国立大学法人名古屋大学の平成20年度に係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

 名古屋大学は、「名古屋大学学術憲章」と中期目標・中期計画を基に「名古屋大学運営の基本姿勢」を示し、世界最高水準の研究の展開と次世代を担う若手研究者の育成を目指し、教育研究環境の整備に取り組んでいる。
 業務運営については、男女共同参画の推進のため重点項目を設定し取組を行い、発展型ポジティブ・アクションの導入、育児短時間勤務制度の制定等に取り組んでおり、積極的な取組として評価できる。この他、業務効率化プロジェクトを継続し、職員約1,200名に対し業務量調査及びウェブサイトによる意識調査を実施し、組織改革と事務改善の効果の検証に取り組んでいる。
 一方、年度計画に掲げている部局評価の基本方針を定めるまでには至っていないことから、円滑な取組が求められる。
 財務内容については、外部資金の獲得に向けた積極的な取組による外部資金の増加や複写機の包括役務契約への見直し等による節減の効果が現れている。
 環境に配慮した取組では、名古屋市のエコ事業所認定により、環境負荷軽減と省資源化を推進するための取組が評価され、名古屋市エコ事業所「優秀賞」を受賞するなど積極的な取組を行っている。
 教育研究の質の向上については、英語教育について、新カリキュラム実施に向けた取組、習熟度別履修コース制度とプレースメントテストの導入に向けた取組を行っているほか、国際学術交流奨励事業制度等による大学院博士後期課程学生への支援等に取り組んでいる。

2 項目別評価

1.業務運営・財務内容等の状況

(1)業務運営の改善及び効率化に関する目標

1.運営体制の改善、2.教育研究組織の見直し、3.人事の適正化、4.事務等の効率化・合理化

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  男女共同参画の推進のため重点項目を設定し取組を行い、その取組結果について毎年度検証を行い、発展型ポジティブ・アクションの導入、育児短時間勤務制度の導入、女子中高生理系進学推進イベント等を開催しており、積極的な取組として評価できる。
  •  理事室を同一のフロアへ集中化し、情報の集約・共有化・発信機能を強化するとともに、事務局各事務室の配置等も見直し、業務の効率化に取り組んでいる。
  •  各部局で管理していた科学研究費補助金の預金口座を、事務局で一元管理し、定期預金等の運用益を科学研究費補助金の振込手数料の支払等に充当している。
  •  「業務効率化プロジェクト」を継続し、業務量の経年変化が大きい事項について、各部署においてCAP(CHECK、ACT、PLAN)シートを作成している。また、事務系職員約1,200名に対し、活動基準原価計算(ABC)技法による業務量調査及びウェブサイトによる意識調査を継続実施し、組織改革と事務改善の効果の検証に取り組んでいる。
  •  大学の運営に資するため、部局長向けに、大学の方針、手続き等を示した「名古屋大学業務提要」を作成し、その活用を図っている。
  •  名古屋工業大学及び豊橋技術科学大学との連携による「愛知建築地震災害軽減システム研究協議会」を通じて、地震防災に関する共同研究プロジェクトを実施している。
  •  職員が業務遂行に有益な知識を習得するため大学等に修学できる休職制度の導入を決定するとともに、英語実務研修として2名の職員をミネソタ大学にインターンとして派遣している。

平成20年度の実績のうち、下記の事項に課題がある。

(法人による自己評価と評価委員会の評価が異なる事項)

  •  「部局評価の基本方針を定める」(実績報告書36頁・年度計画【K112】)については、部局評価の基本方針案を全部局に示し、実施に関する具体的な検討を開始しているが、平成20年度中に定めるまでには至っていないことから、年度計画を十分には実施していないものと認められる。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載25事項のうち23事項(重要性を勘案したウェイト反映済み)が「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、2事項について「年度計画を十分には実施していない」と認められるが、男女共同参画を推進する積極的な取組等を総合的に勘案したことによる。

(2)財務内容の改善に関する目標

1.外部研究資金その他の自己収入の増加、2.経費の抑制、3.資産の運用管理の改善

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  外部資金の獲得に積極的に取り組み、受託研究、共同研究、受託事業、奨学寄附金による外部資金が102億4,070万円(対前年度比9億9,024万円増)となっている。
  •  創立70周年を節目として、「名古屋大学基金」に広く寄附を募るため、企業訪問、保護者等への呼びかけ等に取り組んでいる。また、名古屋大学協力会の法人会員等の増加に努め、法人会員157社(対前年度比で法人会員11社増)となっている。
  •  複写機の包括役務契約への見直しや地下水浄化サービス事業による水道料節減等の取組により、年間約8,949万円の節減効果が現れている。
  •  学内各所で発生する、建築や電気・機械設備の不具合に関する情報収集を一括化するため連絡窓口「修繕119番」を開設している。
  •  中期計画における総人件費改革を踏まえた人件費削減目標の達成に向けて、着実に人件費削減が行われている。今後とも、中期目標・中期計画の達成に向け、教育研究の質の確保に配慮しつつ、人件費削減の取組を行うことが期待される。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載14事項すべて(重要性を勘案したウェイト反映済み)が「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び当該状況に係る情報の提供に関する目標

1.評価の充実、2.情報公開等の推進

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  中期目標期間6年分の年度計画及び実績報告等を中期計画単位で一覧できる学内版ワークシートを活用し、年度計画、業務の実績に関する報告書、中期目標の達成状況報告書の作成等の効率化に取り組んでいる。
  •  評価業務に係る作業時間を可視化することにより、評価業務にかかる作業時間を計測しコスト換算している。
  •  全教職員を対象に、中期目標・中期計画・評価に関するアンケートを実施し、今後の目標・計画・評価業務の効率化等に向けた問題点を把握している。
  •  ウェブサイトを日本語、英語版ともに全面改訂し、CMS(Contents Management System)を導入し、担当部署で所掌する情報を速やかに更新できるシステムを整備している。
  •  教員プロフィール入力キャンペーンを実施し、教員プロフィールの入力率を97%に高め、教育研究活動の積極的な公開に努めており、引き続き入力率の向上が期待される。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)  年度計画の記載8事項すべて(重要性を勘案したウェイト反映済み)が「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(4)その他業務運営に関する重要目標

1.施設設備の整備・活用等、2.安全管理

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  改修・整備した豊田講堂、博物館等の施設を活用してホームカミングデイ、ノーベル賞受賞展示、名古屋フィルハーモニー交響楽団による演奏会、博物館コンサート等を開催し、中高生も含む一般市民に広く施設を公開している。
  •  名古屋市のエコ事業所認定により、環境負荷軽減と省資源化を推進するための取組が評価され、名古屋市エコ事業所「優秀賞」を受賞している。
  •  地下水浄化サービス事業により得た財源を活用した設備・機器の省エネルギー化の推進、グリーンIT推進ワーキンググループによる「待機電力節減キャンペーン」及び「パソコン省エネ設定キャンペーン」に取り組んでいる。
  •  研究費等不正使用防止のため、「研究費執行ハンドブック」、「ヒヤリ・ハット・ウッカリ集」を配布するほか、全構成員を対象にガイドライン、規程、運用ルールに関するe‐Learning研修を実施している。

平成20年度の実績のうち、下記の事項に課題がある。

  •  文部科学省が公表した「農薬の使用状況等に関する調査の結果」において、特定毒物を所持していたにもかかわらず、特定毒物研究者の許可を受けていなかったことから、引き続き再発防止に向けた取組が求められる。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載21事項すべて(重要性を勘案したウェイト反映済み)が「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

2.教育研究等の質の向上の状況

 評価委員会が平成20年度の外形的・客観的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。

  •  これまでの日本語オンライン教材をまとめ、利用しやすいよう名古屋大学日本語教育ポータルサイトを作成し公開している。
  •  全学教育の物理学実験予習用e‐Learning動画教材を作成し、実験授業に活用している。
  •  学生に国際基準の英語力を獲得させるため、英語教育の新カリキュラム実施に向けて取り組んでいる。また、教育効果を高め、自律的学習を推進するために、習熟度別履修コース制度とプレースメントテストを導入することとしている。
  •  大学間連携によるファカルティ・ディベロップメント(FD)及びスタッフ・ディベロップメント(SD)の充実のため、名古屋市の国立及び私立大学によるコンソーシアム形成事業「FD・SDコンソーシアム名古屋」に着手し、授業改善ワークショップや「大学教育改革フォーラムin東海2009」を実施している。
  •  学術交流協定を締結している海外の大学と連携し、英語で授業を行う自動車工学に関する夏季プログラムを開講している。
  •  国際学術交流奨励事業制度による優れた大学院学生(25名)の海外派遣の実施や、学術奨励賞奨学金制度により特に優れた大学院学生(200名)へ年額30万円を継続給付するなど、大学院博士後期課程学生の支援に取り組んでいる。
  •  米国ノースカロライナ州ローリー市に設置された国際産学連携拠点を活用し、米国内でシーズ発表会を開催している。
  •  「著者名解決ツール」を開発・公開し、「名古屋大学学術機関リポジトリ」と「教員プロフィール」、「蔵書検索」、「名大の授業」、「名大の研究」、「ReaD」をリンクさせており、特に、「教員プロフィール」と「名大の研究」との相互リンクを実現し、学術論文へのアクセスを容易にするよう取り組んでいる。
  •  附属学校については、全国中高一貫教育研究会の会長校・事務局として、中高一貫校のネットワークの充実のために指導的役割を果たし、「中高一貫教育10年の検証」について検討を開始し、東京大学と奈良女子大学の附属学校と連携して、中高一貫教育の検証と評価のための準備会を設置している。

全国共同利用関係

  •  全国共同利用の附置研究所、研究施設である太陽地球環境研究所、地球水循環研究センター、情報連携基盤センターでは、研究者コミュニティに開かれた運営体制を整備し、大学の枠を越えた全国共同利用を実施している。
  •  地球水循環研究センターでは、千葉大学、東京大学、東北大学との大学間連携事業「地球気候系の診断に関わるバーチャルラボラトリー(VL)の形成」の下に設置しているVL推進室において、公開数値モデルの普及活動(ユネスコIHPトレーニング等)を行っている。
  •  情報連携基盤センターは、大学博物館に「計算機シミュレーションで解き明かされる世界」を展示し、スーパーコンピュータの活用成果を公開している。

附属病院関係

  •  後期・専門プログラムを充実させて(「地域医療を担う人材養成プログラム」他2プログラム)、後期・専門研修医の採用(平成20年度11名)を増やしている。また、遺伝子・再生医療センターのバイオマテリアル調整部門が開発した医療材料を使用して、再発乳がん等を対象に臨床研究を開始しており、先進医療の開発に取り組んでいる。診療では、手術件数の増加(平成20年度7,003件(対前年度比531件増))等の要因により、246億円(対前年度比14億7,000万円増)の附属病院収益を確保するなど、着実な成果を上げている。
     今後、病院ミッションに基づいた戦略的経営を実現し、医師配置計画を取りまとめた実績を活かして、東海地区の高度診療拠点病院としてのさらなる取組が期待される。
(教育・研究面)
  •  「大学病院連携型高度医療人養成推進事業(東海若手医師キャリア支援プログラム)」により、キャリア形成支援部門を設置、専任教員を配置して事業の推進に取り組んでいる。
  •  腫瘍溶解性突然変異株ウィルスを用いた臨床研究を米国内で行うために、米国食品医薬品局(FDA)から臨床研究開発の許可を得ている。
(診療面)
  •  臨床病理部が行う病理解剖検討会(CPC)に医療の質・安全管理部が積極的に参加する「拡大CPC」を開始し、患者有害事象例への院内検討体制をさらに充実させている。
  •  医師、医療関係職の勤務環境を改善するため、病棟クラークの導入を拡大(3部署→22部署)するとともに、院内における静脈注射の標準化等を行い、看護師による静脈注射を開始している。
(運営面)
  •  地域連携と地域医療を強化するため、愛知県地域医療推進会議の下に「公的病院再編ネットワーク化有識者会議」を主宰し、県内病院への医師配置計画を取りまとめ、愛知県知事に答申している。
  •  クリニカルパスを電子化し、電子カルテ上の指示や記録と連携させて効率的な医療に取り組んでいる。
  •  物流管理システム(SPD)における医療材料定数及び直納品に関する業務の見直しにより、不良在庫を減少させ、1億7,947万円のコスト削減、建物保全業務等の委託内容見直しにより、418万円のコスト削減を図っている。

お問合せ先

高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室

(高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室)

-- 登録:平成22年02月 --