国立大学法人京都大学の平成20年度に係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

 京都大学は、高い倫理性に支えられた「自由の学風」を標榜しつつ、学問の源流を支える研究を重視し、先端的・独創的な研究を推進し、世界最高水準の研究拠点としての機能を高め、社会の各分野において指導的な立場に立ち、重要な働きをする人材の育成のための取組を進めている。
 環境に配慮した取組では、エネルギー消費量、温室効果ガス(CO2)排出量を原単位ベースで毎年1%削減するための具体的な方策の一つとして創設された「京都大学環境賦課金制度」を平成20年度から実施し、本制度による賦課金を原資としてエネルギー消費効率向上のための多様なハードウェア改修を計画的に実施しているなど積極的な取組が評価できる。
 業務運営については、情報を速やかに収集・発信し共有する仕組みとして総長室の体制整備を行っている。また、「京都大学男女共同参画推進アクション・プラン」を策定し、男女共同参画の推進のため、優れた女性若手研究者の意欲を高めるための顕彰制度の実施や産休・育児・介護休業期間の研究補助者雇用制度の創設等、積極的な取組を行っている。
 財務内容については、部局ごとの教育経費や研究経費の年度推移等の財務状況をグラフに示し、学生1人当たりの教育経費や教員1人当たりの研究経費の情報を加えることにより、これまで以上に年度ごとの推移や部局間の比較を簡明に行っている。
 教育研究の質の向上については、「物質‐細胞統合システム拠点」においてiPS細胞技術の応用上の問題となっていたウイルスベクターを用いないiPS細胞の樹立等に成功している。また、「若手研究者ステップアップ研究費」や「シニア・コア研究者バックアップ研究費」を創設し教育研究活動の支援に取り組んでいる。

2 項目別評価

1.業務運営・財務内容等の状況

(1)業務運営の改善及び効率化に関する目標

1.運営体制の改善、2.教育研究組織の見直し、3.人事の適正化、4.事務等の効率化・合理化

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  • 情報を速やかに収集・発信し共有する仕組みとして総長室の体制整備を行っている。
  • 「京都大学男女共同参画推進アクション・プラン」を策定し、優れた女性若手研究者の意欲を高めるための顕彰制度「たちばな賞」の創設・実施や産休・育児・介護休業期間の研究補助者雇用制度の創設等、男女共同参画を積極的に推進している。
  • 高年齢者雇用確保措置として、職員について再雇用制度を整備し、平成20年4月から合計78名を再雇用している。また、「教員の定年年齢の引き上げ等に関する基本的な考え方」及び「教員の定年年齢の引き上げ等に関する京都大学の方針」を制定している。
  • 事務効率化の取組として、宇治地区事務部では「旅費事務センター」を設置し、4研究所の出張業務等の一本化を図るとともに、部局では統計データの入力、発送業務等のアウトソーシング化に取り組んでいる。
  • 会計に係るコンプライアンスや部局の状況を把握し、指導・助言体制等新たな課題に機動的かつ柔軟に対応するため、部内のグループ編成を見直すとともに、大学の訴訟・法律相談、ハラスメント及び情報公開等に関する業務をより適切に処理するため、法務・人権推進室を設置している。
  • 業務運営の改善の対策として、9月30日を年度末に見立てた模擬的な決算業務の体験により、担当業務の執行に関する疑問点の解決を図り、事前準備資料の検討や業務手順並びに必要な作業時間等を確認する取組を実施している。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載36事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(2)財務内容の改善に関する目標

1.外部研究資金その他の自己収入の増加、2.経費の抑制、3.資産の運用管理の改善

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  部局ごとの教育経費や研究経費の年度推移等の財務状況をグラフに示し、学生1人当たりの教育経費や教員1人当たりの研究経費の情報を加えることにより、これまで以上に年度ごとの推移や部局間の比較を簡明に行っている。また、競争的資金の獲得に向け、採択状況の傾向分析や学術研究活動の調査等、全学的な支援に取り組んでいる。
  •  研究担当理事の下に設けている研究戦略タスクフォースのプログラムディレクター、研究戦略室のプログラムオフィサー等により外部資金や競争的資金の戦略的獲得に向けた取組を行い、政府系資金による受託研究費、民間等との共同研究の受入れ促進を図っており、外部資金比率が15.6%(対前年度比0.6%増)となっている。
  •  外国雑誌の購入を、冊子主体から電子ジャーナル主体に変更したほか、ドライアイス購入や実験排水系施設保守管理業務、財務会計システム支援業務の契約方式を変更すること等により2,100万円の経費を削減している。
  •  特許出願の促進については、市場性が高いものや国際的に評価が高く質の高い研究成果の出願・取得に取り組んでいる。
  •  資金運用について、長期運用では運用可能額の増額、短期運用では精度の高い資金繰計画に基づき運用したこと等により、4億2,000万円(対前年度比1億7,600万円増)の運用益を得ており、教育研究活動の向上等に活用している。
  •  中期計画における総人件費改革を踏まえた人件費削減目標の達成に向けて、着実に人件費削減が行われている。今後とも、中期目標・中期計画の達成に向け、教育研究の質の確保に配慮しつつ、人件費削減の取組を行うことが期待される。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載9事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び当該状況に係る情報の提供に関する目標

1.評価の充実、2.情報公開等の推進

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  部局ごとに、自己点検・評価、外部評価、授業評価等の結果を分析し、国際交流関係施策の検討、窓口サービス改善、授業評価に基づくカリキュラム改善等の課題の解決に向け取り組んでいる。
  •  大学の講義等の情報をインターネットを通じ無償で公開する活動(オープンコースウェア)の充実を図り、150以上の講義ノートと360の映像コンテンツを公開しており、アクセス数は200万アクセスを超えている。
  •  大学が保有する貴重な教育・研究活動の資料をデジタル化し、それを閲覧するための「研究資源アーカイブ映像ステーション」を稲盛財団記念館内に設置し、資料の一部を平成20年11月から一般公開している。
  •  近隣の私立大学との連携協力により、大学の紹介冊子『MANGA Kyoto University』を作製・刊行し、大学の教育研究を学外へ分かりやすく情報提供している。
  •  オープンキャンパスや、全国各地での入試説明会の開催等情報発信に努め、平成20年度は新たに高等学校(81校)長等への大学説明会を開催している。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載12事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(4)その他業務運営に関する重要目標

1.施設設備の整備・活用等、2.環境保全及び安全管理・安全教育、3.情報基盤の整備・活用、4.基本的人権等の擁護、5.大学支援組織等との連携強化

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  エネルギー消費量、温室効果ガス(CO2)排出量を原単位ベースで毎年1%削減するための具体的な方策の一つとして創設された「京都大学環境賦課金制度」を実施し、本制度による賦課金を原資としてエネルギー消費効率向上のための多様なハードウェア改修を計画的に実施しているなど積極的な取組が評価できる。
  •  総合研究1号館・プロジェクトラボに全学共用のレンタルスペースを確保し、利用者からスペースチャージを徴収し、維持管理費用に充当する試みを始めている。
  •  実験機器やパソコン等の有効利用を図るため、5,894件の供用公募を行っている。
  •  農学部総合館の耐震改修最終工区工事にあわせ、学生の教育研究環境を整備するため、学生に呼びかけコンペを行い、最優秀作品を基に中庭整備を実施している。
  •  安全衛生管理指針を作成し、新採用職員等の安全衛生教育に活用するとともに安全衛生管理システムのウェブサイト内で公表している。また、発生した事故の種類を分類した上で、本システムにより事故報告及び防止策の解説等を広範囲に行い、再発防止に向けた注意喚起、意識啓発を進めている。
  •  学内情報基盤のセキュリティー向上とサービス提供のため、学生及び教職員の全学認証を実施し、認証システムのIDとパスワードで自動でログインできるよう整備している。
  •  iPS細胞研究に係る発明の円滑かつ適切な管理・運用と、その事業化を通じた研究成果の社会還元等の推進を図るため、有限責任中間法人及び株式会社を設立し、強固な知的財産リスク対策等の諸課題に対応する具体的な事業を進めている。

平成20年度の実績のうち、下記の事項に課題がある。

  •  文部科学省が公表した「農薬の使用状況等に関する調査の結果」において、特定毒物を所持していたにもかかわらず、特定毒物研究者の許可を受けていなかったことから、引き続き再発防止に向けた取組が求められる。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載56事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められるほか、特定毒物研究者の許可を受けていなかったが、環境に配慮した積極的な取組が行われていること等を総合的に勘案したことによる。

2.教育研究等の質の向上の状況

 評価委員会が平成20年度の外形的・客観的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。

  •  平成19年度から平成20年度前半にかけて実施した学生による授業評価・アンケート調査結果を報告書として取りまとめ、関係教員に配付するとともに、平成21年度の各分野の科目設計及びカリキュラム編成に反映させている。
  •  専門分野の異なる複数教員のリレー講義形式による大学院教育科目「シミュレーション科学」の開講、他専攻の研究室セミナー等への参加奨励・ウェブサイト等での情報提供や分野横断型の高等教育の展開(「食品生命科学特論」)等により、学際領域研究に必要な専門的知識の修得機会の拡大を図っている。
  •  「物質‐細胞統合システム拠点」(世界トップレベル国際研究拠点形成促進プログラム)では、iPS細胞技術の応用上の問題となっていたウイルスベクターを用いないiPS細胞の樹立等に成功している。
  •  奨学を目的とする民間等からの寄附を有効に活用し、寄附講座、寄附研究部門を設置し、教育研究の進展及び充実に取り組んでおり、平成20年度は22寄附講座、10寄附研究部門を設置している。
  •  優れた若手教員を支援するため、「若手研究者ステップアップ研究費」や、これまでの優れた実績等を考慮し、研究継続に著しい支障がある場合に研究活動の継続をバックアップする「シニア・コア研究者バックアップ研究費」を創設している。
  •  平成20年度にロンドンに設置した産官学連携欧州事務所をはじめとした既設の海外研究施設等(33拠点)を拠点として、活発な教育、研究、広報活動を行っている。
  •  産官学連携本部・産官学連携センターの下で、産官学連携や異分野交流を展開し、回路配置利用権、育成者権等の新たな知的財産の創出に努めている。
  •  身体に障害のある学生の支援強化と支援の拠点となることを目的とし、身体障害学生相談室を設置している。
  •  研究成果の発信と新しい商品開発等の社会貢献に資するため、農学研究科附属農場と京都府内のホテルが提携し、農場で生産した農作物がホテル内のレストラン等で食材として活用されている。

全国共同利用関係

  •  全国共同利用の附置研究所、研究施設である、生存圏研究所、防災研究所、基礎物理学研究所、数理解析研究所、原子炉実験所、霊長類研究所、放射線生物研究センター、生態学研究センター、地域研究統合情報センター、学術情報メディアセンターでは、研究者コミュニティに開かれた運営体制を整備し、大学の枠を越えた全国共同利用を実施している。また、再生医科学研究所では、共同利用・共同研究拠点として認定を受けている。
  •  原子炉実験所では、固定磁場強集束型(FFAG)加速器と京都大学臨界集合体実験装置(KUCA)との結合に成功し、世界初の加速器駆動未臨界炉実験を開始している。
  •  生存圏研究所及び生態学研究センターでは、樹木を含む様々な植物の生長制御、植物と共生微生物との相互作用、ストレス耐性など植物の生理機能の解析を行うとともに、植物の分子育種を通じ、有用生物資源の開発を行う研究設備である「持続可能生存圏開拓診断(DASH)システム」を設置し、平成20年度より全国共同利用を開始している。
  •  学術情報メディアセンターでは、T2Kオープンスパコンの仕様策定を共同実施した筑波大学・東京大学と、T2Kオープンスパコンに関する学術的・技術的な議論を行うための「T2Kシンポジウム」を開催し、システム稼動後も連携・協力活動を活発に行っている。また、研究者が安心してスパコンを利用できる定額方式の負担金を導入するなどサービス機能を向上させた結果、利用者も大幅に増加している。

附属病院関係

  •  専門医養成のための教育制度を充実させるため、地域保健・医療重点プログラムや、産婦人科、小児科重点プログラムを独自に設定するなど、研修ニーズに対応した教育を構築している。また、先端医療開発特区(通称:スーパー特区)に、3件のプロジェクトが選定されるほか、ヒト幹細胞を用いた臨床試験を実施するなど、先端的な取組を行っている。診療では、生体肺移植手術、脳死肺移植手術、心臓血管外科手術等、いずれも安全管理体制を強化した上で手術を再開するなど、質の高い医療体制の提供に努めている。今後も、京都大学医学部附属病院将来構想に基づいて、高度な医療の提供、新医療技術開発に向けたさらなる取組が期待される。
(教育・研究面)
  •  「大学病院連携型高度医療人養成推進事業(マグネット病院連携を基盤とした専門医養成)」により、その運用開始に向けての準備を行っている。
  •  医師、歯科医師、看護師、その他のメディカルスタッフの卒前卒後教育を、一貫性を持たして統一して実施するための総合臨床教育・研修センターを設置し、職種を問わず、人間性豊かな医療人育成に努めている。
(診療面)
  •  京都府の地域連携拠点として、がん診療連携拠点病院、エイズ治療中核拠点病院、肝疾患診療拠点病院の指定を受け、医療体制の確保と質の向上に向けた取組を行っている。
  •  京大病院認定の領域別エキスパートナース研修プログラムを開始し、感染管理(3名)、褥瘡ケア(2名)、糖尿病看護(1名)の3分野のエキスパートナースを認定し、看護体制の強化を図っている。
(運営面)
  •  7対1看護体制の導入、心臓血管外科手術の再開、手術室利用の拡大等、附属病院収入増加に繋がる種々の方策を実行して、平成20年度稼働額が267億3,000万円(対前年度比19億7,000万円増)となっている。また、経費削減についても、医療材料・医薬品の価格交渉等を実行している。
  •  地域連携強化のために、「京大病院と地域医療機関との連携充実のためのガイダンス2009」を作成し、近畿一円の医療機関に配布している。

お問合せ先

高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室

(高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室)

-- 登録:平成22年02月 --