人材育成に関する産官学コンソーシアム(第1回)議事録

1.日時 

2019年1月28日(月曜日)16時00分~17時30分

2.場所

中央合同庁舎4号館2階共用第3特別会議室

3.テーマ

政府や各協議体の取組紹介,意見交換

4.議事録

(○):有識者
(●):政府出席者(内閣官房,経済産業省,文部科学省)

【●経済産業省】  定刻となりましたので,ただいまより,「人材育成に関する産官学コンソーシアム」第1回を開会いたします。本日は,御多用のところ,お集まりいただき,誠にありがとうございます。
 まずは配布資料の確認をさせていただきます。皆さまのお手元に,座席表,議事次第,その後ろに資料1~資料7まで配布させていただいております。資料に不備がある方はお声掛けください。
 本コンソーシアムの事務局は文科省と経産省で務めさせていただきます。
 続きまして,本日のコンソーシアムの議事内容についてです。まず,本コンソーシアムの趣旨を御説明後,政府や各団体の取組についてそれぞれ10分程度御紹介いただきまして,最後に意見交換に移らせていただきたいと思います。
 それでは早速本コンソーシアムの概要から入らせていただきます。お手元の資料2を御覧ください。まずはこのコンソーシアムの設立趣旨です。現状の課題といたしまして,これからの時代に求められる人材の育成・活用のために,教育界と産業界が連携した実践的な教育を横断的に機能させていくことが挙げられます。未来投資戦略等を踏まえまして,今後このコンソーシアムを通じて産官学が連携して取り組むべき人材育成のために,産業界,大学,高等専門学校,専修学校の現場での先進的・先駆的な取組・課題を共有し,ベストプラクティスの横断的な取組を共有していくことを目的と考えています。
 また,今後の進め方ですけれども,本日を第1回といたしまして,来年度末までに2~3回程度の開催を定期的に考えています。共有した産業界や大学等でのそれぞれの取組につきましては,しっかりと検証を行っていくというふうに考えています。最後,配布資料や議事要旨の公開についてです。議事概要につきましては,事務局にて発言者を明示しない形で作成し,御出席者の確認を頂いた上で,文部科学省・経済産業省それぞれのHPで公表予定です。また,資料の取扱いにつきましては原則として公開させていただく考えです。なお,出席者からの提供資料など,事務局作成以外の資料の取扱いにつきましては,資料の提供者と事務局にて事前に協議させていただきますのでどうぞよろしくお願いいたします。
 次に,共同事務局の文部科学省より一言お願いできればと思います。よろしくお願いします。

【●文部科学省】  本日は大変お忙しい中皆様にはお集まりいただきまして誠にありがとうございます。
 ただ今経済産業省からも本コンソーシアムの概要説明がございましたけれども,このコンソーシアムの意見を頂き,今後大学や専修学校等の産官学連携による人材育成を更に推進していきたいと考えている所でございます。また,本日は各会議体及び大学専修学校等における実践的な様々な取り組みの発展及び改善のために課題等を共有いただくとともに,産業界の皆様からの御意見を頂戴し,精力的な意見交換を進めていければと考えています。
 それではどうぞよろしくお願い申し上げます。

【●経済産業省】  ありがとうございます。続きまして,議題2「政府の取組紹介」の方に移らせていただきます。
 まず,経済産業省の取組につきまして御説明いただきたいと思います。

【〇】  経済産業省のAI人材育成の取組について簡単に御説明申し上げます。1ページを御覧ください。AI・IT人材の育成について,トップ人材の育成,ミドル人材のスキル転換,ロースキルに関してはITリテラシーの向上という,これら3つの層に応じて施策を講じています。トップ人材の育成としては,若手IT人材の育成という観点から2000年から未踏IT人材発掘育成事業を開始しています。25歳未満の天才的な個人を対象に,産業界のトップで活躍する方々をプロジェクトマネージャーとして登用し,約9か月間徹底的に指導するというような事業を18年間行ってまいりました。これまでの成果として1700人の人材を育成し,そのうち255人以上が起業・事業化をしています。その他では,大学での研究あるいは大企業に就職する方々を多く輩出しています。未踏事業のOBで活躍している方々の一部がこちらに記載している通りで,AI人材で言うと日本を代表するAIベンチャーまで成長しましたプリファードネットワークスの西川さんや,同じくAIベンチャーのABEJAの緒方さんなどが未踏事業の出身者です。
 次に4ページを御覧ください。未踏アドバンスト事業を一昨年から始めてございまして,こちらもプロジェクトマネージャーのもとで年齢制限なく,1プロジェクトあたり上限2000万円で,より事業化を見据えた形の人材育成を行っています。AIに関して言いますと,プロジェクトマネージャーに東大の原田教授に入っていただき御指導いただいています。
 5ページ目を御覧いただきますと,最近とりわけ量子コンピュータへの期待が高まっているところでございますが,量子コンピュータのうちアニーリング式,それからゲート式に関するソフトウェアを開発する人材の育成というものを開始しました。アニーリング式に関しては早稲田の田中先生,ゲート式に関しては慶応の山本先生をプロジェクトマネージャーにお迎えして,量子コンピュータのアニーリングマシーンのシュミレーテッドマシーンなどを日立や富士通などから提供を頂き,実際に動かしながらソフトウェアの人材開発等を行っています。
 7ページはミドル人材のスキル転換に関するもので,第4次産業革命スキル習得講座認定制度を創設しまして,その中でAI・データサイエンスに関する講座を認定しています。これは簡単に申し上げますと,経済産業省と厚生労働省で協力して実施している制度で,経済産業大臣が認定した講座のうち,厚生労働省が定める一定の要件を満たして厚生労働大臣の指定を満たした講座につきましては,授業料の最大7割が専門実践教育訓練給付の対象となる制度でございます。御参考までに8~9ページに,これまで認定をしてきた56講座を紹介しておりますが,赤字がAI・データサイエンス関係の認定講座です。
 10ページはエンジニア向けのITスキル標準の作成についてですが,AI・データサイエンスといったデータスキルに関するITスキル標準の追記を行い,強化してきたところでございます。さらに,12ページを御覧いただきますと,冒頭の三角形で申し上げると一番下のエリアになりますが,これからは,ITリテラシーが全ての社会人の基礎力として要求されてくるという時代となることを踏まえ,エンジニアのみ対象としたITスキルスタンダードだけではなく,ITリテラシースタンダードというものを創設する予定でございます。また,2019年度からはITリテラシースタンダードの一級相当に該当するITパスポート試験を拡充し,こちらにAIやビッグデータに関する出題を行い,評価するという取組を行っていきます。
 その他の人材育成について少し御紹介いたしますと,13ページは理数系人材の産業界での活躍に向けた意見交換会を文部科学省と経済産業省とで実施しているところでございます。14ページになりますが,先進的なAI実践スクールとして,いわゆるProject-Based Learningの実証事業を計画しているところでございます。15ページについては,AIエッジコンテスト・人材プログラムという,革新的なAIエッジコンピューティングの活用のためにコンテストを実施したほか,プロジェクトマネージャーのもとで人材を育成するフロンティアプログラムといったものを始めています。以上でございます。

【●経済産業省】  ありがとうございました。続きまして文部科学省の取組についてお願いいたします。

【●文部科学省】  文部科学省におけるAI人材等の育成に関する取組について資料順に大学と専修学校の取組について説明をさせていただきます。まず大学関係から説明をさせていただければと思います。

【●文部科学省】  大学におけるAI人材の育成につきましては,今内閣府の方でAI戦略という全体の戦略を取りまとめる中で更に取組を検討している所でございますけれども,現状どのような産学連携の取組をしているかという所について御紹介させていただきます。大きく制度的な部分また事業として行っているもの,更にベストプラクティスの横展開等に取り組んでおります。
 制度でございますけれども,1ページは,工学系教育について先行的に改革を進めており,Society5.0に対応できる人材育成ということで,特に工学系教育について,基礎をしっかり学びながらも広い分野を学んでいける仕組みにしていく必要があるのではないかという御指摘を頂きまして,大学設置基準等を昨年改正いたしまして,学科や専攻の縦割りをなくしてより柔軟なプログラムを組みやすい仕組みに変えている所でございます。また,中央教育審議会にて,高等教育の在り方に関する答申を昨年11月に頂いたこともございまして,それを踏まえて工学系教育にとどまらず学部横断的に学位プログラムを柔軟に組めるような制度改正に向けて検討を進めている所でございます。
 続きまして事業は,「Society5.0に対応した高度技術人材育成事業」というものです。産学が連携して,企業の御協力も頂きながら実践的なプログラムの開発に取り組んでいくというものが丸1と丸2でございまして,丸1が情報技術人材に関する学生又は社会人に対する教育プログラムを開発するものです。丸2は文系理系問わずにデータサイエンスの応用展開を図っていき,新しく各分野における価値を創出していくというプログラムです。また,そうしたプログラムを実践的に実施していく上で実務家教員に参画いただくということが非常に重要でございますので,実務家教員の確保という観点から,丸3として来年度から「持続的な産学共同人材育成システム構築事業」ということで,実務家教員に対する研修プログラムを産学連携にて展開していく,また,実務家教員の情報を集約してどの大学でもそのような教員にアプローチできるような人材エージェントの仕組みを作っていくという取組を進めていこうと考えている所でございます。
 次のページにまいりまして,産学連携の人材育成といたしまして,インターンシップが非常に効果的だと考えています。横展開のためにどういったものを行えば教育効果が高いインターンシップとして取り組めるかということで届け出制度を設けました。幾つか条件を設定しまして,例えば事前・事後に学習の機会を設けているかですとか,後はインターンシップの効果をどのように評価していくかなど,要件に合致するものについて届出をしていただく。そして届出をしていただいたものを整理いたしまして公表をして,他大学にも周知を図っていく。更にその中から非常に優れているものを表彰させていただくという形で更なる周知を図っています。こうした周知とインターンシップの企画,運営等が行える専門人材の育成という取組を通じて,教育効果の高いインターンシップの横展開を実施しています。こうした取組については関係省庁や経団連・同友会・商工会の皆様をはじめとした産業界の御協力を頂いて取組を進めてきているところでございますので,大学協議体での議論を踏まえながら更なる取組を進めてまいりたいと考えています。

【●文部科学省】  続きまして専修学校における取組について2点用意してございます。
 まずは4ページ目でございますが,「専修学校による地域産業中核的人材養成事業」ということで,この事業は文科省としても継続して長く実施している事業でございます。ただ,時代の変化に合わせてメニューの組み換えをしています。特に教育機関と地方公共団体,あるいは企業等が連携した取組というものを強化して,地域産業を担う人材養成という部分に視点を置いたものです。メニューとしては,丸1の産学連携体制の整備というものは,平成29年からスタートをしました。内容としては産官学が人材育成協議会というものを構築し,各分野・各地域における中長期的な人材育成の在り方を協議して,今後必要となる人材像,能力,技術等を整理し,効果的な教育手法を検討するもので,全国的な協議会,あるいは地域の協議会といったモデルの開発を委託しています。2つ目のメニューは産学連携手法の開発ということで,こちらも別途企業との連携手法のモデル研究開発をしていくというもの,更に3つ目のメニューとしてはSociety5.0に対応したもの,あるいは地方創生に向けた地域課題の解決などの教育プログラムを開発していこうということでこれらも進めているところです。
 5ページでございますが,こちらは「専修学校リカレント教育総合推進プロジェクト」というもので,主にリカレント教育に視点を当てたものです。近年人材不足が言われる中,メニューの一つとしては分野横断型のプログラムを開発しようというものがございます。例えば美容と介護というようなもの。訪問美容も最近ニーズが出てきているところですので,自宅に訪問し,美容だけでなく寝たきりの方の対応もできるような専門知識を養成していくというもの。あるいは保育と看護ですね,保育士に看護師の専門分野を学んでいただくような分野横断型のリカレントプログラムを開発しています。さらに,2つ目のメニューとしてeラーニングを活用した講座を開設し,その手法を研究していこうというものなのですが,特に世論調査等によると社会人はなかなか時間がないということで,勤務の後や土日などで勉強に時間を費やす余裕がない。そこでeラーニングを活用した講座を開設してどんな手法があるのかなどを研究するものです。文科省の取組については以上です。

【●経済産業省】  ありがとうございました。政府の取組についての質問は後でまとめて行いたいと考えています。続きまして,各会議体の取組につきましての御紹介をお願いできればと思います。まず大学協議体の取組についてよろしくお願いいたします。

【○】  資料5です。産学連携による科学技術人材の育成に関する大学協議体の取組ということになっておりまして,まずは大学協議体の説明をさせていただきます。
 次のページを御覧いただきますと,大学協議体の概要がまとまっています。設置趣旨・目的は,理工系人材の質的充実,量的確保に向け,「理工系人材育成に関する産学官の行動計画」が平成28年8月に出されました。その取組を効果的に実行するために大学協議体を位置づけ,産学での対話を促進していこうというものです。教育機関における人材育成に係る課題の抽出や意見要望の集約及び連絡調整等を行うことと,産学連携による人材育成の取組推進に向けた産業界と教育界との対話の実施ということで活動を続けてきました。行動計画は3本柱になっていて,1つは産業界のニーズと高等教育のマッチングの方策とそれに伴う専門教育の充実。2つ目は産業界における博士人材の活躍を促進させる方策について。3つ目が理工系人材の裾野拡大ということで,これについては初等中等教育から考えていくということで,3つの柱を元にいろいろな活動を進めています。
 資料1ページの構成員としては,国立大学協会,公立大学協会,日本私立大学連盟と日本私立大学協会からなる日本私立大学団体連合会と,全国高等専門学校連合会ということで,高等教育に関わる代表機関の方々で構成されています。私が取りまとめをしています。その他は有識者ということで,本日お見えになっている井上先生がいらっしゃっています。繰り返しになりますが,役割としては,大学における取組状況の確認・検証をしていくということと,産業界のニーズを踏まえた育成方策の検討,そしてそれを元に産学連携教育プロジェクトを具体的に構築していくということが課題になっており,それについて検討を進めている所です。これまでの開催状況といたしましては順次準備をしていき,具体的に活動はこれからというところです。
 2ページ以降はやや具体的になりますが,先ほどAIの話がありましたが,高等教育においても情報分野における産業界とのマッチングが課題となっており,enPiT(成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成)というプロジェクト,これは成長分野を支える情報技術人材の育成拠点ということで井上先生が中心に活動を進めてくださっている所でございます。そこでは産学で,興味を持った企業が大学と連携して,教材データの提供や講師派遣を進めており,こうした具体的な活動を進めていくとともに,こうした活動を通じて課題となっているところを抽出,活動を充実させていこうと考えています。調査項目も具体に掲げておりますが,回答例を御覧になっていただきますと産業界に是非教材データを提供してほしいと,特にビッグデータの解析というところでは生のデータが必要になりますので,オープンな形で使えるデータの提供は難しいかもしれませんが,そうしたデータの提供が人材育成にとって欠かせないものであると。2番目のところでは講師派遣の要望ということで,情報分野の充実は実施してきているところではありますが,いろいろな分野に広がって教育をしようとすると大学の人材が不足しているだろうし,実務家教員の育成という観点からも協力が必要だと要望が上がっているところです。
 続きまして3ページになりますけれども,大学協議体と産業界との意見交換ということで平成30年3月29日に実施しました。論点としては,産業界のニーズと高等教育のマッチングの方策,産学連携教育の推進,それとリカレント教育,技術者の継続教育等が課題になっており,このような課題を解決するには産学連携が欠かせないということで,これからも議論を進め,実際に教育プログラムを創設するということも視野に入れながら半年間考えていきたいです。
 4ページ目が今後の予定ということで4項目に分かれておりますけれども,大学協議体の中で意見が出てきたものに対して今後の対応を考えようということで掲げています。一つは今多くの学協会がございます。それらは産業界,アカデミアのメンバーで構成されていて,その中での産学連携が参考になる,あるいは一層に進めていく必要があるということでアンケート調査を実施し,その中で幾つかの取組についてヒアリングをしようということで現在学協会にヒアリングを実施している所でございます。学協会においても産学連携は強く意識されているということが分かってきました。二つ目は理数系人材のニーズが産業界から高まっている中で数学を学ぶ学生たちがどのような形で産業界で活躍するかというのを考えていく必要があるだろうということで意見交換会が進められているところです。その他については行動計画のフォローアップ調査を実施する,あるいは行動計画に挙げられている教育界に求められている役割や対応策をより効果的に実施するために,産業界と意見交換をしながら,具体的な検討・活動を行っていきたいと考えています。以上でございます。

【●経済産業省】  ありがとうございました。続きまして,「理数系人材の産業界での活躍に向けた意見交換会」についてよろしくお願いします。

【〇】  それでは資料6に基づいて御説明申し上げます。
 先ほどの大学協議体の議論の中で,「数学を学ぶ学生が産業界の中でどのような活躍をするかなどということについて重要であるけれども,十分ではないのではないか」という御意見があったことを踏まえ,経済産業省と文部科学省とで協力して「理数系人材の産業界での活躍に向けた意見交換会」を始めました。昨年の8月に第1回を行いまして,これまで第3回までを実施し,今月31日に第4回を予定しています。
 今までの問題意識を御説明いたしますと,資料6の1ページにあるとおり,AI人材や先端的IT人材の不足が言われている中,AIやIT界で活躍している方々のバックグラウンドとしては,数学あるいは物理専攻の割合が多いということがございます。それから経済産業省の方で企業ヒアリングを行ってきましたが,産業界ではトップレベル,ミドルレベル,あるいは一般のレベルでも数学や物理の知識・能力に対するニーズが非常に高かったということもございます。
 2ページを御覧いただきますと,AIの重要性と関係していると思うのですが,現在,数学の経済効果が非常に注目されていて,例えばイギリスでは「数学の時代」というレポートで数学がイノベーションの中核であると強調しています。そして雇用の10%は数学が貢献しているといった試算もあります。また,フランス・オランダ・オーストラリアも同様の試算をしております。特にイギリスやフランスは優秀な数学者を輩出する国として知られていますが,こうした国々が昨今のAIが重要視されている中で,自国が優位だということに気づいているのだろうと思います。
 翻って我が国を見てみますと,3ページ目でOECDの政府の学習到達度調査,いわゆるPISAで,15歳時の科学リテラシー,数学リテラシーいずれも国際的に上位にランキングしておりまして,4ページを御覧いただきますと,トップレベルの国際数学オリンピックなどでも我が国は例年上位をキープしています。こういった指標だけで見ると,我が国の数学の能力は決して他国に比べて引けをとるようなことはないというポテンシャルはあると感じています。
 一方で,日本数学会に実施していただいたアンケート調査によると,数理科学分野の博士後期課程修了者の進路調査では,民間企業への就職者が2013年度ではわずか4%で,2015年度・2016年度では1割を少し超えるほどです。6ページはアメリカとの比較ですが,2つ特徴がございまして,1つはそもそも数学専攻の博士課程修了者はアメリカの方が日本より一桁多く,人口比で見ても日本は随分少ないという印象がございます。また,数学・数理科学専攻の博士課程修了者の進路先について,日本の場合は1割程度のところ,アメリカの場合は3割程度が産業界に進んでいるのが現状です。アメリカでは,産業界に進む修了者が次第に増えていっている一方で,学術界に進む修了者が減っているというわけではありません。学術界に行く人たちが産業界に流れているのではなく,産業界に進む人も増え,全体としても増えている状況です。
 7ページでは意見交換会における主な意見を御紹介いたします。数学・物理の企業側のニーズとしては,数学の知識もさることながら,問題を抽象化・一般化できる人材を求めており,数学専攻者はそのようなスキルを持っている点で魅力を感じるという意見がありました。他方で,企業と数学を結ぶような人材が欲しい,理数人材と経営者の間を取り持つ通訳のような存在があると良いという意見もございました。また,企業側は優秀なAI人材として数学専攻者を欲しているものの,学生の企業ニーズの認識が十分ではないかもしれないといったことも挙げられています。産学連携については,課題を克服するという意味で,数学専攻の学生がインターンシップを通じて,自分たちの能力が産業界でどう生かされるかということに気づくことは非常に大きな意味があり,受け入れる企業も数学専攻者のポテンシャルに気付く意味で非常に重要だという声が有識者から多くありました。それからスタディグループに関しても,大学側には具体的な問題やデータがないので,企業が学生に具体的なデータを提供するという形で行うことが有効であったということでございます。

【○】  それでは数学の社会応用への取組事例を御紹介申し上げます。
 9ページは,トヨタ自動車が筑波大学と共同で設立した未来社会工学開発研究センターについてのプレスリリースの内容が記載されています。2017年4月6日にSociety5.0を実現するモビリティインフラの先端研究拠点として設立しました。
 10ページ以降ですが,我々は未来社会のモビリティプラットフォームを進めていく上で,数学の可能性に対して大変関心を持っており,東北大学の小谷先生,水藤先生が中心となって「G-RIPS」と呼ばれるカリフォルニア大学の純粋応用数学研究所が十数年進めている国際インターンシッププログラムを日本で実施するので,これに参加しませんかという投げかけを頂きました。それならばということでトヨタ自動車が開発している「e-Palette Concept」と呼ばれる次世代のモビリティを使ってどのような地域社会の課題解決ができるかという設問からプログラムに参加させていただきました。
 北米のコーネル大学を始め様々な大学から来られて,基本的には英語と数学を共通言語とする国内外の学生との混成チームで企業・大学から提供した設問を数学的なアプローチで解決するというものです。当時の課題ですが,東北大学は仙台に4つのキャンパスがありますので,それぞれにe-Paletteと呼ばれる次世代の自動運転型の電動車が何台導入すれば適切であるか,そして利便性を最大限に向上できるような運行計画,さらには消費コストを最小限にする,また大学のキャンパスのレイアウトの在り方といった設問を出したところ,学生の方々から,事例1の配車最適化へのアプローチ等の問題,最適化問題に結び付けてくれました。我々からすると待機コストや遅延コストといった料金体系を変えていけるような問題を解き,我々モビリティサービスのインセンティブ設計に大変示唆を与えるような回答を出してくれました。
 次のページが充電設備の最適化配置ということで,運行コストを最小にする上で充電スポットは何か所置けば良いかと言う形で,3か所あればピークを含めて実施できるといった内容の解を出してくれました。
 最後のページになりますが,研究参画企業としての所感は企業が学生に対して明確な移動の自由や地域社会への貢献というビジョンを伝えていく中で,筑波大学の学生が「数学が面白いと思った」という素直な感想がありました。数学を「若手との対話の共通言語」として活用することができるという大きな可能性を感じることができました。すなわち,それは若手の発想を引き出せる大変大きな共通言語としての可能性です。今年の夏もトヨタ自動車としては取組を強化して,昨年は1テーマで進めましたが今年は2テーマとして進めていきたいと考えています。併せて九州大学のマスフォアインダストリーとも共同研究を進めて,数学の可能性を探索していきたいと考えています。以上です。

【●経済産業省】  ありがとうございました。それでは最後になりますけれども,資料7の専修学校人材育成協議会の取組につきましてよろしくお願いいたします。

【○】  IT分野の人材育成協議会の取組につきまして御説明をさせていただきます。先ほどの文部科学省の資料4の4ページにあった産学連携体制の整備に関する全国版の5つのうちの一つと御理解いただければと思います。この事業は平成29年度から行っており,今年は2年目になりますが,実施母体となるのが一般社団法人全国専門学校情報教育協会というところで,いわゆる専修学校の専門課程(専門学校)の情報教育を行っている学校の団体として一番大きな唯一の団体です。72校が参加しており様々な取組を行っています。
 2ページ目の取組概要ですが,昨今の技術革新等の時代の変化を受けて,技術進歩の激しい分野であるIT人材の育成として産業界と密接な関係性を構築することや,産業界の教育活動への参画,専修学校は社会人の学び直しを一つの使命としていますのでそういった企業への協力,それと産学連携の継続が議題であるということで活動しています。
 3ページ目では特に今回ITの中でも取り組むべきものとして情報システム開発,IOT・ビックデータ,セキュリティ対策,この3つのカテゴリについて取り組んでいこうと考えています。特に人材育成協議会での企業との連携に当たっての体制の構築を大きな柱としています。全体の体制が4ページ目にございます。これと並行して同じ3つのカテゴリで,情報教育を実施している専修学校がそれぞれ幹事校となり,教育プログラムの開発にも取り組んでおります。
 人材育成協議会ですが,5ページに3年間の主な活動内容を書いています。昨年度はIT企業へのヒアリング調査を行いました。項目としては将来の技術動向ですとか,求める技術水準等についてのヒアリングを行いました。今年度はヒアリングをもとにIT企業へのアンケート調査を行い,育成人材像の明確化といったものに取り組みました。そして次年度は30年度を踏まえて産学連携教育の将来像の提示や産学連携の在り方のガイドラインの策定,活動の継続のための組織体制の構築といったことを最終的なゴールとして目指して取り組んでいます。
 6ページ目に昨年度の成果を書いていますが,最初はIT人材の不足状況について,これは経済産業省さんが出されているものからの出典,非常にIT人材は不足していくといったことを把握しています。また,技術の進展としてはAI・IOT,また基幹システムの構築についても従来のウォーターホール型からアジャイル型へ移ってきているということを把握しています。また,ブロックチェーン技術に代表される金融システムの進展も把握しています。また,経産省様のいろいろなデータの中にも出てきておりますが,いわゆるユーザー企業のIT部門の強化が今後非常に重要になってくるであろうといったことも29年度のヒアリング調査で把握しました。
 続きまして7ページ目が30年度のアンケート調査の結果です。棒グラフの奥が現在で手前が5年先まで新たに導入を検討している事業ですが,顕著な例として,システムの受注・開発は現在も多くありますが,将来にわたっては大きく減っていくんじゃないかと。現在もそこそこありますが,将来はAI・ビックデータなどのIT関係が表面化するのではないかということがわかります。右のグラフからも現在と5年後の比較で,非常に重要であるといったところの違い3つが分かります。情報セキュリティ基盤の構築ですとかAI,ビックデータの活用などが非常に今後は増えていくであろうといったことをアンケート調査で把握しました。
 それと並行して8ページ目では,必要人材像の明確化といったところで人材像の大分類・中分類,必要なスキルといったことを,「情報システム開発」「IOT/ビックデータ」「セキュリティ対策」それぞれでまとめようとしています。
 9ページ目に今後の予定としまして,専修学校の教育領域の明確化,やはり専修学校で取り組めるSociety5.0関係の技術は高度な大学とは差別化されたものではないか,ということで,教育領域の明確化を計ろうとしています。また,必要人材の育成に関する産学連携教育の実証検証ということで,教員の研修や産学連携教育手法の実証,またこちらは31年度で終わるわけですけれども今後のことも検討していこうと考えています。
 10ページ目は成果の見込みということで,スキルシートやガイドラインが書いています。また,継続的な活用のための組織構築等もございます。以上でございます。

【●経済産業省】  ありがとうございました。それでは,これまでの発表も踏まえまして意見交換に移らせていただきたいと思います。

【○】  いろいろな取組を紹介していただきまして,私自身知っている部分と知らない部分があり,知らない部分でもいろいろな取組をいろいろなレベルで行っているというのが感じた第1印象でございます。補足かもしれないですが,私はenPiTという実践的なIT教育を産業界と一緒に行っていますが,このような実践的な取組,特に大学の単位にしばられずに自由にやっているプログラムは学生に非常に喜ばれていると。現状定員を400名くらいなのですが,希望者は今年度1200人くらい殺到しています。その理由を考えてみると,実践的というのと産学連携,産業界の人に教えてもらっているというところに非常に魅力を感じているのではないかと思っています。ですのでいろいろなレベルでこのような取り組みを行っているのは非常にすばらしいことです。ただこれをどういうふうに全体の力としてまとめていくか,enPiTもあと2年で予算が尽きて,その後自主活動せよと言われているのですが,このような力や希望をどのように継続していくかということをこれから考えないといけないと感じました。

【○】  様々な取り組みの事例,ありがとうございました。質問をさせていただければと思うのですが,理数系人材の産業界での活躍にむけた意見交換会ということで,資料の中で数理科学専攻博士のキャリアパスの部分で,理数系人材が今後必要だというのは重々分かっているのですが,なかなかそれが増えない。専門学校でもよくある一例なんですけれども,産業界や企業のニーズとなりての間にギャップがあり,例えば福祉・介護で言えば産業界では人材が欲しいと言っている中で,成り手がいない。そういった状況が得てしてあるのですが,その中で米国では増えている一番の原因というものがもし分ければ教えていただきたいなと思っています。

【〇】  様々な事情があるとは思いますが,日本で理数系人材が産業界に進む人が少ない理由として意見交換会で言われていたのが,数学を専攻する人は数学が好きで,もともと一生数学に携わっていけるアカデミックな方向に進む思考が非常に強い人が多いというようなところや,数学科の方も純粋数学の方にシフトしてきた歴史があったということです。もう一つは,アメリカは当然AIやITで数学者が非常に注目されているということもありますが,そもそもアメリカの魅力度の高い職業ランキングで数学関係の職がランクの上位にあり,制度的な問題というよりは,認識・イメージの問題が大きいのではないかという感じはしています。

【○】  ありがとうございました。ここを増やしていかないとなかなか全体のリテラシーの高い人材の育成というものにつながっていかないのではないかなと思いましたので,質問をさせていただきました。専門学校においても,数学がものすごい得意な人材というよりは数学が好きな人材が入っているということで,それも地域のIT人材を支える上では重要だと思っていますので,文科省の方々にも是非そのような取組をお願いしたいと思っています。

【○】  御説明ありがとうございました。私どもの方も初めて聞く話がいろいろ多く,非常に関心をもってお伺いしました。
 私ども商工会議所は全国で515ございますが,当然大企業も入っていますがほとんどが中小企業です。今の状況を端的に申し上げますと,理数系の人材のニーズは高いけれどもほとんど採用できていないというのが現実です。地方の中小企業から聞く意見として,昔は工業高校というのがあったが,今日では非常に少なくなってきている。中小企業は高度な人材というのは必要だけれども採用できる状況ではありませんし,どちらかというとミドル人材への関心が高い。そういう企業が多いのですが,ただ理数系の人材がものづくり系についてはニーズがまだまだ高いが採用できていないのが実態です。
 日本商工会議所は2015年度から毎年3月~4月に人手不足に関する全国調査を実施しているのですが,2015年に調べたときは中小企業で人手不足を実感している所が50%ございました。それが1年ごとに5%ずつ増えてきており,2018年度では65%という結果になっています。地方では高校を卒業すると大学の進学や,それからもう一つは就職のためということで大都市に行ってしまい,地元に若者が残らない状況になってきている。そのような状況の中,どうやって人手を確保しているかというと,高齢者を活用する,それからもう一つは女性の活用を徹底的に進めている訳です。しかし,地域におられる女性と高齢者にも限りがありますから,この手法も限界に来ています。今,自治体が取り組んでいるのが,UIJターンができないか,特に大企業に勤めている方の3割が3年以内に退職しているという状況にありますので,このような人材に戻っていただけないか,そのような取り組みを自治体と一緒に行っているという商工会議所が目立ってきております。大きな成果には結びついていませんが,少しずつ事例が出てきています。
 また,留学生が全国至るところの大学・専門学校で勉強しておられるのですが,留学生の方の就職は,就職希望の方は6割いるそうですがそのうち日本企業に実際に就職できるのは5割程度にすぎないというようなことだそうです。なぜこうしたことになっているのかといろいろ聞いてみますと,どうも在留資格の問題があり,自分の学んだ分野でしか就職できないというような状況になっているそうです。そうするとその地域に自分の学んだ分野がなければ当然残念ながら国に戻ってしまうということがずっと続いてきました。今回は在留資格を改正するということで取り組んでいただいている最中ですけれども,地域の大学・専門学校で勉強されている非常に優秀な方が,地域に残って就職していただくというのが恐らく一番実現可能性が高い道ではないかなと思います。この点について我々は強く要望をさせていただいているところでございます。
 また,文科省さんがお取り組みになられてきました専門職大学があります。地域で特色のある分野で専門職大学をどんどんつくっていただこうということで取り組まれていますが,2019年4月から開学されるのは,それほど手を挙げるところが少ないと伺っております。地域としては地方創生の観点から6分野の専門家が集まってビジョンを作ってから5年が迎えようとしていますが,次のセカンドステージに向けては専門職大学についても積極的な取組が強く望まれるところです。地域の大学・専門学校と産業界・経済界とのより実践的な取組の成果が出てくるのではないかと期待をしているところですので,商工会議所はこの点についても推進していただきたいと思っています。
 現在のところ特にモノづくり系のニーズに対する人手不足というのは大変な状況ですけれども,関係機関が協力して何とかいろいろな道筋をつけていただくことが必要と思っております。

【●経済産業省】  ありがとうございます。もし大学側若しくは人材育成協議会の方から地方でのIT人材の活躍・定着についてコメント・感想がございましたらお願いします。

【○】  ありがとうございます。学生さんたちが名の良く知られた企業に入るということが希望になっておりまして,自分の技術・能力が生かせるところがどこなのかというのがなかなか伝わってきていないのかなという中で,大学も考えないといけないことではありますが,就職の在り方や学生のキャリアパスをどう考えていくか,さらには企業に入ってから自分がどうエンジニアとして成長できるのか,学び直しをするところがあるのかなどを含めて総合的に人材育成を考えていく必要があるのかなという印象を持ちました。
 あともう一つは専門職大学の件ですが,専修学校がかなりの形で専門職大学に移行するのかなと個人的に予測していたのですが,専門職大学になると4年間のカリキュラムを作るということでなかなか新しいニーズに対応していくカリキュラムが作りにくくて,その点でためらっているのではないかというのがありまして,もう少しフレキシブルな形で専門職大学を捉えていかないと,4年制だと設置審査の関係でカリキュラム等4年間何もいじれないということになると,学生が集まらなかったらどうしようなどといろいろなことがあってためらうので,そのような所も含めて制度設計も進めていくのかなと。後は今ある4年生大学とどのように連携して専門職大学を作っていくのかとか,縦割りでないやり方を地方でも考えていく必要があるのかなと思います。

【○】  専修学校は割と地域に定着するという傾向があるようでございます。私どもの学校は新宿にございますので,東京なので就職先は非常にあるのですけれども,地域に定着する傾向があると言ってもやはりIT産業が地方はそれほど多くないところですと,どうしても都心にでてくると。ですから産業そのものがそこにないと,御本人たちは地域にいたいという希望があってもかなわない。仙台はかなり大きな都市であると思うのですが,そこでも東京に出てくるということで,なかなか産業が広がっていかない,以前より縮小しているんじゃないかと思います。
 それと,これも情報分野に限ったことなのかもしれませんが,留学生の方に御入学いただいておりまして,割とAI分野では留学生の方が日本企業への就職を果たしていております。多分果たしやすい分野なのではないかなと思っております。アジアの人たちが多いのですが,例えばベトナムに会社があって,日本にも会社があったり,又は日本に法人本社があったりといったところで,マルチSEといった役割,日本語ができて,現地の人というのが非常に重宝されるというように感じております。
 それとこれはたまたま私がおります電子学園なのですが,2020年4月を目標に専門職大学の申請をしておりまして,今準備をしている最中です。2019年度に申請をした人たちの状況を聞きますと,非常に認可を出るのが厳しいなという認識をしておりまして,教員も大学の枠組みですので,それに見合った研究実績のある方でないとなかなか認めていただけないというところです。専門学校がそのまま専門職大学に移行できるとか,そのようなものではないというのを御理解いただければなと思います。
 一つだけ経産省の先ほどの資料で伺いたいところがあるのですが,これまでのITパスポート試験を充実させて,1級,2級と分けるとなっているのですが,ITSSとこれらの資格が連動していて,ITSSのレベル1がITパスポートだったかと思うのですが,2段階に分けるというのは?

【〇】  拡充版ITパスポート試験というのは,これまでのITパスポート試験にAIやビックデータなどを加えたものになりますが,これまで通りITスキルスタンダードのレベル1に相当することになります。ITリテラシースタンダードの1級が,拡充版ITパスポート試験と同じレベルということで,ITパスポート試験が2つに分かれるのではなく,新たにできるITリテラシースタンダードが,1級と2級に分かれるということです。

【○】  本日は大変興味深い参考になる話をありがとうございました。
 実は今週の木曜日31日に経団連では「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」というものを立ち上げる予定でして,経団連側の座長は中西会長で,大学側の座長は就職問題懇談会の座長もされております埼玉大学の山口学長にお願いをする予定でございます。こちらの協議会の下には,具体的な検討をする場としてSociety5.0時代の人材に求められる教育とそのために必要な大学教育改革について検討する分科会と,今後の採用とインターンシップの在り方に関する分科会,地域経済又は地方創生で活躍する人材の育成について検討するための分科会という3つを設ける予定にしております。したがいまして,本日の大学協議体の活動はかなり問題意識として被る部分がございましたので,参考にさせていただきます。また,経済産業省様からの御説明にあった通り,例えばSociety5.0時代の教育といっても,大学の間でも非常に多様性がございますし,経団連の企業の中でも業種とか規模によって,かなり求める人材・スキル・能力には多様なものがございます。そういったところも考えますと,トップ人材,ミドル人材,ボリュームゾーン,それから全体の底上げとか,そういったレベル感を持った議論をしていくことも必要なのかなと言う風に感じております。また,経団連も12月に出した提案で,今後は情報科学とか数学・統計などのリテラシー的な基礎知識は文系・理系を問わず全ての学生に必修にすべきだということを提案させていただいているのですが,ITパスポートのような,リテラシーを普及させるための取組といったことについても検討する必要があるということを感じております。
 質問としましては,文科省様の資料で「専修学校による地域産業中核的人材養成事業」の説明があって,その後人材育成協議会の方からより具体的に御説明を頂いたんですが,文科省の資料の方では「各地域における中長期的に必要となる人材像・能力・技術を整理して,それに対する効果的取組を考える」とありますが,現在,地域ごとに,例えばどういう産業があるとか,今後どういう産業が有望かというようなことを踏まえて,どういう人材ニーズがあるからどの分野での人材育成をしていくか,といったような整理で議論をされているのか,あるいはそうした調査をしているのかといったことを御質問させていただきたいと思います。
 また,経団連にも地方別経済団体というものがあり,そこで皆様の御意見を聞いていると,地方にも国立大学や国立高専といった立派な教育を行っているところがたくさんあって,IT人材にしても非常に優れた教育をされているのですけれども,皆卒業すると東京や大阪に行ってしまって地元に残らないといった話は本当に良く聞いております。そういう意味でそういう地域のニーズとのマッチングのようなことについて御質問させていただきたいのが一つ。
 もう一つインターンシップに関してなのですが,経産省様の資料の中での「産学連携」部分で,7ページの最後に「マッチングの場として研究インターンシップが非常に有効である」ということを御指摘いただいたかと思うのですが,いわゆるインターンシップに関する指針というものがあって,それによると修士課程であっても,インターンシップと就職とをマッチングさせてはいけない,直接結びつけてはいけないということになっていいます。それがあるとこの「マッチングのためのインターンシップ」というのがなかなか有効に働かないのかなと思いますが,この点について何かご議論をされていれば御紹介ください。

【●文部科学省】  御意見ありがとうございます。まさにそこの所は大きな問題だと私も認識をしているところでございます。そこが大きな目標になっているという事業でございまして,平成29年から3か年の計画でございます。現在2年目が終わろうとしておりまして,その実態は途中経過という形になろうかと思いますが,私も全ての報告を受けているわけではございませんし,協議会さんの方から現状を報告していただくことができれば有り難いと思っていますが,1点やはり大都市圏と過疎地も含めた地域,ここでは大きな差があろうかと思っております。特に過疎化,あるいは人口が減少しているような地域の学校における教育方針を作るに当たって,産業界のニーズをどこまで把握して実行できるのか,報告書等を受けて更に考えていかなければならないと思います。

【○】  私どもの方で今年度からSociety5.0の人材ということで農業シティについてのモデル事業を受けているところです。私どもは群馬で農業の専門学校をしておりまして,主に農業ビジネスができる人材を育成していこうというところです。その中で群馬=農業というわけではないのですけれども,このようなカリキュラムを作ることで,就農者の減少や高齢化による作業効率の減少について,ICTを使うことによって課題をクリアできないかと,横断的にITを使えるそういった人材を育成するプログラムを実施しております。ただまだ3年の中の1年目ということで,これから具体的なところは詰まっていくと思いますけれども,必ず地域に残る人材を育成しようと取り組んでいます。

【●経済産業省】  次に向けて全国の5か所と地方の18か所の,共通な部分とローカルな部分を整理いただければと思うので,そこは文科省ともよく相談しておこうと思います。

【●経済産業省】  先ほど御質問いただきましたインターンシップの在り方につきましては,産業界と地方大学のマッチングということで,産業につなぐという話ではなくてその前のインターンシップのやり方を決めるときに実際に課題を持っている企業と大学をつなぐところの,そこ自身がそもそもなかなか接点がないとのことで,指針にもありますようなそれを採用に使う使わないというところよりももっと前の段階でのマッチングの話です。大学と企業の接点をどう作っていくのかというところの課題設定と座組をどうするかという話で,採用する・しない以前の話で,そこがボトルネックになっている状況だと考えてございます。
 1点だけ御質問ですが,GRIPSの拡張可能性で,今回の御説明では,来年度は2つのテーマで九州大学でも取り組まれるということでしたけれども,地方での展開を更に進めていく上での拡張可能性について御意見ございましたらお願いいたします。

【○】  私が昨年取り組ませていただいたことはほんの一例でありますので,今日皆様からの御意見をお聞きしていますと,それぞれの現場では多様な課題があって一様にはいかないということをつくづく承知した次第でありますので,本当に参考になるかわかりませんが,まずは取り巻く環境や課題認識としては,中野課長がハイエンド・ミドルスキル・ロースキルとありますが,この矢印が上に向かって,更にハイエンド・ミドルスキルゾーン・ロースキルゾーンも全て上がっていくという環境については,産業界にいる者としてはひしひしと感じるところです。日本の国際競争力が今もなおモノづくりにおいては圧倒的に強いということは承知しておりますが,今後市場統合型の新しいビジネスができてくると,一気に状況が変わるという危機感も当然あります。その中で今後未来社会を支えていくのがやはり今日お話を伺ってきましたような多様な日本の人材でありますので,私自身も進めていきたいと思っていますが,若い人にチャンスを与えるような政策をお願いしたいと思いますし,若手とフェアな関係で対話をするには数学がいいということや,数学がイノベーション創出に親和性があることを実感しております。かつて江戸時代の藩校というのは世界に誇る水準のものだったと承知しております。そういう意味で今こそもう一度地域の教育をかつての江戸時代の藩校のようなレベルにもっていっていただきたいなと思います。特に数学への期待は大きいです。以上です。

【●経済産業省】  ありがとうございます。大分時間も限られてまいりまして,最後に内閣官房からコメントをいただければと思います。よろしくお願いいたします。

【●内閣官房】  皆様お忙しい中御参集いただきましてありがとうございます。1回目の大変すばらしい会議を開催していただいた経産省と文科省の皆様に感謝申し上げます。
 いろいろお話をお伺いしていてちょっと気づいた点をポツポツと申し上げたいと思います。まず,理数系の人材が産業界に行かないということについてお話があったと思うのですが,Googleとかは日立とかとインドのIT人材の採用競争をしていて,初任給1000万くらいでガーッと採用しているんですよね。日本企業は採り負けている。だから,採用の仕方がアメリカと日本の企業で違うというのもあって,理数系人材も「これだけもらえるなら行こうか」という人も出てくるのかなと思ったりしています。
 それから人手不足という話もあったのですが,数日前に株式会社ワーク・ライフバランスの方のお話を聞いたのですが,調剤薬局のチェーンで地方にある会社なんですけれども,ワークライフバランスを実現したら非常に人材が採りやすくなったと。地方のまだ設立20年にもならないような中小企業なんですけれども,ワークライフバランスを実現することで採用上優位なポジションを作ったというお話もあったので,普通の労働条件,普通の給与水準を出したからといって,ネームバリューとかで東京の大手とはなかなか勝負できないと思いますので,例えばワークライフバランスの実現をすることで採用上有利なポジションを作れるということもあるのかなと思ったりしています。特に日本の場合は女性の30~40代の方は半分くらいが非正規で低い賃金で働いていて,給料と生産性が比例するという前提に立てば,そこの能力を必ずしも十分に引き出せていないという現実があるかと思いますので,人手不足の中で優秀な人を採用してうまく戦力化していくというアプローチも当然あるのかなと思ったりもしています。
 いずれにしても今回は1回目ということでございますので,これを続けていくことで,いい人材が育って,そうした人材を採用した企業の売上げが上がって,そこでまた給料が上がる。上がった給料をアピールいただいていい人材を採用していくという正の循環が勝手に回っていくようなサイクルになるといいのかなということで,共に頑張らせていただければと思いますので,引き続きよろしくお願いいたします。

【●経済産業省】  ありがとうございました。本日の議論を踏まえて,今後も引き続き検討を進めて参ります。これにて本日の議事は終了となります。
 最後に,次回日程について説明させていただきます。冒頭でもお話しさせていただきましたが,本コンソーシアムの目的としましては,産業界や大学等での取組や課題を共有し,ベストプラクティスの横展開等を行っていくことになっております。つきましては,今回御議論いただいた点を踏まえて改めて各協議体で課題を検討した後,準備ができ次第来年度に,第1回で議論させていただいた内容を含めて議論させていただくことを予定しております。詳細を決定いたしましたら,皆さまに改めて御案内させていただきます。
 それでは,これで「人材育成に関する産官学コンソーシアム」第1回を終了させていただきます。本日はどうもありがとうございました。

―了―

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