障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告(第一次まとめ)(前回からの修正反映版)

1.はじめに

○我が国の高等教育段階においては、大学等(※1)における障害のある学生の在籍者数が急増しており、各大学等は今まで以上に、障害のある学生の受入れや修学支援体制の整備が急務となっている。

○障害者の権利に関する条約(以下、「障害者権利条約」という。)が平成18年12月に国連総会で採択され、平成20年5月に発効した。我が国は平成19年9月に同条約に署名しており、平成23年8月に障害者基本法の改正を行うなど、締結に向けた取組が進められているところである。

○障害者権利条約では、一般的義務として、「障害を理由とするいかなる差別(※2)もなしに、すべての障害者のあらゆる人権及び基本的自由を完全に実現することを確保し、及び促進することを約束する」(第4条第1項)とともに、「平等を促進し、及び差別を撤廃することを目的として、合理的配慮(※3)が提供されることを確保するためのすべての適当な措置をとる」(第5条第3項)、「障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置は、この条約に規定する差別と解してはならない」(第5条第4項)と定めている。

○教育分野については、「障害者が、差別なしに、かつ、他の者と平等に高等教育一般、職業訓練、成人教育及び生涯学習の機会を与えられることを確保する。このため、締約国は、合理的配慮が障害者に提供されることを確保する」(第24条)と定めている。

○また、障害者基本法においては、「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」(第4条第1項)、「社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによつて前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がなされなければならない」(第4条第2項)としている。

○こうした中、本検討会では、(1)対象範囲を検討するとともに、(2)大学等における合理的配慮及びその考え方、(3)国・大学等及び独立行政法人等の関係機関が取り組むべき短期的課題、中・長期的課題などについて、大学や関係企業からのヒアリングを含め、計9回にわたり検討を重ね、今回、その検討結果を第一次まとめとして報告をまとめた。

(※1) 別に注記のない限り、「大学等」は大学(大学院を含む)、短期大学及び高等専門学校をいい、「大学等」には通信教育課程を含む。
(※2) 「障害を理由とする差別」とは、障害を理由とするあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害を理由とする差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。(障害者権利条約第2条)
(※3) 「合理的配慮」とは、障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。(障害者権利条約第2条)

 

2.大学等における障害のある学生の現状

○平成17年より独立行政法人日本学生支援機構(以下、「機構」という。)が実施している「大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査」(※4)によると、障害のある学生の在籍者数は、平成23年は10,236人となっており、5年前の平成18年の4,937人と比較するとほぼ倍増している。

○障害種別にみると、障害のある学生の在籍者数は、全ての障害種別で増加している。平成23年では、視覚障害681人(対平成18年比171人増)、聴覚・言語障害1,556人(同356人増)、肢体不自由2,491人(同740人増)、病弱・虚弱2,047人(同1,170人増)、重複170人(同77人増)、発達障害(診断書有)1,453人(同1,326人増)、その他1,838人(同1,459人増)となっており、特に、発達障害及びその他の障害(※5)の増加が著しい。

○大学等における障害のある学生の在籍率については、平成23年では、全学生数3,235,575人に占める障害学生数10,236人の割合は0.32%となっている。また、学校に支援の申し出があり、それに対し学校が何らかの支援を行っている障害のある学生(以下、「支援障害学生」という。)は5,897人となっており、支援障害学生の在籍率は0.18%となっている。

○障害のある学生が在籍する学校数については、平成23年度では、全学校数1,206校中807校であり、66.9%となっている。また、支援障害学生の在籍する学校数は649校であり、全学校数の53.8%(障害のある学生が在籍する学校数に対しては80.4%)となっている。
 大学1校当たりの障害のある学生の在籍者数は、平均すると16人(※6)となっており、うち、支援障害学生の在籍者数は大学1校当たり11人(※7)となっている。

○支援障害学生が在籍する大学の割合について、大学の規模別でみると、1人でも支援障害学生が在籍する大学の割合は、学生数の規模が小さくなるにつれて低くなっている。学生数が10,000人以上の大学では98.6%とほぼ全大学が受け入れている一方、499人以下の大学では22.4%となっている。

○入試における状況については、平成23年度入学者選抜(平成23年度入学者を対象)において特別措置を行った受験者数は2,325人となっており、そのうち合格者は947人、入学者は710人となっている。

○また、平成23年度に機構が実施した「障害のある学生の就業力の支援に関する調査」(※8)によると、障害のある学生の修学支援を担当している部署は、事務局が最も多く470校、次いで学生相談室228校、保健管理センター159校、障害学生支援委員会(類似部署含む)68校、障害学生支援室(類似部署含む)54校となっている。

(※4) 毎年5月1日現在を基準とし、国公私立の大学、短期大学及び高等専門学校約1,200校を対象とした悉皆調査。(回答率:平成17年90.5%、平成18年93.8%、平成19年以降100%)
(※5) 視覚障害、聴覚・言語障害、肢体不自由、病弱・虚弱、重複及び発達障害に該当しない障害があり、医師の診断書がある者。または、健康診断等において上記の障害があることが明らかになった者をいい、知的障害、精神障害、精神疾患等はこの区分に計上することとしている。
(※6) 大学における障害のある学生数(9,404人)を在籍学校数(597校)で除した人数。
(※7) 大学における支援障害学生数(5,432人)を支援障害学生在籍学校数(506校)で除した人数。
(※8) 平成22年5月1日現在を調査期日とし、国公私立の大学、短期大学及び高等専門学校1,202校を対象とした悉皆調査。(回答校数914校、回答率76.0%)

 

3.本検討会における検討の対象範囲

(検討対象とする「学生」の範囲)
○本検討会において検討対象とする「学生」の範囲は、「我が国における、大学等に入学を希望する者及び在籍する学生とし、学生には、科目等履修生等、研究生、留学生及び交流校からの交流に基づいて学ぶ学生等も含む」ものとした。

(検討対象とする「障害のある学生」の範囲)
○改正後の障害者基本法第2条において、障害者とは「身体障害、知的障害、精神障害 (発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」と定義しており、社会的障壁とは「障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの」と定義している。

○したがって、本検討会において検討対象とする「障害のある学生」の範囲は、「障害がある学生であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある学生を対象」とした。

(検討対象とする学生の活動の範囲)
○平成24年9月に障害者政策委員会差別禁止部会がまとめた「「障害を理由とする差別の禁止に関する法制」についての差別禁止部会の意見」では、教育の分野において差別が禁止されるべき事項は、「入学、学級編成、転学、除籍、復学、卒業に加え、授業、課外授業、学校行事への参加等、教育に関する全ての事項」としている。

○本検討会において「教育上の合理的配慮等」を検討する上で対象とする学生の活動の範囲は、「授業、課外授業、学校行事への参加等、教育に関する全ての事項を対象」とし「課外活動等」の教育とは直接に関与しない学生の生活面への配慮については、一般的な合理的配慮として本検討会における検討の対象外とした。

○特に、通学支援については、移動に障害のある学生の教育機会を保障するための重要な検討課題であるが、学校やその設置者がなすべき合理的配慮であるのか、行政による福祉サービスであるのか等、政府において引き続き慎重に検討を行う必要がある。

○一方、学内移動やフィールドワーク、教育実習等での移動については、課外授業や学校行事への参加に含まれるものとした。

 

4.本検討会における合理的配慮の定義

(障害者権利条約における位置付け)
○障害者権利条約第24条(教育)において、教育についての障害者の権利を認め、この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現するため、障害者を包容する教育制度(インクルーシブ教育システム;inclusive education system)等を確保することとし、その権利の実現に当たり確保するものの一つとして、「個人に必要とされる合理的配慮が提供されること」とされている。

○第2条(定義)においては、合理的配慮とは「障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。」とされている。なお、「負担」については、「変更及び調整」を行う主体に課される負担を指すとされている。

○さらに、同条において、「障害を理由とする差別」とは、「障害を理由とするあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害を理由とする差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む」とされている。

○また、前述のとおり、第5条においては、「平等を促進し、及び差別を撤廃することを目的として、合理的配慮が提供されることを確保するためのすべての適当な措置をとる」(第3項)、「障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置は、この条約に規定する差別と解してはならない」(第4項)とされている。

(障害者基本法における位置付け)
○障害者基本法第4条においては、「社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによつて前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない。」と規定している。

(初等中等教育段階における位置付け)
○初等中等教育段階については、「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(中央教育審議会初等中等教育分科会(報告))」(以下、「分科会報告」という。)において、「合理的配慮」を定義している。

○分科会報告において、合理的配慮とは、「障害のある子どもが、他の子どもと平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり、障害のある子どもに対し、その状況に応じて、学校教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」であり、「学校の設置者及び学校に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義している。

(本検討会における位置付け)
○上記に照らし、大学等における合理的配慮とは、「障害のある者が、他の者と平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、大学等が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり、障害のある学生に対し、その状況に応じて、大学等において教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」であり、かつ「大学等に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」とした。

 

5.大学等における合理的配慮

○合理的配慮は、大学等が個々の学生の状態等に応じて提供するものであり、多様かつ個別性が高いものであることから、合理的配慮の内容全てを網羅して示すことは困難なため、本検討会においては、大学等において提供すべき合理的配慮の考え方について、項目別に以下のとおり整理した。

○なお、ここで示すもの以外は合理的配慮として提供する必要がないというものではなく、個々の学生の障害の状態や教育的ニーズ等に応じて配慮されることが望ましい。

○また、本検討会においては、学内学生団体・サークルの下で行う文化・体育活動などの課外活動などについては、大学等において提供すべき合理的配慮の対象ではないものとしたが、以下の整理を踏まえて、各大学において判断することが望ましい。

(1)機会の確保

(基本的な考え方)
○大学等においては、障害があることのみを理由に入学を拒否することなく、学生の個性や障害の特性に応じて、その持てる力を高めるため、高等教育の質を維持しつつ、高い教養と専門的能力を培えるよう支援する。

○学生の受入れにあたっては、障害があることのみを理由に入学を拒否することなく、入学者選抜においては、大学の学修に必要な能力・適正等について、障害のない学生と公平に判定するための機会を提供することを原則とする。

(学生が得られる機会への平等な参加が妨げられない配慮)
○大学等においては、高等教育を提供することに鑑み、教育内容の本質や評価基準を変えてしまうことや他の学生に影響を及ぼすような大幅な教育スケジュールの変更や調整を行うものではない。
 これを前提とし、大学等が学生に提供しているさまざまな機会が、障害のある学生も障害のない学生と平等に得られるよう、合理的配慮を提供する。

○さまざまな機会にあたるものとして、講義や実験、実習や演習などの正課教育、大学等が主催する入学式やオリエンテーション、卒業式など教育活動の一環としての学校行事、学生相談や就職指導・修学指導などの正課外教育、これらの機会に参加するための学内移動やフィールドワーク、教育実習等における移動及びこれらに密接に関連する入試・履修登録・試験・奨学金などが挙げられる。

(2)情報発信

○各大学等は、障害のある大学進学希望者や学内の障害のある学生に対し、大学等全体としての受入れ姿勢・方針を明確に示すことが重要である。

○また、各大学等が明確にすべき受入れ姿勢・方針は、入試における障害のある入学者への配慮の内容、大学構内のバリアフリーの状況、入学後の支援内容・支援体制、受入れ実績(入学者数、在学者数、卒業・修了者数、就職者数等)等、可能な限り具体的に明示することが望ましく、それらの情報をホームページ等に掲載するなど、情報アクセシビリティに配慮しつつ、広く情報発信することが重要である。

(3)決定過程

○大学等は、大学等の体制面、財政面を勘案し、「均衡を失した」又は「過度の」負担について、個別に判断することになる。

(合理的配慮の合意形成過程)
○合理的配慮の合意形成過程においては、学生本人のニーズと意思を尊重する。

○その際、大学等、授業担当教員、支援担当者による過度な干渉やハラスメント(苦痛を与えるような行為)を避ける。
 一方で、配慮を希望する学生の意思表明が妨げられることのないよう、情報を整理して学生に示す等、意思表明のプロセスを支援する。

(合理的配慮の決定)
○大学等が合理的配慮を決定するに当たっては、学生本人のニーズと意志を尊重した配慮ができない場合の合理的理由を含め、学生本人を含む関係者間において、可能な限り合意形成・共通理解を図った上で決定し、提供されることが望ましい。

○特に、通学については、大学等が学生本人に通学が可能であることを必ず確認することや、自治体やNPO等による地域の支援が受けられるかを確認し、学生に対し情報を提供することが重要である。

○なお、合理的配慮の決定に当たっては、他の学生との公平性の観点から、学生に障害者手帳、診断書、心理検査の結果及び専門家の所見や高等学校等の大学入学前の支援状況等の根拠資料の提出を求め、根拠資料に基づく配慮の決定を行うことが重要である。

(組織体制の構築)
○関係者間で合理的配慮内容の合意を得るためには、そのための組織体制を構築する必要がある。具体的には、障害学生支援についての専門性のある教職員による相談に基づいた学生本人のニーズのヒアリング及びそれに基づく迅速な配慮内容の意思決定が可能となる体制の整備に加え、学生本人による配慮内容に関する異議申し立てを受けることができる体制を学内に整備することが望ましい。

(時間的な経緯の考慮)
○障害のある学生は、障害の状態が多様なだけでなく、障害を併せ有する場合や、障害の状態や病状が変化する場合もあることから、時間的な経緯や休学・復学等により必要な支援が変化することに留意する必要がある。
 また、障害の状態等に応じた「合理的配慮」を決定する上で、ICF(国際生活機能分類)(※9)を活用することが考えられる。

(※9) ICF:障害に関する国際的な分類としては、これまで、世界保健機関(以下「WHO」)が1980年に「国際疾病分類(ICD)」の補助として発表した「WHO国際障害分類(ICIDH)が用いられてきたが、WHOでは、2001年5月の第54回総会において、その改訂版として「ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)」を採択した。
 ICFは、人間の生活機能と障害に関して、アルファベットと数字を組み合わせた方式で分類するものであり、人間の生活機能と障害について「心身機能・身 体構造」「活動」「参加」の3つの次元及び「環境因子」等の影響を及ぼす因子で構成されており、約1,500項目に分類されている。

 

(4)教育方法等

(情報保障・コミュニケーションの配慮)
○障害の状態等に応じた情報保障やコミュニケーションの方法について配慮する。

(教材の配慮)
○シラバスや使用される教科書・教材に学生がアクセスできるように配慮し、またその際の支援技術の活用についても配慮する。高等教育における学習においては、自宅学習が重要な役割を果たしていることに鑑み、教材の自宅での利用が出来るよう促進する。

○授業のために教員が作成する電子資料(プレゼンテーション用資料等)については、特に視覚障害の学生が受講する際に必要となることから、学生の障害の状況に応じ、事前に提供する。

(学習空白への配慮)
○治療等のため学習空白が生じる学生等に対し、補講を行う等、学習機会を確保する方法を工夫する。

(学外における実習やインターンシップにおける配慮)
○障害のある学生が教員免許や資格の取得、インターンシップ等において学外の諸機関で実習を行う際、大学等は実習受け入れ先の機関と十分に情報交換し、個々の学生に応じた柔軟な実習が可能となるよう配慮する。

(公平な試験の配慮)
○入試や単位認定等のための試験においては、例えば、評価基準の変更や及第点を下げる等は合理的配慮ではないことに留意し、障害のある学生の能力・適正等を適切に判定するために、障害のない学生と公平に試験を受けられるよう配慮する。

(心理面・健康面の配慮)
○障害のある学生が周囲と適切な人間関係を構築するためには、集団におけるコミュニケーションについて配慮するとともに、他の学生や教職員が障害について理解を深めることが重要である。
 また、学習の見通しが立てられるようにすることや周囲の状況を判断できるようにすることで、学生の心理的不安を取り除くことが可能となる。
 このほか、健康状態に応じて学習内容・方法を柔軟に調整し、障害に起因した不安感や孤独感を解消することにより、自己肯定感を高めることが期待されることから、心理面・健康面についても配慮する。

(5)支援体制

(専門性のある支援体制の整備)
○学長がリーダーシップを発揮し、大学等全体として専門性のある支援体制の確保に努めることが重要である。また、学習の場面等を考慮した学内の役割分担を明確にする。

(担当部署の設置及び適切な人的配置)
○支援体制を整備するに当たり、必要に応じ、障害学生の支援を専門に行う担当部署の設置及び適切な人的配置(専門性のある専任教職員、手話等の通訳者、コーディネーター、相談員、支援員等)を行うほか、学内(学生相談に関する部署・施設、保健管理に関する部署・施設、学習支援に関わる部署・施設、障害に関する様々な専門性を持つ教職員)との連携を図る。
 また、必要に応じ、学外(自治体、NPO、他大学等、特別支援学校など)の教育資源の活用や医療、福祉、労働関係機関等との連携についても検討する。

(学生ボランティアの活用)
○学生ボランティアによる障害のある学生への支援は、障害により、日常生活や学修場面において様々な困難が生じることについて、支援にあたる学生への啓発・理解促進の有効な手段となることを考慮し、積極的な活動を促す。

○なお、学生ボランティアの活用に当たっては、障害の知識や対応方法、守秘義務の徹底等、事前に十分な研修を行った上で実施する。

(学生、教職員の理解啓発を図るための配慮)
○障害により、日常生活や学習場面において様々な困難が生じることについて、周囲の学生や教職員の理解啓発を図る。
 障害のある学生の集団参加の方法について、障害のない学生や教職員が考え実践する機会や、障害のある学生自身が障害について周囲の人に理解を広げる方法等を考え実践する機会を設定する。

(災害時等の支援体制の整備)
○災害時等の対応について、障害のある学生の状態を考慮し、危機の予測、避難方法、災害時の人的体制等、災害時体制マニュアルを整備する。また、災害時等における対応が十分にできるよう、避難訓練等の取組に当たっては、一人一人の障害の状態等を考慮する。

(6)施設・設備

(学内環境のバリアフリー化)
○障害のある学生が安全かつ円滑に学生生活を送ることができるよう、障害の状態等に応じた環境にするために、スロープや手すり、トイレ、出入口、エレベーター、案内・サイン設置等について施設の整備を計画する際に配慮する。
 また、既存の大学等施設のバリアフリー化についても、障害のある学生の在籍状況等を踏まえ、大学等施設に関する合理的な整備計画を策定し、計画的にバリアフリー化を推進できるように配慮する。

(バリアフリーの状況の情報提供)
○障害者が大学等施設のバリアフリーの状況を把握しやすいよう、バリアフリーマップを作成し提供するなど、情報提供を行う。

(障害の状態及び特性等に応じた指導ができる施設・設備の配慮)
○個々の学生が障害の状態等に応じ、図書館やコンピュータ室、実験・実習室、運動・体育施設、学生寮等の共同利用施設・設備について、他の学生と同様に利用できるよう、必要に応じて様々な教育機器・支援技術等の導入や利用方法の指導、施設の整備、配慮の提供を行う。
 また、個々の学生の障害の状態、障害の特性、認知特性、体の動き、感覚等に応じて、その持てる能力を最大限活用して自主的、自発的に学習や生活ができるよう、各教室等の施設・設備について、分かりやすさ等に配慮するとともに、日照、室温、音の影響等に配慮する。

(災害時等への対応に必要な施設・設備の配慮)
○災害時等への対応のため、障害の状態等に応じた施設・設備を整備する。

 

6.国、大学等及び独立行政法人等の関係機関が取り組むべき事項

○大学等が障害のある学生に合理的配慮を提供するためには、大学等のみならず、国や独立行政法人等の関係機関による取組が必要不可欠である。今後、障害のある学生が学びやすい環境を整備し、修学機会を確保するために関係機関が取り組むべき事項について検討し、短期的課題、中・長期的課題として以下のとおり整理した。

(1)短期的課題

1) 各大学等における情報発信及び相談窓口の整備の促進

○各大学等における障害者の修学に関する情報発信について、現状では大学等により情報提供内容は様々である。また、各大学等に相談する際も、窓口が統一されていないなど、学生にとって利用しづらい状況が見受けられる。

○そのため、障害者が大学等への進学を検討するに当たり、必要な情報が得られない大学を修学先の選択肢から除外せざるを得ず、本人の学びたい分野ではなく、通学可能な大学を選択したり、進学自体を断念せざるを得ないなど、その情報の獲得に苦慮している。

○各大学等は、受入れ姿勢・方針を明確に示し、それに加え、入試における配慮の内容、大学構内のバリアフリーの状況、入学後の支援内容・支援体制、受入れ実績(入学者数、在学者数、卒業・修了者数、就職者数等)をホームページ等に掲載するなど、情報アクセシビリティに配慮しつつ、広く情報発信することが重要である。
 また、利用者の利便性の面等から相談窓口の統一や障害学生支援担当部署を設置することが重要である。

○国は、より多くの大学等でこれらの取組が行われるよう促進すべきである。また、国のこうした促進策を踏まえ、大学の認証評価においても、各大学等における情報発信及び相談窓口の整備状況について考慮されることが望ましい。

2) 拠点校及び大学間ネットワークの形成

○各大学等に在籍する障害のある学生数は様々であり、個々の大学の取組のみでは、支援のノウハウが不足している状況にある。

○大学等における障害のある学生の修学支援機能の充実を図るためには、ノウハウの不足している大学等に対し十分な情報提供を行うとともに、障害のある学生への修学支援に関する各大学等の新たな取組や研究を促進する動機付けを行うことが重要である。

○そのため、国は、障害のある学生への修学支援に関する優れた取組を実施する大学等を地域における拠点校(※10)として整備し、その取組を重点的に支援していくことが重要である。

○また、これら拠点校の取組や、拠点校及び各大学等の個別支援事例を一元的に集約・蓄積し、各大学等に還元することにより、障害のある学生の支援の底上げや教職員等に対する理解促進・意識啓発を図ることが可能となる。

○これらの情報の集約・蓄積及び各大学等への還元に当たっては、拠点校間におけるネットワーク形成並びに自治体やNPO、民間団体、医療福祉機関、高校及び特別支援学校等と拠点校が連携した地域におけるネットワーク形成が重要である。

○また、拠点校による地域におけるネットワークの形成に当たっては、大学等からの相談だけではなく、大学等への進学を希望する障害のある生徒や保護者及びその担当教員等からの相談にも応じられる体制を構築することが望ましい。

(※10) 本報告における「拠点校」は、地域において連携等の取組を行う拠点となる大学等をいい、機構が実施している「障害学生修学支援ネットワーク事業」の拠点校とは異なるものを指す。

 

(2)中・長期的課題

1) 大学入試の改善

○現在、大学入試センター試験における特別措置の申請状況等については、独立行政法人大学入試センター(以下、「センター」という。)がその数を障害区分毎に公表している。

○センターにおいては、今後、障害のある受験生に実施した配慮毎にその内容を公開することが望まれる。障害種別が同一でもその程度が異なれば、実施すべき配慮の内容は異なり、重複障害の場合もある。プライバシーに配慮しつつも、障害の種類・程度・重複の有無と、これらに基づいた配慮の内容が大学入試センターにおいて公開されることにより、障害のある受験生やその指導教員が、その情報を基に想定される特別措置の内容を知ることが可能となる。

○また、多くの大学等がセンター試験で実施する配慮の内容を参考として個別入試における配慮の内容を決定していることから、各大学等における適切な判断にも資することとなる。

○現在、センター試験においては、障害等の種類・程度に応じて類型化された特別措置の内容から特別措置申請者が希望するものを選択することを基本としつつも、それ以外の措置についても希望するものを聴取した上で、それぞれの配慮の必要性を専門家が判定をしている。

○センターにおいては、具体的な配慮の決定にあたっては障害のある申請者の個々の状況に応じた柔軟な対応に一層努めるとともに、センター試験の受験を予定している障害者一人ひとりのニーズに応じた配慮がなされるよう、その決定過程の改善が図られるべきである。

2) 高校及び特別支援学校と大学等との接続の円滑化

○高校及び特別支援学校と大学等の接続の円滑化の推進が必要である。障害のある進学希望者においては、特別支援学校に通う生徒のほか、自らの障害に気づかないまま初等中等教育段階で一般の高校に通っている生徒が存在する。

○また、障害を本人が認識している場合でも、一般の高校に通っている場合、担任や進路指導の教員が、障害のある生徒の大学等進学する場合の支援について知見がないこともあり、これらの生徒をサポートすることが難しい場合がある。

○そのため、大学等への進学を希望する障害のある生徒や保護者及びその担当教員等からの相談に対応できるよう、拠点校における専門人材の配置を充実するとともに、大学等への進学を希望する障害のある生徒や保護者及び担当教員等が地域の自治体や特別支援学校等に相談し、これらの関係機関同士が連携して、生徒の進学支援にあたれるようネットワークを形成し、情報の共有化を図ることも検討すべきである。

3) 通学上の困難の改善

○現状では、大学等における通学支援については、各大学等の判断に任されている。一方で、障害者自立支援法の移動支援において、通学支援を行なうかについては、各自治体の判断に任されている。

○そのため、通学における移動が困難な障害者は、大学等や自治体からの通学支援が得られない場合、移動費用を自己負担するか、進学自体を諦めざるを得ない場合がある。

○移動に障害のある学生の教育機会を保障するため、例えば、大学等と自治体、NPO等が連携を図り対応していくことも考えられ、現状においても、大学等が費用を負担して地域の介護事業所に委託し、通学介助や学内介助を行っている事例がある。
 通学における困難の改善に向けた検討に資するため、こうした事例や地域における支援の状況に関する情報を収集し、提供することが重要である。

4) 教材の確保

○視覚障害や読字障害(ディスレクシア)のため文字が見えない、見えにくい、肢体不自由のため書籍のページめくりや持ち運びが難しいなどといった「印刷物障害(Print Disabilities)」に含まれる障害のある学生は、教科書や副読本、各種資料といった様々な教材の利用が難しく、大学等での学習機会への参加が難しい現状がある。

○点訳教材、字幕教材及びテキストデータ化した教材等の様々な教材や支援技術製品をライブラリー化する等、利便性を高めるための方策を検討することが望ましい。

○また、電子化された教材を提供し、教材へのアクセスを保障することにより、本人にとって見やすい体裁への変更・調整や支援技術製品(音声読み上げソフトウェア等)の活用が可能となり、内容理解が促進されるため、大学等や図書館、出版社との連携の促進について検討することが望ましい。

○さらに、教材や支援技術製品は高価なものが多く、個々の受入れ大学等での整備は負担が大きいことから、これらを効率的に活用するため、大学等間での共用や貸し借りが可能となるような仕組みについて検討することが望ましい。

5) 通信教育の活用

○障害のある学生の中には医療行為、社会復帰の訓練等により通学が困難となり、修業期間の延長や休学・復学を繰り返しながら修学を継続する学生が存在するほか、中にはそのために進学や修学を断念する者も存在する。

○近年、インターネットなどの通信技術の発達により、家や病院に居ながらにして学習をすることが可能な状況となっている。例えば、放送大学においては、テレビ、ラジオ、インターネットを活用した教育を実施しており、さらに、放送授業の字幕付与、テキストデータ化した印刷教材の提供及び点訳教材を作成するボランティアの紹介等の支援を行っている。その他の通信制大学等においても、同様の配慮を行っている場合がある。各大学等がこれらの通信制大学等と連携を図るなど、通信教育の活用の推進について検討することが望ましい。

○このほか、通信制大学等で学ぶ障害のある学生は、障害によりスクーリングが困難な場合もあること等を踏まえた検討を行うことが重要である。

6) 就職支援等

○障害のある学生の就職に関する支援については、就職が障害者の自立や社会参加にとって極めて重要であることから、ハローワークをはじめとする労働関係機関や地域の社会福祉施設、NPO等と連携してきめ細やかな就職支援を行うことが必要である。

○特に、発達障害の学生については、学生個々の障害の程度や本人の希望により、一般の雇用と障害者雇用のいずれが望ましいか、慎重に検討することが必要であることから、発達障害の学生に対する支援を含め、具体的な支援方策等について、今後検討を進めていく必要がある。

○また、出口である就職支援のみならず、キャリア教育やインターンシップにおける支援について検討することも重要である。

7) 専門的人材の養成

○障害のある学生に対し、的確で有効な支援を提供するためには、各大学に障害に対する専門的知識や技術を有する人材を配置することが重要である。

○また、障害のある学生に十分な情報保障を行うためには、その教育内容について専門的な知識を有することが必要となる。

○これらの専門的人材を効果的に養成するため、例えば、拠点校による人材養成プログラムの開発や様々な研修の機会を確保する等、その方策について検討することが重要である。

○加えて、これらの専門的人材が各大学等において、安定的な雇用が保障されるよう検討を行うことが望ましい。

8) 調査研究、情報提供、研修等の充実

○大学等における全ての学生や教職員に対し、障害のある学生の支援について理解促進・普及啓発を行っていくためには、各大学等の取組のみならず、その基礎となる調査研究や様々な機会を通じた情報提供、教職員に対する研修等を充実することが必要である。

○これまで、機構においては、障害のある学生が円滑に大学等に修学するため、障害のある学生の修学支援に関する実態調査や教職員のための障害学生修学支援ガイドの作成、研修会の開催など、各大学等に対し様々な支援を行ってきたところであり、引き続き、これらの取組について充実することが重要である。

9) 財政支援

○バリアフリー化のための施設・設備の整備や専門的人材の配置については、各大学等において計画的に充実させていくことが望ましいが、国においても、障害のある学生が学びやすい環境を整備し、修学機会を確保するため、各大学等における合理的配慮に対し、必要な財政支援を充実させることが重要である。

○また、機構が行う奨学金事業については、障害のある学生に対して貸与基準を弾力的に取り扱うことや返還猶予等について一定の配慮を行っている。このような制度について障害のある学生への理解が計られるよう更なる周知に努めるとともに、より利用しやすくなるよう検討を行うことが望ましい。

 

7.おわりに

○本検討会では、

  • 障害のある学生が障害を理由に修学を断念することがないよう、修学機会を確保することが重要である。
  • また、高等教育であることに鑑み、高い教養と専門的能力を培えるよう、教育の質を維持することが重要である。
  • 他方、現状においては、大学等に障害のある学生の在籍者数が増加している中、各大学等の受入れ体制には温度差があり、今後、全ての大学等において合理的配慮の提供が求められることから、各大学等が現実に対応可能な内容かどうかを考慮しつつ、大学等における合理的配慮についての整理が必要である。

 という認識のもと、議論を重ねてきた。

○我が国の大学等においては、障害のある学生の修学支援について検討の途に就いた段階であるが、高等教育への修学機会を確保するためには、第一に、全ての学生や教職員への理解促進・啓発を行うことにより、各大学等の受入れ体制の温度差をなくすことが重要であることから、現時点における一つの指針として活用されるよう、本報告をまとめたところである。

○そのため、中・長期的課題として整理した内容等については、具体的な方策に踏み込んでいないものがあるため、今後の各大学等の状況等を踏まえ、大学等における種々の事例・知見を蓄積しつつ、さらに具体的な検討を進めていくことが必要である。

○また、本報告において整理した各大学等における合理的配慮についても、高等教育以外の他の分野における状況や支援技術の進展に応じ、見直しを図っていくことが必要である。

○このほか、通学を含めた移動支援、食事の介助、医療的ケア等の生活面の支援や障害のある教職員に対する配慮については、障害のある学生が高等教育への修学を検討する上で密接に関係するものであり、引き続き検討されることが望まれる。

○障害のある学生に対する修学支援は、障害のある学生のみならず、全ての学生にとって学びやすい環境の整備に繋がる取組であるといえる。
 本報告を踏まえ、各大学等において障害のある学生の修学支援の充実が図られるとともに、全ての大学等において障害のある学生の修学機会が確保されることを期待する。

 

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-- 登録:平成24年12月 --