有識者の講演2(東京会場)

平成27年10月29日

大学の発展にコミットする監事監査を目指して
学校法人相模女子大学における非常勤監事の監査の実例報告
レジュメ

学校法人相模女子大学監事
程島俊介

【1】学校法人相模女子大学の現況

1.規模(平成26年5月1日)  在学生数
  a. 大学  3学部、1研究科   3,047名
  b. 短大  1学部           273名
  c. 高等部               934名
  d. 中学部                  306名
  e. 小学部                  406名
  f. 幼稚部                   350名
               合計        5,316名    
*中学部と高等部は、中高一貫校としての一体化を目指している。
*幼稚部から大学院まで同一キャンパス内にある。
*幼・小は男女共学

2.教職員数
  a. 大学・短大教員                 142名
  b. 幼稚部・小学部・中学部・高等部教諭 113名
  c. 専任職員数                     61名
                           合計   316名 

3.予算規模  平成26年度   収入 104億7900万円

【2】監査体制

(1)非常勤監事 2名(ともに外部監事)(元他大学教授と元他大学職員)
*6年前まで常勤監事1名と非常勤監事1名)
(2)会計監査人
(3)内部監査室なし
(4)非常勤監事の役割
  a. 年約14回の理事会(毎月1回木曜日が原則)と年3,4回の評議員会に出席、意見を述べる。
  b. 監事監査計画書の作成
  c. 各部(幼稚部から大学まで)へのヒアリング
  d. 会計監査人との連携(年3回以上)
  e. 監事監査結果報告書の作成、理事会・評議員会報告
  f. 文科省調査で、監事の意見を聞くケースがこのところ増えている。
  g. 規程、危機管理、不祥事等についての相談

【3】監査の進め方

1.監査の流れ

(1)監査計画書を作成する→資料1参照
 ↓
(2)監査作業の方法としてヒアリング・視察を中心に行う(年9回)
 ↓
(3)会計監査人との打ち合わせを最低年3回行う。
 ↓
(4)監査結果報告書の作成・報告

2.監査計画における基本方針の内容

(1)本学の理念・目標の達成に資する観点からの監査
(2)前年度の監査結果報告書の所見欄に対する対応の確認
(3)前年度会計監査人による監査指摘事項の改善状況の確認
(4)今年度の事業計画及び予算の実施状況の監査
(5)法令順守とリスク管理の徹底
(6)監査環境の整備(内部監査室の設置)

3.監査計画における重要監査事項の主な内容(最近3か年)

(1)内部監査体制の整備
(2)学園全体のガバナンス(理事会、規程、内部監査、危機管理)の検証
(3)幼・小・中・高・大学全体の連携と一貫教育の具体的内容
(4)「Sagami Vision 2020」と「中長期基本計画」の進捗状況
(5)大学基準協会による評価を踏まえた教育・研究環境の整備状況
(6)人事制度及び組織改革の進捗状況
(7)施設・設備整備状況、防災体制及び進行中の建設状況
(8)学校法人会計基準の改定とその対応状況
(9)法人全体の企画、立案、執行プロセス
(10)志願者増と定員充足の具体的対策
(11)中高一貫教育の在り方に関する具体的な作業内容
(12)教育・研究環境(特に、サバティカル、在外研究)の状況
(13)教育の質保証システムの検証 

4.監査方法としてのヒアリング:各部トップとのコミュニケーションの大切さ

(1)9月から翌年4月までの間、毎月1回木曜日の理事会終了後に行います。
a.法人(理事長、専務理事、常務理事等)、b.教学(学長、副学長)、c.幼稚部(園長、副園長)、d.小学部(校長、副校長)、e.中・高等部(校長、副校長)、f.事務局(事務局長、各部長)、g.経理課(課長)のそれぞれの責任者と、2,3時間、面接(ヒアリング)を行う。
法人とのヒアリングは2回行う。1回目は、9月の冒頭で、基本方針を説明し、理解を得ることと前年度の監事所見に対する対応を聞くこと。2回目はヒアリングの最後(3月頃)で、これまでのヒアリングで課題となったことについて意見交換をするとともに各部門の要望を伝える。
(2)ヒアリングの内容は、事前に該当者に伝える。
(3)ヒアリングの内容のポイントは、a.前年度監事所見編対応、b.今年度事業計画の進捗状況(主な課題を列挙)、c.「Vision」及び「中長期基本計画」への取り組み状況、d.その他、それぞれの部門の重要課題、である。
(4)ヒアリングの結果はその都度記録メモを作成、のちの結果報告書の基礎データとなる。
(5)ヒアリング結果を基に、両監事で相談のうえ(すべてメールでのやり取り)、監事監査結果報告書を作成する。
(6)ヒアリングの事例(法人・教学)
   事例1.法人へのヒアリング
    a. 大学基準協会第3者評価結果報告に対する対応について確認
  b. 内部監査室の設置について要請
  c. 学生定員不足の解消に向けた対応について確認
  d. 理事会の体制(常務理事会との関係)、構成(職員)、運営(議事録、委任状)、規程整備等について確認と要望
  e. 法令順守とリスク管理の徹底
  f. 「Vision」と「中長期基本計画」を踏まえた総合学園としての特色(相模女子教育)づくりについての確認
  g. 認定こども園対策の状況確認
  h. 理事長と学長との連携強化について要望
   事例2.教学へのヒアリングの実例
  a. 大学基準協会第3者評価結果報告に対する対応について
  b. 自己点検評価の進め方について
  c. 「Vision」と「中長期基本計画」を踏まえた総合学園としての特色(相模女子教育)づくりについて
  d. 最近の中教審答申等への対応について
  e. FDの一環としての授業見学の進捗状況について
  f. 教員給与体系の見直しについて
  g. 在外研究・留学の拡大について
  h. 入学者確保への具体的努力について
  i. 教育の質の向上としてのCAP、カリキュラムツリー、ナンバリングの実施状況について
  j. 学長と理事長の分離に伴う連携強化と学長を中心とした教育研究体制の構築について
(7)会計監査人との打ち合わせ内容:会計監査人との連携が大切
  a. 監査開始時(9月)打合せ
  ・監事の監査計画書の内容について説明する。
  ・会計監査人の監査計画書について説明を受ける。
  ・当年度の監査スケジュールを調整する。
  ・情報・意見交換をする。
  b. 中間打合せ(1,2月)
  ・監事ヒアリングの経過報告をする。
  ・会計監査人からの監査経過を聞く。
  ・情報・意見交換をする。
  c.決算時打ち合わせ(4月下旬)
  ・監事監査結果報告書案の概要を説明する。
  ・会計監査人監査報告(中間報告概要)の説明を受ける。
  ・相互の監査内容について意見交換、問題点の確認をし、役割分担を話し合う。
   d.決算終了後の話合い(6月):検討中

【4】監事監査結果報告書の内容

1.構成(A4版9ページ)

  (1)本年度監事監査の基本(P.1)
    a.基本方針、b.本年度の重要監査項目、c.監査の方法
 (2)ヒアリングを中心とした監査作業経過(P.2)
 (3)ヒアリング等の概要(P.2-4)
 (4)監査結果報告(P.4)
 (5)監事所見(P.4-9):a.総論、b.各論 

2.主な監査所見内容:監事見解の重みが問われる 

(1) 総論
   a. 「Sagami Vision2020」「中長期基本計画」の進捗とそれを踏まえた総合学園としての特色(相模女子教育)(平成26、25年)
     →本学園独自の一貫した「女子教育」の在り方を、全教職員及び卒業生一丸となって、具体的に検討し、世に問うて欲しい。
   b. 財政基盤強化、定員不足対策、学生募集対策の具体化を(平成26、25、24、23、22年)

     →具体的には、内部進学者の増加対策を各部門の垣根を越えて早急に検討することを求めている。
   c. 内部統制の強化、内部監査室の設置、常任監事の導入を(平成26、25、24、23、22年)

     →第一に、内部監査室の設置について、具体的検討段階に入っており、早急の実現を求めていく。
   d. 教員給与体系の見直し(平成26、25、23年)
     →大変困難な課題であるが、現在の賃金体系の見直しを、教員自らの手で取り組むよう求め続けていく。
   e. 大学基準協会の指示事項の実施(平成26年)
     →大学院カリキュラムと指導体制及び学生募集の定員充足不足の2点の改善に速やかに取り組むことを期待している。
   f. 総合学園としてのガバナンスの体制について(平成26、23年)
     →理事長と学長の二人三脚を期待している。
   g. 理事会の在り方について(平成25、22年)
     →具体的には、併設各部及び職員からの理事選出、学内(常任)理事会と理事会との役割の明確化を求めてきた。併設各部及び事務局からの理事の選出が実現した。
   h. 規程類の取扱と整備について(平成25、24年)
     →理事会審議事項と報告事項との区別、規程や内規の整合性、保管等についての整備に協力している。
   i. 地域・社会貢献について(平成26,25,24年)
     →高く評価している。さらに、このことが、カリキュラムや学部学科の教育に結びつき、キャリア教育にも連動することを求めていく。
   j. 連携と教職協働、職員の役割の向上について(平成25、23、22年)
     →大学の経営に当たっては、教員と職員の協力関係が基本であり、とりわけ職員の役割が大切であることを監事の基本認識としており、職員の質向上に寄与していくべく努めている。
   k. 中高一貫教育、高大連携の強化について(平成25、24、23、22年)
     →総合学園としての幼稚園から大学院までの一貫教育が学園の基本姿勢であることを踏まえ、とりわけ難しい面のある中高一貫教育について、相模型一貫教育の模索に協力していく。
   l. 法令順守とリスク管理の徹底を(平成24、23年)
     →ここ5年間を見ても、入試ミス等のほか、女子教育が問われるリスクが生じており、絶えず注意を喚起していきたい。  
(2)各論(大学・短大)
   a. 教員の海外研修、研究専念期間制度の進展を
     →率直に言って進展を見ていない。
   b. 自己点検・評価の作業を継続して行う体制を
     →委員会の活動状況を確認。監事の手足がなく、監事としての調査、分析が十分出来ていないため、総論的指摘に留まっている。
   c. 教育の質向上:授業評価、FD活動等の深化を
     →教学の努力がうかがえるが、授業見学等の普及を求めている。
   d. 学長を中心とした教育研究体制の構築を
     →これまで理事長と学長が一体であったが、平成26年度から分離したことに伴い、これからは学長を中心とした教育研究体制の組織化を求めていく。
   e. 本学の特色である地域・社会貢献がカリキュラム、教育と深く関わることを
          →総論i.
   f. 入試ミス、不祥事への対応の徹底
     →対応及びチェック体制の確認をする
   g. 「Vision」「中長期基本計画」への教学としての取組み
     →教学トップだけではなく、教員全体への周知を求めている。
   h. 研究費の消化
     →科研費、研究費、在外研究等研究活動の強化について、絶えず問いを発していく。 
(3)各論(法人、財務、事務等)
   a. 教員の海外研修、サバティカル取得の環境整備への支援
   b. 総合職と一般職の明確化、職員の一層の育成を(特に経理部門)
   c. 職員の外部関連団体への積極的参加を
   d. 学生生徒納付金減少に伴う収入増加の方途の具体化を
   e. 学納金に占める人件費の割合を下げること
   f. 事業活動費に占める教育研究経費の割合をあげること
   g. 事務組織改組、新人事制度の進捗状況
   h. 職員採用方法、特に新人採用や総合職採用の見直しを
   i. 会計監査人指摘事項の改善状況の確認 
(4)各論(併設各部門、事務局、経理部門、施設等):省略

【5】ヒアリングを中心とした監査の影響と効果

 1.内部統制、監査体制及びリスク管理の強化に寄与
 2.併設各部の強化を後押し
 3.規程整備に寄与
 4.理事会の役割強化を後押し
 5.教職協働と職員のレベルアップを後押し 
 6.幼稚部、小学部、中学部、高等部及び大学との一貫教育を前提とした学園づくりを後押し
 7.いわゆる教学監査がスムーズにできた。

【6】課題

 1.非常勤監事としての時間的制約により、多くの課題、例えば、教員給与体系、研究レベルの向上、教育研究の国際化等の大変重い課題に対して、基礎的調査をするゆとりがない。まず、内部監査室を設置することが非常勤監事での監査体制を強化することとなる。
 2.定員未充足問題に対し、全学的に危機意識を共有することが問われる。
 3.各部門の財政上のアンバランスの是正の難しさ。
 4.本学における中、高一貫教育の難しさ:中学と高校の定員の違い。
 5.幼稚部から大学までの教職員の足並みを揃えることの難しさ。
 6.内部監査室の設置
 7.理事長と学長との連携。これからは学長とのコミュニケーションを大切に。       

【7】時間があったら一言

 1.監事の役割:相模女子大学の発展に少しでも寄与できれば・・・ 

  (1)相模女子大学の皆さんの背中をちょっと押すこと→あくまで触媒。
 (2)リスク管理、規程類の処理、理事会の進め方等に対してはうるさいこと。
 (3)吸い上げ機能を果たすこと。
 (4)少しは抑止力になっているかも。

 2.でも…よかったこと 

  (1)素人監事二人の息が合っていた。他大学の元教職員としての役割分担もうまくいっている。特に、外部監事で、かつ、元大学教職員であることから、幼稚部、小学部、中学部、高等学部、大学部門へのヒアリングはスムーズに、かつ協力的に対応していただけた。
 (2)会計監査人との連携と役割分担が上手くできた。会計監査人が我々を支えてくれたと思う。
 (3)学園の経営は、教員と職員の協働作業如何にかかっていると認識の下、教職協働と職員の意識向上を絶えず訴えてきたつもり。職員の熱い視線を背後に感じてきた。
 (4)やっぱり法人、教学トップのご理解あってこそ。

 3.文部科学省さんへ 

  (1)このところ監事への注文が多い。監事の地位向上を諮ろうとする親心と推察するが、監事の地位向上のポイントは権限と報酬と考える。大学トップへの働きかけを。
 (2)本当の意味での外部理事、監事の定着を。

 

プロフィール

 * 元中央大学事務局長・理事
 * 元中央大学監事
 * 元社団法人学術・文化・産業ネットワーク多摩事務局長・常務理事
 * 今年の5月まで公益財団法人大学セミナーハウス専務理事
 * 現学校法人相模女子大学監事 

資料1.平成27年度監事監査への取組み(監査計画)

平成27年度監事監査への取組み

1.基本方針

本学の理念・目標の達成に資する観点からの監査を行う
併せて、「Sagami Vision 2020」および「中長期基本計画」を見据えた改革の一助となるよう心掛ける
(1) 昨年度の監査結果報告書の所見に対する対応の確認
(2) 昨年度会計士による監査指摘事項の改善状況の確認
(3) 本年度の事業計画および予算の実施状況の監査
(4) 「Vision」「中長期基本計画」の反映状況を確認
(5) 学園一丸となった取り組みと教職協働の状況を確認
(6) 法令順守(説明責任、情報公開)とリスク管理の徹底
(7) 監査環境の整備

 

2.本年度の重要監査項目 

(1)  学園全体のガバナンス(理事会、規程、内部監査、危機管理、教職協働)の検証
(2)  総合学園づくりと一貫教育の具体的な施策の検証
(3)  学生定員不足の対策及び入試対策への具体的取組状況の検証
(4)  教育研究の質の向上と教育方法の改善(在外研究、大学院強化、科研費、カリキュラム、シラバス、FD等)
(5)  学生の満足度調査の分析と対策
(6)  財政の基盤整備に向けた対策の検証
(7)  寄附金その他別途徴収金等の処理の検証
(8)  外部評価、自己点検・評価への取組み状況の検証
(9)  施設・整備状況、防災体制及び進行中の建設状況

 

3.監査作業の方法

(1) 各部門のヒアリングによる確認作業
 a.教学トップ(学長、副学長)へのヒアリング
 b.法人トップ(理事長、専務理事、常任理事)へのヒアリング
 c.併設各部門(幼稚部、小学部、中・高等部)へのヒアリング
 d.事務部門トップ(事務局長、各部長)へのヒアリング
 e.経理担当者へのヒアリング
(2)  施設・設備の実地点検
(3)  会計監査人及び内部監査担当者との連携と情報交換
(4)  理事会ならびに必要に応じて他の重要な会議への出席と発言
(5)  会議議事録(常務理事会等)の入手・閲覧
(6)  監事研修への参加

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私学部参事官付

-- 登録:平成27年12月 --