国立大学法人広島大学の平成21年度に係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

 広島大学は、理念5原則(「平和を希求する精神」、「新たなる知の創造」、「豊かな人間性を培う教育」、「地域社会・国際社会との共存」、「絶えざる自己変革」)を掲げ、「世界トップレベルの特色ある総合研究大学」という到達目標に向かって「広島大学の長期ビジョン」に則った政策を進めており、国際的に上位にランクされる総合研究大学の実現に向けバランスのとれた発展に努めている。
 業務運営については、今後10年から15年後の広島大学像を描き出し、目指すべき方向を提示した長期ビジョンを策定し公表している。また、第2期中期目標期間で適切かつ効率的な人件費管理を行うため、教員の人員配分の基本方針を策定し、各部局の人件費管理を員数方式から金額方式(ポイント制)へ見直しを行っている。
 財務内容については、四半期ごとの財務分析や収入支出見込額の把握に基づき、部局間貸借制度を引き続き活用し、留学生宿舎等の整備に重点的に投資して、学生支援の充実を図っている。
 自己点検・評価及び情報提供については、目標管理・人事評価制度に係るアンケート結果から、組織目標の達成や業務改善等の項目について取組の効果が現れている。
 教育研究等の質の向上については、教員の発達段階に応じた全学ファカルティ・ディベロップメント(FD)活動計画を策定し、具体的改善に取り組んでいる。また、「教養教育改革の方向性について」の取りまとめと平和に関する授業科目群の具体化、教育開発のためのアフリカ・アジア大学間対話事業等に取り組んでいる。この他、東アジア地域との国際産学連携の強化のため、タイ科学技術省(NSTDA)やチェラロンコン大学(タイ)との技術移転の加速に向けた取組を行っている。

2 項目別評価

1.業務運営・財務内容等の状況

(1)業務運営の改善及び効率化に関する目標

1.運営体制の改善、2.教育研究組織の見直し、3.人事の適正化、4.事務等の効率化・合理化

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 今後10年から15年後の広島大学像を描き出し、目指すべき方向を提示した長期ビジョンを策定し公表している。

○ 学長裁量経費の配分は、透明性の確保の観点から、情報共有システム「いろは」で公表するとともに、執行状況及び配分効果に関して役員及び部局長等が評価を行い、その結果を学内に公開している。

○ 全学で教員評価を実施し、その結果を平成21年12月の勤勉手当及び平成22年1月の昇給から反映している。

○ 個性ある研究、特色とすべき研究分野の洗い出し等を行い、「広島大学学術研究推進戦略(中間まとめ)」を取りまとめ、学内研究テーマへの戦略的投資に関わる調査に活用している。

○ 第2期中期目標期間で全学的視点に立った適切かつ効率的な人件費管理を行うため、教員の人員配分の基本方針を策定し、各部局の人件費管理を員数方式からポイント制へ見直しを行っている。

○ 経営協議会の審議内容は、大学のウェブサイトに議事録を掲載することにより社会に広く公表している。

○ 経営協議会から出された法人運営に関する意見(学長定例記者会見の実施等)について、その取組事例をウェブサイトで公表している。

○ 女性教員を対象に、助教から准教授へのポストアップ分等を学長裁量人件費枠で措置するほか、学童保育の試行等、仕事と育児等の両立支援に取り組んでいる。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載29事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(2)財務内容の改善に関する目標

1.外部研究資金その他の自己収入の増加、2.経費の抑制、3.資産の運用管理の改善

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 四半期ごとの財務分析や収入支出見込額の把握に基づき、部局間貸借制度を引き続き活用し、緊要な事業である留学生宿舎整備及び図書館や附属学校の教育環境改善整備等へ重点的に投資して、学生支援の充実を図っている。

○ 戦略的な競争的資金獲得のため、学長直属の組織として競争的資金獲得戦略室を設置しており、資金獲得に向けた今後の展開が期待される。

○ 電気供給契約の単年度随意契約から複数年一般競争入札化、複写機の賃貸借契約の調達区分の見直しによる調達業務の負担軽減と契約金額の低減化、昇降機保全業務・防災設備保全業務等の複数年契約化に取り組み、経費削減を図っている。

○ 広島大学基金の促進を図り、1億6,800万円の寄附申し出につなげるとともに、資金運用を積極的に行うなどの取組により、学生の奨学金や学部生の海外派遣支援に活用することとしている。

○ 中期計画における総人件費改革を踏まえた人件費削減目標の達成に向けて、着実に人件費削減が行われている。今後とも中期目標・中期計画の達成に向け、教育研究の質を確保しつつ、人件費削減の取組を行うことが期待される。

○ 平成20年度評価結果において評価委員会が課題として指摘した、大学が設定したエネルギー削減目標(対前年度比1%減)が達成できておらず、対前年度比約1.7%増となっていたことについては、全学に周知徹底した啓発活動と実績管理の取組の実施や設備更新、建物断熱化の推進等により、平成21年度のエネルギー使用量は対前年度比約2.5%減となるなど、指摘に対する取組が行われている。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載11事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び当該状況に係る情報の提供に関する目標

1.評価の充実、2.情報公開等の推進

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 目標管理機能の定着の検証を目的とした目標管理・人事評価制度に係るアンケートの結果、組織目標の達成、業務改善等の項目が、平成20年度よりも改善されてきているなど、取組が有効に機能してきている。

○ 国際化への取組状況等を自己点検・評価し、経営協議会の学外委員の評価を受けて改善に活かす部局の組織評価を継続的に実施し、部局のPDCAサイクルの定着に向けて取り組んでいる。

○ 大学の重要なステークホルダーである学生に対して、財務情報の提供・説明の場として、学内のカフェで対話形式で説明会を実施するファイナンスカフェを開催している。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載8事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(4)その他業務運営に関する重要目標

1.施設設備の整備・活用等、2.安全管理

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 施設整備グランドデザインに基づき、学生の創造的活動の促進を目的としたフェニックス工房等の整備を実施している。

○ 平成20年度に作成した「講義室の利用実態調査」に基づく整備計画により、大学院学生等のためのスペースを5か所整備し、教育施設の充実を図っている。

○ 省エネルギー型空調機や照明器具への更新等により、東広島、霞及びその他18団地のエネルギー消費状況は、電気・ガス・重油の各エネルギーを原油換算したエネルギー原単位で対前年度比約2.5%の削減、CO2排出量は対前年度比約3.6%の削減となっている。

○ 研究費不正使用防止に向けたさらなる取組みの強化を図るため、第一次行動計画の内容を見直し、ルールの明確化、研修、浸透度調査、モニタリング等を含めた第二次行動計画を策定している。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載17事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

2.教育研究等の質の向上の状況

 評価委員会が平成21年度の外形的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。

○ 「教養教育改革の方向性について」を取りまとめ、平和に関する授業科目群の新設と選択必修化へ向けた具体案を示している。

○ 学生が自ら学位取得の基準に照らして進捗状況を確認でき、指導教員は学生の指導、プロセス管理を行うことが容易にできるように、学位授与に係る学位審査基準を公表している。

○ 大学院博士課程前期・後期における大学院共通のキャリア教育科目として、人文社会系キャリアデザイン、理工系キャリアパスセミナー等を試行し、キャリアを考える動機付けを行っている。

○ 各学部・研究科のFD活動の実施状況調査を行い、体系的なFD活動実施要綱を策定するとともに、教員の発達段階に応じた全学FD活動計画を策定し、具体的改善に取り組んでいる。

○ 研究活動の推進を図るため、重点的な育成を図るべき大型研究プロジェクトや萌芽的研究を行う若手研究者等に対し、広島大学研究支援金、藤井研究助成基金等を活用して財政的な支援を行っている。

○ 地元自治体や企業との産学連携・地域連携活動を推進・強化するため、包括協定を締結している団体から3人の客員研究員を受け入れるとともに、派遣元の団体と連携してマッチングイベント等を実施している。

○ 教育開発のためのアフリカ・アジア大学間対話事業に取り組み、アフリカ諸国から17大学、アジア諸国から10大学の参加を得て、設立総会を開催し、今後の共同研究等の検討を開始している。

○ ニューヨーク、バンコク及びジュネーブに拠点及び産学官連携コーディネーターを配置し、国際産学官連携活動を展開するとともに、東アジア地域との強化のため、タイ科学技術省(NSTDA)との覚書の締結、チェラロンコン大学(タイ)とジョイントセミナーの開催等、技術移転の加速及び実績増加に向けた取組を行っている。

○ ブラジル(サンパウロ市)、中国(上海市)、ベトナム(ホーチミン市)に教育研究拠点としてのセンターを設置し、優秀な留学生の受入れや研究交流の推進・強化を図っている。

○ 東広島キャンパスにおいて、学部・研究科、国籍等の枠を越えて学生が交流する場を提供し、新しい学生支援体制を構築するため、学生プラザを整備している。

○ 広島市立図書館との相互貸借を本格実施するとともに、これまで検討していた双方の職員の研修派遣を実施している。

○ 附属学校では、附属学校担当副理事に加え、附属学校担当副学長職を新設し、大学と附属学校との連携協議を充実している。また、「教育室運営会議」及び毎週開催される「教育室企画会議」において、附属学校の運営等に関する協議を行っている。

全国共同利用関係

○ 放射光科学研究センターでは、研究者コミュニティに開かれた運営体制を整備し、大学の枠を越えた全国共同利用を実施している。
 放射光の偏光特性を活用する高分解能光電子分光システムを共同利用に供し、直線偏光依存性を活用した実験が10件(国外2件、国内8件)行われている。また、先端学術研究人材養成事業により、外国人研究者及び若手外国人研究者を招へいし、シンポジウム、講義、共同研究等、国際レベルの研究環境を醸成している。

附属病院関係

○ 初期・後期臨床研修医については、研修医セミナーやハワイ大学と連携したセミナーの開催、病院見学会・医局説明会を実施するなど、中国地区の大学や関連病院とも連携を図りながら、豊富なプログラムの提供に努めている。診療では、緊急被ばく医療推進センターを中心に、講習会や防災訓練の講師派遣等、緊急被ばく医療の体制確立に成果を上げている。
 今後、新生児集中治療室(NICU)や継続保育室(GCU)の増床等、周産期医療の充実も図りながら、中核的医療機関として使命・役割を担うためのさらなる取組が期待される。

(教育・研究面)

○ 大学院医歯薬学総合研究科、原爆放射線医科学研究所等の探索医療等につながる臨床研究の実施計画書(プロトコル)のコンサルテーションの実施(病院77件、医学部保健学科5件)や治験コーディネーター(CRC)を新たに1名増員するなど、探索医療体制を推進している。

(診療面)

○ 病床管理担当看護師の調整の下に、原則として「全床共通病床管理」及び午前退院・午後入院の周知・徹底を継続して、94.2%の高い病床稼働率を維持している。

○ 都道府県がん診療連携拠点病院として、外来における緩和ケア機能を拡充し、緩和ケア外来の診療を開始しており、がん診療における医療体制の充実に努めている。

(運営面)

○ 後発医薬品の採用を推進しており、後発造影剤への切り替えや採用医薬品の規格変更等により、年間約1億2,000万円の経費削減を図っている。

○ 勤務の実情に即して、診療付加手当の新設、また、クリニカルスタッフ制度(医師又は歯科医師の免許を有する大学院生の雇用に関する制度)を導入して、教育的配慮の下に病院の診療業務に従事した場合に給与を支給するなど、医師等の処遇改善を図っている。

○ 「レジデント(研修医)ハウス」建設に向けて、病院施設整備工事に着手しており、療養環境の整備に努めている。

お問合せ先

高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室

(高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室)

-- 登録:平成23年12月 --