成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成(enPiT)事業委員会所見

  今回、文部科学省における補助事業『成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成(enPiT)』に関して、「ビッグデータ・AI分野」「セキュリティ分野」「組込みシステム分野」「ビジネスシステムデザイン分野」の4つの分野について、学部3~4年生を主な対象として産学連携の実践的な教育を行い、また、教員に対するFD活動を推進することで、実践的な教育を全国に普及させる取組を公募した。

  本プログラムは、4つの分野に分かれて取組を行っていくこととなるが、各分野の中核拠点が運営拠点を中心に協力し合い、プログラム全体として一体的な連携体制を構築することができるよう、公募に当たっては、先に選定した『運営拠点』(事業委員会において大阪大学を選定)が示す事業計画を踏まえた申請とするよう求めたところである。
加えて、公募にあたっては、単独大学による個別の取組の支援策ではないことを明確にするため、複数大学の連携による共同申請を必須条件として設定した。

  公募の結果、各分野1件・計4件の公募に対して、「セキュリティ分野」に2件の申請が、他の3分野についてはそれぞれ1件の申請があり、全体としては計5件の申請があったところであり、事業委員会による書面審査、面接審査、合議審査を経て、4件の取組を選定することとした。(申請1件あたり、6~11大学による共同申請のため、計5件の申請について、合計すると延べ42の大学から共同申請があったところである。)

  なお、平成24年度から実施をしている『情報技術人材育成のための実践教育ネットワーク形成事業』における大学院生向けの取組(第1期 enPiT)については、平成24年の構想時には全体で延べ44校のネットワークであったものが、平成28年7月現在、全体で延べ112校まで拡大されてきた一方、今回選定した学部学生向けの取組については、今回選定した4件を合計すると既に全体で延べ135校のネットワーク構築が構想されており、着実に全国に広がりを見せている。委員会としては今後も関係する大学が連携をして人材育成ネットワークが拡大されることを期待している。

  今回選定された各中核拠点や関係大学等は、委員会が求めた改善に関するコメントについては着実に改善し、計画を確実かつ迅速に実行していただきたい。また、特に、事業を実施する上では、
    ・学長の強いリーダーシップにより、連携大学が一丸となって事業を実施し、産学連携による実践教育ネットワーク形成に取り組むこと。
    ・1分野の取組にとどまることなく、運営拠点との密接な連携により、プログラム全体として多くの大学、企業等と協働すること。
    ・各大学の正規課程のカリキュラムの中に実践的な教育が組み込まれていくよう努めること。
    ・積極的に事業の内容を全国の大学(特に学生)や産業界に情報発信すること。
    ・FD活動等により、実践的な教育の普及に努めること。
    ・補助期間終了後も確実に事業を推進できる体制を構築すること。
    ・補助金を適正に管理し、執行すること。
をお願いしたい。

  加えて現在、運営拠点と4つの中核拠点に対しては、協議による共同事業計画の策定・提出を求めている。本プログラムでは、各分野の個別の取組のみならず、プログラム一体として連携体制を構築して運営拠点を中心とした取組を進めることが極めて重要であり、意欲的な事業計画の策定を期待している。

  残念ながら選定されなかった取組においても、その内容は、今後極めて重要となってくるであろう内容に焦点をあてた特徴的なものであった。取組の構想の具体性の観点から採択にはいたらなかったが、事業委員会としては、このような先進的な申請が複数大学の連名によりなされたことを率直に評価したい。今一度関係大学や企業等と真摯に議論を行い、学内資源の活用等により、可能な限り取組の推進、協働関係の構築に取組んでいただきたい。今回選定された取組を参考にすることも有意義であろうし、関係する分野のネットワークへの参加についても検討願いたい。

  高等教育段階の情報系の人材育成については、実践力の強化、産業界と教育現場との連携強化、実践の中での技術の習得、ハイブリット型人材の育成、継続性を持ってIT人材を育成していく環境整備や実践教育ネットワークの推進等が求められている。本プログラムを実施していく中で、産学協働の実践教育ネットワークを形成し課題解決型学習等の実践的な教育を推進して広く全国に普及させることを通じて、情報技術を高度に活用して社会の具体的な課題を解決できる人材の育成機能が強化されることを切に期待している。

  なお、文部科学省においては、第2期enPiTが着実に実施され、また、第1期enPiTでの活動背景を持たない新参の大学や実践的な技術者教育を行っている高等専門学校の参画など、さらなる拡がりが可能となるよう、来年度の予算の充実に努めていただきたい。

  さらに、少子化の進展、情報分野をはじめとした科学技術の急速な発展を見据えるならば、大学に求められる役割は激変することが容易に想像がつく。正規学生のみならず、従来は社会貢献と認識されがちな社会人をターゲットとした教育機能の強化は必須であり、その中でも情報技術人材の不足は喫緊の課題であり、enPiTの連携体制を社会で活躍する情報技術者のキャリアアップに活用できるよう、新たな予算の枠組みを設けるなどし、大学改革をさらに加速させていただきたい。


(平成28年7月)

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-- 登録:平成28年08月 --