国立大学法人弘前大学の平成20年度に係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

 弘前大学は、人文学部、教育学部、医学部、理工学部及び農学生命科学部の5学部からなり、幅広く学問領域をカバーしている地方の中規模総合大学であり、この特徴を最大限に生かし、弘前大学のモットーである「世界に発信し、地域と共に創造する弘前大学」の実現に向けて、教育、研究及び地域貢献を展開している。
 業務運営については、北日本新エネルギー研究センターを設置してCO2削減のための新エネルギーに関する研究開発に取り組んでいる。また、学士課程において、基礎教育の充実、各分野・領域の基盤となる基礎学力の保証のため、全学部でコア科目群を配置し、コア・カリキュラムの充実を図っている。
 財務内容については、「弘前大学増収計画」に基づき、非常勤講師宿泊施設(文京荘)の宿泊料金改定や当座預金から普通預金への変更を行い、対前年度比約400万円の増収となり、教育研究の充実や学生支援等に活用している。
 自己点検・評価及び情報提供については、元禄時代の津軽領全域を描いた「津軽領元禄国絵図写」が発見されるなど、旧制弘前高等学校資料の整理保存作業に取り組んでいる。
 教育研究の質の向上については、21世紀教育科目では、「成績評価の方法と基準」を定め、これに基づき成績評価を実施するなど成績評価方法の改善に組織的に取り組んでいる。また、青森県内の小中高生に研究テーマを募集し、教員と共同研究を行う「科学者発見プロジェクト」を実施している。

2 項目別評価

1.業務運営・財務内容等の状況

(1)業務運営の改善及び効率化に関する目標

1.運営体制の改善、2.教育研究組織の見直し、3.人事の適正化、4.事務等の効率化・合理化

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  総合情報処理センター運営委員会において、学内の情報基盤整備に関する方針及び中長期的に安定的な整備を推進するための「情報基盤整備に関する戦略」を策定している。
  •  学長のリーダーシップの下、北日本新エネルギー研究センターを設置し、CO2削減のための新エネルギーに関する研究開発に取り組んでいる。
  •  寄附講座「糖鎖医学講座」を設置し、次世代のバイオテクノロジーとしての糖鎖生物学を医学の教育・研究に取り込み、新しい医学研究分野の開拓を図っている。
  •  人事、財務、学務、規則・規程、文書・広報等の業務内容や流れ等を解説した「仕事のしおり」を出版して全教職員に配付して、新たに業務を行うこととなった職員や新規採用職員研修の手引きとして活用している。
  •  監査室を「法人内部監査室」に名称変更するとともに、新たに研究費の不正使用防止を目的として「監査室」を設置して、内部監査体制の充実・強化を図っている。
  •  農学生命科学部において、4学科から5学科に学科再編を行い、コース制を導入して専門基礎科目を充実させ、学部専門科目との緊密な連携を図っている。
  •  テネシー大学(米国)に事務職員を派遣し、長期語学研修を実施することについては、派遣者決定後に本人の都合による派遣辞退があり、その後再募集を行ったが応募者がなく、事務職員を派遣するまでには至っていないことから、候補者を派遣できなくなった場合に備えて、補欠候補者を選考するなどの取組を行うことが期待される。
  •  平成19年度評価結果において評価委員会が課題として指摘した、教員の業績評価の実施と処遇への反映については、平成20年度に教員の業績評価を実施し、平成20年12月の勤勉手当から反映しており、指摘に対する取組が行われている。
  •  平成18年度から平成19年度までの評価結果において評価委員会が課題として指摘した、組織及び事務職員の業績評価については、平成20年度に組織の業績評価と事務職員の人事評価を本格実施し、事務職員の人事評価を踏まえ平成20年12月の勤勉手当から反映しており、指摘に対する取組が行われている。
  •  平成19年度評価結果において評価委員会が課題として指摘した、事務組織再編については、平成20年4月1日より事務組織の再編を実施しており、指摘に対する取組が行われている。

平成20年度の実績のうち、下記の事項に課題がある。

  •  平成16年度から平成19年度までの評価結果で評価委員会が課題として指摘した、大学院博士課程について、学生収容定員の充足率が平成16年度から平成18年度においては85%、平成19年度から平成20年度においては90%をそれぞれ満たさなかったことから、今後、速やかに、定員の充足に向けた取組、特に入学定員の適正化に努めることが求められる。(なお、平成21年度は90%を満たしている。)                                                  
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けておおむね順調に進んでいる          

(理由) 年度計画の記載57事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められるが、大学院博士課程において学生収容定員の充足率が90%を満たさなかったこと等を総合的に勘案したことによる。                                                                

(2)財務内容の改善に関する目標

1.外部研究資金その他の自己収入の増加、2.経費の抑制、 3.資産の運用管理の改善

  •  「弘前大学増収計画」に基づき、非常勤講師宿泊施設(文京荘)の宿泊料金改定や当座預金から普通預金への変更を行い、対前年度比約400万円の増収となり、教育研究の充実や学生支援等に活用している。
  •  病院研修生や受託実習生等を積極的に受け入れ、対前年度比約50万円の増収となっている。
  •  一般管理費について、10億6,586万円(対前年度比1億6,208万円増)、一般管理費比率は3.8%(対前年度比0.6%増)となっており、一般管理費削減に向けた取組が期待される。
  •  中期計画における総人件費改革を踏まえた人件費削減目標の達成に向けて、着実に人件費削減が行われている。今後とも、中期目標・中期計画の達成に向け、教育研究の質の確保に配慮しつつ、人件費削減の取組を行うことが期待される。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる                  

(理由) 年度計画の記載8事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び当該状況に係る情報の提供に関する目標

1.評価の充実、2.情報公開等の推進

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  国公立大学長経験者や専門委員で学外評価委員を構成し、書面調査や実地調査を踏まえた外部評価を実施し、外部評価結果とその対応を学内外に公表している。
  •  元禄時代の津軽領全域を描いた「津軽領元禄国絵図写」や著名な作家の肖像写真が発見されており、旧制弘前高等学校資料の整理保存作業に取り組んでいる。
  •  平成18年度から平成19年度までの評価結果において評価委員会が課題として指摘した、組織及び事務職員の業績評価については、平成20年度に組織の業績評価と事務職員の人事評価を本格実施しており、指摘に対する取組が行われている。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる                  

(理由) 年度計画の記載8事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(4)その他業務運営に関する重要目標

1.施設設備の整備・活用等、2.安全管理

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  創立60周年記念事業の一環として、産学連携拠点施設として「コラボ弘大」の建設に着工している。
  •  主な建物について、小規模な改修を含む管理用の現状図を作成し、施設に関する要修繕箇所については、キャンパス全体を定期的に更新するとともに、中長期的な修繕計画に反映させ、それに基づき計画的に修繕を実施している。
  •  「弘前大学温室効果ガス排出抑制等のための実施計画」を策定し、向こう5年間での削減目標値を設定し、具体の実施計画に取り組むこととしている。
  •  危機管理マニュアルを見直し、わかりやすい緊急時の連絡体制を記載し、災害等の事業別対応について追加するなどの改善を行っている。                                                                    
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる                  

(理由) 年度計画の記載26事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

2.教育研究等の質の向上の状況

評価委員会が平成20年度の外形的・客観的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。

  •  21世紀教育科目では、「成績評価の方法と基準」を定め、これに基づき成績評価を実施するなど成績評価方法の改善に組織的に取り組んでいる。
  •  成績評価の正確性を担保する取組として、直接学部長への「異議申立書」提出の制度を設けている。
  •  「弘前大学私費留学生(正規生)緊急特別教育助成金」を私費留学生(52名)に対して支給し、留学生への支援を充実させている。
  •  若手教員の研究を支援するための「若手萌芽研究助成制度」を創設し、公募により1研究課題につき70万円を上限とする研究費を措置することとし、59件の申請に対し、17件を採択している。
  •  青森県内の小中高生に研究テーマを募集し、教員と共同研究を行う「科学者発見プロジェクト」を実施している。
  •  附属特別支援学校による公開研究会「実践フォーラム」を、教育学部特別支援教育センターとの共催・企画により実施している。また、学校独自の現職研修も一般に公開し、「現職教員のための指導力向上講座」を同センターと協同で実施している。

附属病院関係

  • 「社会的ニーズに対応した質の高い医療人養成推進プログラム」を継承発展して、プライマリケアセミナー配信や学生カンファレンスを実施するなど、教育の充実を図っている。また、抗がん剤や認知症治療薬等の治験導入の推進に積極的に取り組んでいる。診療では、腎臓移植施設に認定され、高度な医療を提供する大学病院としての役割を果たしている。
     今後、社会的に要請の強い「高度救命救急センター」や「周産期医療病床」の開設に向けて必要な人員や施設等を整備するとともに、地域医療体制の基盤強化に応えていくためのさらなる取組が期待される。
(教育・研究面)
  •  大学病院連携型高度医療人養成推進事業(東北高度医療人キャリアパス支援システム)により、キャリアパス支援センターを設置して、高度専門医養成の環境整備に取り組んでいる。
  •  研修医の多様なニーズに対応するため、4つの特別コース(内科、外科、救急、小児科)を新たに追加するとともに、メンター制度を導入して、臨床研修の充実を図っている。
  •  若手医師の科学研究費補助金の採択率向上を図るために、病院独自で申請書類のアカデミックチェックを行っている。
(診療面)
  •  がん放射線治療診療室、がん診療相談支援室の拡充・充実、セカンドオピニオン外来の開設等、地域がん診療連携拠点病院としての役割を担っている。また、膀胱がん・前立腺がんの手術件数は、国内でもトップレベルの件数を実施している。
  •  岩手・宮城内陸地震においては、直ちに災害派遣医療チーム(DMAT)を派遣し、被災地救護所等での医療活動を提供しており、社会的なニーズに迅速に対応している。
(運営面)
  •  医師の業務負担の軽減を目的に、病棟及び集中治療部にクラークを配置し、効率的な診療業務の運営が行われ、医療スタッフが診療に専念できる体制を整備している。また、メディカルソーシャルワーカー(MSW)を増員したことで、退院調整の支援件数の増加につながっている。
  •  「診療報酬対策特別委員会」や医業経営コンサルタントを活用して、病院経営改善に努めた結果、約3,000万円の医療材料の削減を行っている。

お問合せ先

高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室

(高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室)

-- 登録:平成22年02月 --