国立大学法人山口大学の平成21年度に係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

 山口大学は、「発見し・はぐくみ・かたちにする知の広場」であることを理念に、地域の基幹総合大学及び世界に開かれた教育研究機関として、たゆまぬ研究及び社会活動と教育の実践を最大の使命に掲げ、中期目標の達成を目指している。
 業務運営については、学長をトップとする「大学改革推進室」、副学長及び部局長を構成員とする「学部・研究科再編等会議」を設置して「改革の基本方針」及び「改革の具体的方策」を策定し、学士課程教育の充実や大学院教育の実質化等を目指した教育研究組織や学生定員の検討を進めている。
 一方、役員及び職員の給与改正については、経営協議会において審議すべき事項であるが、報告事項として扱われていた事例があることから、適切な審議を行うことが求められる。
 また、年度計画に掲げている公的研究費の不正防止計画推進については、教員による架空伝票作成による詐欺及び私的流用が行われていることから、公的研究費の不正防止計画推進や関係者の意識向上を図る積極的な取組が求められる。
 財務内容については、固定資産料算定基準の改定を行い、財産貸付料の見直しを行った結果、増収となっている。
 その他業務運営については、工学部知能情報工学棟改修等各種工事において、屋上及び外壁の断熱材、ペアガラス、省エネ型空調機器及び照明設備等を使用して省エネルギー対策を推進している。
 一方、架空伝票作成による詐欺(品名詐称)が行われ、私的流用を含む研究費の不正な使用が行われていることから、研究費の不正使用防止のための体制整備、取組が不十分であり、再発防止に向けた体制整備、取組が求められる。
 教育研究等の質の向上については、授業科目の到達目標の設定や成績評価方法の改善のため、すべての授業科目のGPC(Grade Point Class)と成績分布を教員間で共有することを決定し、システム開発を行っている。また、学校法人と連携し、大学敷地内に学生支援施設として専門学校を設置し、「公認会計士」、「税理士」、「公務員」、「宅建主任者」、「行政書士」及び「簿記」の実学講座を開講している。

2 項目別評価

1.業務運営・財務内容等の状況

(1)業務運営の改善及び効率化に関する目標

1.運営体制の改善、2.教育研究組織の見直し、3.人事の適正化、4.事務等の効率化・合理化

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 学長をトップとする「大学改革推進室」、副学長及び部局長を構成員とする「学部・研究科再編等会議」を設置して「改革の基本方針」及び「改革の具体的方策」を策定し、学士課程教育の充実や大学院教育の実質化等を目指した教育研究組織や学生定員の検討を進めている。

○ 部局ごとに公募における女性応募者数等の調査を行うとともに、各部局に対し、女性教員の登用についてより一層の推進を要請した結果、女性教員比率は13.7%(対前年度比0.5%増)となっている。

○ 外部有識者(企業経営者、元高等学校長)を教育アドバイザー、教育コーディネーターとして登用し、教育改善を図っている。

○ 修学支援システムの本稼働とIC学生証の導入により、出席確認システムの構築を行っている。

平成21年度の実績のうち、下記の事項に課題がある。

○ 役員及び職員の給与改正(人事院勧告に沿った改正)については、経営協議会において審議すべき事項であるが、報告事項として扱われていた事例があることから、適切な審議を行うことが求められる。

(法人による自己評価と評価委員会の評価が異なる事項)

○ 「公的研究費の不正防止計画を推進するとともに、研究者及び関係職員を対象に研修を行い、関係者の意識向上を図る。」(実績報告書12頁・年度計画【183-1】)については、教員による架空伝票作成による詐欺及び私的流用が行われていることから、公的研究費の不正防止計画推進や関係者の意識向上が図られておらず、年度計画を十分には実施していないものと認められる。

【評定】中期目標・中期計画の達成のためにはやや遅れている

(理由)年度計画の記載18事項中17事項が「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められるが、1事項について「年度計画を十分には実施していない」と認められるほか、経営協議会による適切な審議が行われていないこと等を総合的に勘案したことによる。

(2)財務内容の改善に関する目標

1.外部研究資金その他の自己収入の増加、2.経費の抑制、3.資産の運用管理の改善

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 科学研究費補助金の申請計画調書の書き方説明会等を実施した結果、科学研究費補助金の採択件数は329件(対前年度比16件増)となっている。

○ 固定資産料算定基準の改定を行い、財産貸付料の見直しを行った結果、633万円の増収となっている。

○ 資金運用額の確保を図り、運用益を学長裁量経費の戦略的経費として教育研究の充実等に活用している。

○ 中期計画における総人件費改革を踏まえた人件費削減目標の達成に向けて、着実に人件費削減が行われている。今後とも、中期目標・中期計画の達成に向け、教育研究の質の確保に配慮しつつ、人件費削減の取組を行うことが期待される。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載12事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び当該状況に係る情報の提供に関する目標

1.評価の充実、2.情報公開等の推進

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 県内の大学共同リポジトリの中核として、学術機関リポジトリ(YUNOCA)を推進し、共同リポジトリの公式運用を開始している。

○ 研究費の不適切な会計処理が行われていることが判明しているにもかかわらず、研究費不正使用防止に係る計画を「十分に実施している」と自己評価していることから、より適切な自己点検・評価が行われることが期待される。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載7事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(4)その他業務運営に関する重要目標

1.施設設備の整備・活用等、2.安全管理、3.大学における情報の安全管理、4.大学人としてのモラルの確立

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 全学部(7学部、77,931m2)において、スペースチャージシステム(施設利用課金)を導入し、チャージ単位間で使用面積、使用用途、配属の見直し、使用実態の改善を行っている。

○ 教育学部研究実験棟A棟改修、工学部知能情報工学棟改修等各種工事において、屋上及び外壁の断熱材、ペアガラス、省エネ型空調機器及び照明設備、低損失型変電設備、トイレの節水装置等を使用して省エネルギー対策を推進している。

○ 災害時における大学の教育・研究・業務を円滑に遂行するため、学内の各種デジタル情報の保全及び情報システムの安定的運用を目指すとともに、業務情報データ及び医療情報データのキャンパス間遠隔バックアップシステムを構築している。

○ 93台の防犯カメラにより、全キャンパスへの全進入路及び主要な施設の出入口等を24時間体制で録画・監視するシステムを導入するとともに、防犯カメラの運用方針を定めている。

平成21年度の実績のうち、下記の事項に課題がある。

○ 架空伝票作成による詐欺(品名詐称)を行い、私的流用を含む研究費の不正な使用が行われていたことから、研究費の不正使用防止のための体制整備、取組が不十分であり、再発防止に向けた体制整備、取組が求められる。

○ 放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(昭和32年法律第167号)に基づく使用承認を受けていない放射性同位元素が発見されていることから、適切な管理、保管を行うことが求められる。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けておおむね順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載8事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められるが、研究費の不正使用防止のための体制整備や取組状況が不十分であること、使用承認を受けていない放射性同位元素が発見されていること等を総合的に勘案したことによる。

2.教育研究等の質の向上の状況

 評価委員会が平成21年度の外形的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。

○ 授業科目の到達目標の設定や成績評価方法の改善のため、すべての授業科目のGPC(Grade Point Class)と成績分布を教員間で共有することを決定し、システム開発を行っている。

○ ICカード型学生証を利用した出席確認システムを共通教育において導入し、学生の授業出席状況が確認できるようになり、学習指導や生活指導に役立てることが可能となっている。

○ 学校法人と連携し、「公認会計士」、「税理士」、「公務員」、「宅建主任者」、「行政書士」及び「簿記」の実学講座を開講している。

○ 生活習慣病の研究について、独立行政法人宇宙航空研究開発機構と共同研究を進め、新たな疾患モデル生物としてメダカのメタボリックシンドローム化に成功している。

○ 中高温環境に適応した常温微生物の高温耐性獲得機構とその機能の応用開発を組織的に研究する「中高温微生物研究センター」を農学部に設置している。

○ イノベーション創出を担う人材を育成することを目指して「若手イノベーション人材育成プログラム」を設計し、企業研究職を目指す者1名と研究支援者としてのキャリア形成を目指す者2名を採用し、イノベーション創出に寄与することのできる人材としての能力をOJT(職場研修)により育成することとしている。

○ 「長州科楽維新プロジェクト」を実施し、小中学生を中心に科学技術の楽しみを伝え、明日の科学技術立国日本を担う人材育成を推進している。

○ 短期日本語日本文化研修の平成22年7月実施に向け、具体的なプログラム作成を行い、海外協定校を中心に募集を開始している。

○ 「留学生就職支援フェスタ・イン・山口」を開催して企業説明及び個別面談を行うとともに、県内大学と企業との連携、情報交換の場を設けてネットワーク作りを行うなど、留学生のための就職支援活動を実施している。

○ 優秀な外国人留学生の確保、学術交流のための情報収集及び支援等を積極的に推進するため、アジア地域における海外拠点の設置について、海外視察や連携協定校との実績を踏まえて「国立大学法人山口大学海外事務所設置要項」を策定し、北京師範大学及び山東大学(中国)、大葉大学(台湾)、ウダヤナ大学及びガジャマダ大学(インドネシア)に国際連携オフィスを設置している。

○ 「教育実習プログラム」に沿って、学部と協力した教育実習を実施するとともに、学部教員と附属学校実習担当教員で構成するワーキンググループを設置し、教育実習の到達目標に準拠した成績評価基準の研究を進めて「教育実習成績評価尺度票」の改訂案を作成するなど、適正な評価と細やかな教育実習指導に向けた取組を行っている。

附属病院関係

○ 初期臨床研修修了後の医師養成と山口県への定着促進に取り組むため、山口県や医師会及び地域が連携して「やまぐち臨床研修コンソーシアム」を発足させ、将来を担う医療人の養成を推進している。診療では、肝疾患診療連携拠点病院として、肝疾患センターや肝疾患相談支援室を開設し、患者に対して様々な情報収集や情報提供を実施しており、地域の拠点病院としての使命を果たしている。
 今後、患者に負担がかからない低侵襲手術の着実な推進を図りつつ、新たな先進医療の診断・治療法の開発を支援する体制の構築等、さらなる取組が期待される。

(教育・研究面)

○ 医師・研修医・看護師等が基本的な診察技術から高度な医療技術を自主的に学習できるように、「クリニカルスキルアップセンター」を設置しており、38種類の医療シミュレータを用いて、高度な技術を持った医療人の養成に取り組んでいる。

○ てんかん発作抑制のための大脳冷却装置の医療機器開発等、各診療科で医工連携システムによる新たな医療機器の開発を推進している。

(診療面)

○ 胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(25症例)、乳がんにおけるセンチネルリンパ節生検(69症例)等の高度先進医療の提供や、多列検出器コンピュータ断層撮影(MDCT:500症例)や腹腔鏡下手術等、低侵襲医療の実践等を推進している。

○ 栄養療法の一環として、栄養サポートチーム(NST)とは別に、摂食嚥下チーム(SST)を新たに立ち上げ、患者の栄養管理支援を行うとともに、必要に応じて両チームが連携して支援に当たるなど、栄養指導体制の強化を図っている。

(運営面)

○ 病院情報システム更新にあわせて、院内グループウエアの改善を行い、根拠に基づいた医療(EBM)に則った患者説明用文書やパス文書の登録及び容易に活用出来るシステムの構築等、診療情報の管理体制を整備している。

○ 7対1看護体制維持のために看護師65名の増員や学長運用ポストを活用した放射線治療部教授等の増員、コメディカルスタッフの増員等、病院機能の強化を図るための体制を充実させている。

お問合せ先

高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室

(高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室)

-- 登録:平成23年12月 --