債券発行の基本原則:私募債や縁故債(注1)を除いて公募債券は通常満期一括償還であり、返済元本を満期まで留めて置く点が、分割返済が基本形である長期借入金との違いとしてあげられる。
公募債券は多くの投資家に販売され、転売流通されることを前提としており、分割返済が付帯条件としてあると、元本の一部が償還されるリスクを投資家に負わせることになり、金融商品として魅力がそがれるためと考えられる。
満期一括償還のため、満期時に償還額が多額となるが、一方で債券には長期借入金と異なる下記のメリットが存在する。
図表1【長期借入金の基本構造】
図表2【債券(公募債券)の基本構造】
債券の発行金利は、市場金利水準の中で発行者の信用度、債券の償還期間等により決定される。債券の中で最も信用度の高い債券は国債であり、国債の発行金利が市場の金利水準のベースとなっている。
信用度に関して投資家は通常、格付け機関による格付けを判断材料として利用している。各格付け機関は発行された債券が支払い不能(デフォルト)に陥る可能性の高さを各社特有の指標で表示しており、投資家はそれを参考指標として活用する。(後掲資料編15頁参照)
償還期間の点から見てみると、一般的に短期より長期の方が金利は高くなる。
市場の金利水準は、景気や市場の資金需給、世界経済、政策等様々な要因により変動する。資金を調達する側の発行者にとって金利は極力低い方がよく、資金を運用する側の投資家は少しでも高い金利の債券に魅力を感じる。従って債券発行に際して発行者は投資家に購入意欲を持たせる水準は確保しながら、その中で最も低い金利になるよう、金利水準の動向に注意しながら、自らの責任において発行のタイミングを決めることになる。
図表3【文部科学省関連法人の財投機関債発行金利事例】 |
(出所:各法人ホームページ資料に基づきJRI作成;格付けは株式会社格付投資情報センター分) |
文部科学省関連の財投機関のこれまでの債券発行時の発行金利を見ると、日本学生支援機構が5年債で平成16年に7月1.18パーセント、11月0.7パーセントで発行している。
国立大学法人が債券発行した場合の金利は現時点では予想しにくいが、格付けの水準がこれらの財投機関の格付け以上の場合は、これらの機関の金利よりも有利な水準になると考えられる。
債券を実際に発行する場合、発行者が直接発行の手続・募集を行う方法は直接発行と呼ばれるが、多数の投資家に大量の債券をさばく知識やインフラがないと難しく一般的な方法とはなっていない。そこで通常は、仲介会社を通じて投資家の募集を募るという間接発行の方法が行われている。
間接発行には委託募集、引受募集、総額引受の3つの方式があるが、委託募集は発行者が他の会社に募集を委託する方法で、受託会社は事務手続や募集行為は行うが応募不足額を引き受ける責任がないため、債券が成立しない可能性がある。そのため通常は2番目の引受募集という方法で、発行者が引受会社と募集取扱い、残額引受の契約を結び、募集を委託し募集額が発行総額に満たない場合は残額を引受会社に引き取らせることにして、発行されている。なお最後の総額引受は発行者が特定者と契約して、発行総額を一括して引受させる方法である。
この引受会社に引受募集を委託する際の対価が引き受け販売手数料である。引受業務は法的に証券会社のみが対応可能とされている(注3)(証券取引法第65条)。引受手数料の水準自体は発行者と引受会社の相対取引の中で、発行規模、債券の人気等から決定される。
事例として、平成18年度の第2回独立行政法人国立大学財務・経営センター債券発行では、100円につき22.5銭とされており、発行額の0.225パーセントの水準になっている。
図表4【文部科学省関連法人の財投機関債発行引受手数料事例(除く消費税;以下同じ)】 |
(出所:各法人ホームページ資料に基づきJRI作成) |
債券発行において発行者は、受託会社を選定し契約書、申込書等の作成、払込金の授受、券面の調整、社債原簿の作成、償還金や利子の支払等、募集に関する事務等を委託することになる。今般の国立大学法人の資金調達制度では、債券発行の事務作業を銀行に委託できるとしている。これらの事務負担を委託する対価として支払われる手数料が募集受託手数料である。
国立大学法人は、償還までの長期に亘って事務負担を委託することが可能となっており、債券発行を円滑に進める上で必要な仕組みと考えられる。手数料の水準は引受販売手数料と同じく発行者と受託会社である金融機関の相対取引の中で決定される。
発行者が債券の保有者である投資家に元利金を支払った機関へ事務処理費用として支払う手数料である。振替債制度が導入されたことに伴い、発行者は従来募集受託会社が決定していた手数料率を、受託会社との協議は行うものの発行者が最終的に決定できるようになった。その結果費用負担する発行者は従来より低めに手数料を設定する傾向がある。
債券発行に関して、債券取引の電子化、ペーパーレス化のために平成18年1月に導入された一般債の振替制度の適用を受けることになり、株式会社証券保管振替機構の定める一連の手続きを履行し、所定の手数料を支払うことが求められる。実際には受託会社が支払い代理人として事務を担当する。
手数料の金額について、株式会社証券保管振替機構では次のような体系を定めている。
図表5【新規記録手数料(発行代理人を通じて発行者に請求)】〔1銘柄につき〕 |
(平成19年3月現在) |
(出所:株式会社証券保管振替機構ホームページ) |
債券発行において、募集に応じる投資家が当該債券の信用度(支払い不能(デフォルト)に陥る可能性)を判断するための指標が格付け機関の行う格付けである。この格付けに際して、格付け機関は一定の資料分析・ヒアリング等の審査手続きを行うことになり、その対価として手数料を要求する。
格付けがなくても発行自体は可能であるが、投資家からは信用度の低い債券と判断されて、募集が困難になる可能性が高い。
手数料の水準は格付け機関各社がそれぞれ独自に料率を設定して決めている。
債券発行に際して、発行者の経営内容、財務内容を説明するための文書が投資家保護のために必要であり、発行者には業務内容や財務内容を詳細に説明する文書を不特定多数の投資家に交付することが求められる。株式発行で言えば目論見書に当たり、この発行費用も債券発行に伴うコストと考えられる。
以上みてきたように、債券発行には金利以外に当初費用として各種の手数料が必要となり、資金調達コストとしてはこれらの手数料も加味した総コストで長期借入金との条件比較を行うことになる。
各手数料は実際には受託会社等との相対取引で決定されるので、明確な料率は推定しにくいが、引受販売手数料だけでも「第2回独立行政法人国立大学財務・経営センター債券」では発行額に対して0.225パーセントかかっている。これに募集受託手数料は、他の独立行政法人、特殊法人等の発行事例等からおおよそ発行額の0.04パーセント〜0.01パーセントと推定され、さらに元利金支払手数料と新規記録手数料の合計でおおよそ0.01パーセント程度必要と推測される。単純にこれらを合計すると発行額の0.275パーセント〜0.245パーセントの手数料が必要になる。実際にはこれらの費用に格付け会社の費用、債券内容説明書の印刷費用等も必要となる
債券発行を検討する上では、これらの手数料や費用に留意して長期借入金との比較をすることが必要となる。
-- 登録:平成21年以前 --