「成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成(enPiT)事業委員会」所見

今回、文部科学省における補助事業『成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成(enPiT)』に関して、平成24年度から平成28年度まで実施した大学院生向けの取組である、いわゆる第1期enPiTの事後評価を実施した。本取組は、情報技術を活用して社会の具体的な課題を解決できる人材を育成するため、複数の大学と産業界による全国的なネットワークを形成し、実際の課題に基づく課題解決型学習等の実践的な教育を実施・普及することを目的として、大阪大学を中心とした大学群が「クラウドコンピューティング分野」「セキュリティ分野」「組込みシステム分野」「ビジネスアプリケーション分野」の4つの分野について、大学院生を主な対象に産学連携の実践的な教育を行い、また、教員に対するFD活動を推進することで、実践的な教育を全国に普及させる取組である。

取組の成果は、平成24年の構想時には全体で延べ44大学のネットワークであったものが、平成29年3月の事業終了時点には当初の目標を大きく上回り全体で延べ121大学まで拡大され、また連携企業数は133となり、従前には事例のない規模の産学連携による教育ネットワークが形成された。

また、輩出した修了生数も当初の目標を大きく上回り、FDワーキンググループが中心となったFD活動の推進、分野・地域をまたがった教員の交流促進の実施、教務ワーキンググループの活動による、カリキュラムの整備や教材の蓄積・整備を実施したことにより、多くの連携校において通常授業化等が行われ、補助事業期間終了後も取組が持続的に継続されるプロセスを構築したこともこれらの活動の成果といえ、当初の目的である実践的な教育の普及は十分に達成された。

一方、個々の取組に着目すると、
・企業側のニーズとの関係もあるが、一部分野におけるユーザー企業の参加が乏しい
・社会人の受け入れについては積極的な活動と成果があったとは言えない
・分野をまたがった講義の提供が少なかった
等の今後この取組を持続的に継続していく上での改善点等も存在した。とはいえ、従来、設置形態を超えた大学間の連携や実質的な産学連携教育は難しいと言われている中で、情報技術分野という今後も発展し続ける学問分野において、これだけ多くの数の大学や、いわゆるITベンダー企業だけではなく、多くのユーザー企業も巻き込んだ産学連携による教育ネットワークが構築され、一部の産業団体においては人材育成のキャリアパスに明確に位置付けられるなど、今後、情報技術分野のみならず、大学教育改革のモデルとなり得たとも言えることが出来、評価区分におけるS評価に値する取組であったと判断した。 

高等教育段階の情報系の人材育成については、実践力の強化、産業界と教育現場との連携強化、実践の中での技術の習得、ハイブリット型人材の育成、継続性を持ってIT人材を育成していく環境整備や実践教育ネットワークの推進等が求められている。
委員会としては、本事業の補助期間終了後の持続的な継続に期待するとともに、平成28年度から実施している学部3~4年生を対象としたいわゆる第2期enPiTや平成29年度から実施しているIT技術者を対象とした社会人の学び直しプログラムであるenPiT-Proの取組へその成果が引き継がれ、大学における情報技術を高度に活用して社会の具体的な課題を解決できる人材の育成機能が強化されることを切に期待している。

なお、文部科学省においては、第2期enPiT及びenPiT-Proの着実な実施においては十分な財政支援が必要不可欠であることから、引き続き、予算の充実に努めていただくとともに、このenPiTにおける産業界を巻き込んだ実践教育ネットワークを形成する取組を情報技術人材の育成だけでなく、Society5.0に対応した高度技術人材の育成に向けた取組にも広げ、大学における社会のニーズに応じた人材育成機能の強化につなげていただきたいということを本事業委員会から切望する。

(平成30年3月)

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