国立大学法人熊本大学の平成20年度に係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

 熊本大学は、個性ある創造的人材を育成するために、学部から大学院まで一貫した理念の下に総合的な教育を行い、最先端の創造的な学術研究を積極的に推進することとし、また、地方中核都市に立地する総合大学として充実発展し、機能的・戦略的な大学運営により、地域に根ざしつつ、国際的に存在感を示す大学として、教育研究を行っている。
 業務運営については、男女共同参画推進の広範かつ詳細な基本計画を策定し、次世代女性研究者育成のためのロールモデル紹介誌作成等の取組を行うとともに、コーディネーター、女性の学長特別補佐の任命や育児中の女性研究者に研究補助者を措置するなど、男女共同参画推進に向けた積極的な取組として評価できる。
 一方、年度計画に掲げている次期中期目標・計画に向けた、より効率的な予算配分の在り方を検討することについては、検討資料となる他大学の好事例等を調査したのみにとどまっていることから、着実な取組が求められる。
 財務内容については、効率的な資金の活用を図るため、複数の金融機関による見積合せを実施し、金利の高い金融機関を選定し、3~9か月の短期資金運用を実施して財務収益として約3,000万円を確保し、教育研究経費として活用している。
 自己点検・評価及び情報公開については、これまで紙ベース又は別データとして管理されていた教員基礎情報及び個人活動評価情報を、新たに構築した熊本大学評価データベースシステム(TSUBAKI)に取り込み、運用することで自己点検・評価作業の効率化を図っている。
 教育研究の質の向上については、 大学をアピール・活性化するような学生手作りの企画事業の活動経費を支援する「きらめきユースプロジェクト」を実施している。また、産学連携、知的財産活用にかかる組織を一体化したイノベーション推進機構、国際化を推進するための熊本大学国際化推進機構を設置している。

2 項目別評価

1.業務運営・財務内容等の状況

(1)業務運営の改善及び効率化に関する目標

1.運営体制の改善、2.教育研究組織の見直し、3.人事の適正化、4.事務等の効率化・合理化

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  男女共同参画推進の広範かつ詳細な基本計画を策定し、次世代女性研究者育成のためのロールモデル紹介誌作成やセミナー実施等の取組を行うとともに、コーディネーター、女性の学長特別補佐の任命や育児中の女性研究者に研究補助者を措置するなど、男女共同参画推進に向けた積極的な取組として評価できる。
  •  今後おおよそ10年余りの期間に取り組むべき改革の指針、施策について「熊本大学の立つところ、目指すところ熊大プラン検討報告書2008」を策定している。
  •  教育の質の保証及び研究成果の社会への還元を図り、国民や社会からの要請に応えるため、教育研究組織について積極的に見直しを行い、平成20年度においては、薬学部附属育薬フロンティアセンター設置、大学院3研究科再編・統合による大学院社会文化科学研究科博士課程への改組、大学院保健学教育部修士課程の設置、イノベーション推進機構等の設置を行っている。
  •  中長期的視点から、教員定員の一定数を全学留保定員として確保し、新規事業や重点施策に活用している。また、戦略的な新規施策を実施するために、人件費の中で学長裁量枠を確保し、さらに機動的な人員の措置を可能にしている。平成20年度はバイオエレクトリクス研究センターに2名、国際化推進センターに1名を措置している。
  •  学長のリーダーシップの下、教育と基盤的研究の実施を確実に担保しながら戦略的経費(5億から6億円)を確保・充実し、学内公募による競争的配分をしている。平成20年度はユニバーシティ・ミュージアム構想の実現のための準備経費として「ユニバーシティ・ミュージアム経費」及び海外オフィスの管理運営のための経費として「上海オフィス等運営経費」を新たに設置している。

 平成20年度の実績のうち、下記の事項に課題がある。

(法人による自己評価と評価委員会の評価が異なる事項)

  •  「効率的・合理的に大学運営が行われるように、学内予算を適正に編成していく。併せて、次期中期目標・計画に向けて、より効率的な配分の在り方を検討する」(実績報告書17頁・年度計画【4‐1】)について、検討資料となる他大学の好事例等を調査したのみにとどまっていることから、年度計画を十分には実施していないものと認められる。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載27事項中26事項が「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、1事項について「年度計画を十分には実施していない」と認められるが、男女共同参画に関して先進的な取組が行われていること等を総合的に勘案したことによる。

(2)財務内容の改善に関する目標

1.外部研究資金その他の自己収入の増加、2.経費の抑制、3.資産の運用管理の改善

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  科学研究費補助金申請・採択増の方針を策定し、補助金獲得を推進している。これらの取組の結果、採択金額は16億488万円(対前年度比1億5,193万円増)となっている。
  •  老朽化した施設を整備するために、施設整備の在り方について検討を行い、全学的な対応として、人件費、病院経費及び特別教育研究経費等以外の経費から、一律5%を控除し、新たに「施設整備経費(大学負担分)」を設けている。
  •  附属病院においては、救急患者受入れ体制の強化や病床稼働率向上と合わせた病棟クラークの配置増等の取組により病床稼働率は約2.1%増加し、附属病院収入全体で約9億円の増収となっている。
  •  効率的な資金の活用を図るため、複数の金融機関による見積合せを実施し、金利の高い金融機関を選定し、3~9か月の短期資金運用を実施して財務収益として約3,000万円を確保し、教育研究経費として活用している。
  •  財務情報による財務分析を行い、他大学より医療経費比率が高くなっている状況から附属病院では、医薬品の後発医薬品等への切替え、医療材料の値引き拡大のためのコンサル業者の導入、X線撮影のフィルムレス運用の徹底を図り経費削減に努めている。
  •  中期計画における総人件費改革を踏まえた人件費削減目標の達成に向けて、着実に人件費削減が行われている。今後とも、中期目標・中期計画の達成に向け、教育研究の質の確保に配慮しつつ、人件費削減の取組を行うことが期待される。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載8事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び当該状況に係る情報の提供に関する目標

1.評価の充実、2.情報公開等の推進

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  これまで紙ベース又は別データとして管理されていた教員基礎情報及び個人活動評価情報を、新たに構築した熊本大学評価データベースシステム(TSUBAKI)に取り込み、運用することで自己点検・評価作業の効率化を図っている。
  •  大学のブランドイメージ強化を図る、さまざまな広報戦略(ウェブサイトの改良、地域連携パンフレット「熊大力」の制作、熊本空港における電照式看板広告、機内誌及び雑誌への広告等)を行っている。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載5事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(4)その他業務運営に関する重要目標

1.施設設備の整備・活用等、2.安全管理

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  改修工事や既存施設の用途変更等により、全学で新たに4,874㎡の共用スペース運用を開始している。これにより、大型研究プロジェクト、教育活動、学生活動等に対応するスペースとして有効活用することで、大学運営の活性化を図っている。
  •  五高記念館、化学実験場(重要文化財)等の保存計画案を策定し、伝統ある施設の計画的維持管理・保存を図ることとしている。
  •  環境報告書を作成し、大学ウェブサイトにおいて広く公開している。環境保全への取組の結果、総エネルギー消費量を延べ床面積で除した値(総エネルギー原単位)は対前年度比3.6%削減となっている。
  •  大地震や風水害(台風)への対応マニュアルとして「大規模災害対応基本マニュアル」を新規作成し、学生・教職員へ周知を行っている。

 平成20年度の実績のうち、下記の事項に課題がある。

  •  文部科学省が公表した「農薬の使用状況等に関する調査の結果」において、特定毒物を所持していたにもかかわらず、特定毒物研究者の許可を受けていなかったことから、引き続き再発防止に向けた取組が求められる。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載13事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

2.教育研究等の質の向上の状況

 評価委員会が平成20年度の外形的・客観的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。

  •  大学院自然科学研究科は「大学院教育改革支援プログラム」に基づき、科学技術教育の全面英語化計画を実施している。
  •  教員による授業参観を中心に、教養教育の指導方法改善の取組を組織的に行っている。また、学部・大学院教育における指導方法の改善の取組も行われている。
  •  優秀な学生を確保するために、大学独自の大学院奨学制度を創設している。博士後期課程においては、リサーチ・アシスタント(RA)の対象学生を弾力的に拡充している。
  •  大学をアピール・活性化するような学生手作りの企画事業の活動経費を支援する「きらめきユースプロジェクト」を実施している。
  •  産学連携、知的財産活用にかかる組織を一体化したイノベーション推進機構、国際化を推進するための熊本大学国際化推進機構を設置している。
  •  韓国科学技術院(韓国)との交流を深めるために、リエゾン・オフィスを開設し、上海オフィスに続く2番目の海外拠点としている。
  •  熊本県からの寄付を受け、「地域医療システム学寄附講座」を設置し、地域における医師不足等、地域医療崩壊の問題を解決するため、地域医療を支援するシステムの確立や総合診療医の養成に取り組んでいる。

附属病院関係

  •  医師臨床研修制度の見直しに即応するため、内科系・外科系の特別コースプログラムを新たに設け、研修ニーズに沿ったプログラム提供に取り組み、また、初期臨床研修修了後、印象に残った症例レポートを提出させ発表会を開催するなど工夫が見られる。
     研究では、エイズ治療薬(darunavir)がHIV‐1感染症の初期治療薬として、米国食品医薬品局(FDA)から認可され、治療薬開発が特許に認められるなど着実な成果をあげている。診療では、救急搬送患者の24時間受入れのために「救急外来チーム」を設置、6名の救急専任医を配置するなど、社会的に要請の強い政策課題に対して大学病院としての役割を果たしている。
     今後、将来構想と第二期中期目標・中期計画を見据えた「熊大プラン検討報告書2008」に基づいて、先端医療の開発・臨床導入と患者満足度の高い高度な医療に向けたさらなる取組が期待される。
(教育・研究面)
  •  大学病院連携型高度医療人養成推進事業(中九州三大学病院合同専門医養成プログラム)を実施し、研修プログラムの開発推進及びキャリアデータ蓄積システムの構築を行っている。
  •  「先端医療支援センター」において、心血管治療、機能神経外科、新生児の3つの寄附講座を設置し、先進的医療の臨床応用を目指した基盤整備に取り組んでいる。
(診療面)
  •  熊本県の委託を受け、神経精神科が主体となった高次脳機能障害に対する相談、総合的な支援を積極的に行う拠点医療機関としての役割を担っている。
  •  外来化学療法実施患者数の増加に伴い、化学療法センターを拡張し、5床から10床体制へ増床している。また、都道府県がん診療連携拠点病院として、がん診療連携クリニカルパスワーキンググループを設置し、アンケート調査・テレビ会議システムによる研修会の開催、パンフレット作成等、地域との連携強化を図っている。
(運営面)
  •  経営基本戦略を定めて、病院長による診療現場ラウンド、効率的な病床運用、ホットライン(通称:UPライン)の設置等、種々の方策を行い、病床稼働率90%の目標達成を推進している。
  •  診断群分類包括評価(DPC)と出来高試算データとの比較検証による改善の取組を推進するため、患者別に投薬・注射、検査、画像などの包括に含まれる算定内容の多寡の傾向を、前年度と比較したグラフとして掲示し、成果の検証と改善に活用している。

お問合せ先

高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室

(高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室)

-- 登録:平成22年02月 --