支援する。

社会とともに創り進める政策の展開

1.基本方針

 我が国では、近年、科学技術イノベーション政策をめぐる政治、経済、社会的環境が大きく変化しつつあり、その変化に対応した改善、改革を着実に進めていく必要がある。
 特に、科学技術イノベーション政策の策定や推進においても、国民の理解と支持と信頼を得ていくことがますます重要となっている。
 このような観点から、第4期基本計画では、科学技術イノベーション政策を「社会及び公共のための政策」の一環と位置付け、社会と科学技術イノベーションとの関係の深化に向けて、政策への国民参画の促進や科学技術コミュニケーション活動を推進する。
 また、政策の企画立案及び推進の各段階において、推進主体、目的、目標を明確化し、説明責任を強化するとともに、PDCAサイクルの確立に向けた取組を進める。
 科学技術の研究開発システムに関しては、これまでも、国、大学、公的研究機関において、その改革に向けて様々な取組が進められ、研究開発基盤の整備、研究環境の改善が図られてきた。一方、全ての政策分野において一層の効率性が求められる中、政策の推進体制、研究資金の配分、研究開発の実施体制等で課題も指摘されている。また、平成20年には研究開発力強化法が制定され、同法の3年以内(平成23年10月)の見直しが謳われている。このため、国として、研究開発を取り巻く現状と課題を踏まえ、研究開発システム改革を強力に推進することで、科学技術イノベーション政策の実効性を大幅に高める。
 さらに、第4期基本計画の目標達成に向けて、科学技術イノベーション政策を着実に実行していくためには、研究開発投資の十分な確保が不可欠である。諸外国が科学技術投資を一層強化する中、我が国唯一の資源とも言うべき科学技術イノベーションの競争力を高め、国際的地位を保持し続けていくためにも、国民の広範な理解と支持と信頼を得て、研究開発投資の一層の拡充を図る。

2.社会と科学技術イノベーションとの関係深化

(1)国民の視点に基づく科学技術イノベーション政策の推進

 1.政策の企画立案及び推進への国民参画の促進
  我が国において、科学技術イノベーション政策を推進することが、経済的、社会的に価値あるものとなるためには、国が、その企画立案、推進に際して、取り組むべき課題や社会的ニーズについての国民の期待を的確に把握し、これを適切に政策に反映していく必要がある。また、これらの政策を広く国民各層に発信し、説明責任の強化に努めることも必要である。このため、政策の企画立案、推進に際して、意見公募手続きの実施や、国民の幅広い参画を得るための取組を推進する。

<推進方策>
・ 国は、科学技術イノベーション政策で対応すべき課題や社会的ニーズ、成果の社会還元の方策等について、広く国民が議論に参画できる場の形成など、新たな仕組みを整備する。
・ 国は、政策、施策、さらには大規模研究開発プロジェクトの企画立案及び推進に際し、国民の幅広い意見を取り入れるための取組を進める。また、国は、大学や公的研究機関が、同様の取組を積極的に進めていくことを期待する。
・ 国は、国民の政策への関与を高める観点から、例えば、NPO法人等による科学技術活動、社会的課題に関する調査及び分析に関する取組などを支援する。
・ 国は、科学技術に関する政策の立案を担う側と研究開発を担う側の連携を深めるため、国会議員や政策担当者と研究者の対話の場づくりを進める。
・ 国は、政策、施策等の目的、達成目標、達成時期、実施主体、予算等について可能な限りの明確化を図り、これら及びその進捗状況を広く国民に発信するとともに、得られた国民の意見を政策等の見直しに反映する取組を進める。

 2.倫理的・法的・社会的課題への対応
  科学技術が進展し、その内容が複雑化、多様化する中、生命倫理問題や遺伝子組換え生物(GMO)に対する不安など、科学技術と国民の関わりは法的、倫理的、社会的にますます深くなりつつある。このため、国として、科学技術が及ぼす社会的な影響やリスク評価に関する取組を一層強化する。

<推進方策>
・ 国は、科学技術を担う者が倫理的・法的・社会的課題を的確に捉えて行動していくための指針を、国際動向も踏まえ、策定する。その際、学協会等において、主体的にこれらの指針等の策定を念頭に置いた取組を進めることを期待する。
・ 国は、倫理的・法的・社会的課題への取組を促進するため、研究資金制度の目的や特性に応じて、これらの取組に研究資金の一部を充当することを促進する。
・ 国は、科学的合理性と社会的正当性に関する根拠に基づいた審査指針や基準の策定に向けて、レギュラトリーサイエンスを充実する。
・ 国は、テクノロジーアセスメント(注9)の在り方について検討するとともに、政策等の意思決定に際し、テクノロジーアセスメント等に基づく幅広い合意形成を図るための取組を進める。

-----
(注9) 研究開発の発展段階に応じ、科学技術が社会や国民に与える影響について調査分析、評価を行う活動
-----

 3.社会と科学技術イノベーション政策をつなぐ人材の養成及び確保
  科学技術イノベーション政策に関わる取組を実効性のあるものとしていくためには、それに携わる人材の役割が重要である。このため、国は、社会と科学技術イノベーションとの橋渡しを担う人材の養成及び確保に向けた取組を進めるとともに、これら人材の科学技術イノベーションの多様な場における活躍を促進する。

<推進方策>
・ 国は、戦略協議会を主導する「戦略マネージャー(仮称)」、関係府省や資金配分機関におけるPD(プログラムディレクター)、PO(プログラムオフィサー)など、社会や国民からの要請等を踏まえつつ、科学技術イノベーションに関する研究開発等のマネジメントを担う人材を養成、確保する。
・ 国は、専門知識を活かして研究開発活動全体のマネジメントを担う研究管理専門職(リサーチアドミニストレーター)、研究に関わる技術的業務や知的基盤整備を担う研究技術専門職(サイエンステクニシャン)、知的財産専門家等を養成、確保する。
・ 国は、テクノロジーアセスメントをはじめ、社会と科学技術イノベーションとの関わりについて専門的な知識を有する人材を養成、確保する。
・ 国は、国民と政策担当者や研究者との橋渡しを行い、研究活動や得られた成果等を分かりやすく国民に伝える役割を担う科学技術コミュニケーターを養成、確保する。

(2)科学技術コミュニケーション活動の推進
 科学技術イノベーション政策を、国民の理解と支持と信頼の下に進めていくには、研究開発活動や期待される成果に関し、国民と国、研究機関、研究者との間の双方向のコミュニケーション活動が必要である。このため、研究者による科学技術コミュニケーション活動、科学館や博物館における様々な科学技術に関連する活動等をこれまで以上に積極的に推進する。また、これにより、科学技術に関する知識を適切に捉え、柔軟に活用できるよう、国民の科学技術リテラシーの向上を図る。

<推進方策>
・ 国は、国民が科学技術に触れる機会を増やすため、地域と共同した科学技術関連のイベントの開催、科学技術週間を活用した研究施設の一般公開、サイエンスカフェの実施等を通じて、双方向での対話や意見交換の活動を積極的に展開する。
・ 国は、各地域の博物館や科学館における実験教室や体験活動等の取組を支援する。また、科学技術に関わる様々な活動を行う団体等を支援する。
・ 国は、大学や公的研究機関における科学技術コミュニケーション活動に係る組織的な取組を支援する。また、一定額以上の国の研究資金を得た研究者に対し、研究活動の内容や成果について国民との対話を行う活動を積極的に行うよう求める。
・ 国は、大学及び公的研究機関が、科学技術コミュニケーション活動の普及、定着を図るため、個々の活動によって培われたノウハウを蓄積するとともに、これらの活動を担う専門人材の養成と確保を進めることを期待する。また、研究者の科学技術コミュニケーション活動参加を促進するとともに、その実績を業績評価に反映していくことを期待する。
・ 国は、学協会が、研究者による研究成果の発表や評価、研究者間あるいは国内外の関係団体との連携の場として重要な役割を担っていることを踏まえ、そうした機能を強化するとともに、研究の知見や成果を広く社会に普及していくことを期待する。

3.実効性のある科学技術イノベーション政策の推進

(1)政策の企画立案及び推進機能の強化
 我が国では、内閣総理大臣のリーダーシップの下、科学技術政策を府省横断的に推進する組織として総合科学技術会議が設置され、基本政策等の戦略や資源配分方針の策定、大規模研究開発の評価などにおいて役割を果たしてきた。しかし、科学技術イノベーション政策の一体的推進のためには、より幅広い観点から、政策を計画的かつ総合的に推進する機能を強化していく必要がある。このため、科学技術イノベーション政策を国家戦略として位置付け、より一層強力に推進する観点から、総合科学技術会議を改組して「科学技術イノベーション戦略本部(仮称)」を創設し、政策の企画立案と推進機能の強化を図る。

<推進方策>
・ 国は、科学技術イノベーション政策を国家戦略における重要政策と位置付け、「科学技術イノベーション戦略本部(仮称)」の下、第4期基本計画に基づく具体的な戦略の策定、科学技術イノベーションに関連する予算の確保及び資源配分に関する取組を強力に推進する。
・ 国は、産学官の幅広い参画を得て、国が定める重要課題毎に戦略協議会を創設し、ここでの検討を踏まえて、それぞれの重要課題に対応した戦略を策定する。また、戦略協議会において、これらの戦略に基づく取組を推進する。
・ 国は、関係府省の連携、協力の下、重要課題に関する施策を総合的に推進する「科学技術重要施策アクションプラン」(以下、「アクションプラン」という。)の取組を拡充するとともに、アクションプラン及び資源配分に関する取組を活用し、予算編成プロセスの改革を進める。アクションプランの策定においては、戦略協議会における具体的な戦略の検討の成果を十分に活用する。
・ 国は、我が国の研究開発システムの機能を「政策決定」、「施策策定」、「資金配分」、「研究開発実施」の4段階に区分し、それぞれの段階に求められる役割、機能、主体等の明確化を図る。
・ 国は、客観的根拠(エビデンス)に基づく政策の企画立案や、その評価及び検証の結果を政策に反映するため、「科学技術イノベーション政策のための科学」を推進する。その際、自然科学の研究者はもとより、広く人文社会科学の研究者の参画を得るとともに、これらの取組を通じて、政策形成に携わる人材の養成を進める。
・ 国は、科学技術によるイノベーションを促進する観点から、これを阻む隘路となる規制や制度を特定するとともに、その改善方策を関係府省間で議論するための仕組みを整備する。

(2)研究資金制度における審査及び配分機能の強化

 1.研究資金の効果的、効率的な審査及び配分に向けた制度改革
  研究資金制度の運用においては、研究資金が研究者や研究機関で適切に活用されるよう、研究資金の審査及び配分主体を明確にするとともに、研究資金が使いやすく、効果的なものとなるよう、制度の改善を図っていく必要がある。現在、研究資金の配分等は、制度に応じて、府省と資金配分機関が担っている。また、研究費の使いやすさは改善しつつあるものの、使途等でなお問題のあることが指摘されている。これらを踏まえ、より効果的で効率的な研究資金制度に向けた改革を進める。

<推進方策>
・ 国は、行政需要と直結した研究開発については各府省が、それ以外の研究開発は独立した資金配分機関が、研究資金の審査及び配分機能を担うこととし、研究資金の効率的で弾力的な運用やマネジメントの専門性確保の観点から、資金配分機関が担うことが適切な研究資金制度については、その目的や特性に応じて、各府省からの機能の移管を進める。
・ 国は、目的や研究開発対象が類似する研究資金制度について、府省内あるいは府省を越えた整理統合を行う。また、研究資金制度の使用ルール等の統一化、簡素化、合理化や、繰越明許制度の活用を一層推進するとともに、複数年度にわたる執行を可能とするような制度改革を検討する。
・ 国は、研究資金で購入した設備の有効利用を図るため、資金を支給された研究者以外との設備の共同利用が広く認められるよう、研究資金制度の条件緩和を進める。
・ 国は、平成21年度に基金として設けられた「最先端研究開発支援プログラム」を推進するとともに、研究費の弾力的運用の観点から、プログラムの評価を行う。また、その他の研究資金制度についても、その目的や特性に応じた制度改革を検討する。

 2.競争的資金制度の改善及び充実
  競争的資金制度は、競争的な研究環境を形成し、研究者が多様で独創的な研究開発に継続的、発展的に取り組む上で基幹的な研究資金制度であり、目的や特性に応じて多様な制度が設けられている。研究開発活動がますます高度化、複雑化する中、競争的資金制度の多様性を確保した上で、制度の一層の改善及び充実に向けた取組を進める。

<推進方策>
・ 国は、新規採択率の向上や一件当たりの十分な研究費の確保を目指し、競争的資金の一層の充実を図る。その際、全ての競争的資金制度において、直接経費を確保しつつ、間接経費の30%措置を実施するよう努める。また、国は、大学及び公的研究機関等が、間接経費の効果的な活用を図ることを求める。
・ 国は、我が国の競争的資金制度全体を俯瞰した上で、資金配分機関の多様性の確保を前提として、各制度の目的や位置付けの明確化を図るとともに、制度間の連続性を確保するための取組を推進する。
・ 国及び資金配分機関は、公正かつ透明で質の高い審査及び評価を行うため、審査員の年齢、性別、所属等の多様性の確保、利害関係者の排除、審査員の評価システムの整備、さらには審査及び採択の方法や基準の明確化、審査結果の開示を徹底する。
・ 国及び資金配分機関は、PD(プログラムディレクター)、PO(プログラムオフィサー)の権限と役割の明確化を図った上で、その充実と確保を図る。また、国は、大学及び公的研究機関が、PD、POとしての職務経験を評価し、研究者のキャリアパスの一つとして位置付けることを期待する。
・ 国及び資金配分機関は、資金配分の不合理な重複や過度の集中を避けるため、大学及び公的研究機関に研究者のエフォート管理の徹底を求めるとともに「府省共通研究開発管理システム(e-Rad)」を運用し、競争的資金を適切かつ効率的に執行する。
・ 国及び資金配分機関は、研究資金の不正使用の防止に向けた取組を進める。また、国は、大学及び公的研究機関が、研究資金の適切な管理と監査体制を整備するよう求める。

(3)研究開発の実施体制の強化

 1.研究開発法人の改革
  研究開発法人は、長期的視野に立った研究開発、公共性が高い研究開発、現時点ではリスクが高い研究開発など、民間や大学では困難な研究開発を実施する機関である。現在、研究開発法人は独立行政法人として設立されているが、研究開発の特殊性等を十分に踏まえた法人制度に改善を図る必要がある。このような観点から、研究開発力強化法及び附帯決議では、研究開発法人の在り方について必要な措置を講じるとされたところであり、これらを踏まえ、研究開発法人の機能強化に向けた取組を推進する。

<推進方策>
・ 国は、「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」を踏まえつつ、研究開発の特性(長期性、不確実性、予見不可能性、専門性)に鑑み、組織のガバナンスやマネジメントの改革等を実現する国の研究開発機関に関する新たな制度を創設する。また、現行制度においても、運用上、改善が可能なものについては、早急に見直しを検討する。
・ 国は、研究開発法人に対して必要な予算措置を行うとともに、研究開発法人における施設及び設備の共用、共同研究や受託研究の受入等による外部資金の導入を促進する。

 2.研究活動を効果的に推進するための体制整備
  大学や公的研究機関において、研究活動を効果的、効率的に推進していくためには、研究者に加えて、研究活動全体のマネジメントや、知的財産の管理、運用、施設及び設備の維持、管理等を専門とする多様な人材が活躍できる体制を整備する必要がある。しかし、各研究機関における専門人材の確保が十分ではなく、研究者が研究時間を十分確保できていないとも指摘されており、これらの改善に向けた取組を強化する。

<推進方策>
・ 国は、大学が、博士課程の学生や修了者、ポストドクターに対し、リサーチアドミニストレーター、サイエンステクニシャン、知的財産専門家等としての専門性を身に付けることができるような取組を進めることを奨励する。また、国は、これらの取組を支援する。
・ 国は、大学及び公的研究機関において、リサーチアドミニストレーター、サイエンステクニシャン、知的財産専門家等の多様な人材を確保する取組を支援する。また、大学及び公的研究機関が、これらの人材を適切に評価し、処遇に反映するとともに、そのキャリアパスを構築していくことを期待する。
・ 国は、大学が、計画的なSD(スタッフディベロップメント)によって、研究活動の推進に関わる人材の養成と確保を進め、事務局体制を強化することを求める。また、これらの職員の活動実績を適切に評価し、処遇に反映することを期待する。

(4)科学技術イノベーション政策におけるPDCAサイクルの確立

 1.PDCAサイクルの実効性の確保
  科学技術イノベーション政策を効果的、効率的に推進するためには、政策、施策等の達成目標、実施体制などを明確に設定した上で、その推進を図るとともに、進捗状況について、適時、適切にフォローアップを行い、政策等の見直しや新たな政策等の企画立案に反映するPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを確立する必要がある。このため、国として、PDCAサイクルの実効性の確保に向けた取組を進める。

<推進方策>
・ 国は、政策、施策、プログラム又は制度、個別研究開発課題という研究開発システムの階層毎に、目的、達成目標、達成時期、実施主体等の可能な限りの明確化を図る。その上で、これらに基づく評価の実施を徹底するとともに、評価結果を政策等の見直しや新たな政策等の企画立案、資源配分の重点化、効率化等に適切に反映する。
・ 国は、戦略協議会において、それぞれの重要課題に対応した戦略全体の進捗状況を踏まえて、研究開発や推進体制、資金配分等の見直しを行うなど、戦略の柔軟かつ弾力的な推進を図るとともに、これを戦略に適時、適切に反映する。
・ 国は、アクションプランに関して、予算への反映状況や施策の進捗状況等に関するフォローアップを行い、その改善に反映する。その際、戦略協議会における検討の成果も十分に活用する。
・ 国は、第4期基本計画の進捗状況について、適時、適切にフォローアップを行い、その結果を、基本計画の見直しや新たな政策の企画立案に活用する。

 2.研究開発評価システムの改善及び充実
  研究開発の実施段階における評価は、研究開発の質を高め、PDCAサイクルを確立する上で重要な役割を担っている。一方で、研究開発の高度化と複雑化に伴い、評価に求められる視点も多様化し、これも一因となって、評価の重複や過剰な負担の問題が指摘されている。このため、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」に沿って研究開発評価システムの一層の改善と充実を図り、優れた研究開発活動の推進や人材養成、効果的、効率的な資金配分、説明責任の強化等への評価結果の活用を促進する。

<推進方策>
・ 国は、研究開発の各階層(政策、施策、プログラム又は制度、研究開発課題)を踏まえた研究開発評価システムの構築も含め、科学技術イノベーションを促進する観点から、研究開発評価システムの在り方について幅広く検討を行い、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」について必要な見直しを行う。
・ 国及び資金配分機関は、ハイリスク研究や新興・融合領域の研究が積極的に評価されるよう、多様な評価基準や項目を設定する。研究開発課題の評価においては、研究開発活動に加えて、人材養成や科学技術コミュニケーション活動等を評価基準や評価項目として設定することを進める。また、それが有効と判断される場合には、世界的なベンチマークの適用や海外で活躍する研究者等の評価者としての登用を促進する。
・ 国及び資金配分機関は、優れた研究開発成果を切れ目無く次につなげていくため、研究開発が終了する前の適切な時期に評価を行う取組を促進する。
・ 国及び資金配分機関は、評価の重複や過剰な負担を避けるため、他の評価結果の活用を通じて、研究開発評価の合理化、効率化を進める。
・ 国は、評価に関する専門的知見や経験を有する人材の養成と確保を進める。国は、大学及び公的研究機関が、業務運営のための情報システムを研究開発評価にも活用できるようにするなど、評価を効果的、効率的に行う事務体制を整備するとともに、これに携わる人材の養成やキャリアパスの確保を進めることを期待する。

4.研究開発投資の拡充

 天然資源に乏しく、少子高齢化の進展や人口減少が見込まれる我が国にとって、科学技術、そしてそれに基づくイノベーションは、将来に向けた唯一とも言うべき競争力の源泉であり、その意味で我が国の生命線と言ってもよい。このような観点から、我が国ではこれまで、基本計画において研究開発投資の拡充に向けた目標額を掲げ、政府一体となって科学技術への取組を強化してきた。これにより、第2期及び第3期基本計画に関しては目標額には至らなかったものの、国のGDPが伸び悩み、財政事情も厳しい中、他の政策経費に比べて、科学技術関係経費の増額が図られてきたことは高く評価される。
 しかし、近年、先進国に加えて、中国をはじめとする新興国が科学技術に関する投資の大幅な拡充を進め、国をあげて、その発展を図っており、科学技術においても、我が国の相対的地位が将来的に低下していくことが強く懸念される。このため、我が国として、第4期基本計画で掲げる政策を着実に実行し、科学技術先進国としての地位を保持するとともに、各国との協調、協力の下、地球規模の課題解決など科学技術イノベーションで世界に貢献していくためには、これらを支える研究開発投資の目標を明確に設定した上で、投資を拡充していくことが不可欠である。
 政府においては、2020年度までの官民合わせた研究開発投資の拡充目標(注10)を設定したところであるが、一方で我が国の政府負担研究費割合が諸外国に比して低水準であること、民間企業の研究開発投資が厳しい状況にある中、政府の研究開発投資が呼び水となり、民間投資が促進される相乗効果が期待されること、さらに諸外国が研究開発投資目標を掲げて拡充を図っていること等を総合的に勘案し、第4期基本計画においては政府研究開発投資に関する具体的な目標を設定して、投資を拡充していくことが求められる。
 このため、官民合わせた研究開発投資を対GDP比の4%以上にするとの目標に加え、政府研究開発投資を対GDP比の1%にすることを目指すこととする。
 その場合、第4期基本計画期間中の政府研究開発投資の総額の規模を約25兆円とすることが必要である(同期間中に政府研究開発投資の対GDP比率1%、GDPの名目成長率平均2.8%を前提に試算)。
 これらを踏まえ、我が国の財政状況が一層悪化し危機的な状況となる中、平成22年6月に閣議決定された財政健全化目標及び中期財政フレームを含む財政運営戦略との整合性の下、基本計画に掲げる施策の推進に必要な経費の確保を図ることとする。
 また、これと同時に、民間の研究開発投資を誘発するため、国として、規制や制度の合理的な見直しや、民間研究開発投資への税制優遇措置等について検討を行うことが必要である。

-----
(注10) 「新成長戦略」において、「2020年度までに官民合わせた研究開発投資をGDP比の4%以上にする。」とされている。
-----

お問合せ先

高等教育局私学部参事官付

-- 登録:平成23年02月 --